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第67話 ロータス来訪

 ベルカンプが荷物を自宅に置きに戻り給水して南門にたどり着くと、カーンとオットーが既に出迎えの為に待機している。


 それを見たベルカンプは二人に目配せしてから住民の輪に紛れて前列に陣取ると、すぐさま背後から両肩を掴まれ思わず振り向いた。


「異世界の少年よ、大活躍だったようだな。クリスエスタの内官を代表して礼を申し上げる。此度は大儀であった」


「あ、ハタロス様。この前の審問会以来ですね。お変わりはございませんか?」


 お褒め頂きありがとうございますとベルカンプは頭を下げると、

「審問会でベルカンプを吟味し、財務官で収まる器ではないとは言ったモノだが、まさかこんなに短期間で救世主の働きをするとはな。もはや畏怖を通りこして尊敬の念しか出てこないよ」


 オットーと同年代であろう風貌で既に財務次官の座についているハタロスがベルカンプの頭を撫であげると、ベルカンプは6歳の少年らしく目を細めて微笑んだ。


「本当に不思議だな。こうやって撫でているとただの愛らしい少年でしかないのに、その少年の成した事と言ったら…………」


 ハタロスが自答して表情を崩すと、

「ハタロス様。王宮でどうお聞きしたかは存じませんが、本当に幸運が重なっただけの勝利だったんです。異世界の知識が役に立ったのは否定しませんが、私が活躍したのは戦闘までの準備と対策だけで、実際の活躍は砦の兵士達なのですよ?」


 自分の実力以上に話しを盛られるのは(たま)らないと強い目でハタロスを見つめると、意図を汲んだハタロスもそうであったのかと同意した。



 そうこうしている内に馬車を先導する軽鎧の男が門前に到達し、下馬するとゆるりと迎えの二人の前に立ち塞がった。


「遠路ご苦労様でした。こちらがお願いしていたガライ使者一向の方々でお間違えはございませんか?」


 オットーが丁寧に質問をすると、

「その通りでございます。此度はガライの盗賊がクリスエスタの皆様にご迷惑をお掛けし、申し訳ありませんでした。今回の件はガライ執政のあずかり知らぬ事であり、それを捕虜の前で証明する為に馳せ参じました」


 先頭の護衛風情が流暢な立ち回りをし、少々違和感を覚えながらも、オットーはご丁寧にどうもとクリスエスタ形式の礼をとる。


「砦長のカーンだ。学が無いもんでこんな感じでしかしゃべれねぇが、随分小規模なんだな。今回重鎮の誰かが来てくれるとうちの伝令から聞いてるんだが、一体誰なんだ?」


 クリスエスタの一団とは違い、被害者の立場であるのだから過度に(かしこ)まる必要もないだろうとカーンが普段通りに話すと、対峙する軽鎧の男がカーンに向き直る。


「野営の準備をして来いと言われましたのでそんな地域に大勢で押しかけてはご迷惑になるかと思い、最少人数の4人でやってまいりました。申し送れましたが、私は第11代ガライ市長、ジョニー・ロータスと申します」


 途端にガヤガヤと住民から驚きの雑音が漏れ始め、意表を突かれたカーンが「遠路ご苦労さんです」と慌ててクリスエスタ形式の礼をとった。



「ハタロス様。ガライ市長という事は、執政の長自らが訪れたという事ですか?」


 ベルカンプが驚きつつも背後に控えるハタロスに小声で質問をすると、

「表向きにはそうなるな。……だが、5年任期の市長と言うのはお飾りの役職でもあると聞くぞ。こちらで言う、エスタ王自らが来たと考えるのは少し事情が違う」


 なるほど、確かにそうですねとベルカンプは前を向いたまま相槌を打つと、オットーが背後に控えるララスに目配せをし、本人で間違いないと首を縦に振るのを確認したオットーが口を開いた。


「こちらの事情を鑑みて頂き誠に恐れ入ります。今から急ぎ湯を沸かしますので、まずは旅の汗をお流しくださいませ」


 ご好意に甘えますとロータスが頭を下げると、カーンが控える兵士に目配せし、意図を汲んだ数人の兵士が走り出した。


 続けて砦内に案内しながらロータスが護衛する後続の馬車が目の前にやって来ると、

「あぁ、これは馬車に似せた荷馬車だったのですね。てっきりこの中に重責の方が乗っていると騙されてしまいました」


「そうでしょう。仮に人さらいに狙われても私は騎乗していますから即座に離脱出来ますし、荷物をほんの少し下ろすだけで3人が寝る空間が出来ますので、見張りを一人立たせるだけで簡単に休息が取れるので便利なんです」


 なるほど、うまい事考えたもんですねとオットーはしきりに関心すると、それを見たロータスはカラカラと笑った。


「ところで野営をお願いしましたが、4人となると小屋一つぐらいならご用意出来ます。従者の方3人は小屋に寝て頂き、ロータス様は粗末な部屋ですが宿屋に泊まって頂くと言うのは如何でしょうか?」


「おお、それはあり難い申し出ですが、私も小屋に泊まらせて頂きます。今回連れて来た連中は私が市長になる前からの付き合いなものですから、是非気心知れた仲間と一緒に休ませて頂きたい」


「畏まりました。雨露を凌ぐだけの質素な小屋ですが、そちらに毛布を人数分用意させて頂きます」


「よろしくお願いします」


 二人は笑顔で見つめあうと肩を並べて歩き出すのだが、オットーが一瞬だけ視線を脇の住民に移すのを見逃さなかったロータスがその方向を向くと、一人の少年が目に留まる。


「もしかして、君はベルカンプ少年かな?」


「はい、執政の長自らのご来訪痛み入ります。ロータス市長様」


「おお、やはりそうか。なるほど、なるほどな」


 何か感じ入るものがあったのか、特に感想も言わず納得して頷くロータス。


「ところで君は、会合には参加するのかな?」


「私は公式の役職を何も持っておりません。本来ならそのような会合に参加出来る資格などあるわけはないのですが、住民代表と称して強引に潜り込もうと思っていました。…………ですが、先程からロータス様の人格を拝見していると、素直にお願いしても了承を頂けるんじゃないかと……期待してしまいます」


 ベルカンプはそう言いながら愛らしい笑顔でニコッと笑うと、その笑顔が眩しくて、ロータスは表情を曇らせた。


 その反応に何か失態を犯したとベルカンプの全身に冷や汗が噴き出すのだが、その狼狽した表情にロータスも慌てて、

「いや、すまないすまない。その笑顔に息子の事を思い出してしまってな。心が一瞬ガライに飛んでいってしまっただけだ。私は最初からこの砦の指導者と折衝するつもりで来たので、会合には是非参加して頂きたい」


 ロータスは最後にもう一度詫びるとベルカンプの頭をポンと一度撫で、安堵して息を漏らす少年を親の目で眺めると肩で手を振り歩いていった。


「ロータス殿の子供は病気か何かなのだろうか? 表情から判断するにあまり状態が良くないと言う事なんだろうが…………」


 背後でハタロスの声が聞こえ、そうなんでしょうねぇと心拍数を戻しながらベルカンプは相槌を打つと、

「よし、では我々も少し休むとしよう。あの様子ではあまり緊迫する場面もないであろうが、思えば私も本日ここへ来たばかりだからな」


 長旅お疲れ様でしたとベルカンプは言うと、ハタロスもベルカンプの頭をポンと一度撫で、同じく肩で手を振り宿屋の方に歩き出した。

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