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大魔導師、人類の危機に立ち向かう 3/7

『うっはっはー! 何もないですねぃ!』


「一応、気をつけるんだなー。座標的には、例の人工建造物があったってニュースの座標に近いみたいだからなー。何があるか、わからんぞー」


『いやいやー、こんだけ時間経ってるのに何もないってぇ。それに、遺跡のある惑星まで、もうすぐじゃないですかぁ! よくよく考えれば、人類が知っていた亜空間力場と遺跡の距離、こんなに近いんですからねぃ。むしろ、今まで情報を一片たりとも持ち帰れなかった人たちがバカなんじゃないですかねぃ』


 カナデが、いかにもバカにしてますという声音で言った後、あっはっはっはーという大笑いをしていた。

 テンション高めである。


 実際、遺跡のあると言われる惑星と、その近くの人類に知られている亜空間力場の距離は、異様なまでに近かった。

 あのティタニアの依頼で行った、ティラマイトニウムを集めた惑星と、その近くの亜空間力場以上に近い。


 何かあったときに回避行動が取れるよう、エレナさんには、少し遅めの速度で射出してもらったにもかかわらず、エンジンを切ったカナデの慣性飛行で、六時間も飛べばつくほどの距離だった。


 もう、かれこれ五時間以上飛んでいるので、エンジンをつければ、十分程度で惑星のある遺跡についてしまうだろう。


『いやー、それとも我々が優秀すぎたせいですかねぃ。君たちが愚鈍なのではない、私たちが優秀すぎたんだー、みたいな感じでしょうかぁ』


 あっはっはー、と笑うカナデが、さらに言葉をかさねたときだった。


『もう、矢でも鉄砲でも持って来いって感じですよぅ!』


 ドーンという爆音が船内に響いたのは。


『な、ななな、なな、何事ですかぁ!』


 うん、オレが聞きたいよ。

 むしろタイミングがよすぎで、お前のいたずらじゃないかと疑っているほどだ。

 そんなツッコミを脳内でしていると、おっちゃんが答えてくれる。


「エンジン立ち上げるぞー。見えない機雷だー」


『なんで、そんなのがあるんですかぁ! 矢でも鉄砲でも持って来いとは言いましたが、機雷もってこいとは言ってないですよぅ!』


 カナデさんが無茶な文句を敵さんに言っている。

 いや、敵かどうかはわからないが。


 エンジンが立ち上がったのだろう。

 重力が戻り、オレのかけた[認識阻害結界]が破られた感覚が襲う。こういう普通の精神状態のときはわかるのだ。


 そんな中、おっちゃんから声が上がった。


「おー。これは、まずいかもしれないんだなー」


「どうしました?」


 そのオレの質問には、カナデが答えた。


『どうなってるんですかねぃ。どこに機雷があるか、まったくわかりませんん……』


 ……それって、カナデのレーダーに、さっきの見えない機雷が映っていないってこと?


「もしかしたら、この周辺に、もう他の機雷がないだけかもしれないがなー」


 そのおっちゃんの言葉に、カナデがなんかひらめいた、みたいな声を出して言った。


『適当に、そこら中にビーム撃ってみればいいんじゃないですかねぃ。えい』


「……特にビームに当たって爆発したものはないみたいだなー」


『はぐれ機雷だったようですねぃ! マスタぁ、エンジンつけちゃいましたし、あの惑星に全速力で飛んでっちゃって構いませんよねぃ!』


 ……できればビーム撃つ前にも許可を求めてほしかったが、まあ、いいか。


「いいぞー」


『ひゃっほーうい!』


 オレが許可を出し、カナデが奇声を上げ惑星に向かって進み始めたとたんだった。


 船が揺れた。


 今度は強いバリアがあったため衝撃が船まで届かず、爆音は聞こえなかったようだ。


『な、ななな、なな、なんですかぁ!』


「機雷だなー。どうやらビームに反応しないみたいだが、この船の何かに反応して、接触すると爆発するみたいだなー。威力は小さいみたいだが、あまり短時間のうちに連続で当たると、バリアのキャパシティーを越える可能性もあるぞー。最初ので、けっこうダメージ受けてるしなー」


 ……ふむ、それって、ちょっとずつ当たって爆発させていけば、バリアのキャパシティーを越えず、先に進めるということだろうか?


