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大魔導師、幼女におしりをぺんぺんされる 4/5

 目の前の小さな画面を見ながら掘削機を動かしていく。

 エンジンの振動と、オイルのにおいがひどい。コクピット自体は二人入れるため狭いということはないのだが。

 オレは今、八つのタイヤを持ち、前面にドリルみたいな何かをつけた乗り物にのっていた。掘削機だ。タイヤは左右に四つずつついている。


 地中を掘り進んでいるんだが、ちょっと心配なのは空気の状態だ。

 雪に埋まった車とか、エンジンをかけっぱなしにしていると、内気循環にしていても一酸化炭素が多くなって危険とか聞くのだが。特にマフラーの排気口が雪でふさがれるとヤバイとか。


 オレの掘ったあとが、この乗り物の後ろに洞窟のようにのびている。多分空気の入れ替えとかは起こっていないような気がするが大丈夫なのだろうか。宇宙船の、空気をきれいにする技術とかが使われているのだろうか。


 個人的に一番不思議なのは、オレが掘った部分にあった土や岩が一体どこに消えているかだ。空気とかに分解されているのだろうか。いちいち土を地表にまで捨てに行って、もぐら塚を作ったりするモグラさんからすれば、なんともうらやましい機能だろう。もぐら塚は、もぐらさんが地面の近くでトンネルを作り、土が押し上げられたときとかにもできるらしいけど。


 掘削機で地面を掘りはじめたとき、外に出て機械が掘った部分を見たが、表面がつるつるになり、石でコーティングされたみたいになっていた。レーザーとかで岩石を溶かして、それが冷え固まってあんなふうになっているのか、何か他のものでコーティングしているのかはわからないが、これで掘ったところが崩れる可能性を少しでも抑えているのだろう。この星の地下に水や熱水があれば、それがトンネルに流れ込むのを抑える役目もしているのかもしれない。


 オレがそんなことを考えていると、急にビーッという音がなった。ドリルらしき何かで土を掘っていた車体の前進が止まる。副モニターを見ると、どうやらセンサーが熱源を探知した様子。マグマ溜まりのようだ。この世界、もしくは惑星特有のものなのか、オレの世界もこうだったのか、こういうマグマ溜まりがちょくちょくある。このまま進むと、そこに突っ込んでしまいそうだ。まだ、そこまでは距離があるが。左上に避ければ、よさそうだった。


 右手のレバーを後ろに引く。アクセルを踏むと、機体が後ろに進む。ブレーキを踏み、止める。

 左手のレバーを左にひねる。車体が、ひねったほうに向く。

 左手のレバーを手前に引くと、ドリルがそれに合わせ、だんだん上を向き始めた。ドリルが天井に着くまで、あげていく。

 よし、ついたな。


 オレはアクセルを踏んだ。天井をドリルがえぐっていく。画面では見えないが、多分今、四つのタイヤがくもの足のように動き、車体をドリルでえぐった穴の中に押し込んでいるんだろう。


 どうやら、うまく入ったようだ。

 オレは車体を水平にし、先ほど[鉱石発見]の魔法で反応があった方向へ、さらに掘り進む。もうすぐ。この熱源を越えた先のあたりだ。


 ……ここら辺だろう。

 しばらくして、目的の地点につくと、オレは左レバーを前に押し倒し、車体を斜め下に向けた。

 チリーンという電子音がする。

 副モニターを見る。目的のティラマイトニウムを掘り当てたようで、自動で機械がそれを貨物室に入れたようだ。

 ここまでに来る間、鉄や銀など、その他の価値のある鉱物も掘り当てていたようで、それらも貨物室に入っているようだ。そういうのは掘り当てても音がならないようになっているので、どこで入ったかはわからない。

 この鉱石は、ある程度かたまって存在する。センサーを使えば、八メートルぐらいの距離ならどこら辺にあるのかわかるので、取りこぼしがないように気をつけながら近くを掘り進めていった。


