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Reveal the World  作者: 色即是空
第二章
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梅おにぎりとバベルの塔

 工場に来て何日か経った。

すぐに移動するのは危ないからと、何日か工場で過ごすことになった。比呂さんの怪我も治っていないし、なにより比呂さんは私と武蔵とここで別れるつもりらしい。家から出たのは三人。おそらくそれだけしか認識されていないから、家に帰って警察に聞かれても家を空けていた、という言い訳ができるから、と。そのための期間というわけである。

 比呂さんの怪我は走ったせいか、やはり悪化していてあの話しをした後に比呂さんは倒れるように床に寝転んだ。包帯もなにもなかったため、家を出る際に無理矢理ポケットに詰めたお金を使って、武蔵がコンビニで食料と包帯、ガーゼを買ってきた。なけなしのお金なので無駄遣いはできないと少しずつ使った。比呂さんの意識は何日も朦朧としていて、ここ二日くらいでやっとはっきりしてきたようだった。私をからかうくらいの気力はあるみたいなので、治ってきたのだろう。素人の治療だったけれど、どうやらそれが通じたようだ。よかった。



 おにぎりを食べる比呂さんの横で、お茶を飲む。武蔵は比呂さんの包帯を買いにいった。同じコンビニに何回もいくと顔を覚えられる恐れがあるから三回ごとにコンビニを変えていた。今日は少し遠くのコンビニに行くらしく、昼を食べてすぐに行ってしまった。いつもは犬食いと私を罵るくせに、今日は私に負けないくらいの犬食いだった。それこそがつがつ食べていた。




「響ちゃんはさ」

「気持ち悪い」

「いつも言われてる気がするよ…」




 比呂さんは私を呼び捨てにしない。武蔵のことはここ数日で呼び捨てになったのに、私だけはならない。女だからという理由なのだろうか。私がそう言わないからだろうか。どちらにしろどこか気を使われている気がして気持ち悪い。




「おにぎりは何が好き?」

「そうですね、ツナマヨが好きです」

「ツナマヨ!いいよねぇ」




 にこにこしながら梅おにぎりを食べる比呂さん。なんというか、ここ数日で比呂さんについてわかったことは天然に近いということくらいだ。でも頭の中ではなにかをいつも考えているようで、名前を呼んでも聞こえていないことがしばしば。真面目な顔をするときもあればどこかあどけない顔をしたり。比呂さんは不思議だ。




「比呂さんは、どうして世界を壊したいんですか?」




 私の質問に比呂さんのおにぎりを食べる動作が止まる。自分でも唐突に質問したな、と思う。けれど気になってしまったのだ。こんなにも普通のような比呂さんが世界を壊したいのか。




「バベルの塔って、あるでしょ」

「はい」

「あれ、嫌いなんだ」




 バベルの塔とは、世界の科学技術が全て集められていると言われているビルのことだ。天にまで及ぶほどの技術のため、バベルの塔と揶揄されている。バベルの塔で行われている研究は外に漏れることはなく、そのビル自体がひとつの国のような働きをしている。そのバベルの塔は科学技術が認められた日本にあるのだ。

 これは世界の誰もが知っている情報だ。世間に疎いと武蔵に言われる私も知っているのだから、誰もが知っていると思う。というか武蔵が意気揚々と話していたことがある。それで知ったのだけれど。




「でもバベルの塔が嫌いなのと世界を壊すのとはどう直結するんですか?」

「内緒」




 いたずらっ子のようにしーっと笑った比呂さんはまたおにぎりを食べ始めた。あくまで曖昧なことしか教えてくれないらしい。




「でもね」




静かに比呂さんが口を開く。




「俺は、救いもしたいんだよ」

「え、」

「ごちそうさま!」




 何を、と聞こうとすると強制的に会話を遮られた。多分ここで聞くことは無粋というものなのだろう。だって私はここで比呂さんとお別れするのだから。深く知ることはきっといけないことなんだろう。





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