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大魔導師、幼女におしりをぺんぺんされる 5/5

「こちらの状況は把握していないのか?」


 オレは通信機越しにカナデに聞く。


『なんかマスタぁが大人気なく少女に勝負を挑んだところまでは、ときどき聞いてましたがぁ。精神同調まで使って私を呼んで、さらにピンチって、事故でもあったんですかぁ?』


 返答がきた。大人気なくは余計だ。


「違うよ! オレが負けそうなんだよ! じゅうぶんピンチだろ!」


『そうですかねぃ。それに今パラパラーっとホバートラックにアクセスして、勝負の動向を見せてもらいましたが、マスタぁ勝ってるじゃないですかぁ。なんでそんなにあせってるんですかぁ?』


「ヴィクターさんが向こうについたんだぞ、いつ逆転されてもおかしくない!」


 オレは、カナデには見えていないだろう握りこぶしを振り上げ、力説した。


「このマグマ溜まりを越せば狙ってる鉱石があるのに、ここが越せないんだよ! どうにかしてくれ!」


『あー。そこの鉱石あきらめてぇ、他の場所の鉱石とるのもいいかもしれませんけどねぃ。そこを安全に避けていくとなると、けっこう後ろまで戻らないとだめですよぅ。まー、ぎりぎり避けていくのなら話は別ですがぁ、命かけることになっちゃいますしぃ、それはバカらしいんじゃないんですかねぃ』


 えっ、命かけるのか。それはいやだな。


 どうしよう……。


 オレの[鉱石発見]の魔法は、一番近くにある、指定した鉱石一個の位置を教えてくれる。


 今狙っているティラマイトニウムを除外して、もう一度[鉱石発見]をかけ新しいティラマイトニウムの位置を出すことはできる。ただそれをしたとしても、今狙っているものの近くに他のティラマイトニウムがあれば、魔法は今狙っているものの近くにあるそのティラマイトニウムに反応するだろう。


 このティラマイトニウムは、一個見つけると、その周囲に他のティラマイトニウムが埋まっていることがとても多い鉱石だった。それを考えると、もう一度魔法をかけても、同じ場所ふきんのティラマイトニウムに反応する可能性はかなり高く、そこにある鉱石を除外しきるまで、何度[鉱石発見]をかけるはめになるかわからない。


 不思議とあまり自動失敗が起こらないようになってきているとはいえ、何度も魔法をかければ、それもわからない。

 熱や火などを無視できるようになる魔法もあるが、自分個人にかけるのはともかく、掘削機全体にかけるのは無理だ。


 いや、でもうまくすれば、どうにかできるだろうか……。


 などと考えていたら、カナデさんから声がかかった。


『あ……、もうひとつぐらい、方法があるかもしれませんねぇ』


「おお! 本当か?」


『はいぃ。今マスタぁが乗ってる掘削機ですがぁ、ちょっと調べてみたら、ヴィオナムルの部品を使っているようなんですよぉ』


 そうだったのか……。ドリルで掘ったところの土が消えているのは、ヴィオナムルの能力なのかな?


『純正のヴィオナムルのものより劣るくせに、それと同じくらい乗り手を選ぶマニアックな乗り物なんですがぁ。マスタぁかティタニアさんが乗っていれば、誰でも動かせるでしょうがぁ……』


 そんなことを言うカナデ。

 カナデの言うもう一つの方法というのがわからないオレは、イライラする。


「それで、そのもうひとつの方法というのは何なんだ!」


『んっふっふっふぅ。これですよぅ!』


 ガタン! と掘削機が急に動いた。後ろにすごい速度で走ったと思うと、急に車体が前進し、前の上方の岩にドリルをぶつけた。マグマ溜まりの方に掘り進んでいるようだ。オレは操作していないのに。


『私ならぁ、それに使われている、かわいそうにもマスタぁ色に染まっちゃったヴィオナムルの部品を起点に、他の掘削機の部品を操作できるんですよぅ! マスタぁ、たしかテレポートできましたよねぃ? こっちに来て、その掘削機を遠隔で操作すればいいんですよぅ。マグマ溜まりをぎりぎり避けていくのが危険でも、私のところから遠隔操作で動かせば、万一のことがあっても安全ですよぅ!』


