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英雄とスライム  作者: ソマリ
英雄編
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3章 第69話? わかんねえんだよ

 年内は山で修行するはずだったのによ、クソ面倒くせえゲオルギウスのジジイからの呼び出しのせいで、修行は二ヶ月も早く終わっちまった。

 それにふた月に一度の月末会議に参加しろとか言われても、俺様が聞いて何の意味があるんだか。

 相変わらず帝都は辛気臭えし会議室は年寄り臭えし渡された資料の束はインク臭えし、魔物の死体の臭いの方がよっぽどマシだぜ。

 それにしても周りが随分と騒がしいな、枯れ枝のベルクマンも肉樽のアデルもピリピリしてやがる。

 ジジイは枯れ枝野郎を睨みつけてるしよ、年寄り同士仲良く死にやがれ。


「ベルクマン。エスタニアの世界樹から湧出する魔素量が、急激に減少し続けているそうだな。現在は貴様の計画発動前である、十年前の数値よりも減少しているというではないか。本件について説明せよ」

「エスタニア大陸北西部の瘴気が消失したという報告がアトリオンから届き、プロセニアから斥候を放ったところ事実であることが確認された。正直なところ、一体何があってあれだけの瘴気が短時間で浄化されたのか理解できん。現在は急ではあるがプロセニアを動かし、再度同地域に瘴気を蔓延させる計画を実行中だ」


 はあ? あのヴァンを使って瘴気を増やした場所だよな。何があったらあんだけの広い範囲の瘴気が消えるってんだ?


「今度はどのような計画だ?」

「同地域にプロセニアの生贄候補に捨て石を率いさせて侵攻するだけだ。ちょうどティニオン王国の生贄候補が調査に動いているようだから戦争となろう。飢えて死ぬもよし、戦って死ぬもよし。恨み辛みを吐き出して死ねば多少は瘴気の糧となろう、無いよりはマシだ。さらに生き残った候補を、世界樹への生贄として計画を進める」


 瘴気が消えた原因探らなきゃ二の舞いになってもおかしくねえって俺様でもわかんのに、この枯れ枝野郎は馬鹿なんだろうな。

 しかし生贄候補か、前はヴァンを生贄にして世界樹の異界維持機能をぶっ壊す計画だったな。まだ続いてたのかよ。

 つーか、ティニオンの生贄候補は……レイアスだったな。けっ。

 んで、ジジイの次の矛先は肉樽野郎か。枯れ枝野郎にその腹の肉を分けて仲良く死にやがれ。


「次はアデル。皇国への工作失敗について報告せよ」

「レ、レーネハイトによって皇女が奪還されたせいで、皇国の乗っ取り計画は中止とした。だ、第二案の戦争については、セーナン襲撃もドラゴンが現れたとかで敗走し、シーウェルトの死亡も確認されたが、魔石は回収したし、まだ作戦継続中だ。て、低下した魔素湧出量を補うため、帝国の強襲部隊を動かし、風竜山脈の抜け道から皇国に侵入、皇都を襲撃して虐殺を行う」


 相変わらず聞き取りづれぇんだよ肉樽野郎。しかもわかりづれえ。

 確か資料に書いてあったな、えーと……皇国の王家と跡継ぎを全部殺して、皇女を孕ませて作った子供を神皇に据える、ねえ。

 それとプロセニアのキメラ兵と連動した、セーナン襲撃か。シーウェルトっていうのは……ちっ。俺様と同じ、光人族と野人族のハーフかよ。しかも見た目が野人族寄りとはな、運がねえ奴だ。

 ……ん? セーナンで目撃された……翼のある人影?

 それに何だこれ、帝国は先行させた奴隷兵が何人か捕虜になっただけで、ドラゴンのブレスは威嚇射撃と思われる攻撃のみ、その後は帝国側を睨みつけたまま動かないので侵攻中止って。


 多分……ナナ、だな。


 俺様なんかを助けるために、たった一人で上級ドラゴンをぶっ飛ばすくらいだもんな。

 セーナンの連中を助けるため、戦争を止めるためにやったとしても、不思議じゃねえな。


「皇都襲撃だと?」

「ちょ、ちょうど、皇女がセーナンで反乱を起こしたので、皇国の目がそっちへ向いている。こ、皇国の有力者には、反乱からの防衛を名目に皇都に兵を集めさせ、念の為腐竜玉も渡してある」


