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英雄とスライム  作者: ソマリ
英雄編
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3章 第53話N やり過ぎないか心配じゃ

 リオの悪ふざけのおかげで、試作軍用ゴーレムのテストは全て完了した。ただ、カメタンクの主砲まで撃ってくるとは思わなかった。まああれは地上でテストする機会が無かったからちょうど良いと思っておこう。何にせよ味方に被害が及ぶとゴーレムが判断したら撃てないようにしてあったし、概ね問題なしということで量産体制に入る。


 試作機と同スペックの指揮官機は五組、その下に十組ずつの量産機を組み込んだ編成とする。

 量産機の素材は全て再構築でまかなうと全く足りないため、スライムの能力で複製した素材を使用する。見た目で粗悪品とわかる代物ではあるが、元の素材の七割近い強度はあるし、外側に毛皮などを張って隠すから特に問題も無い。

 ただし暴発の危険があるため砲身・銃身は魔鋼製で統一する。


 これらを一晩に三~四組ずつ作り、日中は軍用ゴーレム試験から戻ってから妙にやる気のダグが主導する訓練を見学したり、ニースに魔道具作成と生命魔術を教えたりモフったり、アルトらが広めた鑑定魔術やデータベーススライムの様子を聞いたりと忙しくはあったが、概ね平和な日々を送っていた。

 そういえばタカファイターの映像をカメタンクへ送っている術式について、アルトがびっくりするくらい食いついてきたこともあった。そもそも同じ技術を水晶球の通信魔道具で使っているではないかと言ったら、はっと何かに気付いたような顔をした後、以前異界の二大都市を繋いでいた水晶球型通信魔道具を持って部屋に篭ってしまった。


 あとは皆でアトリオンに遊びに行って、屋台のおっちゃんたちと真昼間から宴会を開いたり、とうとう念願の『ヒデオ』と名付けられたリバーシを入手して遊んだり、ジース王国に遊びに行ったりと、週に一日は丸々休んで遊びに費やすことにしていた。

 それにしても一週間が六日というのは、こっちの世界に来て二十年近く経つというのに未だに慣れない。


 そしてジース王国では、王都ハンサスよりも南端のグアラスという港町が面白かった。

 どうやらこの辺りは赤道が近いのか無茶苦茶暑く、痛みやすい食材を長持ちさせるため大量の香辛料を使った料理が多いという。

 屋台もいくつか回ったが、正直辛いだけでそれほど味は良くなかったが、香辛料は配合次第でカレーが作れるかもしれないので当然大量に買い込む。

 それとこの辺りでは麦酒が主に作られているというので、当然大量に買い込む。麦酒、つまりビールだ! キンキンに冷やして風呂上りに飲むぞー!


 なお、いくら温度調節機能がついているとはいえ、コートを着て歩く自分達一行は、変人でも見るかのような目で見られてしまって少し恥ずかしかった。しかし目立つおかげで商人達がどんどん売り込みに来るので買い物は楽だった。


 サトウキビの苗や香辛料の種子等も大量に購入しようとしたが、既にブランシェで栽培中だという。アルトの配下が集めてきた作物って、これのことだったのか。仕方が無い、手間が省けたと思っておこう。

 そして当然砂糖も買えるだけ買ってきたし牛乳や鶏卵も流通が始まったので、お菓子作りがはかどったのは言うまでも無い。


「あれ? 姉御何飲んでるの? 泥水?」

「ジースの泥はいい味じゃのう、とか言ったら皆ドン引きするじゃろうが。これは『コーヒー』という飲み物で、ある果実の種子を焙煎して砕いて湯で濾した飲み物じゃ。ジースにあったでのう、ついでに買ってきたのじゃ」


 およそ二十年ぶりのコーヒー、いい香りだー。ブランシェでも栽培試験が始まっているからそのうち自前で調達できるだろうが、当分はジースで調達しなければ。

 そしてこのコーヒー、現地では眠気覚ましの薬湯扱いだった。実際のところ現地で飲んだコーヒーは、生臭いし苦すぎるし酸っぱすぎるしで、あまりにも不味すぎてコーヒーと呼びたくなかった。

 作ってるところを見たら焙煎しないで煮出していた。不味いのも頷ける。

 なおリオは試しに飲ませてみると、一気に飲もうとして一気に口から「だー」っと垂れ流した。苦いー酸っぱいーと涙目のリオが可愛かったが、飲食物を粗末にするなと叱るべきか、飲む前に注意しなかった自分を責めるべきか悩むところではある。



