大魔導師、幼女におしりをぺんぺんされる 2/5
『マスタぁ! なんでいきなり通信を切ったんですかぁ!』
帰ってきていきなり、カナデさんの怒鳴り声がオレを迎えた。
オレは知っている、こういうときは逆にどうどうとしていたほうがいいってことを。
「イヤー、あの時はやむにやまれぬ事情があって」
おっぱいと宇宙服の下の割れ目のことしか考えていなかったなんていえないからな。
『うー……、まー、いいんですけどねぃ』
非常に冷たい声だ。なんかいやな予感が収まらない。追求が来そうな気がする。
『それでぇ、結局、あの人たちの頼みたいことってなんだったんですかぁ? 一緒に鉱石をとりにいってほしいとか聞こえましたけれどぉ』
どうしよう。それ以上のこと、何も聞いてない。
『まさか何も聞いてないんじゃないでしょうねぃ?』
えーと。
『なんか精神同調していてもぉ、エッチなことを考えている感じしか伝わってきませんでしたがぁ、ちゃんと相手に詳細を聞いてたんですよねぃ? マスタぁー!』
カナデさんが怖い。どうやってごまかそうか。そんなことを考えていたら救世主が現れた。
「ふん、ここがあなたたちの船ね」
「帰ったぞー」
幼女ティタニアとおっちゃんだ。
『ああ! その声はあのときの……って、ヴィクターさん、どうしたんですカー!?』
うん、猫背になっているうえ、目が落ち窪んでクマもできているからな。
このクマと猫背のレベルは、名前を書いただけで人を殺せるノートの話に出てくる、相手方の名探偵に匹敵するレベルだろう。
ちょっと目を放したすきに、人間はここまで変われるのかと、オレも驚いたものだ。
『ちょっと、マスタぁ、一体何してきたんですかぁぁ! ヴィクターさんがやつれてますよぅ!』
いや、オレは何もしてないよ。オレがおっちゃんに何があったのか聞きたいぐらいだし。
『それに、なんで幼い子がここにいるんですかぁぁ! 誘拐ですかぁぁ!』
知らないよ、勝手についてきたんだよ。それに、そんなのしていいんなら、お姉さんを誘拐してたし!
ほら、それよりもカナデさんは、おっちゃんがオラはいつものとおりだぞーとゾンビみたいな声で答えているんだから、そっちを気にしたほうがいいよ!
そんなことを思っていたら、空気を読まない幼女が発言した。
「あなた! もしくは、あなた!」
おっちゃんとオレを指差した。
「汗をかいたわ! 服を脱がせて体を拭くことを許します!」
……はい?
服を脱がしたティタニアの後ろに立ち、オレは[いつも清潔]の魔法を彼女かけた。
後ろに立ち、髪をクシでとかす。これで汚れがほとんど取れる。タオルを手に取り、それでも軽く拭く。
次に首から背中のあたりを拭く。それが終われば腕や手のあたりだ。
左手でタオルを持ち、しゃがむ。後ろから両足の間に少女が入るようにし、右手を少女の前面にまわし、抱きかかえるようにする。その右手でさらに左手をつかみ、少し上にもちあげる。隠れていたワキの部分が外にさらされる。ワキのあたりを拭くと、体を逃がそうとするので、両膝と右手で体をホールドする。近くで密着しているが、ワキのにおいはしない。年齢のせいだろうか。毛が生えていないのも大きいだろう。ワキの臭いは、毛をそることで、かなり軽減するというし。同じように逆側も拭く。時々変な声を上げてくねくねしているが、気にしない。
終われば手と体を離し、背中の下側を拭いていく。腰から下のあたりも。さすがに蒙古斑は残っていないようだ。ほくろなども見当たらない、きれいな肌だ。右半分を円を描くように拭く。そこだけがタオルにあわせ、ぐるぐると動く。次は左半分だ。それが終わったら、尾てい骨のあたりから、そのずっと下までをずっと拭いていく。体が押され、前後に揺れるのを防ぐため、胸の辺りに手を置く。こうすると上半身と、地面についている足の部分は動かない。腰は動くが、ここは汚れる部位なので、ちょっと強めに拭いておきたい。……すこし肌が赤くなってしまったかもしれないが、まあ、いいか、こんなもんだろう。
彼女の背後から、太ももの後ろを拭いていく。足を開かせ、太ももの内側も丹念に。前や外側、ひざの辺りも忘れない。
ここら辺で、タオルを変え、こちらを向かせる。のどのあたりや肩のあたり、その下辺りを拭いていく。胸はほとんど出ていないようだ。性徴の発現としては、ちょうど乳首が突起し始めたころか。ブラジャーはしていなかったが、シャツにこすれて痛いとか言い始めるころじゃないだろうか。あんまり強く拭くと痛いかもしれないので、形に合わせるように、丹念なソフトなタッチでぬぐっていく。なにか笑いながら、体をもじもじとさせていた。
