1章 第1話N 死んで目覚めた
2018/6/20
大幅に改稿。
というかほぼ書き直し。
……ん……体の痛みが、無い。うーん。もしかして麻酔でも打ってくれたのかな?
何だか、頭がボーっとするなぁ。
ここはどこ、私はだあれ、とかふざけてる場合じゃないよね。
えーと……俺は島津義之、二十九歳独身。
ここは、ホスピスだ。末期の癌患者として入院してるんだった。
子供の時から体のあちこちが原因不明に痛む病を患っていたせいで、癌の発見が遅れたんだった。幸いというべきか身内と呼べる親族は既にこの世には無く、十分な遺産があったおかげでホスピスへ入院できたというのも、皮肉なもんだ。
それにしても痛みが無いのは良いんだけど、全身の感覚も無いような?
これ全身麻酔かな、体も動かないし。つーか全身麻酔ってこんなだったっけ?
何も聞こえないし目も開かないし、って俺……息、してないじゃん!
何これ死後の世界?
あーあ。とうとう死んじゃったかー。
あの映画完結編まで見たかったなー。あの小説は最後どうなるのかなー。もっと観光とか遊園地とかスイーツ食べ歩きとか行きたかったなー。お医者さんと見舞いに来てくれた友達にはちゃんとお礼言っておきたかったなー。
俺のベッドに飾られたぬいぐるみとか、どうなるんだろ。やっぱ一緒に火葬されるのかな。
友達にネット通販の履歴見られたせいで、俺が料理好きで可愛いもの好きだってバレてから『女子力の高い野獣』って呼ばれるようになった。
そのおかげでお見舞いに来てくれたみんなが、どんどん可愛らしいぬいぐるみや人形とか持ってきてくれたのは嬉しいんだけど……厳ついおっさんの棺桶が、ぬいぐるみだらけってのはどうなんだろう。
しかし火葬か、骨とか残るのかな。俺の体、最後に見た時は……骨と皮だけだったな。
子供の時から病気の痛みに負けないようにって、ボクシングとか空手とかやって鍛えてたのに見る影もなかったっけ、厳ついおっさんじゃなくなってたわ。
あーあ。とーさんかーさんごめんね、少し早いけど俺もそっち行くみたいだよ。
……もっと、もっと、生きていたかったんだけどねー……。
……さて、問題です。俺はいつまでこの状態が続くのでしょうか?
何て言っても、誰も応えてくれないよねー……。
自分が死んでるって気付いてから、いったいどんだけ時間経ってるんだろ。何これずっとこのままなの?
だーれかー。
いーーませーーんかーーー。
俺、いつまでこの状態なのー?
だーーれかーー。
って、やっぱ返事ないよな。
入院生活長いから体の不自由には慣れてるけど、流石に五感全部効かなくて意識だけってのはきついよ?
暇すぎて完結まで見られなかった小説や映画、妄想で補完して完結させちゃったよ!
天国とか地獄とか、死後の世界的などこかに行くとかじゃないの?
何日経ったかわからないけど、初七日は過ぎてる気がするんだけどなー。
心残りもたくさんあるけど、もしかして俺、ユーレイになっちゃったとか?
現世とあの世の間を彷徨ってるとか?
もしかしたら他のユーレイとか地獄の亡者とか案外近くに居たりして。
気配とか……わかるかなー。とりあえず前方に意識を集中……あれ、前ってどっち? 方向感覚すら怪しいなあ、なんか水の中にいるみたい。ま、いっか。とりあえず集中集中っと
適当に決めた一方向に意識を集中させてみたけど、やっぱ無理か。
でも格闘技やってる時気配感じるのに、五感の一つ二つ無いほうがわかりやすかったもんね。
全部無いなら余計にいけるかも?
成せば成る! 成さねば成らぬ、ぐぬぬぬぬーっ!
……って、あれ? 白い、光? 見える……いや、視える? かな?
何となくだけど、『そこにあるって事がわかる』って感じだなこれ。なんだろあの光。……あれ? 光が増えて……うわっ!
すごいなこれ……光の、奔流だ。
俺の周り、あっという間に光の粒で埋め尽くされちゃった。
それになんだこれ、前だけじゃない。下や後ろ……全方位? に、光の粒が見えて、いや……視えてる?
