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第73話 幸太初交渉

 午後一で加工工場への配達を済ませた幸太は車を道の駅へ走らせる。

 幸太は具合良く駐車を完了させると今回は道の駅には寄らず、隣接する農産物直売所に足を運んだ。


 遅い昼食の時間に着いた幸太が店のガラス戸をガラガラと開けると、レジの横で店番のおばちゃんがおにぎりをつまんでいる。


「あらいらっしゃい。よし乃さんとこの子よね?」


「こんちわっす。食事中にすいません」


 あらやだ~お客さんはそっちでしょ~とお茶で喉を潤した横田は、ご自由にどうぞ~と手をパタパタさせた。


 幸太は店内を一周し、カゴに食料品を放り込むと、

「横田のおばちゃん、この4リットルの焼酎、売ってもらう事ってできますかね?」


 レジ横の横田に声をかけた。


「ん~? アンタまだ18歳よね? 飲料目的では売れないわねぇ。…………でも、購入理由がそれ以外なら売らない事もないけど?」


 ニヤっと笑う横田に幸太も反応し、

「本当に僕の飲酒目的じゃないんですよ。それに家には定年のおっさんも不定期で居候してますし」


 まるでそのおっさんのお使いかのような雰囲気を醸し出すと、じゃぁ一度に付き2本までならいいわよとお墨付きを頂き、ありがとうございますとお礼を言うと幸太はレジに焼酎のボトルを2本置いた。


「あ、それとですね。種籾が欲しいんですけど、ユメヒカリって種籾はここで買えますか?」


「あら? ユメヒカリ? よし乃さんとこの田んぼは別の銘柄育ててたんじゃなかったかしら?」


「家で育てるんじゃないんです。外国で米育てたいって知人がいまして、そいつに送ったろかなって」


 あ~なるほどね~と奥に引っ込んだ横田が帰ってくると、

「近所にね、2キロならあるって。でもユメヒカリは高いわよ? 2キロで12300円だけど? それなら明日の午後には用意出来るわよ?」


 他の銘柄なら10分の1の値段で買えるけどそれでもいいの? と横田は親切心を出すのだが幸太は丁重に断り、それをくださいとお願いをした。


 じゃぁ取り寄せるわねと再度奥に引っ込んだ横田の背中を見送った幸太は、ふと壁に貼られている苗木の一覧表が目に留まる。

 色々な果実の苗木があるんだなぁと目を走らせていると、梅の苗木の所で目が止まり、栄太の手紙の内容を思い出した。


 横田が帰って来るのを待っていた幸太は開口一番

「おばちゃん。質問なんですけど、梅干しの中に入ってる種って土に埋めたら発芽しますか?」

 と声を掛ける。


「え? 何よいきなり? ……そうねぇ、本気で試したことはないけど多分無理ね。梅干しは漬ける時に色々な調味料と触れるから、化学反応だがなんだか知らないけど、そんなんでダメになるんじゃないかしら?」


