3章 第66話N 夜這いされたのは久々なのじゃ
風呂場で女性だけの話をした後はしっかりと水分補給をしながら、各自にスライムを作ることを今度こそ約束させられた。
リオ・セレス・ジュリア・アネモイの四人分だ。
この件に関してはアネモイの功績として、リオとセレスが本気でアネモイに感謝して抱きついていた。アネモイもまんざらでは無さそうで、仲良くできそうだとちょっと安心する。そしてジュリアは運が良かったと、蜘蛛の足をわさわさ動かして小躍りしていた。
その場で適当な魔石を見繕い、身体洗浄・衣類洗浄・弾性変化・冷暖房機能に加え、手乗りから大き目のクッションサイズまで変化させられるように空間魔術も付与させた。
全員一致で水色を希望したが、私の色と同じでは紛らわしいため却下したら、色が近いということで第二希望の青色になった。
本来スライムはゴーレムと違い生命体という側面もあるため起動まで数日かかるのだが、それぞれの核となる魔石に私のスライム体から適量を分離させて与えることにより、数時間で起動することがわかっている。
ということで夕食後に引き渡す約束をして、食堂へと向かうことにする。
「ねえナナ、お腹からじゃぼじゃぼと音がするの」
「それはのう、アネモイ。冷えた果実水が美味しいからといって、十杯も飲むからじゃろうのう。魔法で何とかせい」
知識だけはキューによって得られても、実際に経験しないとわからないこともあるよね。突き放したら悲しげな顔をして、お腹を押さえてうんうん唸ってた。
夕食の時間となったが、またも皇国組が不在だった。
地の下級竜の骨で出汁をとったスープに至福の表情を浮かべるアネモイは置いといて、アルトにでも聞いてみよう。
「ジル君達は皇国のセーナンで起こった反乱の後始末で忙しいようですね」
「そうか、それは大変じゃのう。……はい?」
反乱ってちょっと待て何があった。
「光天教が『セーナンを救った神の御使いは光天教の神だ』と言い出したのが事の発端ですね。まず神の御使い、つまりナナさんの瞳が赤色だったから光人族ではないと証言した少女が襲われました。僕の部下が張り付いていたため事無きを得ましたので、ご安心下さい。それでその犯人が光天教の司祭だったことと、シーウェルトが光天教のシンボルを持っていたことが住民達の間に広がり、光天教神殿が焼き払われました。それで光天教と繋がりのある領主の私兵が住民に剣を向けたため、大規模な反乱に発展したようです」
それを知ったステーシアがセーナンに行きたいと言いだしたため、ジル達に同行をお願いして全部任せたのだそうだ。その結果セーナンの貴族の一部と兵士・住民の大半がステーシア側に付き、セーナンは現在ステーシアが治めているという。意味がわかりません。
「放っておいたら多くの兵士が領主の命令に従って住民を虐殺したかもしれませんし、そうなるとせっかくナナさんが助けた命が無駄になってしまいます。それは少々癪に障りますので、ジル君に頼んで介入させて頂きました」
「そのような理由での介入なら、わしが文句を言える立場ではないのう」
というかそもそも、真っ先にやらかしたのは私だ。
「ナナさんにはもう少し戦況が落ち着いてから相談しようと思っていたのですが、このままステーシア皇女の支援を続けてはどうでしょうか。その交換条件としてステーシア皇女が皇国を掌握した後、文官の派遣を要請しようと考えています」
「事務仕事を出来る者が足りんのか?」
「文字の読み書きは問題無いのですが、数字が関わる部分では全く足りていません。住民管理用スライムのこーじが計算もできるため補佐してくれていますが、農業・畜産の試験場や民間にも計算ができる人材が必要です」
アルトによると皇国は貴族余りの状況で、四大貴族とそれに深い繋がりのある者達を排除したとしても、教養はあるのに仕事にはありつけない貴族が多数存在しているらしい。
それらをプディング王国に派遣または移住させ、文官や教師として雇い入れたいという。
「それと詳細は控えますが、皇国にはナナさんが喜びそうな食や芸能の文化が存在します。しかしこのままでは衰退もしくは失われる可能性が高いかと」
「存分にやるのじゃ、必要ならわしも出よう!」