うわ気持ち悪っ、何か酔いそう。
でも真っ暗闇よりマシか、綺麗だし。
この光の粒って……ん、視てたら何だか集まってきた?
光の球? 距離感が合ってれば、多分3センチ位かな。
それと、反対側に人みたいな……人!?
髪の長い……おっぱいの大きい、女の人?
ゆーれいじゃないよね? 神様? 仏様?
あと光があちこちに形を……もしかして、この光の粒で輪郭が作られてる?
俺の後ろにある光の球を、女の人が覗き込んでるような感じかな。
しかし前と後ろを同時に視るとかほんと酔いそう……あたま痛くなってきた。
って、あれ? 何か熱い? いや、痛い? 痛い! 痛いよ!?
ちょっと待って何でこれ何が痛いイタイイタイうがあああ!!
何があった。
えーと……激痛で気絶した?
ひどい痛みだったな、病気や癌の痛みどころじゃなかったよ。頭だけじゃなく全身……あれ、あたまどこ?
……考えても仕方ない、痛いのは怖いけど……これしかできないんだから、視るしか無い!
もっかい集中!
光の粒が視えてきた。
輪郭も、できてきた。
なんというか、ネガポジ反転させたみたいな視界だけど、暗闇より全然マシだよ!
今度は目を閉じるみたいに、意識から光を消してみる。
大丈夫、ちゃんと視えなくなった。
今度は遠くを視てみよう。光の粒の輪郭が……何かを透過してるのかな、結構先まで見えるっぽい。
痛みは、無いかな?
よーしまずはあれこれ試してみよう!
楽しくなってきたよ!
……ふう、何となく慣れてきたかな?
とりあえず一方だけ見てる分には、結構長く視ていられるっぽい。
全方位に意識向けたり、長時間前後とか上下とか同時に視てるとあたま痛くなる。頭というか、全身だけどね。
痛くなりそうでも少し休めばまた視えるようになるし、これなら激痛に怯えながら視なくてもよさそうだ。
なるべく長時間視られるよう練習して……普通の視力じゃないし、仮に『光視力』としておこうか。その光視力で、そろそろ周囲の確認もしたいな。
それにしても視点が低いなー、もう少し高いところからじゃないと周りが見渡せな……お?
何だ、突然視点が高くなった?
背伸びしたみたいだけど……おお、これでもう少し先まで視え……じゃない。
待って。
いや、そんな気はしてたよ。
全方位見渡す限り、やっぱり無い、よね。
……俺の体、どこ?
真下にある3センチ位の球、あれが何となく気になるんだけど……まさか、ね。
それにここ、どこさ。
よく見ると俺がいるのは部屋……いや、容器?
もっかい下をよく視て……何か、液体がぶちまけられたような感じ?
その中に球……いや、俺がいる?
容器の外、今度こそ部屋かな?
あれ。同じような容器が並んでるな。中には……待て。待て待て待て。
液体じゃない、何か動いてる。
え。
何かあれファンタジー映画とかゲームとかで見たことあるぞ。
え。
……すらい、む?
俺と、同じような形してるよ?
待って俺、人間やめちゃったの?
……俺、スライムになっちゃったの……?
何スライムって意味わかんないんだけど。やっぱ俺の本体はあの球?
たまたま球に魂が入り込んだ? って駄洒落じゃないからね!?
そんなに余裕無いよ!
うーん、夢、じゃないよなー、あの激痛は絶対マジだし。
……ま、いいか。病院のベッドで寝てるくらいなら、スライムのほうがマシだ。
とりあえず情報収集と、多分この体って粘液だけど、自分の体なんだったら動かせるよね? それに光視力の視点移動について確認もしなきゃ。よーしやる事が増えたぞー!
やっぱできることがだんだん減っていく入院生活より、できることが増えていくほうが楽しいよね!
まず部屋の様子は、と。容器の輪郭が邪魔で、遠くが把握し辛いなあ。
あー、もう。よく視えないじゃん!この容器の光邪魔!
って、動いたああ! 光が動いたよ! 何これ、俺が動かした?
