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英雄とスライム  作者: ソマリ
英雄編
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3章 第59話N いたずらは仕掛ける時が一番楽しいのじゃ

 フォルカヌス神皇国の南、ローマン帝国との間を隔てる風竜山脈と呼ばれる険しい山岳地帯。

 そこは南北に切り立った山壁が地平線の果まで立ち並び、その間にはいくつかの台地が存在しているのが、空高く飛ぶわっしーの更に高高度からの、感覚転移による俯瞰視点で把握できた。

 その台地には大きなもので三百メートルを超える巨大な石柱が立ち並び、その幻想的な光景にしばし見惚れてしまうほどだった。

 また風竜山脈は上空からよく見ると東西の山脈が別々のものであり、間に僅かな谷間が見て取れた。しかしそこも石柱と岩壁が立ち並び、深い森林と相まって天然の迷路と化している事も見て取れた。



「綺麗じゃのう! 大きいのう!」


 世界遺産にこんなところあったなー、気まぐれでも来て良かった。ヒルダとノーラの瞳にも、この幻想的な光景を焼き付けよう。

 それにしてもドラゴンが多いなここ。もっと近くで見たいのに、その叫びのせいで魔素が乱れている場所が多くて近付けない。


「ナナさん、これ以上空から近づくのは危険ですね。地上から進みましょう」

「そうじゃのう、わっしーよ適当な場所を見つけて降りて欲しいのじゃ」


 山脈の中にある台地の一つを見ながら、仕方が無いとため息をつく。

 目的地のおおよその見当はついたのだが、まだまだだいぶ距離がある。その辺りは特に魔素の乱れが周囲に多く見られたので、転移することもできない。というか自分一人なら無理やり転移できそうだが、仲間と一緒となるとちゃんと転移できる自信がない。

 それに魔素の乱れているところにわっしーで突っ込むと、下から見えないようにかけてある光学迷彩の魔術がかき消されて丸見えになるどころか、わっしーを支える空間障壁も消えてきっと墜落する。

 わっしーの重量が墜落したら、自分一人で支えるのは少々骨が折れる。小回りの効くぱんたろーや騎乗用ゴーレムで行くか。


 周辺の乱れた魔素を吸収しながら、わっしーにはゆっくりと高度を下げさせる。せめて地上に降りるまでの間だけでも、この光景を楽しむとしよう。




 ジル達皇国組の三人が正式に側近として働き始めたが、皇国の問題はまだまだ山積みであった。

 まずはジルや変装したミーシャとペトラがアルトの部下と協力して、『風の乙女』や『深緑の守護者』とか言う傭兵団の生き残りを見つけ、次々プディングへ亡命させることになった。

 そのあとも三人はレーネハイトたちの様子を見に行ったり皇国と行き来したりと、いろいろ忙しいようだ。

 それで皇国を案内してもらうジルの手が空くまで、古竜でも見に行こうという事になった。


 古竜は数千年生きていると言われる、恐らくこの世界で最強の生命体だろう。


 レーネハイトの生家である『グリニール家』で先祖より伝わる書物というか羊皮紙の束を、アルトの部下が皇国の旧グリニール邸より回収してきた事が事の発端である。

 そこにはおよそ五百年前、レーネハイトの祖先である女冒険者が風竜山脈で死に掛けていたところ、言葉を話すドラゴンに命を助けられ生還したという記録と、そのドラゴンは上位種どころか最上位種の『古竜』という存在かもしれないという記述があった。

 女冒険者は傷が癒えるまでの三ヶ月ほど、そのドラゴンの巣穴で寝食を共にしていたそうだ。

 なおこの女冒険者は生還から一年も経たないうちに、そのとき持ち帰った竜の鱗を狙う強盗の手にかかり、産まれたばかりの息子を残して亡くなっていた。

 しかしその子供が成長し英雄として名を馳せ、グリニール家の初代となったという。


 そんなわけで、ただの興味本位で古竜に突撃訪問をすることになりました。

 もしレーネハイトの祖先と関係があるなら、レーネハイトやステーシアの後ろ盾にならないかな、という打算もある。

 自分が首を突っ込むのは筋違いだが、古竜が関係者であれば何の問題もない。




 同行者はいつもの四人だが、ゆっくりと高度を下げるわっしーの中で、セレスが窓に張り付いて一点を見つめていた。女児でも見つけたのだろうか。


「ナナちゃん! 谷のところ、子供が魔物に追われているわ!!」


 え、本気か。言うが早いか、セレスの姿が掻き消えた。まさか本当に子供を見つけていたとは驚きだが、まずはセレスが跳んだ先を感覚転移で確認する。あ、もう終わってるわ。

 残った三人と一緒に一度わっしーの甲羅の上に転移し、わっしーを空間庫にしまってからセレスが転移した場所へと転移する。切り立った岩壁に挟まれまばらに木の生えた谷底のようなその場所には、号泣する二人の女児を抱きしめてだらしない顔をする変態と、五十人位の薄汚れた一団がいた。