 あぁ~確かにと納得した幸太は、じゃぁ苗送ってやらんといかんかなぁと小さく呟いた。


「すいません。梅の苗が欲しいんですけど、一本いくらぐらいするもんなんですか?」


「そんなもん、ピンキリよ。今年植えて来年実の収穫したいなら数万はするし、接ぎ木してすぐの苗木なら数千円で買えるし」


 とりあえずいくらで何がしたいか言ってごらんなさいと横田にせがまれると、

「じゃぁ……2万。2万円で出来るだけ多くの苗木が欲しいです。実をつけるまで何年かかっても構いません」


 オッケーと横田は今度は目の前で電話をかけると、梅農家の中村と日常会話を絡めつつ交渉を始める。


「盛潟君。2万なら6本譲ってくれるって。もう一回聞くけど、実を付けるまで3年以上かかってもいいのよね?」


「はい。素人なもんで、まずは質より量だと思ってます」


 幸太の返事を聞き電話に意識を戻す横田が、え? うん、そう。よし乃さんとこの……と声が聞こえたかと思うと、

「あの~中村さんがね、状態が悪くて育つかわからないのが何本かあるそうなんだけど、それはいるかだってさ」


「それってタダですか? 売り物にならなくて捨てるだけのなら是非頂きたいんですけど」


 受話器に耳を戻した横田が相手方といくつか話した後通話を切ると、

「これも明日の午後ね。無料でいくつか付けてくれるそうよ? 生育すればもうけもんのばかりらしいけど」


 ありがとうございますと幸太は礼を言い、それじゃとレジを打ち込もうとすると何かに気づいた横田が頭を押さえた。


 どうしたんだろうと幸太は黙ってその光景を黙って眺めていると、

「ごめん盛潟君。……マージン乗せるの忘れてた。知り合いの息子さんなので最低のにさせてもらうけど、1割乗せて2万2千円になっちゃうけどいいかしら……?」


 苗木の取り寄せなんて久しぶりなものだからつい~と両手を合わせて横田は詫びると、

「いいっすいいっす。それより最低のマージンにしてもらってすいません」

 と横田を安心させるのだが、その時幸太はふとよし乃の顔が脳裏をよぎった。


「あの、横田のおばちゃん?」


 幸太は横田を呼び止めると、何かしら? と言う横田に、

「桃栗三年柿八年って(ことわざ)聞いた事あるんですけど、本当に桃栗って3年で出来るんですか?」

 と質問してみる。


「う~ん。断言は出来ないけれど、多分そうなんじゃないかしら? なに? 桃と栗も挑戦するの?」


「ちょっと交渉なんですが、桃の苗も梅の苗と同じ条件でお願い出来ないっすか? それで二つ合わせて、マージン3千円で!」


 あら、とちょっと真顔になった顔の横田が、

「それだとちょっとこっちが薄利すぎるわねぇ。良い返事が出来ないわ~」

 と揺さぶりをかけてくる。


「ん~ じゃぁそれと~、栗は苗じゃなくて実のまま植えてみます。それを一袋と」


 表情が変わらない横田を横目に

「あそこの、野菜の種。収穫が早い野菜の種を中心に5千円分購入でどうだ!」


 バナナの叩き売りのように、どうでぇこのやろうと啖呵を切る真似をした幸太に横田の表情も崩れ、

「いいでしょう! 乗った!」

 と心地よい返事が帰ってきた。


 桃の苗木も同じように「よし乃さんの息子」の恩恵に預かり、これまた数本おまけがついてくるという事で幸太は再度お礼を述べ、合計で5万円を超える支払いに「盛潟君。太客じゃないの」と横田にからかわれながら支払いを済ませた。


「随分お金持ちなのねぇ、どうしたの?」

 

 横田に説明を求められた幸太は、よし乃の下でわさび田で働く事になった件、老後の蓄えが終わったよし乃社長が今更貯め込んでもと、社長と新米社員の給料が逆転するという恩恵に預かりそうという件をほのめかすと、なるほどねぇ~うらやましいわ~と横田は納得し大きく頷いた。


「それに今、知り合った外国の子に支援してやろうと思ってまして、稼がなくちゃって燃えてるんすよ!」


 だからいらない物がある人がいたら紹介して下さいと挨拶してガラス戸を開けようとしたら、

「盛潟君、この村のメインストリートあるじゃない? あのシャッター商店街わかるでしょ?」

 と背中から横田が声をかけてくる。


「はい、8割がた閉まっててちょっと寂しいですよね」


 振り返りながら返事をすると、

「あの商店街ね、昔は活気があったのよ。時代に流されずに最後まで個人で頑張ってた人達が踏ん張ってたんだけど、世代交代と共にみんな店を閉めてしまったの。流石にタダとはいかないだろうけど、さっきみたいに交渉すれば売れ残りの商品を大量購入出来るかもしれないわよ?」


 ほぉ~……。途端に幸太の目がぎらつき、良い情報をありがとうございますと再度挨拶するとガラガラと戸を閉めた。

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