大魔導師、大宇宙の怪物と対峙する 4/4
オレはマッドリーパーに、[発情]の魔法を唱えた。
家畜などにかける、子供を作らせるための魔法だ。
見えない何かが、マッドリーパーの精神を浸食していく。
そしてオレは気がつく。
おかしい、魔法の手ごたえがよすぎる。
なんと言ったらいいんだろう、鉄球だと思って持ってみたら実はゴムボールで、その軽さに驚いたような気分というか。
そんなことを考えていると、急にビーッという鋭い音が、宇宙服のスピーカーから響いた。
「なんだ!」
その耳に痛い音は、すぐ止み、次にカナデの声が聞こえてくる。
『大丈夫ですか、マスタぁ!』
「何があったんだ?」
『目の前のマッドリーパーですよぅ! いきなり強い通信波を出して、それを宇宙服の通信機能が拾ったんですぅ! フィルターする設定に変えまし……あっバリアはりますぅ!』
なんだ? と思うまもなく左右を見回していたオレの目の前が一瞬暗くなり、次に明るくなった。
『ばばば爆発ですかねぃ! マッドリーパーの装甲がマスターに飛んできてバリアに当たりましたぁ!』
暗くなったのは装甲が飛んできたときかな。明るくなったのはバリアが発動し、そのバリアに装甲が当たったときだろう。直径と高さが二メートルぐらいの半円球のバリアーを張る予定だったが、一瞬だったのでよくわからなかった。真空中のため、完璧な無音だったし。
船体にでも当たっていたら、その音が船体に触れている足を伝って聞こえたかもしれないが、バリアにさえぎられ、当たることはなかったのだろう。
マッドリーパーを見ると、なんか外見がナメクジみたいになっていた。ところどころを甲殻がおおっているが、船の装甲は完璧になくなっている。水みたいなのが体にまとわりついている。
『新たにマッドリーパー、二匹来ますよぅ』
魔法に反応したのか、もしくはバリアを使ったためそのとき[認識阻害結界]が弱くなったせいなのか、物が思いっきり当たったようだが船が回転とかしていないのでもしかしたら慣性制御装置やスラスターなんかも使ったのかもしれない、どんな理由にせよ、近くにいたマッドリーパーのうち二匹がこちらに興味を持ってしまったようだ。
『あ、爆発したマッドリーパーが、その二匹のほうに向かっていきますねぃ』
オレが[発情]をかけたマッドリーパーが、二匹のほうに向かっていく。向かってくる二匹は上下に分かれ、オレが[発情]の呪文をかけたマッドリーパーは、オレから見て下に行ったほうのマッドリーパーに向かっていった。おしりを向けていて、そこから青白い光りみたいなのが出ているのがよく見える。装甲を捨てたせいだろうか、[発情]の呪文にかかったマッドリーパーが、やけに機敏に動いている気がする。すぐに避けようとしていたマッドリーパーを捕らえ、絡みついた。体がよく伸びている。オレはこちらに向かってくるマッドリーパーを視界から外さないようにしながら、横目で[発情]の呪文にかかった一匹とそれに絡みつかれた一匹を観察し続ける。
『あ、今度は、あの絡みつかれている方のマッドリーパーから、通信波が出ていますねぃ』
そして少しの時間のあと、今度は装甲があたりに散らばるさまが、よく見えた。
絡みつかれていたほうのマッドリーパーの装甲が、はじけたのだ。
装甲があたりに散らばるさい、火が出ているようにも見えた。体の中に酸素か何かがあったのだろう、本当に爆発みたいだ。宇宙空間で、こういうふうに空気などを消費するのは、かなりエネルギーを消費する無駄な行為に思えるが。
[発情]の呪文にかかっていたほうが、装甲がなかった状態でその爆発に巻き込まれたせいだろう、体中から青や黄色の液体を出している。二色だが、血にあたる体液なのだろうか。もともとあった体にまとわりつく透明の液体と混じり、とてもカラフルだ。
