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第85話 ゼマリアの興奮

「これがカーンが服用した錠剤か」


 宿屋に帰ってきたゼマリアは、早速異世界の薬の吟味に入る。


「ただの精力増強剤なのですが、マチュラにもそういう漢方みたいなものはないのですか?」


 ベルカンプの質問にゼマリアは首を傾げ、ゼエリアスは知っているような雰囲気を醸し出すのだがあえて口には出さない。


「当然ありますが、値段が高い上に効果があるかと言えば確実とは言えないところが現状です」


 押し出されるように医者のニウロが説明に入るが、やはり地球とあまり変わらず、植物の根だったり生物の肝や生き血が一般的なのだそうだ。


「よし、実際に試してみるぞ。もしこれで能力が倍にもなるようであれば、カーンの査定は大きく考え直す事にする」


 先程ギャラリーから総突っ込みにあった二人は、勿論落ち着いた所でカーンの勝利と決着した。

 その余韻が冷め切っていないゼマリアが多少悔しそうに表情を崩すと、ニウロに差し出された一錠を唇で咥え、水と共に胃袋に流し込んだ。




「ゼマリア様? 何か変化は起きましたか?」


 20分程経ち、手持ち無沙汰なゼエリアスが問いかけると静かに着席していたゼマリアが立ち上がり、竹刀を掴む。


「うむ。なんだか体が火照ってきた気がするぞ。エリス、少し体を動かして試してみるから手伝いなさい」


 はいとゼマリアに同行したゼエリアスが数時間後、息も絶え絶えに宿屋に帰ってくると、同じく息を切らせて帰ってくるゼマリアの目は凛々としている。


「お帰りなさい。どうでした? おかしな効果はありましたか?」


「いや、残念ながら明らかな能力の上昇は見られなかった。だが、効果はあるな。なんというか、体を動かしていないと気持ちが休まらないというか、とても変な気分だ」


 ベルカンプの質問にゼマリアは素直な感想を述べ、横にいるゼエリアスはそれがいわゆる発情なのですよと心の中で囁く。


「では、カーンの評価は変わりなしという事でよろしいでしょうか?」


「あぁ、あいつが獣のような色目をしていた時は虫唾が走ったが、この薬を飲んだ今なら仕方なしと理解できる。ウーの素質ありと報告するとしよう」


「ありがとうございます!!!」


 ベルカンプは自分の事のように大喜びで飛び跳ねると、思わずゼマリアにハグをしてしまう。

 その時ゼマリアの体中に電気のような物が走り、続いてゼエリアスにもハグをするベルカンプを横目でチラ見すると、ゼマリアは口を開いた。


「…………ところで、少し汗を掻いたな。湯で体を拭きたいので、私の部屋に湯を運んでもらえまいか」


「はい。すぐに用意させます。ゼエリアス様の分も用意しますね」


 ベルカンプ自ら大部屋を出て行こうとすると、火傷の具合がだいぶ良くなった傷病兵が私が行って来ますと部屋を出て行く。


 一時間後、それぞれの宿屋の個室に湯が運ばれると、ゼマリアがベルカンプを捕まえる。


「ベルカンプ、少々長居が過ぎたので、明日にでもここを出発しようと思う。道中安心して湯を浴びれる機会も無いだろうから綺麗にしておきたのだが、背中に手は届かぬ。おまえに頼んでも良いだろうか?」


 え? ゼエリアスとベルカンプの声がハミングする。


「いや、はい。僕でよろしければお手伝い致しますが、女性を読んで参りましょうか?」


 慌てるベルカンプに、

「いや、時が惜しい。湯が冷めてしまうではないか。エリスも今から湯を浴びるわけだし、手を借りるわけにはいかぬ。となると、現在背中に手が届く人物はお主だけとなるわけだが」


 ゼマリアも精一杯の正当性を主張する。

 焦った手前、別に嫌がることでもないかとベルカンプが覚悟を決め、それではお背中お流ししますと発言すると、満足した表情のゼマリアは今度はゼエリアスに向き直った。


「エリス、私は現在、イルファン様と許嫁の身であるな?」


「はい、そうです」


「許嫁の身故、別の男性に体を触らせる事は好ましくない行為であるな?」


「……はい。…………一般的には」


「だがどうだろう? 精通も済んでない少年の場合、果たして男性と扱って良いものだろうか?」


「そうですね。男性とは少々事情が違うと思います」


「そうだな。だから、この行為は決してやましい事ではないと判断出来るな?」


「はい。……ですが住民の中にはじょせ」

「判断出来るな!!?」

「はい!!!」


 よろしいと、ゼマリアはゼエリアスに湯浴みが終わり次第部屋の前で警備し、誰も入れるなと指示をすると、ベルカンプの首根っこを掴み共に部屋に消えていく。

 ゼエリアスが聞き耳を立てながら湯浴みをすると、隣の部屋から フフフフフやら、く、くるしいですやらの声が聞こえてくる。


 とっくに湯が冷めきる時間になっても一向にベルカンプは開放されず、もうそろそろ日の出の時間かと思われる深夜になって、やっとベルカンプが単独で部屋から出てきた。


 部屋の前で脂汗を掻いたベルカンプはふぅと尻餅を着くと、

「お疲れ様でした。あの~…………ゼマリア様と……?」


 言葉の先を濁しながら聞きたい事を目で訴えるゼエリアス。


「あ、いや、その~…………変な事にはならなかったんですが、男を知らないゼマリア様が何をして良いかわからなかったみたいで、ずっと抱き枕に…………」


 今までずっと蟹挟みで巻きつかれていましたと告白したベルカンプに、ゼエリアスは隣から聞こえてきた、くるしいの声の意味に納得する。


 見た目は子供、頭脳は大人のベルカンプは、ある意味痛み分けでしたと発言するとゼエリアスは少々同情し、お役目ご苦労様とベルカンプを送り出した。


 薬も飲んでいないベルカンプがもやもやした気分で自宅への岐路に着くと、丁度日の出に差し掛かり、谷間を光で満たしていく。


 綺麗だなと暫くその光景を眺めていると、見張り兵がベルカンプに走り寄ってくるのが確認できた。


 こんな朝早くからどんな報告だろうとキュッと気持ちを入れ替えると、

「主上~~! カルツが! カルツが帰ってきましたー! 同行者もいる模様ですー!」


「よしっ!!!」


 賭けに勝ったベルカンプが拳を握ると、そのまま見張り兵と南門に走り出した。

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