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英雄とスライム  作者: ソマリ
英雄編
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3章 第71話N 許せないこともあるのじゃ

 どうしてこうなった。ここはセーナンと皇都シェンナの中間にある、都市コンゾの領主執務室だ。目の前にはシアとレーネが揃って両膝をつき頭を下げている。

 土下座はこの世界に無いが、それに近い形の最大のお詫びの姿らしい。そう言えば土下座なんてこっちに来てから、ヒデオがやったやつしか見てないな。




 セーナンに向かって来ると思われた大都市ノワモルの兵士だが、なぜか二千の騎兵が皇都へ向かっただけでセーナンには来なかった。それどころか直後にノワモルの一部の貴族が兵士と結託して領主を拘束し、ステーシアに対して恭順の意志を示したため戦闘にならなかった。

 しかもアルトによると他の大都市からも四大貴族の私兵が皇都へ向かい、残された兵は市民の暴動を警戒して都市に篭っているという。


 その結果を受けてこちらから打って出ようという話になり、セーナンと皇都シェンナの中間にある都市コンゾへと進軍することになった。反乱軍改め解放軍として、ノワモルからの兵士と傭兵合わせて約五千と合流してコンゾを落とし、そのまま真っ直ぐシェンナへ進軍しようという計画だ。


 セーナンからの兵力は『風の乙女』と『深緑の守護者』という傭兵団と、その他五組の中小傭兵団を合わせて約五百人、それとセーナンの正規兵が五百人。

 たったの千人でしかないが、それに加えてレーネ・ジル・ペトラ・ミーシャの四人がいる。

 それに『風の乙女』と『深緑の守護者』のメンバーの多くはピーちゃんによって欠損部位の修復が行われた者達で、また戦えると気合十分だった。


 何の問題もない。


 そう、思っていた。


 戦闘の終わった、都市コンゾ市内の様子をこの目で見るまでは。



「解放軍であるステーシアに協力的な都市ではなかったから武力制圧を行った。両軍共に死者は無し。そこまではよいのじゃ、むしろ上出来じゃ。じゃがそこから、なぜ略奪を許すという話になっておるのじゃ!」


 私の大声に、シアとレーネの二人の体がびくん、と跳ねた。


 戦いそのものはあっという間だった。集中訓練を終えて転移魔術で送り出したレーネが、ジルの援護を受けたペトラとともに最前線で敵を食い止め、その間にミーシャが指揮官を落とすという、集団戦って何だっけと聞きたくなるような内容ではあったが。

 しかしそこで問題無さそうだと、タカファイターが映すモニターから目を離した事を後悔するとは思わなかった。


 もう一度モニターを見たときには多くの傭兵団の者達が、貴族街や大規模商家を狙って略奪や暴行を働いていたのだ。兵士がそれを見て見ぬ振りする始末というのも驚いた。

 傭兵たちの何人かを直接殴り飛ばしたあとセーナン同様に大量のスライム体が放つ水弾で、片っ端から覆面達と同じ目に合わせて捕縛した。

 そしてその傭兵からは、ステーシアの許可が出ていると聞かされた。

 傭兵たちは戦争に際し少ない賃金で雇われる代わりに、戦勝時には略奪が許されていると言う。今回は四大貴族と深い関係のある貴族と商家に対して略奪許可が出たと聞いて、怒りのままにシアを呼び出した。




「敵対する貴族の館や商家で働いているからといって、使用人や従業員にまで罪があると言うのかのう?」


 考え込んでいるのか、深く頭を下げたまま無言のシアとレーネに対してアルトが一歩前に出た。


「ステーシア君、レーネハイト君。ナナさんと今後も良好な関係を続けたいのであれば、ナナさんと自分達との価値観の違いについて知っておくべきですね」


 価値観か、確かに自分の価値観はこの世界では少数派かもしれない。でも嫌なものは嫌だ。

 こればかりは相手の価値観に合わせるつもりは一切無い。



 レーネを一ヶ月みっちり鍛えてやると、竜の力改め魔法を用いた上位の身体強化術も使えるようになった。訓練の間にレーネの異名に合わせて白銀色の剣と鎧も作ってやった。

 ちょくちょく顔を出すようになったジル達にアネモイも紹介し、シアやレーネも含めてみんな一緒にお風呂に入ったり、猫やぬいぐるみ等の可愛い物と戯れたりと、親交も深めたつもりだった。


