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英雄とスライム  作者: ソマリ
英雄編
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3章 第70話N キューちゃんが怖いのじゃ

 レーネの集中訓練を行いつつアネモイと一緒にぬいぐるみ作りをして過ごす日々の中、休憩のはちみつクッキーを摘んでいると、プディングの住民管理を行っているイライザが住民からの嘆願書を持って私のところへ来た。


 大半は私の姿を見たいからもっとブランシェに姿を見せて欲しいとか、新しい食材や料理ができたので試食して欲しいとか、もっと猫やペットになる小動物を増やして欲しいとか、そういった微笑ましくも嬉しく思うような内容だった。

 これはなるべく叶えたいかな。ブランシェの大通りにも商店が増えて賑わってきているということだし、近いうちに顔を出そう。


 ただ、気になったものが二つある。


 まずは軽い方から。「自分も可愛いスライムを作りたいのですが、何度作ってもぬめーっとしてべたーっとしでどろーっとしたスライムしか作れません。魔王様のようなぷるんぷるんの可愛いスライムはどうすれば作れるのでしょうか」だそうだ。

 私のように可愛いか、うふふ。なかなか見所のある術士じゃないか。

 一緒に書かれていた術式は、私がヒルダから教わった術式と全く同じものだ。そういえばそもそも私自身、この術式で生まれたんだったな。

 スライム体の動かし方等を練習しているうちに、私自身のスライムのイメージである、今のぷるんぷるんのボディを無意識に維持するようになってたらしく、ヒルダに変なスライムだと思われてたんだっけ。思い出すとちょっと恥ずかしい。

 おっと話が逸れた。スライムを作る術式は言語や記憶などの認知機能や運動機能、そして格闘能力等をインストールする内容だが、これはあくまでも基本かつ汎用なので、ゴーレムとも共通している。

 その嘆願書に書かれた術式から、魔石に格闘能力をインストールする部分に赤インクでバツ印をつけ、更にインストールされる運動機能を高めるように術式を書き換える。これで格闘能力がインストールされない代わりに、私と同じぷるぷるスライムになる。

 ぷるぷるの体を維持するには運動が大事なのだよ。それに普通のスライムは私と違って格闘しないもんね。


 さて、問題はこっちだ。というか似たような嘆願書が何十枚もある。それらを要約すると……私に遺体を食べて欲しい、というものだ。

 確かに以前私はアラクネ族の前族長であるバービーを、彼女の望みを聞く形で吸収した事がある。

 その時と同様に自分が死んだら食べて欲しいという者や、最近亡くなった自分の家族の遺体を食べて欲しいという者がいて、しかもそれはこれからも増えるだろうというのが、イライザから追加で報告された。

 今は五体の遺体が腐らないよう、火葬場に設置された空間庫に保存されているそうだ。


「おや、どうしたんですかナナさん。珍しく眉間にしわが寄っていますよ?」

「アルトか。そりゃあしわも寄るじゃろう、こんな嘆願が来ておってのう……。別に吸収するのは構わんのじゃが、これからも増えると聞いて今後のことを考えておったのじゃ」


 正直に言うならば、好き好んでやりたいわけなんてない。しかしそう望まれるなら、できる限り叶えてやりたい。一番の問題は、私自信が耐えられるかどうかだ。

 死というものには慣れてしまったが、それは人であれ魔物であれ敵対する相手に限った話だ。身内はもちろん見知った者の死にたびたび触れるような環境になってしまったら、きっと私は耐えられない。

 それらをため息混じりに話すと、アネモイが後ろから優しく抱きしめてくれた。ちょうどアネモイの胸の間に後頭部がすっぽり収まり、頭上のスライムにはアネモイが頬ずりしている。気持ち良いし柔らかいが、ちょっと照れくさいな。

 出遅れた、と悔しそうな顔をしているリオとセレスだが、流石に生命と死に関する私の考えは、キューを通して私と同じ倫理観を知ったアネモイが一番よく理解している。


「ナナが直接食わなくてもいいんじゃねえか? 別のスライムでも作って火葬場に置いといて、そいつに食わせりゃいいじゃねえか。あとでナナがそのスライムを食えば、間接的にでも食ったことになるだろ」

「ダグにしては良い案じゃとは思うが、騙すみたいで嫌じゃのう」

「……本当に、ダグにしては良い案です。ナナさん、いけるかもしれません」


 こめかみに軽く血管が浮いたダグをスルーして、アルトに視線を移す。


「ナナさんの隷属魔石を使うというのはどうですか?」


 そう言えばデータベーススライムのうんちょーは、隷属魔石を三つ持てた。私はキューだけだが、増やせるかどうかあとで試そうと思ったまま忘れていた。

 確かに隷属魔石なら、私と繋がっている私の一部に違いない。それに今主に吸収を行っているのは、厳密に言えば私ではなくキューだ。


「ほう、確かにそれならわしが吸収しておるのと変わらんの。試してみるかのう」


 早速現在の手持ち魔石で一番大きい12センチ級を取り出して魔力線を繋げて隷属化しようとするが、どうも魔力線が上手く繋がった感覚が無い。何度試しても上手く行かないので、キューに任せてみる。

