3章 第50話N ここはスライム推しで行くのじゃ
食後にそのまま食堂で、紅茶を飲みながらアルトの話を聞く。いつもなら酒を飲んでいるところだが、簡単な打ち合わせレベルとは言え仕事中に酒はいけないと思います。
更にこの場にはリューン・イライザとアラクネのジュリアも同席し、自分も含めて総勢十二人での食事だった。
皇国組の三人はリューン達と初対面であり、ジル達はアラクネに驚き、リューン達はジルが元男性という点に驚いた以外、特に問題はなかった。
ただ一つ、ジルの性転換についてはアルトの「ナナさんがしたことですから」の一言で、リューン達から驚きが消え突っ込みの一つも無く納得したのはどういうことだろう。
「さてナナさん。プディング魔王国の現状と課題について報告しますね。概ね順調で、このペースで行けば年内にはある程度国家としての体裁も整うと思われます」
まず上下水道の現状として、ポンプ型魔道具の普及と下水道への接続、場所によっては大型ポンプによる給水塔と上水道の設置が順調に進んでいることを知らされた。建物の建築も順調で、既に大通り沿いの建物と集合住宅地に関してはほぼ完成しており、すぐにでも入居可能ということだった。
また税金の徴収に関しては、所得に対して税金をかけることは諦めることにしたとのこと。
その代わりに国土の全てを国家の所有物とし、家や畑が欲しい者には土地を貸し出す形にして契約を結び、月々のリース料金を税金として徴収することにしたそうだ。
集合住宅や集落については管理者が住人から徴収し、まとめて払って貰う形にするということと、農場や牧場に関しては当面は全て国営として給与を支払うとのことだ。
それとブランシェから西の海沿いに小さな集落が作られ、漁猟が始まりブランシェへ輸送されているとのこと。
他にも種族ごとの現状や衣類の普及、商人の育成や貨幣制度の普及などの報告がリューン・イライザ・ジュリアからも追加で報告され、最後に自分とセレスで集めてきた果樹や、斥候が集めてきた異界には無い様々な作物なども順調に育っているというところで、現状の報告が終わった。
概ね順調なようで一安心である。ただアルト配下の斥候が集めてきた物が何なのか気になる。
続いてアルトは問題点について話し始めた。アルトが問題にするくらいなのだから、きっと重大なことなのだろう。
まず軽いところから、と言って話し始めたアルトの提案は、国のシンボルとなる国旗を作りたいということだった。これはいくつか案があるそうなので、後で見せてもらうことにする。
硬貨の製造も国のシンボルを決めてから作り始めるそうで、今はティニオン硬貨を使用しているという。
そして農業に関して、果樹や作物の受粉作業を行う蜜蜂が不足、現在は人力での受粉が増えてきているとのことだった。そういえば異界の蜜蜂はどうしているのかと聞くと、農場の責任者がうまくコミュニケーションを取り、地上へ連れてきているそうだ。
漁猟については問題だらけだった。元々海や湖の近くに住んでいた者は誰もおらず、船の作り方も漁の仕方も手探りだらけだそうだ。しかも貝や魚には毒を持つものも少なくなく、実際に食べて食用かどうか判別している馬鹿がいるそうだ。解毒魔術のおかげで死者こそ出ていないものの、腹を下す者が続出しているらしい。半分以上自業自得な気がする。
またこれは森林を探索している者も同じで、きのこ類や木の実・野草の類で同じ目に合っている者がいるそうだ。
そして最後に異界の農場と、地上で購入できない鉱石の採掘を行っている者達のため、異界の魔王都市・鉱山・ブランシェとの中継地点の三箇所にゲートゴーレムと見張りの兵を置いているのだが、最近中継地点近くで銀猿が見られるようになったという。2メートル超級はまだ確認されていないようだが、そのクラスが出てきたら兵士では太刀打ち出来ないため対応が必要だ。
「ナナ、銀猿は俺に任せてくれねぇか?」