二匹が、お互いがお互いを求めるように絡み合い始める。
なんとなくナメクジの交尾の動画を思い出すシーンだ。官能的でさえあると評価されていた動画だったが、オレはナメクジが苦手だっため最後まで見られなかった。トラウマが刺激され、ついっと目をそらしてしまう。こっちに近づいてくる、マッドリーパーを視界の真ん中にとらえる。こいつは装甲を着ている。オレのトラウマを刺激しない、良いマッドリーパーだ。
『おっとぉ。近づいている一匹、効果範囲に入りましたよぉ!』
無情なカナデの声が聞こえてきた。オレは魔法を唱える。
「[発情]」
しばらくし、良いマッドリーパーは、悪いマッドリーパーになった。
やっぱり手ごたえが軽い。簡単に魔法がかかる。
今回は、こちらの船に吹き飛んだ装甲が当たることはなかったようだ。
『マスタぁ、遺跡のほうから、新しいマッドリーパーが五匹来てますぅ』
マジかい。これは、オレの魔法に反応してるのかな。それとも発情状態にある三匹のマッドリーパーに反応しているのか。
『今まで交尾していた一匹と、今マスタぁが魔法をかけた一匹が、こっちに来ている五匹に向かってますねぃ』
船は遺跡のほうに飛んでいる。マッドリーパーは、その遺跡のほうに集まっていて、新たな五匹は、そちらのほうからきているようだ。
最初にオレが[発情]をかけた一匹は、空中でヒクンヒクンしている。
『マスタぁ、あのヒクンヒクンしている一匹、また効果範囲内に入っていますがぁ』
いつの間にか、この一匹がまた効果範囲内に入っていたようだ。
「ああ、わかった」
オレはそう答え、新たに二つ魔法をかけた。
「[発情]。[発情維持]」
[発情維持]をかけられた種牛は、交尾をやめることができなくなる。優秀な種牛にかけると、そいつの子牛を大量にゲットできるのだ。
ヒクンヒクンしていた一匹は、狂乱に復帰した。[発情維持]は二匹目のやつにもかければよかったな。
[発情]以外の魔法でも手ごたえは同じだった。簡単にかかっている気がする。魔法に弱いのか、エロい魔法に弱いのか。オレの使う魔法に反応してよってくるのも謎だが。
『ああ!』
突然カナデの悲鳴が聞こえてきた。
「どうした!」
『ううう、マッドリーパーの排泄物がバリアにつきました。とれませんよぅ……』
……まあ、おもらしがついたぐらい、別にいいだろう。
後で宇宙空間で魔法の火の玉が出るかの実験もかね、燃やしてやろう。
こちらに向かっている五匹に対し、発情している三匹が向かっていった。こちらに向かっている五匹のうち三匹が絡みつかれている。そのうち、こいつらも爆発するだろう。残った二匹が、こちらに向かってきている。
『新たに二匹、効果範囲内ですよぅ!』
「[発情]。[発情維持]。カナデ、バリアを」
『はいぃ』
一匹に[発情]と[発情維持]をかけた。バリアがオレを半球状に覆っているはずだが、少し目の前が黄色がかっているような気もするが、よくわからない。大丈夫なんだろうか。
そんなことを思っていると、オレが魔法をかけた一匹が爆発した。近くだったからか破片がバリアに当たったようだ。目の前がまぶしく光っている。バリアに何かが当たると、当たられたバリアが光るんだろう。前にカナデのバリアに石が当たっていたときは光っていなかったような気がするんだが、あれは映像を加工していたのだろうか。もしくは今はバッテリー駆動のため機能がダウングレードしていて、光るようになってしまったのかもしれない。あとで聞いてみよう。
[発情]と[発情維持]をかけられた爆発した一匹は、近くにいたもう一匹に絡みついている。こちらに向かっていたのは二匹なので、一緒に来ていた残りの一匹だ。
しばらくして、その残りの一匹も爆発し、自分の装甲を脱ぎ捨てる。ぬめぬめした体が宇宙空間にさらされる。