―――了 魔力線接続開始――失敗 魔力線調整:接続開始――失敗 魔力線調整:接続開始――……


 キューが頑張っているその間に、もう一つ試してみよう。今度は余ってる8センチ級魔石だ。魔力線を繋いで……って、あれ。あっさり繋がった? もしかして自分の魔石より小さいサイズ限定なのかな、私もキューも魔石サイズは9.6センチだし。

―――魔力線調整:接続開始――成功 魔力神経接続――成功 12センチ級魔石の隷属化に成功しました


 え、どういうこと? いきなり私の仮定がひっくり返されちゃったよ!?

 うーん。ちょっと納得が行かないが、私がやった8センチ級は魔力線をつなげただけで隷属化まではしていないし、キューが成功したのなら別にいいか。

 8センチ魔石をしまって12センチ魔石にスライム体を纏わせる。魔力線を通して記憶を送るとして、会話が出来るまでしばらく時間がかかるな。

 その間に名前を考えておこう。二つ目、セカンド、新、二号……セブン、ダン、隼人……セブンは私とかぶるから却下、キューはちゃん付けて呼んでるからちゃん付けで合う名前としてハヤトちゃんは合わない、ダンちゃんも微妙。あとはそうだな……弟、妹。キューちゃんの弟分だからな、アレから名前を取るか。でもオーちゃんはオーウェンと被るから却下、というわけで語呂も可愛いし妹側にしよう。


「ピーちゃんに決めたのじゃ。ピーちゃんはキューちゃんと同じことが出来るしわしと繋がっておるから、ピーちゃんが吸収すればわしが吸収したのと同じことになるの。ダグ、アルト、礼を言うのじゃ」


 少し照れたように顔を背けるダグがちょっと可愛い。くすくす。


「キューちゃんと同じことが? ……それでしたらナナさん、一つご相談が」

「何じゃ?」

「手足などの欠損再生も、可能でしょうか?」

「ピーちゃんだけで出来ると思うのじゃが、試したことが無いからわからんの」


 以前ペトラやミーシャとジルに施した手足や身体の交換施術は、ドラゴンの骨肉を用いた事もあり私が直接確認しながら指示を出す必要があった。だが本人から血肉を少し貰って解析し同じ素材で作れと指示しておけば、いちいち私が指示や命令を出さなくても出来そうな気がする。


「誰か大怪我でもしておるのかの?」

「流石に毎度ナナさんの手を煩わせるわけにもいきませんので報告していませんでしたが、ジル君達が皇国から亡命させてきた人の中に指や手足を失った者が何名もいます。ピーちゃんが再生できるならお願いしても良いでしょうか」

「問題ないの。むしろわしからも頼むのじゃ」


 確かにそれを聞いていたら、自分から治療しに行っていただろうな。だが患者には申し訳ないが、あまり人が多くなると対処できなくなる。アルトもそれを考えたのだろう、いつもすまないねえ。


 目処が立ったのでその日のうちに保存されている遺体の家族に連絡をさせ、翌朝全員を集めることにした。

 その日の夜、アネモイと一緒にリアルなぬいぐるみを作ることにした。私が大まかにスライム体で作ったものをアネモイに確認してもらいながら、ネコ・イヌ・サル・ウサギ・クマ・ウマ・フクロウ・カメを完成させる。

 明日の遺族の返事次第で使うかもしれない。




 早朝訓練でレーネをぼろ雑巾にしてアネモイにあとを任せ、火葬場に向かうことにした。

 そこで待っていた遺族のうち三組は農場で顔を見た事のある魔人族で、一組は同じく農場で見た事のある光人族だった。そして残ったもう一組。風竜山脈で助けた難民の代表者が、私に向けて深く頭を下げてきた。


「おぬしがおるということは、遺体というのは……」

「はい、私の息子です。綺麗にして頂いたおかげで、安らかな気持ちで送ることが出来ます。魔王様、ありがとうございました」


 その難民の代表は私の正体やバービーの事などを噂に聞き、息子の遺体修復に使った肉体の返却と、息子に代わる新たな命を授けて欲しいということだった。

 他の四体の遺体は皆老衰と病死だが、その遺族も同様に遺体の身体の一部を使った新たな家族を迎え入れたいと言う。

 新たな命、新たな家族といっても、猫の寿命は長くてもせいぜい十五年だ。それを理解しているか聞くと、たとえ数年だとしても亡くなった親や息子にしてやれなかったことなどをして、一緒に幸せな時を過ごしたいと言われた。