今のダグなら4メートル級とでも五角以上に戦えるから問題ないだろうが、一緒に3メートル級が何体か出てきたら危険かもしれない。ちょうど良いのがあるので保険ついでにテストもしてしまおう。
「構わんが一つ頼まれてくれんかの、軍用ゴーレムの試作機を作ったので連れて行って欲しいのじゃ。
不敵な笑みを浮かべるダグを見ていると、きっと何にも問題ないだろうなーと思うが、念の為だ。
「待てよナナ、お前が作る軍用ゴーレムとかどうせぶっ壊れ性能だろうが。俺の戦いを邪魔するんなら断るぜ」
「今後量産機とするゴーレムのテスト機じゃから、それほど強くはないのじゃ。それにどうせおぬしは強いやつと戦いだけで、たくさんの雑魚と戦いたいわけじゃないじゃろう? 露払いにちょうど良いと思うがのう」
「そういうことなら、仕方ねえな。わかった、連れてきゃ良いんだな」
言質は取った、ふっふっふ。自分が作った軍用ゴーレムを引き連れて歩くダグの姿を想像して吹き出しそうになるが、ここは耐えなければ。
「と、そういえば国軍などの編成はどうなっておるのじゃ?」
「現在は僕とリューンで管理しています。できれば軍関連は全てダグに任せて僕は斥候部隊だけにしたいのですが、ダグが引き受けてくれないんですよね」
「今までどおり兵士の訓練程度なら引き受けるぜ。でも書類仕事なんか俺に出来るわけねえだろ」
ドヤ顔のダグはとりあえず後でとっちめよう。でれでれの顔で猫を撫でている姿でも隠し撮りしてやろうか、ってカメラとか映像を保存するものが無いな。これも今後の課題として、まずは目の前の問題を片付けよう。
「仕方ないのう。セレスよ、副官としてダグの補佐を頼んで良いかの? リオとペトラも任せるでのう、ダグは軍事関連のトップとして働くのじゃ」
問答無用である。
「ジル・ミーシャ・ニースはアルトを補佐してやってくれんかのう? どうじゃ、アルト?」
「それではナナさんの護衛が居なくなります」
ぶぞーととーごーがいるから問題ないのだが、出歩く際はなるべく誰か一人でも連れて行くよう約束させられてしまった。過保護め。なお他は問題ないそうだ。
悲しみの表情に染まるリオとセレスは、あとで何かフォローしておいてやろう。今なら安全にスライム浴も可能だし。
「蜜蜂はあとで異界に行って、追加で移住希望の蜜蜂を見つけて連れて来るのじゃ」
これには異界に行ったことのない皇国三人組とニースが同行したいと言うので、機会を見て一緒に連れて行くことにする。そういえば四人とも蜜蜂の大きさは知らないはずだけどまあ良いか。
「残る問題はきのこと魚貝類の毒じゃな。前にクーリオンやアトリオンで複製して渡した書物にもキノコや山菜の情報は載っておったはずじゃが、載っておらん種類が多いということかのう?」
「キノコなら狐人族に詳しい人がいますので、聞いてみて下さい。この辺りの植生は僕がいた集落周辺とそんなに変わりがないので、ある程度はお役に立てると思います」
「ニースでかしたのじゃ。では残すは魚貝類じゃのう」
この辺りで取れた魚貝類の毒性の有無については全てキューが調査済みだが、いかんせん種類が多い。書物にまとめるのもキューがいれば可能だが、まだ自分が見たことの無い種類も少なくないだろう。何か手はないものか。
「姉御って無造作に魚とかカニとか海藻とか料理してたけど、毒のあるものちゃんと省いてたんだね!」
「最初に一通りスライム体で吸収して、毒の有無を全て確認しておるからのう。キューちゃんが全部わかっておるのじゃ」
「いちいちキューちゃんに聞いて貰うのも、ナナちゃんの手間よね~」
キューに聞けば、ってちょっと待てよ。別にキューじゃなくても記憶能力が高いゴーレムなら代用できるのでは無いだろうか。
だがゴーレムだと新規情報のインプットに問題がある。それならスライムにしてやれば……あれ。なんかできそうな気がしてきた。
「その辺りは少し時間を貰えんかのう。何かできそうな気がするのじゃ」
これまで作った魔道具やゴーレム、スライムなどの性能や能力があれば……あ。何かすごくやばいものかもしれない。まあ良いか、作ってから考えよう。