「カナデ、バリアをいったん切ってくれ」
目の前がクリアになったのを確認し、爆発したばかりの一体へ[発情維持]をかける。カナデとは軽い精神同調が行われている。オレが魔法を唱え終わったのがわかったんだろう。魔法を唱え終わったとたん、バリアが復活した。
『今まで来ているのは全部発情状態にあるようですが、新たに二十匹、遺跡のほうからこちらに向かってきていますよぅ』
マジかよ。二匹じゃなくて二十匹か。多すぎだろ。
とりあえず、今までこっちに来た八匹のうち三匹には[発情維持]がかかっている。そいつらは、勝手にそっちに突っ込んで行ってくれるだろう。残った五匹のうち、元気に発情中なのが三匹、空中でヒクンヒクンしているのが二匹だ。
[発情維持]がかかった三匹と元気に発情中な三匹の計六匹は、遺跡からこっちに向かってきている新たな二十匹のほうに向かっていった。
見た限り、彼らにオスとかメスとかはなさそうだ。雌雄同体というやつだろうか。攻めに回った場合、一回の性交で精魂尽き果ててしまうのはいただけないが、発情したもの同士で性交をせず、発情していないものに向かっていくその性向は賞賛したい。まだ性的準備のできていない、青い果実が好きなのだろう。
「カナデ、空中でヒクンヒクンしてる二匹に魔法をかけたいんだが」
『もうちょっと待ってくださいよぅ。あっ、効果範囲に入りましたよぅ』
「よし。[発情]。[発情維持]。そして、もういっちょ[発情]。[発情維持]」
これで[発情維持]がかかっているのが、全部で五匹。たんに発情しているだけなのが三匹か。
発情しているだけの三匹は、性交が終われば精根尽き果て、空中でヒクンヒクンしてしまうが、代わりに彼らが相手をしていた三匹が発情してくれる。
こっちに来る二十匹のうち、八匹は、彼らによって止められると思うが。
『おおう?』
そんなことを考えていたら、カナデが変な声を上げた。
「どうした?」
『こっちに向かって来ている二十匹ですがねぃ。半数の十匹が、先行して進んでいた、こちらの発情している六匹の近くにですねぃ、まとわりついているようですよぅ』
おお、それはナイスだ。なんでだろうな。交尾相手を引き寄せるフェロモンでも出ていて、それが複数が集まっているせいで強くでもなったんだろうか。
『ちなみに、今さっき[発情維持]をかけた二匹は、こちらに向かってきている残りの十匹のうちの二匹へ絡み付いてますねぃ』
ということは、こっちに向かってきているのは残り八匹か。それでも数が多いぞ!
最初の魔法をぶつけてからそのリーパーが爆発するまで、多分プラスで二回ぐらいしか魔法を使えない。魔法を使うときはそれが阻害されないようバリアを切っているので、四回目の魔法を使っている最中に爆発されたりして装甲がこっちに飛んできたりすると、それがオレに直撃してしまう可能性がある。せめて六匹なら、どうにかなるのだが。もう逃げちゃうべきだろうか。
そんなことを考えていたら、カナデさんがいとも気軽にこんなことを言ってきた。
『少し数を減らせるか、やってみますよぅ』
「可能なのか?」
『時間稼ぎ程度にしかならないと思いますがねぃ。ヴィクターさんがさっきから、ずっと用意していたんですよぅ』
おお、おっちゃんが用意してくれていたのか。それは期待できるな。
「わかった、頼む!」
『いきますよぅ』
オレは何が起こってもいいように、無重力の中、中腰になって事が起こるのを待つ。
……なにも起こらない。船が揺れたりもしないし、何かがこちらに飛んできたりもしない。
「どうなったんだ!」
カナデに問いかけると、答えが返ってきた。
『成功ですよぅ! こちらに向かっている八匹のうち、四匹ほどがおとりに食いついて、そっちに向かっていますぅ』
おとり?