 おっと、まだ話が続いてたのか。ナナが皇国側なのかどうかわかんねえが、また会えるなら……今度こそ、ちゃんと話をしてみてえな。


「……主様がお目覚めになるまでに、貢物の用意は間に合うのか?」

「間に合わせるしか無いだろう、そうでなければ次に主様が目覚める時まで、我々の寿命がもたぬ」

「ゴ、ゴーレムの実験を、プロセニアでやっている。か、完成すれば、きっと主様も、お、お喜びになる」


 主様ねえ。何百年に一度眠りから目覚めて、忠臣には永遠の命を授けるって聞いたけどよ、その永遠の命を貰った奴ぁ一人もいねえじゃねえか。


「ならばシーウェルトの魔石と魔素集積装置で作った人工魔石を、共にプロセニアの研究所へ運び研究成果を確認せよ。問題無いことが確認できたなら、一度成果をこちらに運んでもらおうか」


 って何見てんだよ糞ジジイ、俺様に行けって言うのかよ。


「ちょうど研究所には、お前の求める力もある。期待しているぞ、帝国の英雄」


 俺様を英雄と呼ぶんじゃねえクソジジイ。そのあざ笑うようなツラ、踏み潰してやりたくなるぜ畜生。




 力か。俺様は今も本当に欲しているのか? あの奇妙な女神に会ってから妙な気分だ。

 あれから何度剣を振るっても、何を食っても、あの『はんばーがー』とかいう奴を食ったときみてえな気分は味わえてねえ。

 ムカつくあの野郎をぶっ殺してえ。それだけを考えて鍛えてきた。

 なのに最近、あの野郎……レイアスの事なんてすっかり忘れてたぜ。


 にしても魔素集積装置、遠いんだよ、クソッ! 何だってあんな郊外に作ってんだよ。

 帝都内の奴等も巡回する兵士共も俺様の顔を見るだけでビビりやがるし、気分わりいぜ。


「ご苦労様です!」

「おう。……ん?」


 いきなり声をかけられて顔を見たら、野人族の兵士かよ。しかも随分若いな。


「てめえ新人か?」

「はい! 今月配属されたばかりであります!」


 道理で。帝都で俺様に声をかけてくるなんて、普通じゃねえからな。だが……ちょうどいい。


「おい新人。てめえに一つ聞きてえ事がある。てめえらは普段、何食ってんだ?」

「はい! パンに麦粥、それと野菜スープであります!」

「うるせえよ普通に話せ」


 しょんぼりしてんじゃねえよ鬱陶しい。


「肉とか食わねえのか?」

「肉なんて高級品は、狩りに出て上手く行ったときしか口にできません」

「滅多に食えねえのか。なあ、そんな肉を食った時、どんな気持ちになるんだ?」


 首傾げてぽかんとしてんじゃねえよガキ。そんなに俺様の質問がおかしいか?


「え、ええと……生きててよかった、ですかね」

「それは幸せか?」

「ええ、幸せですね、あとお酒があったり嫁さんが一緒なら特に」


 嫁と、一緒なら……か。やっぱり俺様にはわかんねえ。


「なあおい、嫁っていうのは――ちっ」


 別の兵士が俺様に気付いたのか、こっちに走って来やがった。

 あの青冷めたツラは、俺様の事を知ってるって顔だな。


「た、大変申し訳ありません! うちの若いのが、何かご無礼でも? どうか、どうかご容赦を!! こいつは結婚したばかりで、これから子供も――」

「うるせえよ、何でもねえから大声出すんじゃねえ。じゃあな」


 無視してさっさと魔素集積装置がある施設に行くか。

 それにしても一緒に食う、か。

 今までは誰かと一緒に食うなんて考えたこともねえ、ガキの頃は腹一杯食うため殺し合いだったしな。それに誰かから食い物を貰ったのも初めてだ。しかもあんな美味い物も初めてだし……また会いてえ、一緒に食いてえなんて思うのも――


(馬鹿野郎! あの人が狂刃のキンバリー様だ!!)

(ええ!? 施設の同世代の子を皆殺しにしたっていう、あのキンバリー様ですか!?)

(そうだ! 一体何で絡まれてたか知らないが、無事で良かっ――)

「うっせえ!! 全部聞こえてんぞ!!」


 ひそひそ話すんなら、もう少し離れてからやれってんだ。


「「も、申し訳ありません!!」」


 あーうっせえ。無視だ無視。




 幸せって何だ。ズボンのポケットに入れた右手に伝わる、ナナに返し損ねた布切れの柔らかさが心地いい。この心地よさも、幸せってやつなのか?

 嬉しいって何だ。楽しいって何だ。初めて下級ドラゴンを一人でぶった切った時、多分俺様は嬉しいって思っていた。だんだん強くなってく自分を感じる時が、楽しいってもんだと思っていた。


 そう、思ってたけどよ……今は何か違う気がするぜ。


 レイアスをぶっ殺せれば、俺様は嬉しいのか? 楽しいのか?


 ……クソッ、わかんねぇよ……。


 それに嫁? 仲間? 誰かと一緒に?

 ……やっぱり俺様には、よくわからねえ。


 なあナナ。幸せって何なんだよ……。

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