「ヴィクターさーん、勝負の様子はどんな感じですかねー?」


 チリーンという電子音が続く中、オレは通信機でおっちゃんに問いかける。おっちゃんはホバートラックに乗ったまま、オレのサポートをしてもらっている。ティタニアのサポートはジーヴスさんだ。


「ティタニアの譲ちゃんもがんばっているが、こっちのほうが勝っているなー」


 正直この勝負、すごくチョロい。向こうも向こうで、ありえない正確性で目的の鉱石を掘り当てているらしいが、それでも目的の鉱石を見つけるまで、あっちいったりこっちいったり、すごく蛇行しているという話だ。


 対してオレは[鉱石発見]の魔法で近くのティラマイトニウムまで一直線。自分の貨物室を除外して、ティラマイトニウムを発見するよう指定して魔法を唱えれば、一番近くのこの鉱石の位置がわかる。ティタニアの貨物室に入ったティラマイトニウムに反応する可能性もあるが、ティタニアの位置はおっちゃんが把握しているから、オレがそっちのほうに向かえば警告してくれるし、魔法は二、三秒の間は続くから動いているのがわかれば、それを除外して再び唱えれば問題ない。


 オレは杖に手を触れながら心の中で[鉱石発見]の魔法を唱え次の鉱石の位置を得ると、掘削機をそちらに向け前進を始める。おっちゃんから、まっすぐ行くとマグマ溜まりがある可能性があると警告を受けたので、ちょっと方向をずらした。

 ……しばらくはヒマだな。

 そう思ったオレは、通信チャンネルを共有のものに変え、こんな言葉を流した。


「おやおやー、どうやらこの勝負、お兄さんが勝っちゃいそうかなー。ティタニアちゃんは、なかなかティラマイトニウムを見つけられないのカー。あーんなに自信満々だったのにー。なんでカナー。どうしてだろーなー。あっ、そうかー。ティタニアちゃんは、ちびっちゃいからー、手足がレバーやペダルに届かなくて、うまく掘削機を動かせないんだー。かわいそー。ちびっちゃくてかわいそー。ティタニアちゃん、ちびっこくてかわいそー。ちーびでー、とってもー、かーわいそー」


 反応は即座だった。


「だれがチビよー!」


 ヤバイ、思ったとおりの返答がきた。なぜか笑い出してしまいそうだ。


「レバーとかの位置はぜんっぜん問題ないわよ! あんただって知っているでしょ!」


 レバーの位置やペダルは、ジーヴスさんが彼女にあわせて調整していた。


「シミュレータと違って、掘削機の中が暗くて操作しにくいの! なんであんたは平気なのよー!」


 そんな彼女の罵声が終わったところで、タイミングよくチリーンという電子音がなった。音はオレのほうのコクピット席からで、目的の鉱石が貨物室に入ったことを知らせる音だった。これはティタニアの機体とオレの機体で同じになっている。当然、通信中のティタニアにも聞こえただろう。通信機越しの音声は少し変質するので、この音がオレのほうからなっているということは彼女にもわかるはずだ。


「な、ななな、なな」


「おやおやー。また、この鉱石見つけちゃったぞー。なんでこんなにたくさんあるんだろーなー。不思議だなー。ティタニアちゃんもいっぱい見つけてるんだろーなー。お兄さん勝てるのか、とっても心配だなー」


 余裕しゃくしゃくの声で言ってやった。


「ぐぅぅぅぅっっ!」


 ティタニアが口から変な音を出している。かわいい女の子なんだから、そんな声を出しちゃだめだぞ、などと思いながらセンサーを起動し、近くのティラマイトニウムの反応を把握。掘削機をそこに動かし、貨物室に鉱石を入れさせることで、チリーン、チリーンと音をさせていく。