『ヴィクターさんがマッドリーパーが発情するときに出す通信波を解析してですねぃ、それを出すデコイを近くの岩に向かって射出したんですよぅ。仲間の距離とかによって、ちょっとずつ出す通信波が違うようになっていたみたいですがねぃ、岩からそれが出てるんですから不思議でしょうねぃ。彼らにとっては金魚がしゃべって愛をささやいているみたいな光景なんでしょうかぁ』
くふふ、と笑いながらカナデが言う。確かに四匹が方向をずらし、この船の左後ろを飛んでいる岩にゆっくりと向かっていっているようだ。
マッドリーパーの発情時のものじゃなくても、通信波だったらなんでも興味を持ったような気もするが、どうなんだろうな。
そんなことを思いながら、残りのこちらにゆっくりと向かってくる四匹に集中する。
せめて六匹と思っていたが、この数にまでなってくれたか。十分何とかなる。
『前方四匹、三百テラメートルですよぅ!』
「よっしゃ。[発情]、[発情]、[発情]。カナデ、バリアを!」
『はいぃ』
爆発した破片がバリアに当たり、目の前が明るく光る。目の前では、残りの一匹に[発情]をかけられたリーパーが絡みついていた。そして二匹が、デコイに向かっていった四匹のところに飛んでいく。これで発情していないリーパーの数は二匹になるはずだ。オレは目の前で絡みつく二匹に[発情維持]をかけた。これでその発情していない二匹がやってきても、この目の前の二匹が絡み付いてくれるはず。
そして、そう思っていたオレのもくろみはあたることになる。
八匹全部が発情した。
それにしても自動失敗が出ないのは、魔法の手ごたえが軽いことと関係があるんだろうか。
そんなことを考えていると、運よく、性交を終えた二匹のマッドリーパーが空中でヒクヒクしながらこちらに漂ってきたのをオレの目がとらえる。さっき[発情]をかけられ、デコイに向かっていった四匹のところに飛んでいった二匹だ。
オレは優しい気持ちで一匹ずつ[発情]と[発情維持]をかけてやった。産めよ増やせよ地に満ちよというやつだな。あとで駆除するけど。
まあ一説では、今は、六日で世界をつくったあとの、神様が休みをとっている七日目の期間だそうだから、産んで増えて地に満ちたら、八日目の神様が仕事復帰したときに駆除されるのは正しい流れなんだろう。
『遺跡のほうから、新しいマッドリーパー来ますよぅ!』
カナデの声。よっしゃ、いくらでもこいや! オレは気合が入っている。それにこっちは二十八匹の発情したマッドリーパーがいるんだ。そいつらがかなりの数を止めてくれるだろう。無敵の軍団である。
「何匹だ!」
オレの質問に、かなでの答えが返る。
『二百十二匹ですぅ!』
二百十二って……。多すぎだろ。
遺跡にいたの、ほとんどこっちに来ちゃってるんじゃないだろうか。
『すごいですねぃ。ただ戦っていただけじゃ、こんなにマッドリーパーの興味引けないですよぅ。お仲間が発情しているのに興味でももたれたんですかね。遺跡の攻撃やめて、みんな、こっち来ちゃってますよぅ!』
すごいといわれているが、あまりほめられている気はしない。
「うん、こりゃダメそうだな。カナデ、逃げよう!」
『私もそう思っていましたよぅ! 船外に出ているマスター席に座ってください、ブリッジまで戻しますよぅ!』
飛び乗ると安全ベルトが自動で絡みつき、また卵の殻のようなものがオレを包む。体が上に引っ張られるような感覚、ベルトがあるため上に取り残されるということはない。降下が止まり、殻が割れる。
「エンジンを立ち上げる準備をするぞー」
おっちゃんの声が聞こえてきたので答える。
「お願いします!」
「おいさー」
『じゃあ立ち上げ……あっ』
カナデが言葉を途中で切った。
「どうしたんだ?」
理由を尋ねる。
「ん? おー……」
そして今度は、おっちゃんが声を出す。何があったんだ?
「カナデ、何があった!」
強い質問の言葉。それに聞き覚えのない甲高い声で答えが返ってくる。
『その遺跡、私がもらったわ!』
なんだ?