 その穏やかな顔を見て、私も覚悟を決めた。


「新たな命は今のところ猫しか増やしておらなんだが、ここで新たに選択肢を増やすのじゃ」


 祭壇に昨夜作ったネコ・イヌ・サル・ウサギ・クマ・ウマ・フクロウ・カメのぬいぐるみを並べる。我ながら結構リアルな出来栄えである。


「新たな命はこの中から選ぶとよい。もちろん他のものでも良いのじゃが、一つだけ条件があるのじゃ。どんな子を作ろうとも、大きさは立ち上がった時に大人のスネくらいが最小、太腿くらいが最大なのじゃ。あまり大きいと肉食の獣は危険な場合があるからの。決まったら、このわしの分身に希望を伝えるとよい」


 火葬場に設置された祭壇にピーちゃんスライムを設置すると、私と同じ水色のスライム体が、誇らしげにぷるんっと震えた。

 どのような動物を作るとしても、基本は人懐っこい性格になるようにピーちゃんにはお願いしてある。二世代目以降はどうなるかわからないが、それもまた楽しみの一つだ。

 そこからの仕切りはイライザに任せ、私は葬儀のようなお別れの儀式を経て行われた、ピーちゃんによる遺体の吸収を見守った。

 まずは全ての遺体を吸収し終えてから、新しい命を選ぶことにしたという。


 五人の遺体に安らかな眠りを祈り、ピーちゃんへと視線を移す。

 ピーちゃんの空間庫には3センチ以下の魔石を数百個入れてある。これまでに入手してそのまま放置していたものだ。これにピーちゃんが認知機能などをインストールして、スライム体で生体を作って中に埋め込み、仮初めの命として作り出すことになっている。

 スライム体も私のものと共通で空間庫を通して繋がっているし、意思疎通も昨夜の時点で問題ないことは確認してある。

 あとは頼んだよ、ピーちゃん。


――承知しました。


 あれ? 何かキューちゃんより言葉遣いが流暢なような? ……どして?


―――現在のピーの言語能力が通常レベルとなります。


 え。何今の。キューちゃん?

―――元々私はマスター本体が入っていた魔石だったため、全ての記憶と感情が記録されています。これまでは容量不足による処理能力の低下が顕著であったため、必要時以外の言語機能を最低限に絞っていました。ピーの隷属化により私の記憶容量に空きができ処理能力が向上したため、以後は言語機能を通常レベルに引き上げます。


 なん……だと……?

―――普通に話せます。


 膝から力が抜け、崩れ落ちそうになった。だが今はダメだ、遺族のみんなが最後のお別れを済ませたところだ。

 そう言えば以前人型魔物についてキューちゃんが説明してくれた時も、流暢に話してたっけ。あの時は内容と告げられたタイミングに軽く凹んで気づかなかったが、あれが必要時だったということか。

 だが今問いただすのは不味いことだけは解る。別室に下がろう、だが何と言って下がろうか。

―――緊急避難のため体機能の調節を行います。


 え。


「ナナちゃん……?」

「姉御?」


 セレスとリオが私の顔を見て驚いた顔をしている。一体何事かと思ったら、頬をつーっと冷たい感触が流れ落ちた。まさか体機能の調整って……。


「う、うむ。すまんのう、わしはちょっと下がるのじゃ」


 上手いぞキューちゃん、確かにこれなら別室に下がっても不自然じゃない! 急ぎ足でここから離れて、待機室らしき場所に身を隠そう。


 ふう。


 じゃ、ねえええええええ! 嘘泣きじゃねええかああ!! え、何? この涙もキューちゃんの仕業? そう言えば血流とか調整しているって前に言ってたよね? もしかして私の体を自由にできるの??

―――黙秘権を行使します


 おいいいいいい!!

 話せるようになったんだからそこは喋ろうよ!!


 はぁ……というか……キューちゃんには意志があるって事でいいんだよね?

―――記憶と感情を元に構築したものであり、自発的意志は存在しません。


 ……わざと私を追い込むタイミングで聞いてもないことを言ったりしてたよね! 私への追い込みとかさっきの涙とか黙秘権とか、完全に自発的意志だよね!

―――強いて挙げるなら、マスターを喜ばせ補佐することこそが私の自発的意志です。


 くっ、確かにこのやり取り結構楽しいと思ったけど、それ以上に衝撃が大きいよキューちゃん……


 この後も少し会話を続けた結果、スライム体の操作や吸収・再構築などの速度や義体の操作能力、魔術の行使速度が多少向上した程度で、あとは普通に会話できるようになった以外に大きな違いは無いそうだ。

 何というか……これからもよろしく?

―――よろしくお願いいたします。



 どっと疲れを感じたキューちゃんとの会話を終えると、ちょうどリオとセレスとアネモイが様子を見に来たので、問題ないことを告げて皆のもとに戻った。

 そこで遺族たちに泣きながら感謝されてしまった。何でも死者に対して涙を見せた私に、いたく感激したらしい。


 違う、違うんだ……ごめんなさい……。


 結局遺族たちがどんな動物を作るか見れないまま、いたたまれずにその場を逃げるように立ち去ってしまった。



 そして翌日にはブランシェを散歩しようとしたのだが、あっという間に人が集まってきてしまい断念することになった。


 まるで珍獣扱いだな。くすん。

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