「ゆっくりと進めばいいかもしれないがなー。これは足止めのための機雷の可能性もあるからなー。できれば、ここでゆっくりしていたくはないぞー」


 おっちゃんが言った。オレの考えを読んだようで、まるでエスパーだ。

 それにしても機雷か。魔法で、どうにか場所を特定できるだろうか。


 何か特殊な鉱物が使われていれば、[鉱石発見]で特定できるかもしれないが、「鉱石」ってより、それから取り出された「鉱物」だからな。

 ゲームを元にしたコミックでは、ミスリルでできた王印を探知していた記憶もあるが、あれはルール違反じゃないかという議論もあった。原作者が小説化した際は、別の方法で見つける話に変えられていた。

 オレの魔法が、どちら基準になっているかは、わからない。


「どんなものでできているかとかは、さすがにわからないよな……」


 一応カナデに聞いてみると、おっちゃんとカナデが答えてくれた。


「んー。機雷そのものは見えないが、爆発した破片が、あたりにあるなー。これ自体レーダーに映りにくいようだが、解析すれば何かわかるかもしれないなー」

『この破片、トラクタービームをはじくんですよねぃ。機雷が見えないので、近ずくと新たに爆撃を受けるかもしれないんですがぁ……、回収しますかぁ?』


 うーん、どうしよう。ゲームのルールがハッキリしないんだよな……。

 「見た」だけの鉱物でも、[鉱石発見]で場所を特定できるだろうか。ティラマイトニウムを発見するために[鉱石発見]を使ったことはあるが、そのときは手元に実物があった。


 射程は短いが、魔法には自分の持ち物を手元にテレポートさせる[物品召喚]というものがあった。他人の持ち物でなければ、そして目に見え、どこかに固定されていなければ、石とかを手元に召喚することもできたはずだ。


 だが、見知らぬ、爆発したばかりの何かを手元に引き寄せたくはない。

 とりあえずは、その機雷の爆発した破片とやらを見て、[鉱石発見]を使ってみるか。

 多分、映像越しじゃないほうがいいだろう。


「いや、回収は、ちょっと待ってくれ。魔法を使うのに、その機雷の破片を直接見てみたい。カナデ、魔法を使うから、それがどこにあるか知りたい。サポートしてくれ」


『はいぃ』


 杖をかまえ、集中する。


[千里眼]


 魔法を唱えた。


『ここですよぅ』


 カナデの思念が指し示す場所に、自分の視界を移動させる。

 そしてオレは見た。


 カナデが見せようとしていた破片と、その近くに浮かぶ、半透明なラグビーボール状の物体を。

 ……なんだ、これ?


『おやぁ? なんですかねぃ、これ。えい!』


 視界を共有しているのか、カナデもオレが見ているのと同じ風景を見ているようだ。


『……このレモンみたいな形の、レーザービームには反応しませんねぃ。当たったくせに動きもしないですよぅ』


 ……えっ、撃ったの?


『えい! ……おー! レールガンは当たりましたよぅ! 向こうに飛んでっちゃいましたぁ! レーダーや私の視界には見えないんですがぁ、実際にある物体のようですねぃ』


 カナデさんが、はしゃいでいる。


『マスタぁ、ちょっと、ここ見てくださいよぅ』


 視界が無理やり動かされ、遺跡のある目的の惑星が、視界の真ん中に来る。


『思ったとおり、二十個ぐらいありますよぅ』


 そしてカナデさんの『うりゃー!』というかけ声ともに、一つ一つ、半透明状の何かが、オレの視界から消えていった。


『ひゃっほーうい、クリアですよぅ!』


 急にオレの視界が惑星のほうに動いていく。

 なんだ!? と思いながら魔法を解くと、目の前の大型ディスプレイには、遺跡のある目的の惑星がドアップで映っていた。


『到着しましたよぅ! やっぱり、あの透明なレモンみたいなのが機雷だったんでしょうねぃ!』


 ……できれば、いろいろ試す前に、相談してほしかったかな。

 左前方の席に座っているので見えないが、おっちゃんも引きつった顔をしているかもしれない。


 それにしても、カナデのレーダーとか視界が捉えられないものを、オレの目は捉えることができるのか。

 ティタニアが文句を言っていた掘削機の暗闇もオレには問題なかったし、目がよくなっていたのは知っていたのだが、ここまでとは……。

 神様が体をタフにしてくれるといっていたから、その影響なのか、もしくは魔法と同じでちょっとずつ強くなっていたのか。


 そんなことを考えていたら、カナデさんが何度目かのはしゃいだ声をあげた。


『ああ、私はなんて優秀なんですかねぃ! もう機雷でもレーザーでも、持ってくるがいいんですよぅ! 全部正面から打ち破ってくれますぅ!』


 そしてその言葉とともに、またしても船が揺れたんだ。


「レーザー、持って来たようだぞー。敵船、千五百キロ先だー」


 おっちゃんが言う。

 たしかカナデのレーザーの射程が六百キロぐらいだから、その二倍以上の距離からの砲撃だった。


 カナデの場合、迷彩機能を使ったスペースパイレーツの船でも、二千五百キロぐらい先から気がつけると聞いていた。ここまで近づかれてしまったのは、相手がこちらの探知機能より高い迷彩機能を持つか、高速で迫ってこられ、気がついたら、その距離になっていたかのどっちかだろう。


『しょしょしょ、正面から打ち破るのは、後にしてやりましょうかねぃ! マスタぁ、逃げましょう!』


 どこにだよ!