『通信波ですよぅ! どこからかこの船に通信波が放たれ、それを受信しましたぁ! マッドリーパーの全個体がその船の通信波に反応し、発情モードから襲撃モードになると思われますぅ! 気をつけてくださいよぅ!』
おおう。普通の船が近くにいると思うと、発情モードから襲撃モードになるのか。さっきおっちゃんが通信波を使ってリーパーの気をそらしたとき、マッドリーパーが発情時に出す通信波以外のシグナルを出していたら、船か何かが近くにいると思い発情モードがとかれてしまったかもしれないのかな。
『マッドリーパー、襲撃モードになりましたぁ! マスターが[発情維持]をかけたもの以外の個体が、通信波が発された地点に向かっていますぅ。その通信波が出たところは、私たちと遺跡をはさんで反対側の場所……、あっ今そこに新しい宇宙船の反応があらわれました、迷彩機能が切られていますが、私と同じヴィオナムル・シップですよぅ! 高速で遺跡に向かっていますぅ!』
オレが二百四十匹のマッドリーパーをこっちに集めていたわけだからな。今、遺跡にはマッドリーパーがいないか、かなり数が少なくなっている。まっすぐ飛んでいけばいいわけか。
おとりにされた、という理解でいいのだろうか。
『新しいヴィオナムル・シップの反応、ヴィオナムルの遺跡の中に消えましたぁ! 遺跡が起動していますよぅ! 警告! この距離で兵器が使われたり、あの遺跡のやり方の最大出力で亜空間力場が作成されたりすると巻き込まれる恐れがありますぅ!』
あ、あの謎のブラックホール砲とかか。それはやばそうな気がする。
「逃げてくれ!」
オレは、あわててコマンドを出した。
「エンジン、立ち上げ開始するぞー。二秒くらいかなー」
おっちゃんが、ノンキな声とは裏腹のすばやい動きで、目の前の操作盤に手をひらめかせる。
『立ち上がりましたぁ! 離脱しますよぅ! ああ一時亜空間力場の作成が全開でされそうですぅ!』
そして、また聞き覚えのない甲高い声が聞こえてくる。
『一時亜空間力場の作成ってのを発動するわ! 遺跡を中心に時空乱流ってのが発生するらしいから気をつけなさい! もう止められないからね!』
それに対して、カナデが叫んでいる。
『その警告は、もっと前に言ってほしかったですよぅ!』
つーか時空乱流ってなんだ、聞いてないぞ。
『というかこっちを助けるつもりなら先に言ってくださいよぅ! 離れるより、リーパー避けながら遺跡に入ったほうが早かったかもしれないんですからぁ!』
『わかったわ! ディア、遺跡の扉を開きなさい!』
『もう遺跡から離れるほうに飛んでるから遅いんですよバカぁぁ!』
『むっ、バカとはなによバカとは! バカって言ったほうがバカなんですからね! そんなバカなあんたにリーパー避けながら遺跡に入るなんてまねできっこなかったわよバーカ、バーカ!』
カナデが、その見知らぬ声を無視し警告した。
『ああ! 時空乱流発生しますぅ。離脱、間に合いませんん!』
おい、けっこう、やばいんじゃないか?
そのとき、おっちゃんのノンキな声が響く。
「オラの船の三分の一を爆発させるぞー。譲ちゃんの改造が役に立ったなー」
『おおお、そうでした、それがありましたぁ! こんなこともあろうかとなどとは、これっぽっちも思っていませんでしたが、ワルノリでつけていたんですよぅ!』
……うん。非常にいやな予感がする。
『船体のお腹にヴィクターさんの船がしっかりついているのを確認しましたぁ! マスタぁ、慣性制御装置が吸収しきれない衝撃が来る予定です。舌噛まないよう気をつけてくださいよぅ!』
何をするんだ、と聞くまもなく、その衝撃は来た。
「ポチっとな」
そのおっちゃんの懐かしいフレーズとともに。この世界にそれに類するフレーズがあるのか、翻訳チートさんが良い仕事をしているのか気になって仕方ないと、そんなことを考えている記憶を最後として、オレはマスター席に叩きつけられ意識を失うことになる。
後で聞いた話だが、なんでもカナデがおっちゃんの船を修理したときにつけた追加機能の一つを使ったらしい。一部が変形して腕が生える以外の、オレが知らなかった機能の一つだ。
船の三分の一を壊しながら、車がニトロを使ったときのように急速前進するという、そんな機能をつけていたそうだ。
結局おっちゃんも耐え切れず気絶したと言っていた。おっちゃんは船を一人で操作していたはずだから、その乗組員が耐えられないような衝撃を出す機能は、問題がある気がして仕方ない。
まあ助かったんだから文句も言えないけどな。オレは額の汗をぬぐい、痛めた首筋に手を当てつつも、そんなことを思う。
最高出力で無理やりにつくられた亜空間力場も、付近のマッドリーパーを一掃したそうだし、問題もなくなったわけだ。カナデさんは、もっと弱い力場で十分動きを止められ、時空乱流の発現も小さくなったはずだと怒っているようだが。
オレはそれよりも首の痛みが気になってしょうがない。[HP回復]をかけているんだけど、激しい痛みで集中が阻害され、魔法がうまくかからないんだ。どうやら、まったく気がついていなかった弱点を発見してしまったらしい。今回は痛み止めの薬を使うにしても、これは、どうにかして克服しないといけないだろう。
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