何この光動かせるの? 他の光も……おお、動く! 面白いよ! 今度は……って、遊んでる場合じゃなかった。
容器の輪郭が薄くなったから遠くが視えるし、ちゃんと確認するのが先だね。
部屋の中には……俺が入ってるのと同じような容器が九つあって、俺は奥の角にいるんだな。
棚とか机があって、箱みたいなのとか何かの筒がたくさん並んでるけど、よく視えないな。
窓もないし、何の部屋なんだろう。研究室とか?
とりあえず考えるのは後、周り視ようか。
隣の容器、スライムが入ってる。プルプルしてる。
ていうかでかいな、俺の倍くらいある?
直径で20センチ位あるけど、俺もあそこまで大きくなるのかな?
次は正面、部屋の入口側の容器だ。プルプル……してない!
何これネズミ? これもでっかいな、お隣さんと同じくらいでかいネズミだ。
寝てるみたいだけど、カピバラかな?
てっきりここにもスライムが入ってると思ってたよ。
他の容器は……正面側の一つ向こうの容器は、人形が入ってる。
こっちはカピバラより大きいな、30センチ位?
どうも部屋の入口から一列目が人形、二列目が大ネズミ、三列目がスライムっぽい。
それにしてももう一つのスライムも、俺の倍くらいあるあるんだけど。
俺、発育不良?
他の人より小さいのって何か新鮮だけど、ちょっと悔しいような気もしなくもない。
あ。それ以前に、人じゃなかったわ、あははー。
部屋の確認も終わったし、検証検証っと。
この体というかスライム、動かせるのかな?
よく視ると体の中にも光の粒子があるな、これを動かし……できた!
ぷるんぷるん、うは面白!
次は床との接地面はあそこか、意識向けて……ぷるんぷるんびったん。
お、何かに当たる感触ってこれか。
視覚に続き触感も入手?
なんかまだ思い通りとは行かないけれど、慣れれば何とかなりそうだな。次は聴覚か代わりになるものを何とか手に入れたいな。空気の振動を体表で感じて……で、その後どうしよう。
むー。
ってそーいや人間は五感が無くなったら発狂するとか聞いたことあるなあ。もしかして俺危なかった!?
ってそもそも俺人間やめてるじゃーん。
虚しい一人ノリツッコミはこれくらいにして、次は光視力の確認だねー。
うりゃ!
……うん。調子乗りすぎました。
また激痛で気絶してたよ!
でもおかげで体のどこにでも自由に視点を移動させられることと、同時に複数視点を持てることがわかったよ。
体を動かしながらあれこれやってたからだいぶ慣れてきたし、光視力のオンオフもスムーズになってきたし、光を動かすのもかなり自由にできるようになったからって、やりすぎちゃったなー。
でもあの激痛は、何なんだろ。熱くなるような感覚もあるし、オーバーヒートかな? 複数視点と全方位視界やるとすぐ痛くなるけど、これ以上は駄目だって強制終了させられてる感じ。
情報過多なのかなー、まあいいや。
とりあえず光視力発動……ってうわ、誰かいる!
あれは……最初に見た、おっぱいの大きな女の人だ!
なにか箱抱えてこっち来たけど……容器の蓋開けて、箱の中から大ネズミっぽい生き物、いや、死骸?
……俺の容器にそれを入れて、続けて隣とその隣の容器にも、同じものを入れた。
ああ……嘘だよね……。
お隣さん、ネズミの死骸に置いかぶさってるよ。これ、餌ってことだよね。
うわぁ……うわぁぁ……。
俺もこれ、食べなきゃ駄目?
女の人は隣とその隣のスライムがネズミを食べ始めたのを見た後、こっちに移動してきてじーっと見てるっぽい。
俺が食べるのを待ってるのかな。
いやいやいや無理だって無理無理むーーりーー。
それにこれ、俺の倍くらいでっかいよ!
でも食べなきゃ食べないで悪目立ちするし、そもそも食べ方もわからないよ!
とりあえず……ネズミの死骸に乗っかっておこう。
これで食べ始めたと思ってくれれば……おっけい騙せたかな、女の人が俺から離れて、机に座って何か書き始めた。
……手に持ってるの、羽ペン? 動き見てるとインク壺に浸して書いてって……それどころじゃねえええ!