 仲良くなったと思っていた。わかってもらえていると思い込んでいた。

 鍛えてやっただの作ってやっただのと上から目線で、もう一歩が踏み込めなかった私が悪いのか。

 ちゃんとした話をしなかった私が悪いのか。


 だんだん悲しくなってきた。


「元々ナナさんが、なぜセーナンを救ったのか思い出して下さい。ナナさんは戦争に巻き込まれた一般人を救うために行動したのですよ? それに今回、ナナさんの言う使用人や従業員だけでなく、ステーシア君が許可を出していない相手に対する略奪・暴行も確認されていますがご存知ですか?」

「許可されていない相手への略奪は、犯罪として処罰を……」

「誰がやったのか把握しておるか? 誰がどのような被害を受けたのか知っておるか? 被害者への賠償は行われるのかのう? ……答えよ! ステーシア!!」


 私の怒声に真っ青な顔で震えるシアは、全て把握していない、過去に賠償が行われたこともないと、か細い声で打ち明けた。予想通りというか何と言うか、呆れたものだ。

 敵国や反乱を起こした都市に対する略奪行為はこの国では常識であり、今の今までそれに対して疑問を持ったことすらなかったそうだ。

 もしかしたら見せしめの意味合いもあるのかもしれないが、知ったことか。


「ナナ様、大変申し訳ありませんでした! 以後全ての兵士と傭兵団に対し、略奪や一般人への暴行を禁止致します! どうか、どうかご容赦を!」

「ナナ様、ワタシからも、お詫び致します。何卒今回ばかりは、ご容赦頂けないでしょうかぁ……」


 レーネとジルの言葉に続いて、ミーシャとペトラも頭を下げた。勝手についてきたアネモイも一緒に頭を下げているが、何でアネモイまで一緒に……って、レーネがいるからか。


 はあ。


「レーネ、その約束しかと聞いたぞ。シア、被害者に対する賠償を行うのじゃ。敵対貴族と商家の代表者については、悪事の証拠等の理由を示した上で兵士に捕縛させよ。それと以後の戦闘には、略奪に参加しなかった『風の乙女』と『深緑の守護者』以外の傭兵団の参加を禁ずる。少なくとも略奪禁止が周知されるまでは、一般人に対して暴行や略奪を行う傭兵達はわしの敵であることを理解せよ。以上が守られぬ場合は、わしは皇国より一切の手を引く」

「お、お許し頂けるのでしょうか……?」

「許すかどうか決めるのはわしではない、被害者じゃ。……誠心誠意、詫びてくるのじゃな」

「は、はい! ありがとうございます!」


 レーネを伴って退席したシアを見送ると、深い溜め息が漏れた。

 ジル達も深く頭を下げて、シア達を追いかけていった。アネモイは抱きついて来ようとしたので、角を掴んで振り回しておく。

 全く、ままならないものである。


「あとはこちらでやっておきますので、ナナさんはお休み下さい」

「アルトがそう言うのなら……ん? アルト、それは何じゃ?」


 アルトの肩に乗る小さな人影、というか……頭についているのはビデオカメラのように見える。


「魔道具ゴーレムの実験機です。映像・音声の送信とその記録を行う、二体のゴーレムを作ってみました。こちらのゴーレムが送信用ゴーレムで、受信用ゴーレムは僕の部屋にいます」

「ほう、面白いものを作ったのう?」


 気分が沈みかけていたが、昔映画館で見た映画泥棒的なそのゴーレムを見て、懐かしさに少しばかり気が和らいだ。


「全てナナさんのおかげですよ。ゲートゴーレムやデータベーススライム、それと通信魔道具にタカファイターと、参考になるものがたくさんありますからね」


 それにしても写真をすっ飛ばしてビデオカメラを開発したか。魔術が関わると技術の発展具合も、前にいた世界とは大きく変わりそうだ。面白いじゃないか、これだよこういうのが見たかったんだよ。


「ふふふ、よいものを作ったのう、アルト」

「ありがとうございます、ナナさん」


 あれ、思ったより喜んでないな。それどころかすっとぼけたような無表情だけど、どうかしたんだろうか。


「それでご相談なんですが、魔石に特定の技能魔素を注入するというのが、どうも上手く行かないのです。以前ヒルダさんの研究日誌にあった、最初のぱんたろーと同様のゴーレムを僕に貸してもらえませんか?」


 まあいいや。初代ぱんたろーか、初めてヒルダに作ってやったパンダ型ぬいぐるみゴーレムだな。キューと同様に技能魔素識別可能で、ヒルダが私抜きでゴーレムを作るのに必要で作ったな。

