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英雄とスライム  作者: ソマリ
英雄編
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3章 第68話N 新しいトモダチなのじゃ

 レーネとアネモイの出会いでだいぶドタバタしてしまったが、とりあえず二人を引き合わせることは出来た。この二人にはあとで時間を作るとして、まずはシアから話を聞くとしよう。


「セーナンの反乱にジル達を派遣いただいたこと、心より感謝いたしますわ」

「その辺りはアルトの判断じゃ、礼はアルトに言うとよいのじゃ」

「ですがアルト様はナナ様のためにご決断なされたのですから、やはりナナ様にお礼を、と」


 構わないと言って話を促すと、シアはもう一度深く頭を下げてきた。


「ナナ様。どうかわたくしに、そしてセーナンの民に、支援をお願いできないでしょうか」

「具体的にはどのような支援を望むのじゃ? その支援を得てシアは何を成そうとしておる?」

「まずはセーナンの民への食糧支援。それと、軍の兵士を可能な限り。目的はセーナンの防衛です」


 常識的な内容だな。でも食料は良いとして、軍の兵士はなー。


「セーナンの北西にある都市ノワモルは、四大貴族の一人であるミナータ家の直轄地で、セーナン反乱の報せを受け鎮圧のために軍が動いております。今朝届いた報せでは、正規軍とミナータの私兵を合わせて約一万五千の兵士が用意されていると……対してセーナンには、戦える兵士は六千もおりません」

「ノワモルからの兵がセーナンに到達するのは、早くて十二月の半ばです。ナナ様、どうかステーシア様にお力をお貸し下さい! お願いします!」


 二ヶ月先か。歩兵の行軍速度と都市間の距離を考えると、妥当なところかな。


「それで、セーナンを守って何とする。ステーシア皇女よ、おぬしは国家に弓を引くことの意味を理解した上での行動であろうの?」

「……はい。十分、理解しているつもりです。そしてナナ様のお力添えが無ければ、今年のうちにわたくしもセーナンも破滅することも、理解しております」


 普通に考えればたった一つの都市で国家に反逆とかありえないし、何より皇国の王はシアの父親だ。場合によっては親をも討たなければいけない覚悟が、シアにはあるのだろうか。

 私がシアと同じ立場になったなら、そんな覚悟ができるだろうか。なんて事を考えながら、席を立ち、床に片膝を付いて頭を下げるシアとレーネを黙って見守る。


「……わたしくステーシア・フォルカヌスは、四大貴族排除と国家の是正が成された暁には、魔王様とプディング魔王国の恩義に報いるため、その属国として全てを明け渡す覚悟があります」

「国そのものを、わしに売り渡す気かのう?」

「四大貴族の専横を許す現在より魔王様の庇護下にある方が、民が幸せに生きられると確信しております」


 随分とまあ買い被り過ぎじゃないかな。でもこれセーナン防衛どころかその先の話だよね。

 それに介入すること自体はアルトと話して確定させてたけど、属国まではちょっとな。プディング国もまだ正式に興したとはいえない状況だし、正直いらない気がする。せいぜい同盟辺りで良いと思うんだよな、隣の大陸だし。


 なんて思っていたら、口をスライムで塞がれたまま、クッキーと紅茶と両手に持ち悲しそうな眼差しを私に向けるアネモイに気付いた。

 慌てて目を背けたが遅かった。腹の底から笑いがこみ上げてきた。

 このポンコツ、黙っていても真面目な話をぶち壊しやがる。瞳にはうっすら涙が浮かんでるし、全くもう。


「く、くくく……。すまんのうシア、レーネ。座ってくれんかの。それとアネモイ、謝るからその顔をやめてくれんかのう、すまんかったのじゃ、かっかっか」


 アネモイの悲しげな顔に笑いをこらえきれなくなってしまった。仕方がないので口からスライムを離してやると、今度はクッキーを一口かじって、緑色の瞳からだばーっと涙を流し始めた、今度は何なんだポンコツ。

 泣きながら目の前のクッキーを次々と口に放り込むアネモイを見て、シアとレーネはぽかんとした顔をしているが、他の面子はもう慣れたのか気にせず普通に紅茶とクッキーを楽しんでいる。


「くすん。ねえナナ、このクッキー? 甘いってこういう事なのね。くすん。天にも昇る気持ちって、こういう事を言うのね」

「それはのう、アネモイ。ドラゴンにとっては毒じゃから、本当に天に召されないよう程々にするんじゃぞ」


 鼻をすすりながら使用人に追加のクッキーを頼もうとして固まったアネモイだったが、今度は正直に嘘だとばらしてやると、ひどいわと泣きながら、追加のクッキーを貰って貪り食い始めた。