「もう大丈夫よ~、怖かったわね~」


 この変態、おそらく女児しか目に入っていないな。女児の号泣する理由が、セレスに抱きしめられていることが理由でないことを祈る。

 周囲にはダグよりも背の高い、全身茶色の猪顔の人型魔物――オークかこれ。が十体ほど、胸に空いた穴からプスプスと煙を上げて倒れていた。

 とりあえず薄汚れた一団に話を聞こうと思ったが、それより早くセレスが慌てた様子で真面目な顔に戻った。


「ナナちゃん、この子達の親が逃げ遅れて、まだ向こうに!」

「セレス、アルト、ここは任せたのじゃ! ダグ! リオ!」

「おう!」「うん!」


 二人の返事と同時にセレスが指した方向へ向け一気に加速する。岩壁沿いに大きく曲がった道を抜けると、オークの集団の囲いの中に、剣や槍を構えた十人ほどの男女の姿が見えた。

 周囲には人の死体に群がる数体のオークと、衣服だったらしきぼろ布をまとった女性を地面に押さえつけ、今にも事に及びそうなオーク達もいた。


 そのまま二人は一陣の風のように、オークの集団へと突っ込んでいった。いや、風は訂正しよう。ボーリングの球のように、が正しいかもしれない。二人が通った跡はオーク達がなぎ倒され、一度の突撃で二十体以上は葬ったようだ。

 それを横目に自分は女性にのしかかる寸前のオークに詰め寄り、首を吹き飛ばさないよう加減した裏拳で弾き飛ばす。

 半裸の女性を囲んでいた全裸のオーク達の中心で、オークと同数の中型スライムを作り出し、ノーマル義体と同じくらいの大きさの人の形に整える。その人型スライムを一斉に動かし、それぞれの拳や蹴りの一撃でオーク達を始末する。スライム体の複数同時操作も相当慣れてきたな。


 だが今、心の底から後悔している。調子に乗りすぎた。


 返り血を浴びずに倒す手段を選んだつもりだったが、魔術で片付けるんだった。そしてヴァルキリーで来るんだった。

 ついさっきまでノーマル義体のちょうと顔の高さに、天を向くオーク達のモノが並んでいた。

 そしてスライムで作った人型の視覚もまた同じモノを真正面に捉えてしまい、一度に何本ものモノが視界に入ってしまったのだ。

 それが何なのかを理解する前に倒したおかげで事なきを得たが、義体の太ももよりも太い人間離れしたモノを思い出して背筋が寒くなった。


 ヒルダ、ノーラ。また汚いものを見せてしまって申し訳ない。


「姉御、終わったよー!」

「暴れ足りねえな」

「う、うむ……ご苦労様なのじゃ。では全部スライムで喰うでの、その辺の死体を全部スライムに放り込んで欲しいのじゃ」


 気を取り直して外に出したスライムを二十体まで増やし、体積も増やして次々とオークを吸収させる。その間に口直しではないが、襲われかけた女性のフォローだな。


「向こうに逃げた者達も、わしの仲間が保護しておる。もう大丈夫じゃ」


 三十代と思われる女性に治癒魔術を使いながら、外套を肩からかけてやる。その女性に泣きながら抱きつかれることで、むき出しの胸が自分の衣服越しに柔らかさを伝えてきたが、まずは安心させるのが先だ。空間庫にあるタオルで女性の汚れた部分をふき取りつつ、言い聞かせるように何度も大丈夫だと声をかけていると、間もなく女性の震えが治まってきた。

 そしてオークに囲まれていた人の中から剣を手にした男が駆け寄ってきて、女性は自分から離れてその男と抱き合って無事を確認しあった。恋人か夫婦だろうか。何にせよ無事でよかった。


 代表者らしき者が御礼の言葉を口にしようとするが、事情の説明は合流してからと先を急がせる。

 念の為周囲に危険がないか探っていた際、何やら相当離れた位置に不審な動きをする者を見つけたからだ。感覚転移で姿を確認すると、その不審者は目立たないような衣服に身を包み、足跡を確認しながら近付いてきていることから斥候のような者だと思う。

 オークに食われた仲間の遺体を持って行けると提案したが、代表者は遺品の回収だけで良いと言う。どうも代表者の息子らしく悔しそうな表情も見て取れたので、代表者が遺体から離れたあとこっそりと空間庫に入れておく。



