4章 第12話N 宣戦布告なのじゃ
建国式典の挨拶も無事に終わり、結婚式も問題なく進んだ。
頑張って作ったウェディングドレス、作った甲斐があったよ。本当にみんな綺麗だなぁ。
「……ここに婚姻の儀を結びし者達に、神の祝福があらんことを!」
幸せになあれ。そんな想いを乗せながら、広げた翼から光を放つ。
ついでに傷を治したり生命力を活性化させる魔術も光に乗せたけど、しまったこれでは主役を食っちゃうじゃないか。
結婚式の主役はエリーやサラ、シンディやジル達女性陣だ。
あとは引っ込んで、裏でみんなのスピーチを聞くことにしよう。
といっても内容はほぼ全員一緒だ。これまで育ててくれた両親や保護者に対する感謝と、相手と共に幸せになるという誓いである。
号泣しているエリーとサラの父親二人とヴィシーの姿も、別のビデオゴーレムがしっかりと録画している。あとで本人に見せようっと。くすくす。
スピーチの後は全員でブランシェの大通りを、ニースの魔道具研究所で試作したというゴーレム馬車に乗ってパレードをすることになっている。
パレードの誘導をリオとセレスに任せ、私は裏に回る。
本当ならもっとそれぞれに時間をかけてあげたかったんだけど、時間が足りなかったんだよね。それでもみんな一緒にやりたいというから、いろいろと削りまくった結婚式になってしまった。
それでもみんな、良い笑顔だった。こういう笑顔を、もっと見たいな。
キューにノーマル義体を任せ、観衆と一緒に結婚式を見せていたけど、楽しんでくれたかな。
ヒルダ、ノーラ。二人がいたから私がここにいて、みんなの笑顔があるんだよ。
私ももう少しの間だけ、幸せな気分のおすそ分けを貰おう。
そうしたらそのあとは……私は、悪魔になろう。
結婚式の後、まるで自分が神として祝福を授けたようになっていたことに気付き、控室の隅でしばらくの間膝を抱えてうずくまっていた。
アネモイがニヤニヤしながら「神の祝福! ぷーくすくす」とか言いやがったので、とりあえず私達とお揃いの白コートは今度こそ引剥して没収した。
泣きながらキューの入ったノーマル義体にしがみついていたけど知るか。
ファッションショーと魔道具の展示会も問題なく終わったらしく、ニースとジュリアはウェディングドレスのまま働いていたため、非常に目立っていたそうだ。
さて。次の演説で式典は終わりだ。
ノーマル義体をしまってキューを私の中に戻したことだし、気を引き締めていこう。
「ねえナナ……女神様は慈悲の心が必要だと思うの……」
「それはのう、アネモイ。女神なら確かに必要じゃろうが、わしはただのスライムじゃから慈悲の心など持たずともよいのじゃ」
「ぐすん……ごべんなざい……」
ああもう、鼻をかめポンコツ。仕方ないからコートは返してあげるよ。
締まらないなぁ、全くもう。
「さて、みなプディング魔王国の建国式典は楽しんでもらえたかのう? 結婚式にファッションショー、魔道具の展示会。そして沢山の屋台の料理はどうじゃったかの? 酒も料理もまだまだプディング名産と呼べる物は無いが、これからのみなの働きに期待するのじゃ!」
リオとセレスを伴って壇上に立ち閉会の挨拶を始めると、あちこちから「ナナ様ー!」とか「任せろー!」とか「結婚してくださーい!」とかいろいろ聞こえてくる。最後のやつ、異界でも同じこと叫んでアルトに睨まれてなかったっけ。あと踏んでくださいって叫んだのどいつだ。
って、今はそれどころじゃなかった。
「こほん。建国式典の最後に、わしから大事な話があるのじゃ。……アルト。ゼル、ヴィシー」
「はい。これよりナナ様のお姿は、ティニオン王国首都アイオン、フォルカヌス神皇国皇都シェンナ、そしてプロセニア王国首都アプロニアの、三都市の上空に作り出した巨大スクリーンに映し出され、音声も同時に送られます」
映像に音声の送信とか相当魔力使いそうだけど、何とかしちゃうんだもんな。
巨大スクリーンはアルトとニースと魔道具研究所の人達の成果を、アルト配下の斥候が実際に現地で使うらしい。ただしアプロニアには入れなかったため、都市の外から使うそうだ。
ただし必要魔力とアプロニアに潜伏させた斥候の安全も考え、可能な限り短く済ませて欲しいと言っていた。
そして私の呼びかけに応えてゼルとヴィシーが壇上に登ってきたところで、アルトから放送開始の合図が出た。
「では始めるとするかの。わしは本日建国したプディング魔王国の魔王ナナじゃ。早速じゃが本題じゃ。本日プディング魔王国は建国と同時に、プロセニア王国に対し宣戦を布告するのじゃ。要求はただ一つ。プロセニア国内に住む被差別種族を、全員引き渡して欲しい。我が国民となった者達の、友を、家族を、返してもらおうかの。素直に要求を飲むのであれば、無意味な破壊と殺戮は避けられるじゃろう」
私の言葉に続き、ゼルとヴィシーが一歩前に出た。
「ティニオン王国国王、イゼルバード・ティニオンだ。儂はプディング魔王国と同盟を結び、同じくプロセニア王国に対し開戦を宣言する。プロセニアからの宣戦布告と侵攻を受け、命を落とした兵士達の借りを返させてもらおう」
「フォルカヌス神皇国、神皇ヴィシー・フォルカヌスだ。前年まで続いた皇国の混乱の裏に、プロセニア王国と光天教がいたことは調べがついている。盟主である女神ナナ様の元、我らフォルカヌス神皇国もプロセニア王国に対し宣戦を布告する。覚悟してもらおう」
