第79話 リベンジソシエ
ゼマリアとホウガの治療を終えたベルカンプが自宅に戻ると、幸太から物資が届いていた。
添えられている手紙と資料を読んだベルカンプは、
「幸太の奴、こんなに気が利く奴だったっけか? 至れり尽くせりでなんだか怖いんだけど」
割と大ざっぱな性格だった兄が、痒い所に手が届くような配慮をしてくれている事にベルカンプは嬉しくて破顔する。
「なになに? 今度は何が送られて来たの?」
前回送られてきた物が物だっただけに、ソシエは最初からワクワクが止まらない。
そのソシエの期待を裏切るかのようにベルカンプはビニール袋に梱包されている土から植物の根を取り出すと、机に置いてみる。
「これは竹と言う木の地下茎みたい。これを土に埋めておくとね、びっくりするぐらいの速さで成長するんだよ」
ちょっとだけがっかりしながらも、おかしな幹の木ね~と、箱に同梱されていた成木を渡されたソシエがツルツルした手触りを楽しみながら感想を言う。
「この木はね、実に色んな物に利用出来るんだ。僕が驚いたのが竹の根は食用になるんだけど、幸太の奴がそれを察してくれていて色々な種類の竹茎を送ってくれてるんだよ」
いくつかの地下茎には針金でネームプレートが付いてあり、孟宗竹 (モウソウチク) 淡竹 (はちく) 真竹 (またけ) 布袋竹 (ホテイチク) 大名竹 (カンザンチク) 寒竹 (カンチク)と、実に6種類もの竹の茎を幸太は同梱していた。
「うわ~……。カンザンチクは夏に収穫、カンチクは10月頃が収穫時期なのか~。これはすげぇ助かる。助かるわ~」
食料の時よりだいぶ喜んでいるベルカンプと反比例して、食料の時よりだいぶつまらなそうなソシエ。
地下茎の吟味が終わったベルカンプが続いて製品化された竹細工一式を取り出すと、懐かしい玩具が目に付いたソシエは目を細める。
「わ~コロヌイじゃない。懐かしい~」
「え? 竹とんぼってマチュラでもあるんだ。……まぁ単純な形だから驚く事でもないか」
子供の頃、ナイフの使い方を習う時に作ったもんよ~と、ソシエは竹とんぼを慣れた手つきで回し、旋回力で竹とんぼは自室の天井まで一気に登りつめると大黒柱に当たってすぐに落下する。
「へぇ~すごいバランス。異世界の職人の技術ってやっぱ凄いのね。綺麗に飛んで行ったわ~」
2回、3回と熱心に竹とんぼで遊ぶソシエを横目にベルカンプは箱から数本の竹刀と、特注なのであろうか、箱の長さギリギリの全長160cmの長竹刀を取り出す。
「あら? それは異世界の木刀のようなもの?」
「うん。竹で出来ていてね、素材のせいでしなるから、木刀の何倍も事故が少ないんだ」
ゼマリアとカーンの試合時にこれを使ってもらおうと閃いたベルカンプは、良かった良かったと壁に竹刀を立て掛ける。
その後、申し訳程度の食料を取り出すと、最後に文明の利器が一つ入っていた。
「あら異世界の機械! その平べったい板みたいなものは何が出来るのかしら?」
不思議そうに見つめるソシエにベルカンプは二つ折の平べったい板を一つに伸ばすと器用にそれを操作し、やがてパシャという電子音にソシエがびっくりする。
何をされたんだろうとベルカンプに近づくと、その機械の表示画面にはすっとぼけた顔の自分が写っていた。
「以前ピエトロ様と話してた時にちらっと話題に出た、携帯電話って機械だよ。二人暮らしの時に幸太と一緒に使ってた復刻版のガラケーなんだけどさ、幸太が新しいのに買い変えたからって古いのを送ってくれたみたい」
「え!? って事はもういつでも幸太と通話が出来るの? やったじゃない!」
いやいやいやいや。この機械だけじゃ地球と通信出来ないんだよと説明するが、電波とかの概念が理解出来ないようで首を傾げるソシエ。
「通話が出来ないのに送ってくれたのは、何か意味があるの?」
「ほら、今みたいに、この機械には色んなオプションがあってね、写真や動画が撮れたりするから便利なんだよ」
「あ、ドーガ! テレビってのと一緒の奴ね? ベルがいつも言っているから一度見てみたかったのよねぇ」
それを聞いたベルカンプはもう一度だけ竹とんぼを飛ばしてみてとお願いし、渾身の捻りで横方向に飛ばしてドヤ顔するソシエが戻ってくると、ベルカンプは携帯の表示面をソシエに見せる。
すると、自分がたった今したばかりの行動が再生されている画面を見せつけられ、飛び跳ねた際にロングスカートがはだけ太股があらわになるシーンから始まり、ドヤ顔で終わるその動画に驚きつつも、一連の自分の姿に立ち眩みがする。
「な、な、な、なんて事してくれるのよ! はじめに言いなさいよ! こんな顔で写るなんて聞いてないわ!」
削除! 凄い機械だけど削除しなさいとベルカンプに命令するソシエに、
「ごめんソシエ、そういう機能は無いんだよ。この動画は永遠にここに残るんだ」
残念そうにベルカンプはソシエをからかう。
それを聞いたソシエは顔を覆うと30秒程しゃがみ込み、やがて立ち上がると真顔で、私にも使い方教えて? と甘えた声で操作方法をねだって来る。
何か思いついたなとは感じたベルカンプだったのだが、それでもいずれ操作に慣れてもらうのだからと写真と動画の撮り方を説明すると、悪魔のスピードで操作を暗記したソシエが態度を豹変させた。
「おい小僧、さっきはよくも乙女のアホ面を撮影してくれたな? 仕返しだ。脱げや」
携帯をテーブルに置いたソシエがベルカンプに掴み掛り、あれよあれよとベルカンプの服を剥いでいく。
「ソシエ! やめて! やめてください。リベンジポルノ法は地球では重罪なんです!」
「うるせぇ! さっきのドーガを削除出来ないなら道連れだ! さっさと脱ぎやがれ!」
成人した女性の力に6歳の男子など抵抗出来るはずも無く、身ぐるみ剥がされ股間を両手で抑えるベルカンプにソシエがぐへへへと携帯で写真を撮りまくる。
途端に部屋のドアが開きオットーが一時帰宅すると、目の前には全裸で辱めを受けている息子と、異世界の機械を持ってグヘグヘ言っている妹が視界に飛び込んでくる。
「…………おまえら何やってるんだ?」
事態が飲み込めないオットーに、
「ち、ちがーーーーーーーーーーう!」
我に返ったソシエの断末魔が砦にこだました。