 オー、そうか! ……と一瞬思ったが、よく考えるとそれで掘削機がだめになったら、集めた鉱石もどっかいっちゃうかもしれず、そうなると結局勝負には負けちゃうんじゃないだろうか。勝ってるんだし、回り道でもいったん戻って、安全なマグマ溜まりの迂回路を通ったほうがいいような気がしてきた。


『なに悩んでるんですかぁ! 男ならどーんと勝負ですよぅ! ハイリスクハイリターン! 度胸のない男はダメですよぅ、人からもすぐ見限られちゃいますぅ!』


 普段だったら、そんな説得にオレは動かされなかっただろう。

 だが、おっちゃんが戦う相手に回ったばかりのオレの心に、「見限られる」というその言葉が激しく響いたのだ。


「くっ、わかったよ! そっちの位置をくれ!」


 オレは杖をとり、五十秒ほど魔法に集中した。


「[上級転移]!」


 精神同調で得られたカナデの位置にとんだ。話している間に大気圏内まで来ていたようだ。


 そしてなぜか掘削機の操作をカナデがやることになり、しばらくの時間がたつ。


 今、オレは彼女の意見を受け入れたことを、ちょっと後悔していた。


『わっはっはっは、突撃ですよぅ! うははは、装甲がやばいですよぅ! なんでこんな耐えられてるのかわかんないほどですよぅ!』


 カナデが一人で興奮している。


『おほーっ! 見てくださいマスタぁ、ここまで来ましたよぉ! あと五分の一で突破ぁ! このうまくいくかいかないかわからないギリギリ感、ぞくぞくしますねぃ!』


 こいつは意外にスリル感や、紙一重で何かを成し遂げるときのギリギリ感が好きなやつのようだった。前に無茶をして笑っていたことがあったので、そんな気はしていたんだけれど。

 もしかしたら勝負に勝てそうなオレにとって一番いい提案をしたのではなく、このギリギリ感を味わいたくて、遠隔操作で掘削機を動かすという案を出したのかもしれないと思うほどだ。


 オレなら、乗るよりも魔法で場所をピンポイントで見つけ、そこに行くよう地上とかからロボットに指示するみたいなやり方をした方が安全なのは確かなんだが。

 そもそもあの掘削機に人が乗らなきゃいけないのは、もっと深い、通信波が機能しないようなところで鉱物をとるときだと思うし、それも中継器が使えないような特殊な状況下に限っての話の気がする。

 普通の人なら、ロボット任せにしたほうがいいはずだ。

 ティタニアの能力の詳しいところがわからないので、もしかしたら彼女基準で用意された乗り物なのかもしれない。


『うっひょー! 突破ですよぅ! おっほっほ。ティラマイトニウムというのがわんさかありますねぃ。とり放題ですよぅ! 難題突破で、すんげー気分いいですよぅ!』


 興奮してケラケラと笑うカナデ。結局、掘削機の操作はカナデが引き継いだので、こっちに来た瞬間オレのやることがなくなってしまった。いつもどおり、他の人ががんばっているのを、杖を持ちながら、マスター席でボーっと見るお仕事をしている。いや、でも、こういう人も、人が集まるところには大事なんだよ。いわゆる癒し系みたいな? リラックスしている人間が一人いるだけで、その周りの人間もリラックスできるんだよ。そしてリラックスしすぎてボーっとした結果、ミスが増えたり、ボヤっと突っ立ってるな邪魔だと迫害されたりするんだ。