 九月になるとブランシェの大通りにもちらほらと店が並び始め、ようやく街として機能し始めたようで嬉しくなる。

 しかしここでまたもや毒物問題が発生した。毒のある魚を解毒魔術の使用を前提に、死に掛けながら食った馬鹿が出たという。


 ほっといても良いんじゃないかな。


 だがどうも死に掛けてでも食った魚は『ふぐ』に似たものらしい。気持ちはわからなくも無い。


「あれは正しく捌けば、毒の無い部分だけを美味しく食べる方法もあったと記憶しているんじゃがのう」

「流石に捌いたものに毒が回っているかどうかは、鑑定魔術でも確認できませんからね。殺菌ブルーライト魔道具も使っていますので、毒なのは間違いないです」

「とうとう殺菌ブルーライト魔道具が、想定通りの使い方をされるくらい行き渡ったのか、長かったのう」


 正直存在を忘れかけていた。調理場を綺麗にするため作ったはずが、気がつけば出産時の感染症予防と街灯に使われ、品不足で調理場まで行き渡っていなかったはずだ。


「いえ、ブランシェにはまだまだ街灯が必要になりますから、調理場に回っているのは破損した中古品です」

「……一般に行き渡るのは当分先のようじゃのう……さて、と。キューちゃん、魔力視で毒の判別はできるかのう?」

―――可


「できるそうじゃ。それなら魔力視を一瞬でも発動する魔術が出来れば、鑑定魔術と合わせる事で解析ができそうじゃの。これなら万が一料理に毒が混入しても確認できそうなのじゃ」

「ナナさん、僕に何か手伝えることはありますか?」

「じゃったらふぐを食って死に掛けた阿呆に、食い意地で死ぬような恥ずかしい真似はするなと伝えてくれんかのう。それと、捌いた後でも毒が残っているかどうか判別する魔術も作っておるでの、調理の腕を磨いて楽しみに待っておれ、とも伝えて欲しいのじゃ」


 スライムを使えばふぐも安全に捌くことが出来るが、それでは自分と近しい人しか楽しめない。どうせならもっと多くの人と楽しむためにも、毒食の人には別の方向で頑張ってもらいたい。



 そしてそろそろ十月という頃には解析魔術も完成し、鑑定魔術と組み合わせた『上位鑑定魔術』もアルトによって一般に広められた。

 これで毒による被害は落ち着くだろう。頑張れ毒食の人。

 また軍用ゴーレムの量産も完了し、余分に作った三組を除いてダグに全て預けてあるし、ブランシェで自分がやらなければいけない仕事は粗方終えた。

 ちなみに自分の手元に残した三組以外は全て防衛用であり、国土と定めた地域から外に出られないようにしてある。


 そして流石にジル達の落ち着きが無くなって来た。

 ジル達の訓練も順調に仕上がったことだし、いい加減皇国とレーネハイトに動きがあっても良いのではないだろうか。

 そう思っていた時にアルトから報告があると言う。ようやく動いたかと思ったが、プロセニアの話だった。


「アプロニアにてガッソー司教の孤児院を発見しました。正確に言うならば、その跡地ですが……」

「跡地じゃと? どういう事じゃ?」

「四年前に奴隷の赤子を匿ったという罪で管理者が処刑され、孤児の多くは奴隷として売り飛ばされたそうです」


 赤ん坊を匿うのが罪だというのか、あの国は。


「この事、ガッソーは……」

「光天教本部の司祭による、隠蔽と着服が確認されています。ガッソー司教が送った物資が売り払われたことから、斥候が突き止めました。ガッソー司教は何も知らないまま、お金や物資を送り続けていたようですね」

「……かの国の奴隷について、調べられるだけ調べて貰えんかのう。何の非もなく奴隷にされておる者が、どこにどれだけおるのか……頼んだのじゃ」

「お任せ下さい」


 もしプロセニアに喧嘩を売るにしても、落とし所は考えておかなければいけない。子供だけ救えれば良いのか。奴隷全て救うか。いずれにせよ、アルトの配下からの情報を待とう。

 アルトの顔から完全に表情が消えているが、これはアルトも激怒しているに違いない。情報が集まったらどうやってプロセニアに痛い目を見せるか話し合うとして、それまではプロセニアを意識しないように気をつけよう。下手なことを考えて口に出したりしたら、危ない意味で子供好きなセレス辺りが本気で滅ぼしに行きかねない。