 アルト達と合流すると、セレスが抱きしめていた女児達が泣きながら駆け寄ってきて、襲われそうだった女の人へと抱きついた。一緒にいた男も子供を撫でていることから、家族なのだろう。

 うん。本当に、間に合ってよかった。


「今回はセレスのお手柄じゃの、よくぞ見つけたのじゃ」

「うふふふ~、本当に良かったわ~」


 何かツヤツヤキラキラで喜ぶセレスを見ていると、子供たちから生気の類でも吸収したんじゃないかと疑いたくなるな。


「ナナさん、こちらの方々は帝国からの難民だそうです。風竜山脈南側の集落に住んでいたそうですが、帝国兵に集落を焼かれて逃げてきたとの事です。彼らはこの迷路のような谷を抜ける正しい道を知っていて、皇国側に向かっている最中にハイオークの群れに襲われたそうです」

「この猪はハイオークというのか。相変わらずアルトは物知りじゃのう」


 セレスが倒したオーク達もスライム体で吸収していると、アルトが不思議そうな顔でこっちを見ていた。若干呆れたような感じにも見えるが何だろう。


「ナナさん、鑑定魔術は使ってないのですか?」


 あー。そう言えばそんな魔術開発したっけなー、あははー。鑑定!


『種別:人型魔物 名称:ハイ・オーク 概要:オーク種の上位種族で、猪のような牙と茶色い体毛が特徴。多くの人型魔物と同様、雄の個体は繁殖のため他種族を襲う。内蔵の一部を除き可食』


「おお、便利じゃのう。忘れておったわ、かっかっか」


 下級鑑定術でこれくらいわかるんだなー。自分で作っておいて何だが、完成してアルトに任せてから初めて使ったよ。ところで多くの人型魔物と同様ってどういう事だろう。

―――人型魔物:ゴブリン種・オーク種・オーガ種・巨人種を代表する、人と似た体型を持つ魔物の総称。雌の個体は繁殖可能になる以前より雄の個体の性欲の捌け口として扱われるため、成体になるまで生き残ることは極稀である。成体まで生き残った雌は女王級に進化する場合があり、魔物の大氾濫を引き起こす要因となる。


 キューちゃん……鑑定魔術に対抗したのかな、聞いてないのに聞きたくない情報までありがとう。てゆーか自分を凹ませるためにわざとだろうか。


 とりあえず難民だ。彼らは抜け道を知っているのか、それであの斥候ねえ。何となく彼らの集落が襲われた理由が想像できた。


「どうもこやつらの集落を襲った者達の仲間が、足跡を追跡しておるようじゃ。恐らく皇国側へ抜ける道を調べるためじゃろうの。アルト、セレス。このまま難民たちを頼めるかのう」

「はい、お任せ下さいナナさん」


 即座にゲートゴーレムを出すアルト。難民なら別にこっちで引き取っても問題ないよね。

 そして難民たちに説明を始めるアルトの横で、追手の処理について何かいい手はないかと考えながら、上空から感覚転移でこの迷路を眺める。

 するとこの先の分かれ道の先が、どちらも皇国に抜けられることがわかった。ただし左はまだまだ迷路が続く作りだが、右はほぼ一本道だ。その代わり皇国側に抜けてすぐに小川があり、それと超えると下級ドラゴンの住処がいくつもあるのが見えた。いい具合に使えそうだなー、にやり。


 ゲートを潜るアルト・セレスと難民たちを見送ると、ヴァルキリーに換装して六十体ほどの人型スライムを作り出し、それらと一緒に谷の先へと行進する。


「姉御、このスライムはさっきの難民たちの代わり?」

「そうじゃ、この先の分かれ道で迷わせてやろうと思ってのう」

「そんなんぶっ飛ばしゃいいじゃねえか」

「そこまでしてやる義理はないのじゃ。じゃがちょっとムカつくでの、いたずらを仕掛けておくぐらいで許してやるのじゃ」


 しっかりとスライムで複数の足跡を作りながら分かれ道まで来ると、土の魔素操作と岩ゴーレム作成を駆使して正解ルートを完全に埋め立てる。そのままスライムたちは小川まで走らせ、小川にたどり着いたら回収することにする。

 何者かは知らないが、皇国に抜けられると思ったらドラゴンの巣だ。相当慌てるだろうね。


「さて、行こうかの」


 ぱんたろーにまたがり、魔狼ゴーレムに騎乗したダグとリオを伴って岩壁を超える。

 目指すは古竜の住処である。


 イタズラの結果が見られないのは残念だが、うまく引っかかってくれることを祈ろう。

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