『ふふーん、こんなに集まりましたよ、マスタぁ。どうです私はぁ!』


 いや、普通にすごいんじゃないかな。

 そう思ったオレはカナデをほめることにした。


「普通にすごいと思うぞ。なんとなく無理・無茶・無策の三無主義を思い出すが」


『あっはっは、ほめてもなにもでませんよぅ!』


 うん、自分で言っといてなんだが、今のはほめたんだろうか。つい余計となる素直な感想を付け足してしまった。


『さあさあ、ヴィクターさんたちの様子でも見てみましょうかねぃ。もうすぐ勝負の終わる時間ですし、これは勝っちゃったんじゃないですかねぃ』


 カナデがおっちゃん達の様子を調べ始めたようだ。

 そして、ちょっとの間があき、彼女から奇妙な声が聞こえる。


『あれぇぇぇ?』


「どうした?」


『ティタニアさんとヴィクターさんの掘削機が、地表に向かってるんですがぁ、これは……』


 少しの間。


『おお、巨大ワームに狙われているんですねぃ。しかも百メートル越えのすんごいやつにあたったみたいですよぉ!』


 えっ? そいつって今、不活発期とかって話じゃなかったか?

 決められていた範囲を超えて掘削しなければ、大丈夫だといわれた気がするんだが。

 それに襲われているってことは、もしかして。


「ティタニアとヴィクターさん、ジーヴスさんが出るなといっていた範囲を越えたのか?」


『いいえぇ、ホバートラックにあった掘削機の行動ログ見ましたが、それはなさそうですよぅ。言いつけ守って行動していたのに、不運に見舞われたみたいですねぃ。ちょっと向こうに行きますよぅ。援護しないとまずいですからぁ』


 目の前の超大型ディスプレイに表示される地上の光景や雲が、恐ろしい勢いで後ろに流れていく。慣性制御装置のためだろう、船が動いている横Gなどの感覚はないのだが、こうして比較するものが近くにあると、カナデの速さがよくわかる。大気圏内なので、空気抵抗でそんなに速度は出せないのかもしれないけれど、それでもじゅうぶんな速度だ。


『つきましたよぅ。多分、ここら辺から、ヴィクターさんたちが、地上に出るころですぅ! レーザー砲の用意しますよぅ! って、あ゛……』


「どうしたんだ?」


 そのオレの質問とともに、目の前にアップで映していた地表の映像に、変化が起こる。

 地表の土が爆発したように巻き上げられ、そこからうねうねと体をくねらせる、巨大な円状の口とそれにびっしりと並ぶ牙を持った、みみずのような体を持つワームがあらわれたのだ。うねうねと動くその体表を、びっしりと鉱物のような何かがおおっていた。


 おお、こいつが巨大ワームか。なかなかファンタジーな光景だな。RPGでこういう敵が出てきそうだ。ちょっとオレのテンションが上がる。

 通常でも五十メートルを越すというこのワームだが、百メートルというのは、かなりでかい個体なんだろう。カナデの大きさが長さ約六十メートル、横幅約七十メートル、高さ十メートルちょっとと思うと、その大きさがよくわかる。


 それにしても、おっちゃんたちはどこだ? カナデが、ここら辺からヴィクターさんたちが出てくるといったときに映し出した地表のアップ映像には、おっちゃんたちの機体の姿はなさそうだ。代わりに巨大なワームの姿がうつっている。


「おっちゃんたちは……?」


『えーっと』


 言いにくそうにカナデが答える。


『どうやら、もうすぐ地表ってとこでワームに飲み込まれたみたいですぅ……』


 えっ……。


「ちょっと、それまずいじゃないか!」


 だがカナデが、そのオレの言葉へ返答する時間はなかった。

 事態がより悪い方向に動いたからだ。


『あっ、ヤバい!』


 カナデの言葉。それとともに、脳の中に何かが入ってくる違和感があり、周囲の時間が止まった。いや、止まっているわけではない。周りの世界がオレから見てスーパースローモーションのように、ゆっくりになったのだ。


 カナデの能力だ。宇宙での戦闘用に使うそれ。

 普通の船なら、厳しいトレーニングを経た乗組員が、さまざまな機械を補助として使い、やっと見ることができるこの世界。カナデは自らに搭載された機械のみの力で、自らのマスターとなった人間に、それを見せることができた。