どうしようこれ。
お隣さんどうやって食べてるの?
溶かして吸収してるみたいだけど……ネズミの毛を一束むしって、俺の体の中に入れてみる。ええ、溶けませんでしたよ。
でもこれ、よく視ると……毛にも、光の粒子がある?
体の中に入れるとよく視えるというか、感じる?
この光の粒子をいじってバラバラに……あれ。
多分、だけど……吸収できた?
それに毛の量や質感どころか、『何』で『どのように』構成されているのかまで、何となくわかるような?
しかし毛を一束食べるだけで物凄い集中力がいるなー。って、お隣さんもう半分以上食べてるし! 二軒隣さんも早いよーちくしょー。
でも何か違和感。お隣さん、あんなに食べたのに、大きさが変わってないような気がするよ?
食べた量からして、体積が五割増しくらいになってないとおかしいよ! 密度? いやいやそれにして限度がーって、スライムの時点で既に常識もへったくれも無いよねーあはははー……ん? 何だあの光?
お隣さんの体内に一条の光の線が視えた。ずっと視てたらどうやら定期的に光の線が出たり消えたり……線が出てる時は、太さにも変化が……違うな。
線が太くなったわけじゃなく、袋の口を少し開けているみたいに二本に分かれてる。
あの開いた隙間……向こう側が視えない。穴? そこに何か放り込んで……食べカスかな?
ちょっと真似して……って、できない。お隣さんと何が違う?
じー。
じーー。
じーーー。
あ。
色……薄っすら紫の……じーーーーー。
お隣さんが作った光の線が、ただの光から薄紫に、そんで今ははっきり紫に視えるようになったんだけど……周り視ると、他の光にも色がついてる。
白・銀・黄・橙・赤と、光の粒子の色の違いが認識できるんだけど、色によって何か違いがありそうだな。
机の上壁際に白い光の粒子が集まってる。あれは光源なんだろうな、天井にも白い光が集まってるし。
銀は蓋の一部と棚に幾つかあるな、金属かな? 黄色は壁だな、木かコンクリか? 橙は……机の上にあるけどここからじゃ見えないや。赤は容器中列の小動物か、生命体なのかな?
とにかくお隣さんが作った穴は光が紫だったな。紫は室内に漂っていないという事は……普通の光を集めて、染めるのが正解かな?
お隣さんができるんだから、多分俺にもできるはず。
同じ色をイメージして……でき、た?
隙間というか、穴? 中は紫の光だけで、何も無いみたいだ。
試しにネズミの毛を一房むしって穴に入れて光の線を閉じ、もう一度開いて中を視ると……何も無い空間に浮かんだ一房の毛。
これは四次◯ポケット的な何かかな?
ちょうどお隣さんも食べ終わりそうだし、このネズミの死骸は一旦この穴に入れといて、女の人がいなくなってからゆっくり食べようっと。
最初は嫌だったけどどうせ味覚も無いし口に入れるような感覚もないし、それより毛を食べた時に感じた感覚に興味が湧いてきたな。
おっと急いでネズミまるごと穴に放り込んで、口を閉じて光の線を完全に消して、と。
これで隠蔽は完璧だ。
ちょうど女の人も書き物を終えたらしく、こっちに近付いてきた。
そういえば中列のネズミには餌与えてなかったみたいだけどいいのかな?
って、仮にお姉さんとしよう。
お姉さん、何で俺をじーっと見てるの。
明らかに、隣や二軒隣のスライムより、俺の前に立ってる時間が長いんだけど、俺何かまずいことしたかな。
紫の光の線もちゃんと消したし、証拠はないはず!
……しばらくして、やっとお姉さんが立ち去ってくれた。
どきどきしたよー、心臓無いけど。
お姉さんが部屋からいなくなったけど、しばらくこのまま待つ。
いきなり戻ってきたら、俺の完全犯罪がバレちゃうからね。
そろそろいいかな?
光を集めてー紫にしてー穴を開けてー……。あれ。
穴の中、紫色に光る粒子しか無いよ?
ごはんどこーーーーー!
ねえ、どういうことなの!?