以前ジルから聞いた、箸を使う食事と麺。そして豆食が盛んという事実。なんだろうなー、蕎麦かなーラーメンかなー。それに大豆も見つかるかなー。それらが失われる可能性は断固として見過ごせない。
他国のへの軍事的政治的介入? もう完全に手遅れだよねーあははーん。
それにそもそも私もプディング魔王国が正式に興った後、ティニオン王国と外交して文官の派遣などを頼もうと思っていたのだ。だけど文官不足に関しては私が思っていたよりも深刻な状態だったようで、気付かずにいたことは申し訳なく思う。
「そうじゃ、引き取った難民はどうしておる」
「以前森人族を迎え入れた時に使った、簡易住宅を案内しました。森人族も今はそれぞれ住居を構えていますので、ちょうど空いていて良かったです」
「あとで代表者の元へ案内して欲しいのじゃ。渡したいものがあるでのう」
オークの手にかかり亡くなった、代表者の息子の遺体が空間庫にある。エンバーミングだっけか、綺麗に修復してから渡してやろう。置いていくと言った代表者の顔、悔しそうだったからな。きっとちゃんと弔ってやりたいに違いない。
「ねえナナ、お腹からじゃぼじゃぼと音がするの」
「それはのう、アネモイ。おぬしがスープを五杯もおかわりするからじゃ。果実水でもやったじゃろうが、魔法で何とかせい」
アネモイの学習能力は高いと思っていたのだが、飲み食いに関してはポンコツになるらしい。欲望を抑える理性的なものが足りないのだろうか。
というかこのポンコツ、真面目な話の流れと考えをぶった切りやがって。
罰として明日レーネハイトに会わせるついでにセーナンに行って、社会見学の名目でこき使ってやろう。
夕食を終え魔王邸に寝室を持っていないジュリアとニースが帰るというので、その場で待たせて一人自室へと向かう。青スライムは四体とも起動しているな、一度空間庫にしまって食堂に戻ろう。
「ほれジュリア、おぬしの分の青スライムじゃ。可愛がるんじゃぞ」
「わあ! 冷たくてぷよぷよして気持ちいい!! ありがとうナナ様、ビーちゃんもきっと喜ぶよ!」
空間庫から取り出した青スライムを、そのままジュリアに渡す。嬉しそうで何よりだ。
期待に輝く目を私に向けるリオとセレスとアネモイにも、空間庫から出した青スライムを手渡す。四人とも嬉しそうに抱きしめたり頬ずりしたりする姿を見ていると、私まで嬉しくなるな。
ジュリアとニースを見送り、皆で軽くお酒を嗜んでいるところでふと気付いた。
「そういえばアネモイはいつまでこっちにおるつもりじゃ」
「飽きるまでよ」
完全に失念していたので使用人にアネモイの部屋を用意してもらおうと思ったが、既に用意してあるそうだ。朝連れて来た時点で用意を始めていたとか、魔王邸の使用人が優秀で嬉しい。
だがこれでこき使う名目もできた。ただ飯食らいは許さないのだよ、くすくす。
夜もふけて解散となり自室に戻ると、使用人に案内されて部屋に行ったはずのアネモイが訪ねてきた。部屋が殺風景で寂しいと言うが、流石に巣穴にあったような金銀財宝は用意できない。
ゲートゴーレムの使い方を教えてやり、好きなときに置ける量だけ持ってきて飾れば良いと言うと、首を横に振ってベッド横に置いてあるくまのぬいぐるみをじっと見つめた。私のノーマル義体と同じくらいのサイズで、よく私が抱きついて寝ている奴だ。
「ねえナナ「嫌じゃ」」
「まだ何も言ってないじゃない! ……ねえナナ「嫌じゃ」」
するとアネモイは涙目でくまのぬいぐるみに駆け寄り抱きつこうとして、『ボスッ!』『ゴン!』見事なカウンターを食らってひっくり返り、床に後頭部を強打していた。
うちのぬいぐるみ、全部ゴーレムなんだよなぁ。
めげずに起き上がり今度こそ抱きついたけど、くまの左右の拳が連続でアネモイの顔やボディに叩き込まれてる。柔らかいぬいぐるみだし肉体的ダメージは無いけど、精神的なダメージは少なくないはずだ。私だったらここまでぬいぐるみに拒絶されたら、心が折れるかもしれない。
「はあ……仕方が無いのう。じゃがその子はわしのお気に入りじゃからのう、一晩貸すだけじゃぞ?」
「ほんと!? ありがとうナナ!!」
可愛いもの好きな仲間でもあるし、今度一緒にぬいぐるみ作りとかしてもいいかもしれない。
なんて思ってたら、突然天井が正面に見えた。え、何これ。アネモイに、押し倒された?