 前より精神同調の深化速度が早い。事前に用意でもしていたのか、この能力も強化されたのか。

 そんなことを考えていたオレに、カナデから情報が脳に叩き込まれた。クリスタルコアを丹念になで続けた結果、新たにできるようになったことのひとつだ。圧倒的な情報の波に、脳みそが押し流されそうな、そんな不思議な感覚に陥りながら、オレは必死で情報を受け取る。


 どうやらあのワーム、地下に逃げようとしているらしい。

 トラクタービームでつかんだが、カナデのトラクタービームは生物をつかむのは苦手なようだ。ワームは体の五分の二ぐらいを出しているが、いつまで地下にもぐるのを防げるかはわからない。

 掘削機のドリルは、ドリルというより岩などを気体に転換するための機械としての能力が強く、それでおっちゃんたちがワームの腹を破るのは難しそうだ。


 掘削機は深くもぐるため、坑道などで縦穴を落下しても大丈夫なように作られており、そのとき用の慣性制御装置はあるが、それもそんな良いものではない。もしワームがビチビチと暴れられると、掘削機が上下左右にふられ非常にやばいらしい。宇宙世紀のリアル系なロボットを実際に作って人を乗せたら、倒れるだけで中の人間が死んじゃうかもしれないぐらいの衝撃があるという話もあったから、そんな感じになってしまうんだろう。掘削機は飲み込まれたばかりのようだから、地上に出ている四十メートルぐらいの体の中のどこかにいる可能性があるのだ。


 カナデはレーダーで飲み込まれた掘削機がどこにあるか調べているが、ワームのお腹に鉱石が大量に入っているようで、それにジャミングされて、よくわからないようだ。

 ヴィオナムルの部品も、オレ色に染まっていないから、どこにあるかまったくわからない。

 通信波らしきものが出ているので、掘削機自体はワームの歯に耐え生き残っているのはわかるものの、それも乱反射していて何を送信しているかや、どこから送信しているかの特定ができない状態らしい。


 カナデは、おっちゃんたちの機体に当たってしまったり、生命力が強いので切られた後も暴れたりする可能性はあるが、イチかバチか、ワームの地表に出ている部分を根元からレーザーで焼ききりたいと考えていて、その許可をオレに求めていた。

 ジーヴスさんは、こちらに向かっている途中で、おっちゃんたちを助けられるのは今この瞬間の、オレたちだけらしい。


 ふん、なるほどね。

 ようするに、あのデカブツが動かなくなればいいわけか。

 そうすればゆっくりとレーダーで探り、腹をさいておっちゃんたちを救出することができる。


 オレは魔法が使えるし、カナデとの精神同調中にできることも増えた。前まで不可能だったことも可能になっている。


 これだけ条件がそろっていて助けられないなら、そいつはよっぽどの能無しだろう。

 ほぼ時が止まったような百倍に引き伸ばされた時間の中で、オレは笑みを浮かべられただろうか。


 精神を集中する。精神同調で何をする気かカナデに伝える。

 おっちゃんたちの位置を調べることもできるが、こっちのほうが手っ取り早い、そういう意思もあわせ。


 オレは魔法を唱えた。百倍の時間の中で。

 前までできなかったこと。今はできること。


 魔法は、通常の百分の一の時間で発現する。準備時間が一戦闘ターン、五秒必要な魔法ならば、〇.〇五秒で。それは圧倒的な速度だ。


 オレは準備時間が一戦闘ターン以下の[落下制御]をほぼゼロ秒で。

 次に五戦闘ターン、二十五秒が必要な[転移]の魔法を〇.二五秒で唱えた。

 多分カナデがトラクタービームで抑えていなくても、ワームは逃げ切ることはできなかっただろう。


 オレはワームから少し離れた空中に転移した。空中なら少しずれたところで、地面の中に転移するということもない。カナデからはなれたことで、急速にスーパースローモーションだった感覚がほどけていく。それでもまだ十倍ぐらいの速度はある。