「では最後に国のシンボルですね。僕としてはこれが自信作なのですが」
「却下じゃ」
アルトが広げた羊皮紙には、翼を広げたヴァルキリーが光を放つ姿が描かれていた。鮮やかな色使いで神々しさすら感じる美しい絵であったが、ノータイムで却下だ。
泣きそうな顔のアルトが続いて広げた羊皮紙も、見た瞬間にノータイムで却下する。そこには白いワンピースを着て草原で微笑むノーマル義体の絵が描かれ、頭にはちゃんと赤いリボンも巻かれていた。
「のうアルト。絵としては綺麗じゃの、その点だけはわしも嬉し恥ずかしといったむず痒い感じがするわい。綺麗に描いてくれてとてもありがたいのじゃが、これを国旗とした場合一枚作るのにどれくらい時間がかかると思っておるのじゃ?」
まるで今気づいたかのように驚愕の表情を浮かべるアルトは、抱えていた幾つもの羊皮紙をどさどさと落として放心した。その羊皮紙からチラリと見える美しい絵の数々には自分の方がビックリだよ。
放心状態から立ち直ったアルト曰く、絵を書くのが趣味で、密かに地上界で買い揃えた画材を使っていろいろ描き上げていたそうだ。
そして書くことに夢中になり過ぎて、国旗や硬貨にするということが完全に頭から抜け落ちていたそうだ。アルトらしい詰めの甘さと空回り加減に、ついつい笑ってしまった。
そしてその絵の数々は、びっくりするほど上手であった。自分の絵ばっかりというのはかなり恥ずかしいが、いつか個展でも開いてやるのもいいかもしれない。
「くっくっく、そう悲しげな顔をするでない。ところでアルトよ、何枚か部屋に飾りたいでのう、譲っては貰えぬか? シンボルのデザインとしてはダメダメじゃが、絵としてはとても綺麗なのじゃ」
「凄いにゃ、これ皇国で売ったら間違いなくとんでもない値段が付くにゃ。その辺の画家がごめんにゃさいするレベルにゃ」
ミーシャのお墨付きがどれほど正確かは知らないが、自分の言葉と合わせるとアルトを元気にするには十分だったようだ。沈んでいた顔が途端に明るくなった。
「アルトさん、わたしも一枚欲しいわ~。二枚目に出したナナちゃんのワンピース姿のが良いわ~」
「オレも欲しい! このヴァルキリーでトンファー構えてる奴が格好いいな、アルトお願い!!
「え、ええ。まずはナナさんに選んでもらって、その残りでしたら構いませんよ」
口調はいつもと対して変わりはないが、ものすっごくニコニコしてるアルトは初めて見た。自分の作品を褒められて嬉しい気持ちはよくわかる。
セレスにノーマル義体の絵を渡すのは危険な香りもするが、ここは大人しく引いてやろう。最初の一枚とスライムを頭に載せたノーマル義体の絵を選んでアルトに貰い、それに加えて気になった一枚を眺めていると、リオとセレスが覗き込んできた。
「スライムの姉御に翼がついてるよ! 格好いいね!」
「あら~、これはアルトさんが想像で描いたのかしら?」
そこには実際には存在しない、翼を大きく広げたスライムの姿が描かれていた。
「これで良いんじゃないかのう? これを元に簡易的なデザインにすれば、国旗としても硬貨のデザインとしても使えるじゃろう」
「は、はい! ありがとうございますナナさん!! では今夜にでもデザインを煮詰めます!」
声を張り上げるアルトを見るのも初めてで、その勢いにちょっと引いてしまった。
それにしてもちょっとした打ち合わせのつもりが結構話し込んでしまったので、今日はこのまま魔王邸で休んでいくことにする。
既にジル達もなし崩し的に側近として組み込まれ、それぞれに個室が与えられているため問題はない。そもそも既に仕事を振っているのだ、皇国の件が動き出すまでこのままで良いだろう。
放っておくとレーネハイトのことや自分達のいた傭兵団のことを考えている素振りがあるため、考える暇も無いくらい働いてもらうとしよう。
さて、今後はこちらを本宅として、アトリオンは別荘扱いかな。
我ながら別荘持ちとは出世したものだ。
あ、それ以前に王様だった。てへ。




