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英雄とスライム  作者: ソマリ
世界樹編
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4章 第13話N まさかの発見なのじゃ

 建国式典のあと、ゼルとヴィシーはそれぞれプロセニアとの国境に兵士を配備してくれた。

 といっても両国ともに威圧と避難民がいた場合の保護を最優先とし、積極的な交戦は控えることになっている。


 プロセニアでは宣戦布告の映像を見た者達が上へ下への大騒ぎらしく、王都アプロニアではプディングへの対応方針が定まっていないという理由で、奴隷の殺害・投棄が禁止されたそうだ。

 そもそも許可されていたという事に呆れたよ。


 またこちらからは交渉という名の降伏勧告のため、アルトの配下が二人使者としてアプロニアに向かった。

 一人は皇国で火達磨になりかけた魔人族のトロイ、もう一人はセレスと同じ集落出身のダイアンという光人族の青年だ。

 そういえばアルト配下の斥候部隊にいつの間にか光人族だけじゃなく、獣人系亜人種が多く加入していた。

 最低限の戦闘訓練が必要だからと、兵士以上の鍛錬が課せられているそうだ。


 さらにプロセニアには、都市から遠く離れた集落などに住む亜人種や森・地人族に移住を勧める別働隊として、ミーシャとペトラも斥候部隊を率いて潜入している。

 彼女たちは万が一プロセニアがティニオンやフォルカヌスに進軍しようとした際、それを撃退する役割も担っている。

 それぞれ「戦闘ににゃったら隊長格の首を落としまくって逃げるにゃ」とか「どーん! ってぶっ飛ばしてくるね!」とか頼もしいことを言っていたなあ。


 そのティニオンやフォルカヌスは、オーウェン・ジルにシア・レーネが、それぞれプディングとの国交に向けたやり取りで非常に忙しそうだ。

 他にも追加で両国から派遣された文官や知識人達が研究所に配属されたり、以前農場の責任者だった者が異界からどんどん蜜蜂を移住させていたり、いつの間にか孤児院が作られていたりと、挙げればキリがないほどにみんながプディングを良くしようと頑張っている。



 そんな中、何故か私は暇を持て余していた。



 現場に出れば「みんなが緊張するから止めて下さい」とアルトに叱られ、ティニオンとの道路を舗装しようとしたら「民の仕事を奪うのはいかがなものかと」とリューンに諭され、各研究所に行けば皆が仕事の手を止めて私をもてなそうとしたりと、どこに行っても誰かの足を引っ張る状態にあることに気づき、以来出かけるのをやめた。

 また住民同士の争いに首を突っ込もうとしたときも、イライザに「ナナ様が出ると経緯も善悪も関係なく、ナナ様の意見に沿って解決させられてしまいます」と、自重をお願いされた。


 一度だけジルが国家間の外交について意見を求めに来たのだが、これもすぐさま気付いたアルトによって止められてしまった。

 アルトによると、私が直接出て行ったり、こうしたい・ああしたいと言うだけで、両国共に間違いなく利益度外視で頷くだろうから、具体的な助言は控えたほうが良いとのことだった。


 せめてこれだけはと、互いが幸せになれる道を一緒に考える事が私の求める関係であることを伝えると、ジルは嬉しそうに頷いてその場を後にした。

 綺麗事だけでは済まないことも理解しているけど、基本方針だけは曲げたくないからね。


 またプロセニアに忍び込もうにも、アルトに「僕の部下が信用できませんか?」なんて悲しそうな目で見られては、動けるわけもなかった。


 そうなると私の出番はプロセニアの出方を待ってから、ということになる。


 こうして私は建国式典以来、ジルへの助言以外何もしていない。



 暇なのだ。



「というわけで、わしは旅に出ようと思うのじゃ」

「何が『というわけ』なんだよコラ、ちゃんと説明しやがれ」

「皇国の東、醤油が伝わってきたという地方に興味があってのう。それに皇国の周辺はまだ地図ができておらぬし、以前アネモイが言っておった桃色の花を咲かせる木も見ておきたいのじゃ」


 側近全員が集まる夕食の場で、私の突然の言葉にダグが呆れた様子で反応を返した。


「どうせ何かあれば魔導通信機で連絡はつくし、転移ですぐに戻ることも出来るでの、わしの手が空いておるうちに行っておきたいのじゃ。みな忙しそうじゃし、わしとリオとアネモイの三人で行こうと――」