みぞおちのところから、お腹の辺りを円を描くように拭いていく。おへそも忘れない。左手で体をホールドし、人差し指に巻いたタオルを割れ目に差し込み、円を描くように、そして真ん中の割れ目の部分をぬぐうように上下に動かす。ここはずいぶんとくすぐったいようで、肩をパシパシたたかれた。オレは自分のをぬぐってもくすぐったくないので体質だろう。面白いので、ちょっと時間をかけてぬぐってやる。
最後に下腹部から、骨盤の辺り、体の横のほうを拭いてやり、またの間を拭く。最後に彼女をいすに座らせ、彼女の右足首を左手で持ち、上に持ち上げる。かかとや足の裏、指の間を丹念に拭いてやる。くすぐったいのだろう、持ってないほうの左足のヒザが、左右に動いている。逆側も同じように拭けば、終わりだ。
「終わったぞー」
「ん、顔も」
ティタニアが目をつぶって、顔を少し上げ、こちらをむいている。
そういや忘れてたわ、と思いながら彼女の顔を拭いた。
あっ、足拭いてから、タオルの面変えてないや。
……まあ、オレじゃないからいいか。
人というのは、意外にきれい好きじゃないことを、オレは人生で学習したのだ。
彼女が着替えや体を拭くのを自分ひとりでできないことが判明し、もう八日ほどたつが、それからずっとオレが面倒を見ている。
カナデの、マスタぁにやらせとけばそのうち自分でやりたいと言い出しますよぅ、との言葉に従ったからだ。
おっちゃんだと顔がいやらしくないのでだめらしい。
失礼な。
だがティタニアが自分で拭く、もしくは着替えると言い出す様子はないので、とりあえずオレの顔がいやらしいということはないんだろう。
体を洗うのは、自動で洗浄して乾燥までしてくれるシャワー室があるんだから、面倒なのでそれ使ってほしいのに、どうも水が嫌いらしい。
無重力下でおぼれかけたことがあるんだとか。
無重力下では水は肌とかにまとわりつき、コップ一杯の水でも溺れることがあるんだそうで、この世界では意外に水に関してトラウマ持っている人がいるらしい。
オレは下にたたんであった、例の穴が開いたような宇宙服を持ち、ティタニアに着せなおす。
ちなみに宇宙服の穴が開いたようなところは、穴ではなく、透明のシートみたいになっていた。あることがわからないくらい透明だ。
着せ直すとき時々上下にずれてしまうことがあるが、ティタニアは特に気にしていないので、問題はないだろう。動いてりゃ勝手に直るし。
この宇宙服は、きれいなお姉さん、エレナさんのヴィオナムル・シップに乗るクルーが着なければならない制服なんだそうだ。着ないなら乗せられないと言われたので着たとのこと。
それなら視線には慣れていそうなものだが、お姉さんがオレの視線に恥ずかしがっていたのは不思議ではある。
……オレの顔がいやらしかったってことはないと思う、多分。
ぜひ船員になってみたいが、残念ながらあの船のクルーは女性のみなんだそうだ。
まさに花園といっていいだろう。
スーパーモデル並みのボディーにヴィオナムル・シップを持つ美女。おっちゃんと知り合いなのが気になった。
ヴィオナムルの遺跡を起動したのはティタニアだったらしいが、お姉さんでもいけたんじゃないかという気もする。
遺跡を手に入れたときは、レーダー迷彩と視覚迷彩を切り遺跡自体にお姉さんの船を認証させ、中に突入。
後はヴィオナムル・シップの通れる幅の通路を、ティタニアの勘のまま進んで、制御室に到達したといっていた。
どんな勘だよ、と思ったものだが。
カナデが文句を言っていた遺跡による亜空間力場の発動も、本来ならお姉さんの船のディアというAIが止めたり小さくしたりできたようでもあるし、ティタニアだけが悪いというわけでもないようだ。
そのディアというヴィオナムル・シップは、過去マッドリーパーに乗っ取られたことがある機体らしく、マッドリーパーが絡むと、行動が過激になるらしい。
ティタニアによると、よく「船を無理やりのっとるなんてレイプと同じ。許可もなく、ロマンチックな雰囲気もなく、ヴィオナムル・シップのコアクリスタルをなでるようなもの」と言っていたという。
カナデさんが、それを聞いてすごく同意していた。
『強引なのはだめですよねぃ』とカナデさんが言えば「へたくそは最悪ってディアが言ってたわ」とティタニアが返すわで、オレのガラスのハートは粉々である。
いったいオレが何をしたというのか。お姉さんとしゃべってるときにカナデとの通信を無断で切ったのを怒っているのだろうか。
練習すればうまくなるだろうと、クリスタルコアとのふれあう時間を多くしてみたのに、最近ますますカナデさんがオレのハートをえぐる言葉を選んでぶつけてきているような気がする。
ポジティブに考えれば、親しくなってきたせいで遠慮がなくなってきたともとれるが。
そうだな、そう考えよう。オレは正しい道を歩いているんだ。
どちらにしてもティタニアによると、クリスタルコアをなでるのは精神同調を高めるのに必要な行為らしいし、当分続ける必要はあるだろう。