 十月に入るとティニオン硬貨と金・銀・銅の比率を同じにしたプディング硬貨も一般に広まり始め、国旗と合わせて国のシンボルが周知され始めたと知らされた。

 翼を広げたスライムがモチーフとなったシンボルマークに合わせて、一度スライムに羽根を生やして空を飛んでみようかな。

 それにしても翼のあるスライムって、ちょっと可愛いかもしれない。


「あれ! 姉御のスライム、翼が生えてる!!」


 やっちゃった。てへ。流石に空は飛べないが、滑空と空間障壁による足場作成で飛んでるように見せることは出来る。


「かっかっか。可愛いじゃろー、ふふふん。しかもフレスベルグの羽根じゃからの、実用性もあるのじゃ」


 羽根つきミニスライムを頭上でぱたぱたぴょんぴょんと動かして存在をアピールする。我ながらこの動きはあざといな、可愛すぎるだろ。


「とても可愛いですね、似合っています。今度絵のモデルをお願いしたいのですが、先にナナさんに急ぎの報告があります。皇国が動きました」

「おお! やっと動いたのじゃな、ずいぶんと遅かったのう!」


 ジル達三人の目つきが変わった。待ちに待った報告なのだ、当然だろう。


「実はお恥ずかしい話なのですが、まんまと嵌められました。ステーシア皇女はふた月程前に皇国首都シェンナから秘密裏に連れ出され、現在はローマン帝国との国境にある都市セーナンの北にある、コンゾと言う都市を出たところのようです。それと斥候はレーネハイトの協力者と接触し行動を共にしていたのですが、どうやら四大貴族との内通者だと疑われていたようでして……申し訳ありません」

「構わんのじゃ。アルトもご苦労様なのじゃ。ところでレーネハイトは皇女を救い出したあと、どうするつもりなんじゃろうの?」

「南の風竜山脈に隠れ家がありますのよぉ。多分そちらに皇女様を連れて行くつもりだと思いますけどぉ……ところでナナ様、ご相談があるのですがよろしいですかぁ? レーネとステーシア皇女を、ブランシェ魔王国へ亡命させて頂くことは可能でしょうか?」


 まだ国として正式に名乗りを上げていないことだし、亡命に関しては何の問題も無い。しかし別の問題があるな。


「構わぬが、一度アトリオンの屋敷を経由したほうが良いじゃろ。説明もろくにせず魔人族・光人族や亜人種だらけのここに連れてきては混乱するじゃろうからのう」

「お心遣い、感謝いたしますわぁ。……ナナ様。我ら三名、ナナ様のおかげで今こうして生きております。そして友人を救う機会まで下さり、何とお礼を申し上げてよいか、感謝の言葉もございません。それなのにわがままを告げることになり心苦しいのですが、一時ナナ様の元を離れることをお許し下さいませ。必ず戻り――」

「なーがーいーのーじゃー。堅苦しいのは嫌いじゃ」


 ほっとくといつまで口上が続くかわからない。ひざまずいている三人を立たせ、目の前に白いゲートゴーレムを一体出し、ぱんたろーも呼び出して隣に並べる。

 ほんとは一緒に行こうかなーと思っていたけど自分達だけでやりたそうなので、今回は支援だけで我慢しておこう。


「アトリオンの別荘とゲートゴーレムの使用を許可するのじゃ。それと特別にぱんたろーを貸してやるからのう、ジルとペトラで乗るがよい。必ず返すのじゃぞ?」

「う、うにゃ? にゃにゃ様、その、あたしには……」

「走れ」


 目に涙を溜めて膝から崩れ落ち、口をあわあわさせる涙目のミーシャが少し可哀相であり、可愛くもあり。ミーシャはいじると良い反応を返してくるから、ついつい意地悪しちゃう。

 だがあまりいじめるのも可哀相なので、その場で騎乗用魔狼ゴーレムを二体作って渡してやる。


「ゲートゴーレムの存在が広まるといろいろ面倒じゃからのう、運用には注意するんじゃぞ」

「うん! ナナ様ありがとう!! じゃあボクたち、レーネを助けて戻ってくるね!」

「ナナ様ぁ、レーネにこの身体を自慢して来ますわねぇ」

「にゃにゃ様、戻ったらその、あたしにもにゃにゃ様をブラッシングさせて欲しいにゃ……」


 若干一名が死亡フラグっぽいけど、ミーシャなら大丈夫だろ。しぶといし。


「ふふふ、良いじゃろう。それとアトリオンにはマリエルやヨーゼフ達が残っておるでのう、安心して連れて帰るがよい」

「ありがとうございます、ナナ様。すぐに戻ってまいりますわぁ。では行ってまいりますねぇ」

「うむ。よい報せを待っておるのじゃ!」


 といってもこの三人は元々強かったし、しかも散々鍛えまくったし装備もアレだし生命への心配はしていない。


 心配があるとすれば、きっとペトラとミーシャがやり過ぎるだろうな、という点くらいか。


 こっそりとタカファイター飛ばして見学していようかな。

お読み頂きありがとうございます。


これより平日の更新を取りやめ、基本は土日のみの更新となります。

今後ともよろしくお願いいたします。

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