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英雄とスライム  作者: ソマリ
幼少期編
11/231

1章 第11話H 日誌その2

『研究日誌』


エルメンヒルデ

「従魔強化第一案」

……

……

……

 九十日目、2号ゴーレムから魔石の反応が消失、活動停止。7号スライムを除く全実験体の活動停止を確認、第二実験の準備へと移行する。




「従魔強化第二案」


 実験内容:一年目に使用した「試作魂魄召喚魔法陣」より「魔石の初期化、生体の魂を魔石に注入、肉体と魔石との接続」の生体の魂という部分を『知的生命体の魂』に限定するよう改変。他一年目と同様に観察する。


 試作魔法陣発動結果:1号ゴーレムと8号スライムが起動せず。しかし魔石が稼働している様子が見られるためそのまま放置。

……

……

……

 七十日目、8号スライムから魔石の反応が消失、活動停止。

 八十日目、1号ゴーレムから魔石の反応が消失、活動停止。全実験体の活動停止を確認、第三実験の準備へと移行する。




「従魔強化第三案」


 実験内容:二年目に使用した「試作魂魄召喚魔法陣」より「魔石の初期化、知的生命体の魂を魔石に注入、肉体と魔石との接続」の魂注入後、従魔化の術式を挿入し改変。他前年と同様に観察する。


 試作魔法陣発動結果:1号ゴーレム、4号ゾンビが起動せず。しかし魔石が稼働している様子が見られるためそのまま放置。

……

……

 四十五日目、4号ゾンビが起動するが、それ以上の反応無し。

……

 五十五日目、1号ゴーレムが起動し暴走。容器の破壊を試みたため強制停止。

……

 六十日目、4号ゾンビが活動停止。全実験体の活動停止を確認、第四実験の準備へと移行する。



 暴走の原因は不明。しかしこれまで見られなかったことから従魔化の術式に関係する可能性があるが、起動後に停止した4号ゾンビの件もあり判断不能。

 初年の実験で生まれた7号スライム、通称ナナだが、鳴き声を上げたり自由にサイズを変えられたりと、とても不自然な動きをする。多少言葉を理解している様子が見られるうえ、ノーラの文字の練習をじっと見つめている様子が伺えることから、もしかしたら文字も覚えようとしているのかもしれない。これまでは多少賢い動物の類と思っていたが、もしかしたら人類かそれと同等以上の知性を持った生命体の魂が宿っている可能性がある。

 しかし敵意どころかノーラを守ろうとする素振りすら見せるため、経過観察を続けることとする。




「従魔強化第四案」


 実験内容:これまでの実験からナナの発生は完全なイレギュラーとし、アプローチを変えることにする。知的生命体の魂を呼ぶのではなく、魔獣の死体から直接魔石へ魂を移動させる方向へ修正。「魔石の初期化、死亡直後の魔獣から魂の抜き出し、魂を魔石に移動、肉体と魔石との接続」をセットとした「試作型魂魄移動魔法陣」とする。また従魔化術式を組み込んだ魔方陣を四枚、組み込まなかった魔方陣を四枚用意し、今回は八体の実験とする。なお一度に大量の魔獣を捕獲するのは危険であるため一体ずつの実験とし、更に最も制御しやすいウッドゴーレムを使用する。


 試作魔法陣発動結果/従魔化術式あり

 1号ゴーレム:起動。通常のゴーレムと相違点無し。

 2号ゴーレム:起動。通常のゴーレムと相違点無し。

 3号ゴーレム:起動せず。魔石の稼働は確認、要観察。

 4号ゴーレム:起動。通常のゴーレムと相違点無し。

 試作魔法陣発動結果/従魔化術式無し

 5号ゴーレム:起動せず。魔石の稼働は確認、要観察。

 6号ゴーレム:



 ノーラが屋敷を抜け出し、狼に襲われた。ナナによって救われるがナナの魔石が破損、発見時には既に魔石の稼働反応が微弱、停止寸前だった。このままだと間違いなく活動を停止するが、僅かな可能性にかけて「試作型魂魄移動魔法陣」を使用。3号・5号ゴーレムを停止させ実験を中止、ナナの経過を観察する。






「母さま、ナナが死んでしまうのじゃ! 私が外に出たせいで、ナナが……ナナが……ふえええええええええ」


 水たまりに沈む、大きく欠けた直径5センチの魔石に手を伸ばし、顔をぐちゃぐちゃにして泣き声を上げるノーラ。ヒルダは目の前の白狼にとどめを刺し撤収するよう随伴するゴーレムに指示を出し、ナナだった水たまりと魔石を呆然と見つめる


「魔石の反応が弱い……これでは……むう……。ノーラ、まだじゃ。わしに考えがある……急いで館に戻るぞ。走れるな?」


 ヒルダは懐から革袋を取り出し口を広げると、水たまりから魔石をすくい出し周囲の水と一緒に革袋へと流し込む。この時ヒルダは実験用に作った『試作型魂魄移動魔法陣』を思い出していた。とても成功するとは思えなかったが、何もしないよりはマシとノーラを伴い屋敷に駆け戻り、地下の実験室へと向かう。