 ラストだ。


 オレは一戦闘ターン、五秒が必要な[気絶光線]の呪文を〇.五秒で唱えた。

 単体を攻撃する魔法が、でっかい相手に効くのはマッドリーパー戦で証明済みだ。


 確かな手ごたえ。スローモーションの世界の中で魔法を唱えすぎたことによる反動が襲う中、オレはワームの気絶を確信した。




 オレはずきずきと痛む頭を抑えている。気絶するかと思うような直後の痛みと比べるとかなりおさまってはいるが、スローモーションの世界の中で魔法を唱えすぎた反動だ。今はまだこれが限界。あとひとつ魔法を使っていたらやばかったか。一秒に一点の回復は早くならないので、その前にMPがもたなかったかもしれないが。[落下制御]の必要の有無は反省点だな……。


 結局、おっちゃんたちの機体は、ワームの体の、ちょうど真ん中らへんから見つかった。

 カナデがトラクタービームでつかんだ時点で、ワームは穴の外に体の五分の二を出していた。

 カナデは、外に出ている部分を根元からちょん切るつもりだったので、ちょっと危なかったかもしれない。ワームの生命力が強く、それでも死ななかったとしたら、残った部分が、おっちゃんたちを腹に入れたまま地下に逃げてしまっていたかもしれないから。

 千切れた部分があれば、おっちゃんなら、そこから自力で逃げ出せたような気もするけれど。

 逆に言えば、外に出ていた部分がいくら暴れても問題なかったということでもある。


 ジーヴスさんは、オレたちがおっちゃんたちの機体を見つけた直後ぐらいに、ここにたどり着いた。おっちゃんたちがワームに襲われているのは知っていたが、ティタニアがオレには連絡するなといったため、オレへの連絡が少し遅くなったらしい。カナデが気がついた直後ぐらいにオレが使っていた掘削機へと連絡を取り、カナデが出る。それからはずっとカナデと情報の交換をしていたようだ。連絡が遅くなったことをあやまっていた。彼はティタニアの配下なんだし、ティタニアのほうは脳が発達途中の年代でそこに血が上ったんだと考えれば、仕方のないことだったのかなとオレは思っている。


 オレは地上で、カナデがおっちゃんたちの乗る掘削機に白いビームを当てているのを見ていた。ワームの消化液で溶解し、変形した扉を開こうとしているのだ。しばらくして、カナデから声が上がる。


『開きましたよぅ!』


 一人ずつトラクタービームで引き上げていく。掘削機の周囲にある溶解液と触れないよう慎重に。

 二人に生命反応があることと意識があることは、[生命発見]と[透視]で確認済みだ。

 ストン、とオレの目の前に降り立つおっちゃん。


「助かったぞー」


 ちょっとくたびれたような顔で、おっちゃんが言う。


「すまんなー。譲ちゃんには言ってあったんだが、どうもオラは運がなくてなー」


 そんなことを言って、ため息をつくおっちゃん。


「運不運というのはありますから、仕方ないですよー」


 そう返すオレ。そしてこんなことを冗談半分で言った。


「なんなら後で憑き物を落とすおまじないでもしましょうか? よく効くの知っていますんで」


 おまじないとは[呪い除去]の魔法のことだ。単なるおまじないにしては本格的だろう。

 おっちゃんはそのオレの軽いノリに対し、かなり深刻な顔で、おねがいするぞー、と返していた。


 次に降りてきたのはティタニアだった。

 目の前でうつむき、無言の彼女。

 なにか生意気な言葉が返ってくるかなー、とちょっと楽しみにしながらオレは声をかける。


「よう、無事だったか。よかった」


 オレの声に反応し、プルプルと震えだすティタニア。


 くるか? くるか? オレの期待が高まる。


 そして、そのオレの期待に反し、なぜかティタニアは泣き出したのだ。


 あれっ、ここで泣き出すの?


 想定していなかったため、ちょっとあせる。いや、普通の子供ならこれが自然なのか?