 ……この電子音をもっと大きくしてティタニアに聞かせてやることはできないんだろうか。

 いや、ないものねだりはだめだ。

 せめて通信を切られる前にひとつでも多く聞かせるしかない。

 オレは気合を入れなおし、掘削機の操作を続ける。


「ヴィクター! ……さん!」


 そんなことを思っていると、急にティタニアが声を上げた。オレにじゃなく、おっちゃんに。


「ヴィクターさん! わたし、困っているの! このままじゃ負けちゃうわ! 助けて!」


「えーっと……」


 通信機の向こうで、おっちゃんが困った声を出している。


「おいこらー! なにオレのサポーター誘惑しとるんじゃボケー!」


 断固抗議する。猛烈に抗議する。お前にはジーヴスさんがいるだろ!

 そんなことを思っていたら、こんなジーヴスさんの声が聞こえてきた。


「お嬢様、お渡ししたパーソナル通信機お使いください。あちらなら映像込みで通信ができます」


 お前もかジーヴス!

 なにやらガチャガチャと操作をする音が聞こえてきて、またティタニアの声が聞こえてきた。


「ヴィクターさん! わたし、困っているの! この乗り物がうまく動かなくて! このままじゃ負けちゃうわ! 助けて!」


 さっきと言ってること、あんま変わんねーじゃねーか! 前ので説得できなかったんだから、それでできるわけねーだろ!

 そんなつっこみをしていたら、おっちゃんからオレ宛に通信があった。


「あー。すまんなー。あんな、うるんだ目で見上げられるとなー。オラは泣く子に弱いんだー」


 え?


「ささ、ヴィクター様、一人乗り用のホバーヴィークルはこちらですぞ。お嬢様は、いっこくも早く地上へ。そこでヴィクター様と合流しますぞ」


 そんなジーヴスさんの声が聞こえてきた。


 くそー、裏切るのかヴィクター!


 だが、まあ良い。その合流している間の時間で、さらに差を広めてやるわ。


 オレは通信機を切ると杖に手を触れ、魔法を唱えた。


「[鉱石発見]!」


 少し遠いが、場所はわかった。

 まっすぐ、とつげきだー。


 ゴリゴリと掘り進んでいく。

 その判断が間違いだった。


 しばらくして、ビーッという音がコクピットになり響いた。

 副モニターを見ると、どうやら熱源を探知したらしい。マグマだまりか。これに、つっこむと機体がやばいという話だ。


 上に逃げるか。


 そうしてしばらく進むと、またビーッという警告音。ならば左と、そちらに進むと、更なる警告音。右も試し、同じ音。ついでに下もだめだった。


 ぐおおおお、上下左右、どこも行き場がねー! しばらく戻れば、たぶん迂回できるが、どのぐらい戻ってから迂回すればいいのか、上下左右どちらに迂回するのが近道なのか。こういうでっかい障害物は、おっちゃんが事前に知らせてくれたりしていたんだが。


 くっそー。おっちゃんが抜けてすぐ、その悪い影響が出てくるとは。

 どのぐらい戻ってどっちに進めばいいんだろう。通信でおっちゃんに聞けば教えてくれそうな気はするが、オレのプライドがそれを許さない。ティタニアにも聞こえてしまいそうだし。


 どうしたらいいのかな、と、そう悩んでいたオレは思い出す。まだ仲間がいたことを。

 問題は、通信波が届くかか。


 オレは左腕の通信機をオンにした。そして精神を集中し、彼女を思い描いた。オレの心が届くようにと。


「おい、カナデ! ピンチだ、助けろ!」


 しばらくは無音。届かないか、とそう思い始めたころに、反応があった。


『なんですかぁ。今ヴィクターさんの船の修理中で、ヒモつきロケットパンチとヒモなしロケットパンチを切り替える超重要なパーツを追加しているところなんですがねぃ』


 どうやら衛星軌道上の彼女まで、オレの言葉は届いたようだ。


次回は翌日19時での投稿です。

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