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第93話 ゴヤの決断

 そのまま寝込むと思われたベルカンプは、半日もしないで起き上がると捕虜の小屋の扉を叩く。


 真っ赤に充血した目を腫らせたベルカンプが入室すると、失意の表情のロイと、起用に椅子に座りながら体育座りをしているゴヤが、頭を自分の膝に潜り込ませながら押し黙っているのが窺えた。


「二人とも聞いて欲しい。バロルの刑が終わったんで、準備が整い次第いよいよ労働刑に就いて貰おうと思う。その時の拘束具合なんだけど、手縄を肩幅まで緩めるか、足首に異世界の機械をはめ込むのかのどっちかにしようと思うんだけどどっちがいいかな?」


 ベルカンプの質問にも一向に面を上げないゴヤに、業を煮やした寡黙なロイが重たい口を開いた。


「肩幅まで手縄を広げてくれるのはありがてぇ話しですが、それでもやはり作業はしづれぇです。その……異世界の機械ってぇのは、どんな物なんですかい?」


「足首に足輪を挟む感じのモノを取り寄せようと思うんだ。僕の指一本で持てる重さだから、行動に支障が出るもんじゃないと思うよ」


「……それで、効果というのは……?」


「う~ん。得体の知れないモノが足首に付いているから迂闊な真似は出来ない。って圧力をかけたいから秘密にしておくよ。脱走ならまだしも、住民に危害を加えるような真似をしたらどうなるかってのは、僕の行動が物語ってるから説明はいらないよね」


 ロイの脳裏にビッツとバロルの顔が浮かび上がり、わかりますわかりますとロイは2回首を縦に振る。


「それと同時に、おまえはジンドウテキでもあるから、変な行動しないならそっちの機械の方が良さそうだな。ロイ、異世界の機械の方にしてもらえよ」


 ここで沈黙を保っていたゴヤが横槍を入れ、ロイがあぁそうだなと同意して拘束具の選定が終了した。


「じゃぁゴヤもそっちでいいんだね? 異世界から取り寄せるからそれまでは手縄で頼むよ」


 ベルカンプの用事が終わり、部屋を出て行こうとする素振りを見せると、

「おい、俺も…………俺も死刑にしてくれ!!!」


 たまらずゴヤがベルカンプの背中に叫んだ。



「……………………え?」



 5秒程も硬直したベルカンプが振り返ると、その瞳は灰色に染まっており、数日間不眠不休で働いた後のような疲れきった表情に顔を変化をさせる。


「上手く言えねぇけど、全部言う! バロルの件、本当にありがとう。バロルを命懸けで説得してくれて、一時は一緒に助かるかもと飛び上がるほど嬉しくて、でもあいつは死ぬ事を決めてて、苦しむバロルに止めを刺してくれたのもすげぇ感謝してる! でも、気づいたら仲間が全員いなくなっちまった。世の中の事をなんもしらねぇ俺が一人で生きていけるわけねぇし、俺らが仕掛けたからアンタに責任はないんだけど、それでも俺の仲間を全員殺したアンタに少しも恨みがねぇって言ったら嘘になる。だから、俺もみんなの所に行きたい。俺も殺してくれ!」


 思いの丈を全部ぶちまけたゴヤが肩で息をすると、話しの節に一定の理解を示しながらもベルカンプの瞳は闇に染まる。


「ハハハ。ビッツを殺し、バロルを殺し、今度は殺人すら犯したことの無い未成年の青年まで僕に殺させるのか……」


 ほとほと疲れたとベルカンプはその場に崩れ落ちると、横にいる兵士の補助の手をかいくぐって床にしゃがみ込んだ。


「だって……俺はこれから……どうやって……」


 罪悪感を覚えたゴヤがあれやこれやと言い訳を呟くと、

「ゴヤ、異世界でね、僕の大好きな絵本草紙の言葉の一節があってね、ちょっとその言葉を聞いてくれる?」


 ベルカンプがそう諭すと、ゴヤは大人しく従ってベルカンプの発言を待った。


(コルタ)はそれぞれ……スッキリしないものをいくつか抱えたまま生きてる……きっとそれが普通なんだと思う。でも、心に傷を負ったままでも楽しく暮らす事はできるさ。それでいいんだよゴヤ、無理しちゃぁだめだ」


 死刑の恐怖から必死に強がっていたゴヤは、その言葉が胸に突き刺さるとまた頭を両膝の中に隠して肩を震わせる。


 その反応に深い安堵のため息を吐いたベルカンプは、

「じゃぁ、足輪は2人分って事でいいね?」

 とゴヤの肩を優しく叩くと、肩を震わせたままゴヤはコクンと頷いた。


「もう、あんまりびっくりさせないでよ…………」


 本当に疲れたとベルカンプは両手を開いたり閉じたりする仕草を見せると、そのまま静かに小屋を出て行った。

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