「……わしの国は魔人族のみならず、光人族・野人族・森人族・地人族・そしてアラクネ族や獣人族などの様々な亜人種も、全て分け隔てなく暮らしておる。わしは種族だけを理由とする差別を好まぬ。わしは種族だけを理由に子供を殺そうとする者を憎む。じゃからプロセニアに対し、わしにこれ以上憎しみを持たせないで欲しいのじゃ」
ヴィシーが変なことを言い出したが、今は気を取られている場合じゃない。
「被差別種族の開放と受け渡しについて、後日プロセニアに使者を出すのじゃ。受け入れられぬというのなら、わしらが直々に相手になろう」
ゼルとヴィシーが一歩下がり、代わりにリオとセレスが前に出る。つまり魔人族と光人族だ。光人族は光天教にとって神という扱いらしいから、ここで魔人族と行動を共にしているぞというアピールだ。
「よい返事を期待しておるぞ」
ここでアルトを見て、放送終了の合図とする。
顔をあげると、観衆の中に混じっていた元奴隷兵たちが、呆然とした顔でこちらを見て固まっていた。
固まっている人達の中には、よく見ると森人族の元族長ジョシュア等、ジル達を助けた際に連れてきた森人族の姿もあった。
「おぬしらが心から楽しむためには、今もプロセニアで虐げられている同胞の救助が必要であろう。遅くなってすまぬがのう、可能な限り善処するのじゃ」
そう言って笑顔を向けたら、オーウェンそっくりの熊獣人や、狼獣人、地人族、森人族から大きな歓声があがった。
その多くは私に対する期待と感謝、そして戦争の際には自分も前線に出して欲しいという叫びだった。
だがその中に、プロセニア人を皆殺しにしろ、野人族を殺せ、という声もちらほら聞こえてきた。
うん。それはダメだ。
「静まれ!!」
私の大声で大気がビリビリと揺れた。拡声魔術あるの忘れてた。
「プロセニア人だから、野人族だから、そんな理由で殺そうというのでは、おぬし達を虐げてきた者と同じではないか。わしは必要のない殺戮をする気はないし、もしもおぬしらが差別のみを理由として、罪無き者を殺めるというのであれば――」
『バガァンッ!!』
私の後ろから、轟音がいきなり響いてきた。何事かと振り返ると、ダグが地面に大穴を開けていた。
「この俺が、始末する。恨みを晴らしてえ気持ちはわかるが、恨みってのは本人に返すもんだ。他の誰かで代用してえんなら、いつでも相手になるぜ」
……決め台詞を取られたみたいで、少し悔しい。
でもダグの言う通り、別の誰かに恨みを返すというのは許さない。
「わしは一般的な分類で言うならば、魔物であるスライムじゃ。ならばわしも差別するか? さらに言うなら、スライムになる前は野人族と変わらぬただの人じゃ。 わしのことも嫌うか? それはとても、哀しいのじゃ……」
喧騒が止み、静まり返っていく観衆の視線を感じながら、エリー・サラ・シンディ、そしてヒデオを見る。
四人とも悲しそうな顔をしているなあ。
「差別とは根が深いものじゃろう。しかしのう、せめてわしの国にいる間は……差別をすることもされることもない、普通の暮らしを知ってほしいのじゃ。『普通』であることを楽しんで欲しいのじゃ」
差別や偏見の目に晒される苦しさは、私には本当のところはわからないかもしれない。
それでもそんなものにいつまでも囚われている人を見るのは嫌なんだ。
「わしにとっては、ここにおる者全てが『人』じゃ。悲しみ、喜び、泣き、笑う。そんな普通の『人』なのじゃ。そこには種族の違いなど無い。そしてわし自信も、少なくとも心はおぬしらと同じ『人』であるつもりじゃ」
それに少なくとも、これからも人でいたいと思っているよ。
「憎しみを捨てろとは言わぬ。わしもヴァンを殺すため、異界をさまよったからのう。戦いたい者がおるのなら、戦えばよい。刃を向ける相手を間違えさえしなければ、己の誇りを取り戻す戦いを止めるつもりは無い。じゃがのう……おぬしらに何かあったら、わしは哀しいのじゃ。それだけは、覚えておいてくれんかのう」
静まり返った会場を見渡し、リオとセレスを伴い降壇する。
イライザによる式典終了の挨拶を聞きながら、私自身の馬鹿さ加減に胸が苦しくなった。
プロセニアで奴隷として扱われていた彼らが、そう簡単に恨みや憎しみを捨てられるわけ無いじゃないか。
それなのに……みんなも喜ぶかな、なんて……本当に、馬鹿だ。
そんな自己嫌悪に陥っていると、両腕をリオとセレスに掴まれた。
「姉御、家族や同族にまた会えるかもって喜んでる人、たくさんいたね!」
「そうね~、光人族の集落にいたみんなも、ナナちゃんのお手伝いができるって張り切ってたわ~」
「ふふ、そうか……それなら、よかったのじゃ」
少しだけ、気が楽になったよ。
そこにアネモイも来て、何故なのか意味の分からないドヤ顔を私に向けた。
「ねえナナ、声が大きいからといって、それが大多数の意見とは限らないってキューちゃんも言っているわ!」
「アネモイはキューちゃんの知識を盗み見ての言葉じゃろうが。しかし……確かにそうかもしれんの。三人共、ありがとうなのじゃ」
アネモイのドヤ顔はイラッとするけど、あれでも気を使ってのことだろう。
それにしてもキューちゃんからどんどん知識とか吸収してるんだけど、そろそろ接続切っても良いんじゃないかな。
別に困ることは何もないんだけどねえ。