「ノーラ、よいか? 今からこの壊れた魔石の中に居るナナを、こっちの新しい魔石へと移動させる。成功すれば、またナナは元気な姿を見せてくれるはずじゃ。上手くいくよう、ノーラも見守っていておくれ」


 ヒルダは少しでも成功率が上がればと、現在すぐに使える魔石で最も大きい6センチほどの魔石を持ち出し、試作型魂魄移動魔法陣の準備を始める。ナナの魔石と水たまりをナナが生まれた7番容器に入れ、そこに新しい魔石も入れて魔法陣を置き術を唱える。傍らではノーラが両手を顔の前で組み、必死の形相でナナに呼びかけている。


「……ふむ。これで術式は発動したのじゃ。あとは目覚めるよう祈るだけじゃな」


 ナナに呼びかけ続けるノーラの頭に優しく手を置くヒルダ。そのまま優しく撫で続けていたが、聞いておかなければいけないことを思い出し口を開く。


「……ノーラよ、なぜ一人で森へ入ったのじゃ?」


 ヒルダの問いにノーラはナナへの呼びかけを止めて下を向くと、小さくごめんなさい、と呟き言葉を続ける。


「母さま、最近研究のし過ぎで疲れておると思ったのじゃ……じゃからあの森にあった綺麗な花を見たら元気になると思って……花を摘みに……」


 ヒルダはノーラの行動理由を理解して一瞬はっとした顔をし、目に涙をためて話すノーラをしゃがみこんで強く抱きしめる。


「ノーラ、すまぬの。わしを心配してのことじゃったか……すまぬ……」

「でも、花が無くて……探していたら護衛のゴーレムさんが槍を構えて、そしたら狼が来て、ナナが……ナナが……ひっく」


 そこまで言うと涙を耐えきれなくなり、ぽろぽろ落としながら話を続ける。


「白い狼を倒してくるから、安心して待っていろって……私と同じくらいの大きさになって、白い狼を殴りに行って……」

「殴りに……? ああ、体当たりかの。ナナはどーんとぶつかりに行ったのか?」

「ううん、母さまが作る土のゴーレムさんみたいな形になって、殴ってたのじゃ……」


 理解できず首を傾げるヒルダだが、抱きしめられて見えていないノーラはそれに気付かず言葉を続ける。


「一頭目の白い狼をやっつけたらナナが消えて、後を見たらもう一頭の白い狼の目の前にナナがいて、それで周りがばーんって……そしたらナナ、呼んだのに、返事してくれなくて、母さまが来て……ひっく。ひっく」

「そ、そうか……よく頑張ったのじゃ、ノーラ。疲れたじゃろう、少し横になるといい。部屋に行くのじゃ」


 しかしノーラはナナの側に居たいと駄々をこねるが、部屋からでもナナの様子が見られる魔道具を設置して、ナナが起きたらすぐに分かるようにしてやるとヒルダが言うと、渋々部屋に戻り横になった。余程疲れたのか、横になって間もなくノーラは深い眠りに落ちていた。


「さて、ナナよ。人型になって狼を殴るとかおそらく転移術を使ったであろうこととか、不可解な戦闘力に一体しか居なかった白狼と少なすぎる狼の死体など、おぬしには聞きたいことがてんこ盛りじゃ。頼むから目覚めてくれよ。……ノーラを守ってくれたお礼も伝えておらんのに、居なくなるでないぞ……」


 ナナの入った容器が見えるように机上に遠視の魔道具を設置し、ナナだった魔石に声をかけ部屋を出るヒルダ。翌日も、そのまた翌日も、ナナは目覚めること無く、一時間毎に様子を見に行こうとするノーラのため実験室の一角を片付けそこをノーラの勉強スペースとして用意することになった。




「ぶはっ! ふ、ふ、ふはははは! あれはナナじゃな? あやつ目覚めおったか! しかし一体何をしておるのじゃ、まったくおかしな奴じゃ」


 ナナに試作型魂魄移動魔法陣を使用してから十五日目となる八月に変わった日の深夜、寝付けず遠視の魔道具を起動したヒルダはおかしな光景を目にする。それは二足歩行で立ち上がった瞬間ひっくり返って後頭部を床に叩きつけ、頭を押さえてのたうち回る白い狼だった。様子を見ているとまた立ち上がろうとしてふらふらと歩き、またもひっくり返り後頭部を床に叩きつけている。姿こそ狼だがその間抜けな姿に、あれはナナであると確信する。


「ナナの魔石もスライムの姿も室内に見当たらぬし、間違いは無いじゃろうが念のため確認はせんとな」


 ベッドで眠るノーラの頭を一度優しく撫でると、ヒルダは地下実験室へと向かうのであった。

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