「って、何をしとるか!」
「リオとセレスは感謝の気持ちを、抱きついて表してくれたわ。だから私も、ナナに感謝の気持ちを伝えようと思ったの」
「だからといって、ベッドに押し倒す奴があるかあ!」
くそうこの残念ドラゴンめ、本気で動かれると対応が間に合わない。身体能力だけはドラゴンだけあって、異常に高いんだよな。頭上にいたスライムが床に落ちて転がってったじゃないか。てゆーか完全に押さえ込まれてる? あれ? アネモイの顔が近いよ?
「アネモイ? そ、そろそろ離してくれんかのう?」
アネモイの息が荒くなってきた。それに顔が徐々に赤く……。
『ぺろっ』
「ひっ!?」
首を舐められた!? そのままアネモイの顔が、私の顔に近付いて、それは駄目っ! 緊急回避!!
『ガシャッ!』
間一髪。ノーマル義体を空間庫へ入れて、ヴァルキリーに換装しアネモイの後ろでハチを構える。同時に転がってたスライムの容積を増やして地竜のブレス器官を作り、筒先をアネモイに向ける。
「のう、アネモイ。この魔道具はハチという名前なのじゃ。威力は前回見せられなかったからのう、今確かめてみるか? ん?」
「ひいっ!? ご、ごめんなさいナナ、ナナがあまりにも可愛くて、我慢できなくて、つい……」
初めて会ったときのことを思い出したのか、アネモイは真っ青な顔でぷるぷるがたがたと震えている。
「可愛いといわれるのは嬉しいのじゃがのう、そういう行為はお互いの同意の上でするものじゃ! 全く、アネモイは欲望を抑える『理性』という物を、もう少し学んで欲しいのう」
「はい……」
返事を聞いてハチとスライムを元に戻し、罰としてやっぱりくまちゃんを貸すのを却下する。涙目のアネモイに欲しければ自分で作れ、作り方は今度教えてやると突き放すと、それはそれで嬉しかったのかまた約束させられてしまった。
「今夜は青スライムだけで我慢するのじゃな。それと部屋の扉に小さな猫用の扉がついておるはずじゃ、猫に好かれておれば夜中に遊びに来るかもしれんぞ」
「猫ちゃん! わかったわナナ、私猫に好かれるよう頑張るわ!!」
頑張る方向、間違ってませんかね。上機嫌で部屋を出て行ったアネモイを見送ると、どっと疲れがのしかかってきた。肉体的ではなく、精神的なものだ。
それにしても今日はアネモイやジュリアのおかげで相当面白い一日だった。
最後に襲われかけたのも、初犯で未遂なので見逃してやろう、アネモイだし。だが次は許さん。
下着姿になってベッドにくまちゃんを移動させ、ぱんたろーも呼び出してその間に体をねじ込んでふわふわもふもふに挟まれて、しばし癒しの時間を堪能する。
さて、ふわもふ成分を十分に充填できたし、明日は何をしよう。
ステーシアとレーネハイトに会いに行くか。念のため状況も確かめておきたいし、それにレーネハイトももう少し鍛えてやらないとなー。
エロドラゴンのアネモイを、レーネハイトに合わせてやりたいしなー。
それと青スライムの感想も聞いて、付加した能力の調整もしておこうかな……ん?
……エロドラゴン? ……青スライム?
何かが、頭の隅に引っかかる。
同時に何やら嫌な予感が止まらない。
何だろう?