「却下ですね。僕も付いて行きますよ」

「ナナちゃん、わたしを置いて行くつもりなんてひどいわ~」

「面白そうなとこに行くのに、俺を置いてくとか許すわけねえだろ」


 アルトもダグもセレスも忙しそうだから置いていくつもりだったのだが、その三人から私の言葉を食い気味に却下されてしまった。


「そうは言ってものう、三人とも日中はほぼおらぬではないか。忙しいのじゃろう?」

「僕は魔導通信機があればどこでも仕事ができます」

「俺は兵士に混じってビリーと組手をしてるだけだ」

「わたしは孤児院で子供たちと触れ合っているだけですから~」


 待て働いてるのはアルトだけじゃないか。


「というかセレス、孤児院じゃと?」

「はい~、プロセニアから来た子達だけじゃなく、アトリオンの孤児院にいた子も全員移住して、一緒になって『ヒデオ』を作って広めていますわ~」

「ああ……ガッソーの孤児院か……信頼できる者に引き継いだとは聞いておったが、セレス……いや、これもどうせアルトの仕業じゃろ?」


 悪びれず笑顔でこっちを見るアルトの様子に、私はため息しか出ないよ。

 それと……孤児院の子供たちが、セレスの毒牙にかかっていないことを祈ろう。念のため後で確認したほうが良いだろうか……。

 あとどうでも良い事なのだが、紛らわしいからプディングでは『ヒデオ』をリバーシという名で広げるよう提案しておいた。




 そして久々に乗るわっしーの改造を終えた四月二十日、まずは皇国のヴィシーのところに立ち寄り、醤油が伝わって来たという東の地について話を聞いた。


「ほう? 水棲亜人種とな?」

「ナナ様のお好きな醤油は、東のグリューという川の下流に住む水棲亜人との交易品であると報告を受けています。川沿いに交易都市であるグリューの街がありますので、よろしければ一度訪問されてはいかがでしょうか」


 ヴィシーによると交易都市グリューも元は四大貴族の一人が拠点としていた地で、今は親神皇派の貴族が収めているそうだ。

 私が人型竜のゴーレムから皇都を守った姿を見ており、いつか会いたいと口にしていたらしい。

 よし、寄らずに水棲亜人の住処へ直行しよう。


 こうしてヴィシーからの改めての情報収集と挨拶を終え、ダグ・アルト・リオ・セレスのいつもの四人にアネモイが加わり、私を含め六人での観光……もとい、調査の旅に出発した。


 現時点での目的地は、まずは皇国の北にあるという五百年に一度花を咲かせるという樹を見に行くことだ。アネモイによるとその樹はこの大陸に二本あるそうだが、もう一本は相当南にあるらしいので余裕があったら見に行こう。


 そのあとは大陸の北を回って地図を作りながら、水棲亜人の住むかへ向かう予定とした。


 目測だけど既にこの星の北半球の三分の二は地図ができているから、それほど遠回りにはならないと思うし。北極点も時間があったら行っておきたいけどね。


 


「この先で良いのじゃな?」

「ええ、森を越え山脈をかすめるように北に行くと、広い雪原が広がっているの。綺麗な花を咲かせる木はその奥にあるわ。この先の雪は一年中溶けずに残っているし寒いから、花が咲く時しか来ることはないわね」

「そのような地で花を咲かせる木とはのう、凄まじい生命力じゃな」


 桜のような花を咲かせるのであれば、枝の一本でも失敬して調査したいものだ。


 しかしわっしーを改造しておいて正解だったな。今まで空間障壁の道に水をまいて滑るように移動していたけど、今の私と同じ飛行形式に変えたおかげで凍結の心配も無いし、速度も新幹線より少し早いくらいまで出せるようになったからね。


 そしてシェンナを飛び立ってからおよそ半日で雪原に入り、そのまま夜間も飛び続けること丸一日。猛吹雪の中を飛行していたわっしーの視界が唐突にひらけ、眼下には一面の銀世界がどこまどもどこまでも広がっていた。


「……雪原自体は旧小都市国家群の北方でも見ましたが……ここまで真っ白な雪原が続いていると、とても幻想できですね」

「姉御! あのずんぐりむっくりな生き物、あっちにもいたね!」

「おお、ペンギンやアザラシ、ウサギやトドみたいなものもおるのう。……って、みな向こうよりデカイのう……それに……はあ? 竜に迫る強さじゃと?」


 キューちゃんからの戦力値報告を聞いて変な声が出ちゃった。


 ありえない。


 ただの大きな動物にしか見えない魔物達が、中位竜の戦力値約四万に迫る値だというのだ。

 その中でも最も小さいウサギですら、下位竜並の戦力値を持っている。

 とはいえそのウサギも人よりも一回り大きなサイズで、手足は異常に長くウサギだと認めたくないフォルムをしている。


「これは……雪の問題を抜きにしても、人の生息できる土地ではないのう……魔物が強すぎるわい。それに魔素が濃いのう、それが原因じゃろうか」

「あら、言ってなかったかしら? あの木が魔素を放出しているせいか、近くに住んでいる魔物はみんな強いわよ? 私の姿を見ただけでみんな逃げていくけどね!」

「……アネモイ。ドヤ顔のところ悪いのじゃが……今、魔素を放出していると言ったかのう?」


 おかしいな。そんな周囲に影響を及ぼすような魔素を出す木なんて、私は一つしか知らないぞ。


「あら? ……へえ、エスタニア大陸にも同じ木があったのね、今キューちゃんが教えてくれたわ。ちょうど見えてきたわよ?」


 アネモイの視線の先をたどるとはるか先の方に、天を突いてそびえ立つ一本の巨木が、ちょうど雲の切れ間に垣間見えた。


 間違いなくその巨木は、私の知っているものだ。


「何で……こんなところに、世界樹があるのじゃ……」


 見間違うはずがない。というか雲より高く育つ木が、他にあってたまるか。


 世界樹って一本じゃなかったのか。それにアネモイは同じ樹が他にもう一本あると言っていたな。

 ということは少なくともこの世界には、世界樹は三本以上あるということだ。


 世界に一本しか無いものだと、勝手に決めつけていた。他にあるだなんて、想像すらしていなかった。


 それに魔力視の出力を上げるとこっちの世界樹が出す魔素の量は、アトリオンにある世界樹の比ではないほどに大量だ。


 もしアトリオンの世界樹がここと同量の魔素量を湧出させることになれば……あの辺り一帯の人類は、滅んでしまうだろうな。


 何にせよこれは、詳しく調べてみる必要がありそうだ。

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