 甘いものを食べ過ぎると太ると言ったら疑いの眼差しを向けてきたが、今度は本当だと言うと、また悲しそうな顔で、クッキーをじっと見つめていた。

 というか体型は自分で変えられるんだから関係ないだろうと思うが、それは言わないでおく。


「ふふふ。さてシアよ、悪いが兵は貸してやれん。そもそもプディングの兵士は多くないのじゃ、人口もセーナンの十分の一ほどじゃろう」

「現在のプディング魔王国の人口は二万千百九十六人、うち軍人として雇用している兵士は八百六十人ですね」

「補足ありがとうなのじゃ、アルト。それにこう言っては何じゃが、国民と関係のない他国の問題を解決する為に、我が国の兵士を危険に晒すわけにはいかぬ」


 シアもレーネも悔しそうな顔をしているが、先に結論から言ってやるべきだったかな。アネモイもレーネの顔を見て悲しそうな顔をしているけど、多分つられているだけで正しく理解はしていないと思う。


「じゃからわしが個人的に手を貸すのじゃ。レーネはこのアネモイの子孫じゃからのう、放っておくわけにもゆくまい」

「ナナ! ありがとう!!」

「ぬぐっ……じゃからアネモイはもう少し加減を覚えぬか!」


 駆け寄って抱きついてきたアネモイから逃げ損ねた、ちくしょう。身体能力だけは本当に高いな。ヴァルキリーのままで良かった、ノーマル義体だったら折れてるぞ。

 そして引き剥がすため耳の上にある二本の角を両手で掴んだら、涙目でやけにあっさりと離れてくれた。弱点かもしれないから覚えておこう。


「ふう。まずはシアじゃな、はっきり言って属国など面倒なだけじゃ。代わりに余っておる文官を派遣してくれんかの? それと今後は正式に同盟国として、国交や貿易について対等な関係を結びたいのじゃ。詳しくはアルトと話してくれんかの」

「は……はい! ありがとうございます、ナナ様!」


 やっぱりシアは明るい表情の方が可愛いな。でも多分最初から私の助力を見込んでセーナンに行ったんだろうな、食えない娘だ。それでも来た当初に比べたら、随分と表情に生気が戻ってきている。良いことだと思っておこうか。


「それとレーネ。おぬしはこれから集中訓練じゃ。正直今のおぬしは弱い。一ヶ月でペトラと並んでもらうぞ、そのつもりでおれ」

「はっ! 望むところです!!」


 シアとレーネも含めて昼食を一緒に取ると、アネモイは大はしゃぎだった。レーネは祖先であるレイナのことを、レーネは初代から続く竜の力のことを、シアは皇国に伝わる古竜の噂について、それぞれ話して聞かせていた。

 なお風竜山脈に住む言葉を話すドラゴンが人を襲っていることについての話になった際、アネモイは涙目で私ではないと否定していた。それ金ボッチ助けた時に倒した奴かもしれない。聞いた大きさからすると間違いないだろうから、倒したことを伝えて昼食後に見せることにした。



 魔王邸の庭にドラゴンを出すと、アネモイ曰く暴れん坊な上級竜の一匹で、まだ五百年も生きていないんじゃないかということだった。

 私が一人で倒したことを知ったレーネは呆然としたまま動かなくなるし、シアは見た瞬間に気を失いそうになるし、ダグは悔しそうな顔をしているし、アネモイはなぜかドヤ顔だ。アネモイ?


「のうアネモイ。どうしてそんな得意げな顔をしておるのじゃ?」

「それはね、ナナ。私の友達はこんなに強いんだ、というのをレーネに自慢したい気分だからよ」


 いつの間にか友達認定してやがるし、いつものやり取りを逆に返しやがった。

 全く、このポンコツめ。

 しかし友達、か。エリー達は無事に調査を進めているだろうか。ザイゼンの位置は、まだ小都市国家群だな。特に報せがないということは、きっと無事なのだろう。

 仕方ないなあ、エリー達が戻ったらアネモイに紹介してやるか。ふふふ。


 上級ドラゴンは出したついでに吸収しておきたかったが、流石にアネモイの見ている前でやるのはどうかと思うので空間庫に戻しておこう。


 あとは今後の予定だが、一番手っ取り早いのは皇都に直接少数で乗り込んで四大貴族をふん縛ることなのだが、それでは誰が見てもステーシアではなくプディング魔王国の手柄というか、侵略に見えてしまうだろう。

 だからジル達元皇国組の三人と、それ以上にレーネには活躍してもらわないといけない。

 正直なところ、一万五千人の兵士相手ならジル達三人で十分なはずだ。それに鍛えたレーネが加われば、戦力としては問題ない。


 レーネには厳しい訓練になるだろうが、覚悟してもらおうかな。


 まずは全身のサイズ測定から始めようっと。

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