9 東の洞穴に住む怪物
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「―――――――よし。忘れ物は無しっと」
俺は自分の荷物(とはいっても竹刀と木刀)を確認して村の出口へ向かう。因みに、さっきの俺の暴言は、別に腹が立ったからというわけではない。あの愛花という少女が言おうとした言葉は何となく予想できる。
『私がいけにえになれば』
ようはそういう事だろう。その考えに行き着いた時、脳裏に、嫌な記憶がよみがえった。自分の記憶と思いたくないが、確かに自分自身が認めている記憶。
「――――――ほんとに、この世界にいたときの俺は、何してたんだろうな」
自嘲気味に呟く。そして、
「よしっ、行くか!!」
俺は、東へ向かって歩き始めた。
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「―――――――しっかし、暗いなぁ……」
時刻は夜の8時程か、辺りはすっかり暗くなり、注意して見なければ10メートル先も見えない。
「そろそろ夜営とか考えた方がいいかなぁ……」
などと言っていると、
「―――――――おっ?あれって……?」
洞窟のようなものが見えてきた。いや、洞窟というよりは、洞穴に近いかもしれない。方角さえ間違えていなければ、ここが怪物の住処らしいが……。
「―――――――うっ……」
洞穴に近づいた瞬間に、異臭が漂う。血の生臭い匂い。異臭に耐え、洞穴を進むと、
「―――――イテッ」
何かにぶつかった。しかしそれほどの痛みではな
い。……いや、少し待ってほしい。壁にあたったのであれば普通にいたいはずだ。それこそ痛みにもんどりうってもいいレベルの痛みのはず。でも、実際は全然痛くはない。……つまり壁ではない、ということは────?
「―――――おぉぉぅふ……。」
デカイ。とにかくデカイ。ざっと見三メートル程の大きさだろうか、確かに、狂暴そうな四足歩行の怪物だった。
(けど、デカイだけなら……)
俺はそう思って、一度距離をとろうとする。しかし、怪物が、無造作に前足を振るう。
「―――――っ!?」
俺は慌ててしゃがむ。怪物の前足は俺の頭すれすれを通りすぎた。俺はしゃがむと同時に抜刀し、
「はぁっ!!」
一気に木刀を振り抜く! ――――――――が、
「――だよね、これじゃ切れるわけねぇわなぁ・・・」
当然のごとく木刀で切る、などという真似ができるはずもなく、ゴッ、という音とともに弾かれる。
(木刀じゃ切れない、けど現状これ以外に武器がない。―――――と、なると、なんとか木刀で切る方法を探すか、欧殺するかだな)
前者は方法が現状ないし、後者は時間がかかりすぎるしそれをするなら頭を狙う必要がある。
(なにか、なにかないか……何かいい方法。)
考えていると、怪物の前足が迫ってくる。
「ヤバッ―――――」
刹那、視界が反転する。怪物の前足の攻撃をもろにくらい、衝撃で吹き飛ばされた。
「―――――くっ、いってぇ……ん?」
俺は、血を流しながら、地面になにかが落ちているのを見つける。
「剣……だよな?これ。」
そう、剣だった。錆びなどもない。今すぐにでも使えそうだ。すると、怪物は止めをさしに来る、だが、
「――――せやぁ!!」
攻撃をしてきた前足を叩き切る。そのまま前につんのめった怪物を一刀両断する。
「ハァッ、ハァッ……クッソ、何とか……なったか……」
絶命した怪物を見ながら、そう吐き捨てる。
(……それにしてもこの剣……いいな。使い勝手もいいし、暫く借りておくか)
俺は剣の持ち主に心の中で謝罪したあと剣を拝借し、洞穴をあとにした。