 声を出さず、ぽろぽろと涙だけをこぼすティタニアを前に、カナデからも、なんかおろおろとした感情が伝わってくる。


『げ、元気出してくださいよぅ』


 精神同調が強くなったせいで、カナデのどうにかしてあげたい、という気持ちがどんどん強くなっていくのがわかる。そういえば、おっちゃんを助けようと決めたときも、彼が泣いているときだったろうか。どうやらカナデは泣いている人に弱いらしい。


 カナデは、ぐるぐると何かを考えているようだ。そして、ぱっと何かを決めた、というような感情が襲ってきた。

 カナデが、どこかわざとらしさを感じさせる声で、こんなことを言い放った。


『あっ、ティタニアさん、すごいですよぅ! 掘削機のカーゴ室のメーター見てましたかぁ? こんなにティラマイトニウム、取れちゃってるじゃないですかぁ! これ、ティタニアさんが勝負に勝っちゃってますよぅ!』


 ……えっ?


『あのワームは、鉱石をたくさん飲み込んでいて、レーダーとかで掘削機を見つけられませんでしたからねぃ。きっと、その鉱石を拾ったんですよぅ! 不幸中の幸いじゃないですかぁ!』


 ……マジ?


 そう思っていると、横からあー、という声が聞こえてきた。おっちゃんだ。

 ちらっと、そっちのほうをみると、何か言いたそうにこちらに手を上げて口を開いている。


 嘘か……?


 そう思ったオレは、カナデのほうに意識を集中し、精神同調を強めてみた。


 ……こ、こいつ、ティタニアをなぐさめるためにウソをついてやがる!


 オレが文句を言おうと口を開こうとしたとき、腕の通話機からカナデが話しかけてきた。聞こえ方が独特で、これは多分指向性の、他人に聞こえない、オレだけに聞こえる音波を使った通信だ。


『おしりぺんぺんされるぐらい、いいじゃないですかぁ! 泣いているティタニアさんがかわいそうですよぅ! 男なんですから、誰も見ていない個室とかなら、ぺんぺんされたって恥ずかしくないでしょお!』


 恥ずかしいわボケー! 俺は激しく抗議しようと口をあけたんだが。


『えい』


 そんなカナデの掛け声とともに、体が動かなくなった。ば、バカな。


『けっこう深い精神同調ができるようになったので、こんなこともできるようになったんですよぅ!』


 そんなことをドヤ声で言われた。

 というかオレの努力が裏目に出ただとっ? 神よ、あなたまで私を見放したのか!


「で、でも……」


 何かティタニアが迷っている。

 そうだ、迷え! オレは恩人で、しかも実際お前は負けてるんだぞ!


『勝ちは勝ちなんですから、遠慮することありませんよぅ!』


 もうちょっと、とでも思ったのか、カナデがさらなるプッシュをする。


『それにマスタぁが勝ったなんてことになったら、次の勝負にお前が勝つまで毎日だー、なんていって、ずっとおしりぺんぺんされますよぅ!』


 言わねーから!


「ほ、本当に私の勝ちで、いいの?」


『もちろんですよぅ! そうですよねぃマスタぁ!』


 抗議の声は出せず、オレは精神同調でカナデに操られるまま体を動かされ、うなずくことになった。

 こうして最終的に、オレが罰ゲームを受けるはめになってしまった。引き分けにするとか、トラブルのための勝負無効とか方法はあっただろうに。



 カナデの船内のとある一室。おっちゃんやジーヴスさんはいないのだが、果たしてこれはプライバシーが守られているというのか。あきらかにカナデが見ている。録画してねーだろうな。


『じゃあ、マスタぁのところだけ重力かるくしておきますねぃ』


 そんなカナデの声とともにふわっと体が浮かぶ。そしてオレはティタニアのひざの上に運ばれた。


「じゃあ、おしりだすね」


 えっ、服の上からじゃないの?

 軽いパニックの中、するっと脱がされるズボンに、下半身がスースーする感覚。

 そして、いくよ、という彼女の言葉とともにピシーン、という音と甘く心地よい痛みがお尻から広がった。


 二十分ほどの優しいぺんぺんを味わったその日、オレは新しい世界を知った。


ご覧いただきありがとうございました。

お気に入り登録等もいたたぎ、感謝しております。

次も1-2ヶ月以内に投稿できたらと思っています。

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