Reason to rise and fall
月曜が過ぎ、火曜、水曜と、日ごとに違和感が強くなっていった。
学校で、一度もジャックに会わない。
かろうじて、見かけることはある。かなり遠くからだが。
“見かける”のと“会う”のとではぜんぜん違う。見かけるのは休憩時間──特に、昼。多くはランチの場所を探したり、食堂に向かったりする生徒たちが行き交う中庭。捜そうと思わなければ見つけられない状態だ。
何度かは、視線を感じて周囲を見まわすと彼が居た、ということもあった。だが、目が合うかと思った瞬間、彼は別の方を向いてしまう。
──避けられてる。そう思うしかないのかもしれない。
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同じように木曜も過ぎて、金曜になった。朝から曇りがちだった空は、昼過ぎから雨を降らせた。
最近、気持ちの浮き沈みが激しい。ジェニーは精神的に、少々疲れていた。
放課後、自宅に着くと、玄関前にあるポストから手紙を取り出した。
ダイレクトメール、ダイレクトメール、ジェニー宛。
私宛?
ダイレクトメール二通をリビングのテーブルに置くと、自室に入った。服を着替えてプレイヤーで音楽を流す。ワークチェアに座ると、デスクの上に置いていた手紙の封を開けた。
招待状
いつもランチ・ブレッド・カフェをご利用頂き
誠にありがとうございます。
店長ならびにスタッフ一同、感謝の気持ちでいっぱいです。
さて、まことに急な話ではありますが、十月二十三日土曜日
本来なら第四土曜日は店休日ですが、この日を利用して
常連のお客様を招いての
ささやかな新作試食会を開きたいと思います。
なにぶん小さな店内ですので、
ご友人一名様と共に是非お越しください。
日時は以下の通りです。
十月二十三日土曜日 午前十一時より
お客様にお会いできるのを楽しみにしています。
──ランチ・ブレッド・カフェ スタッフ一同。
さっそくだが疑問があった。なぜ自分のフルネームと住所知っているのだろう。あの店には会員カードなどない。アンケートも書いた覚えがない。
それでも知っているということは、なにかで書いたか、店長やスタッフの人たちと話しているうちに教えたりしたのかもしれない。
いずれしても明日行ってみればわかるだろう。そう思い深く考えないことにして、ジェニーは明日のランチの場所が決まったとレナに電話した。彼女も招待状のことを不思議がったが、楽しみにしていると喜んだ。
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その日の夜、二十一時を過ぎた頃、ジェニーの携帯電話にウィリアムが電話をかけてきた。
「ウィル? どうしたの?」
「やあジェニー。僕の可愛い妹。気分は?」
電話口から酒のにおいがしてきそうだ。「まあまあよ。酔ってるの?」
「少しね。頭はちゃんと働いてるし、視界も良好だから。大丈夫」
「酔っ払いはみんなそう言うんじゃなかった?」
「まあそうだけど。君が僕の妹のジェニーに間違いないなら、ちゃんと電話できてるから問題ないよ。それより、今からバスで帰るんだけど、バス停まで迎えにきてくれないかな。傘を持って出かけたのに、店の傘立てから消えてるんだ。たぶん、誰かが持って帰ったんだと思う」
彼女は溜め息混じりに肩をすくませた。
「わかったわ」
「悪いね」
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カーディガンを羽織ったジェニーは、シューズをスニーカーに変えた。
ステインカーズ。彼がこのスニーカーにつけたあだ名。
今夜はレインカーズかしら? それともマディーカーズ?
自分の傘と兄の予備の傘を持ち、家を出た。
通りに出てすぐ、走ってきた車を避けた拍子に、右足を水たまりにつけてしまった。浅い水たまりだったが、そこで違和感を感じた。
玄関ポーチまで戻ると、玄関ドアのノブを支えに靴を脱ぎ、底を見た。アッパーとアウトソールの間がぱっくりと割れている。
「ああ、とうとうだわ」
約二年半。毎日履いていたわけではないが、これを履いた時の自分の運動量を考えれば、よくもったほうだろう。
そして日曜もしくは来週、マイキーの店に行こうと決めた。
一度家に入り、別のスニーカーに履き替えると、ジェニーは再び家を出た。
ウィリアムにも招待状のことを話し、住所のことを訊いたが、知らないと言われた。でもさっそく、プレゼントの服や小物を使えるじゃないか、と。
兄と友人たちからもらったプレゼントを用意して、ジェニーは眠りについた。
月曜から今日まで、一度も日記を書いていない。