第三話。
それから五年ほどは、落ち着いた暮らしを送ることができました。
わたくしの二人の娘は、可愛らしいシンデレラのことが、大好きになったようでした。
シンデレラもまた、年の近い姉たちと過ごすことが楽しいようで、三人はすぐに仲良しになりました。
シンデレラは、早くに母親を亡くし、父親との二人暮らしが長かったにも関わらず、屈託がなく、よく笑う明るく素直な娘でした。
そんなシンデレラはいじらしく、わたくしは、二人の娘が焼き餅を焼いてしまうほど、シンデレラを可愛がっておりました。
その一方でわたくしは、シンデレラを、貴婦人としてどこに出しても恥ずかしくないように育てようと、決意しておりました。
シンデレラは、もともと賢い性質の持ち主なのでしょう。
話し方も、少しずつ日を追うごとに、女性らしくなっていきました。
礼儀作法やダンスは、恐らくは好きだったのか、言葉遣いよりも、すんなりと覚えてくれました。
夫は、シンデレラが成長していく様を、少しの驚きと、喜びを持って、見守ってくれていました。
彼は、わたくしに約束してくれた通り、わたくしの二人の娘のことも、シンデレラと同じように大切にしてくれたのです。
わたくしは、そのことに関して、夫に深く感謝しています。
娘たちが、三人で楽しそうに過ごす様子を見て、穏やかに微笑んでいる夫を見ている時、わたくしの心は、喜びに満ちていました。
わたくしは、二人の娘とともに、すくすくと成長していくシンデレラを見ていると、これからのことを、本腰をいれて考えなければならないと思うようになっていきました。
それは、そろそろシンデレラを、社交界にデビュウさせなければならないことを、夫に相談する手紙を書いているときのことでした。
夫は、シンデレラの母親とは、政略結婚で結ばれたのだそうです。
いわゆる入り婿で、二人の間に生まれたシンデレラが、ただ一人の跡取りなのでした。
シンデレラに、いずれは婿を迎えることになるのだと思うと、せめてシンデレラの想う方と添わせてやりたいと、わたくしは考えておりました。
わたくしは自分の思いや、家族の近況を書き綴った手紙を召使いの一人に持たせると、ゆっくりと都見物でもして、夫からの返事を預かってから戻るようにと言いつけて、都へと送り出しました。
ですが、館を出発してから二日もしないうちに、その召使いが戻ってきたのです。
――浮かぬ顔の使用人は、都の屋敷にいる執事からの手紙を持っておりました。
わたくしの胸は、不安で張り裂けそうでした。
同時に、嫌な予感に襲われてもおりました。
わたくは、よほど取り乱していたのでしょうか。
三人の娘が、心配そうにこちらを伺っています。
震える手で手紙を開くと、果たしてその文面は、わたくしの予想をはるかに超えたものでした。
まず夫が亡くなったこと、次に夫の投資していた事業が危ない状況であること、そして夫が――ああ、神様、わたくしは一体どのような罪を犯したのでしょう――夫が亡くなったとき、愛人と一緒だったこと。
『母上、大丈夫?』
ふと気づくと、シンデレラが心配そうにわたくしの顔を覗き込んでおりました。
そのときのわたくしの気持ちといったら!
母親に続いて父親まで失ったこの娘が、あまりにも哀れで、わたくしは思わずシンデレラを抱きしめたのでございます。
『大丈夫よ。お母さまが必ずあなたを幸せにしてみせるわ』
まだ何も知らないシンデレラは、ただ不思議そうに、首を傾げておりました。