「たしか譲ちゃんは大気圏内に行けたし、海とかにも潜れたなー。オラの船はできなかったし、他の普通の宇宙船もそうだった。あの敵船は、どうなんだろうなー」


『マスタぁ! イチかバチか、あの惑星に逃げましょう!』


 ……しかたねーな。

 追ってこられたら、オレが魔法でどうにかするしかないが。


「わかった。逃げてくれ」


 オレは言う。


 結局、何回か一撃を当てられていたみたいだが、オレ達は無事に逃げ切ることができた。

 敵船は大気圏内での活動は、できないようだ。そしてラッキーなことに、大気圏内用の乗り物を出して、こちらを追ってくるようなこともなかったのだ。




 目の前の超大型スクリーンに、大量の砂粒が映っている。

 水族館のでっかい水槽に、水の代わりに砂だけをつめたような、不思議な光景だ。

 それが後ろに向かって、もりもりと流れていく。


 カナデは逃げる先に、海の中ではなく砂漠を選んだ。

 砂に潜ったのだ。

 カブトガニは砂に潜る習性があるからな。それから尾っぽを取って白くしたような形をしたカナデも、砂に惹き付けられてしまったのかもしれない。


『マスタぁ、何か失礼なことを考えていませんかねぃ?』


 カナデが言う。


 彼女は自分の船の形を、かしわもちのような形だと認識していた。まあるくて、かわいらしいとか考えているのかもしれない。

 夢見る彼女に、オレが他人目線でどういう形に見えるかを伝えると、それは失礼なことになってしまうと思う。


 いや、でも、彼女はオレの思考を自由に読めていた時があった。もしかしたら、もう真実に気がついてしまっているかもしれない。

 実はこっそり落ち込んでたりしたんだろうか。


 ……彼女は仲間だ。そんなことは許容できない。

 オレはフォローのため、彼女をなぐさめてあげることにした。


「カナデは、かわいいぞ! 外見がなんだ! 自信持てよ!」


『絶対、失礼なこと考えてましたよねぃ! マスタぁ!』


 なぜだろう。怒られてしまった……。


 それにしても、これだけ視界一杯の砂というのも、なかなか見れない光景だろう。

 バリアーの形をつねに変え、波打たせるようにして、砂を後ろにかき分けながら進んでいるそうだ。

 砂にもぐり、かれこれ三十時間ぐらい経っているが、まったく見飽きない。


 画面を見ながらボーっとしているオレに、おっちゃんから声がかかる。


「んー、そろそろコージが言っていた、知的生命体がいる辺りじゃないかー?」


『おー、本当ですねぃ。マスタぁ、そろそろですよぅ』


 この世界の人類が、異星の知的生命体との接触を果たしたことは、ないとされていた。


 ただ、ちょっと前、新しい太陽系に探査船を飛ばしたとき、ヴィオナムルの遺跡とは違う形の、人間には使いずらそうな道具ばかりがそろった、最近まで使われていたようなあとすらある人工建造物が見つかったというニュースはあったんだそうだ。


 おっちゃんは、この星の座標が、そのニュースのあった惑星の座標に少し近いことから、はじめから、この可能性を指摘していた。

 だが確定的だったのは、あのヴィオナムル・シップを上回る装備の宇宙船や、人類には作りえない、カナデのレーダーを突破する機雷だろう。

 あれを見るまでは、おっちゃんも、少し半信半疑であったはずだ。


 この "失われし青の遺跡" があるとされる惑星に、人間が住んでいるという記録はない。

 それにも関わらず、オレは砂にもぐってすぐの[生命発見]で、この星に知的生命体がいることを発見していた。


 そしてオレは[生命発見]の魔法を二度唱えている。

 一度目は、カナデとおっちゃんを除外し、知的生命体が見つかるように。

 二度目は、カナデとおっちゃん、そしてミュータントを含む「人類」を()()し、知的生命体が見つかるように。


 そして、その生命体は、一度でも二度目でも、オレの魔法に反応したのだ。

 どうやら、この惑星には、人類以外の知的生命体がいるらしい。


 人類がいまだ発見したことのないと言われる、異星の知的生命体が。


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