 でも結局ノーラに取られてしまい、ヒルダがゴーレム作成に使う機会は殆ど無かったっけ。


「ふふふ、懐かしいのう。実はわしの部屋にあるぬいぐるみゴーレムじゃが、全て初代ぱんたろーとほぼ同じ機能で作っておる。それでもよいならすぐにでも渡せるのじゃ」

「ありがとうございます。それとついでで申し訳ないのですが、ニース君も欲しがっておりましたため二体用意頂けると助かります」

「うむ、帰ったら選んでおくのじゃ」


 そう言えば角を掴んだままだったとアネモイを見たら、何やら膨れっ面をしている。面白い顔だから放っておこう。


「ねえナナ、せめて何か言ってくれないと私悲しいの」

「……」

「ねえ……」


 膨れっ面のアネモイの目に、徐々に涙が浮いてきた。こらえきれずに笑ってしまったじゃないか、全く。

 アルトの成果とアネモイの奇行に、完全に毒気が抜かれたな。

 そのアネモイはと言うと、自分は貰えなかったのにアルトとニースにぬいぐるみを渡すことは快諾した私の態度に、少し拗ねてみたのだそうだ。

 お前が欲しがったのは私の一番のお気に入りであるくまちゃんだ、簡単に渡してたまるか。

 それにあのあと一緒に同じものを作ってやったじゃないか、全くもう。




 ヴァルキリーの拳サイズの羽根つきスライムを五十体作り、コンゾ市街地の略奪が行われた辺りや負傷者がいる建物に向けてぱたぱたぷよんぷよんと向かわせる。

 スライムの息の合った行進に、始めの内は呆然と見ていた市民だが、怪我人を治すため治癒の光を出してやると恐る恐る触る者が出てきた。あ、一六号が子供に捕まった。仕方ない、しばらく遊ばせよう。

 兵士も敵味方問わず、略奪に参加した傭兵以外の怪我人を治して、っと。二十号と四十五号も子供に捕まったな、七号は綺麗なお姉さんに抱かれたか。いいぞ七号。何だか応援したくなるなるな七号。捕まってない残りのスライムはついでに街の浄化と無差別に治癒の光出しながら、各自散歩でもするか。

 セーナンには女の子助けに行ったっきり行ってないし、実質皇国の町並みを落ち着いて散策するのは初めてだ。

 といっても五十体全てから一気に流れ込んでくる感覚を処理するのでいっぱいいっぱいで、全く落ち着いた感じはしないけどね。


 一般人の建物は多くが石造りで、かろうじて雨風をしのげる程度か。商店や貴族の住まいは多くが木造で赤く塗られた屋根や壁が多く、何となく中華風な感じだな。季節柄防寒着らしい毛皮の外套を着込んだ人が多いが、その外套の下に見える服は、アオザイとかチャイナ服に似ているな。着物に良く似たものを着ている人もいて、エスタニア大陸で一般的なチュニックを着ている人と半々くらいかな。それとどこからか笛の音も聞こえてくる。民族音楽的な感じかな。

 食べ物は……ん?


「ナナさん、何をしているんですか?」


 三号が、アルトに捕まった! 三号はぷるぷる体を震わせて、逃げようとしている! しかし逃げられない!

 ちっ。何か言おうにも、発声器官つけてないからしゃべれないんだよな。


「部下から市街地でナナさんが遊んでいると聞いて、様子を見に来たんです。これはまた……大人気ですね。特に子供達が大喜びですね」


 そうだろうそうだろう。ふふん。アルトに捕まったスライムの翼を大きく広げ、胸を張ってみる。どこが胸か私もわからないけどね。

 特に問題無さそうだから戻ると言ったアルトだが、そのまま三号を持っていきやがった。手に乗せて撫でるのはいいのだが、何だか気恥ずかしいからやめてほしい。


 日が傾き影が長くなった頃、羽根つきスライム達を市街地中央の広場に集め、ぷよんぷよんむぎゅっと次々合体させていく。アルトや七号を捕まえたお姉さんをはじめ放してくれなかった人もいたが、転移で逃げた。

 だんだん大きくなっていくスライムに、大人達は流石に警戒の目を向けていたが、子供達は目をキラキラさせている。特に男の子、やっぱり合体は男のロマンだよね。昔そんな事を私も言っていたのを思い出したよ。

 最終的にずんぐりむっくりな人型にして手を振ると、子供達も手を振り返してくれた。こんな状況だけど、少しでも気が紛れてくれたなら良かったよ。




 その日のうちに部屋からパンダのぬいぐるみとタヌキのぬいぐるみを選び出し、それぞれ『ゲンマ』と『ギョウブ』と名付けをし、簡単な発声器官を構築して二体の喉に埋め込んで、アルトにはゲンマを、ニースにはギョウブを渡してやる。


 この二人にはこのまま、自由な発想でいろいろ作って貰いたいな。


 次はどんな面白いものが出来るだろう、楽しみだな。


 でもその前に……やっぱり戦争は、早く終わらせよう。子供達の笑顔が少ないのは、嫌だな。

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