カナデと出会ったばかりのころに試したときは、精神同調をしてスローモーションのような状態になっても、その状態のまま魔法を使えなかったり、カナデのクリスタルコア付近にある機械から一定以上はなれるとその状態になれなかったりで、ある程度の制限があったので、それがゆるくなってくれるのは単純に便利だ。
カナデさんは、オレを警戒してこのことを言わなかったんだろうが、今までの遅れを取り戻そうと必死なオレを見て、今ではもっと早くに言ってあげればよかったと後悔しているにちがいない。
まったく、こんなに心優しい人間を警戒する理由がわからないよ。
そういえば結局、あのきれいなお姉さんとおっちゃんの関係は、よくわからなかった。
落ち込んでいたときに聞いたのがいけなかったのか、エレナさんの名前を出したとたん、おっちゃんが泣き出したからだ。尋常じゃない量の涙を流していた。
今ではずいぶん回復しているようなのだが、聞いたとたん、また落ち込むんじゃないかと怖くて聞けていない。
ふう、と一仕事終えて息をつきながら、オレはマスター席に座る。
目の前ではティタニアがごくりごくりと風呂上りのミルクを飲んでいた。ときどき身長を測っているようだし、ちっちゃいのを気にしているんだろう。
こういう備品や食料は、カナデが船内のどこからか持ってきてくれる。カナデに頼むと、床からボックスみたいなのがせりあがってきて、そこを開けると中に物が入っている。ティタニアの体を拭くのに使った桶やタオルも、このやり方で手に入れた。汚れたものもボックスに入れれば、どこかに持っていってきれいにしてくれる。船にないものは手に入らないらしいが、カナデさまさまである。
オレは杖をとり、日課になった魔法の訓練を始める。
この前、痛みがあるときにうまく集中できず、魔法が使えなかったことを克服するために始めたのだ。
ターゲットはティタニアだ。オレは集中し心の中で魔法を唱えた。
[神の若さを]
三日ほど若返る呪文だ。
MPが足りず、HPにダメージが入る。
体全体が、焼けつくような痛みを訴える。
数秒の我慢。
一瞬、目の前が暗くなるが、すぐに目が覚める。
……ふう、今回は、うまく行ったようだ。
ゲームだと、MPがゼロになり意思判定に失敗すると気絶していた。自然回復などでMPが一ポイント戻れば目が覚めるという設定だったが、オレは一秒に一点MPが回復するので、気絶しても、すぐ意識を取り戻すらしい。
痛みを感じながらの魔法も三回に二回は成功するようになり、おっちゃんにも定期的に若返りをかけている。
せっかく知り合えたんだし、みんなには長生きしてもらいたいからな。
純粋な善意からの魔法だ。何度もいうが、オレは優しい人間なのだ。
それにしてもティタニアの身長に若返りの影響が出るのは、いつごろになるんだろうか。
反応が楽しみでしかたない。
ティタニアが示した星の座標近くにある亜空間力場まで、亜空間力場を使った転移を二十度以上繰り返し、今日たどり着いた。
亜空間力場と他の亜空間力場をつなぐさいには、力場の大きさにより転移できる距離に限界があるため、遠くの星に行くには、何度も転移を繰り返さなくてはならない。
転移した後、亜空間力場に転移ゲートを作るための機械を冷却する時間が普通の船なら十二時間、カナデなら八時間ほど必要なため、さらに時間がかかる。
今回はティタニアの意向により回り道をしたため、さらに時間がかかった。尾行などの追跡を難しくするため、行く必要のないところに転移したり、転移する距離をわざと短くしたりしたためだ。
オレたちが今日たどり着いた亜空間力場から目的の惑星までは、半日以下程度の短い距離しかない。オレがおっちゃんやカナデと始めて会った、惑星開発基地近くの亜空間力場と同じく、自然にできた亜空間力場だ。
自然にできた位置を知られていない亜空間力場は、亜空間力場があることを知らせるビーコン等が設置されておらず、スペースパイレーツに使われることが多いらしいが、ここはきちんと管理されているようで、そういうこともないようだ。亜空間力場は人間やヴィオナムルの技術では探知しにくいため、悪用されると面倒らしい。
オレたちが使った問題の亜空間力場は太陽の近くにあり、非常に珍しいタイプだった。人工的に、こういう太陽の近くにある亜空間力場を作ろうとすると、ずいぶんとエネルギーや資金が必要となる。
オレはマスター席でウーッとひとつ伸びをしながら、目の前の大型ディスプレイに見える星を眺め続ける。
ティタニアが鉱石をとりたいといっていた惑星まで、もうすぐの距離だ。
聞いたところによると、テラフォーミングを終えた、宇宙服なしで人が住める環境の惑星らしいし、どんなところなのか楽しみである。
次回は翌日19時での投稿です。




