昨日の2人
「あ、今日牧野の家行く予定だった」
「え?」
「そだそだ、行かな」
てん、てん、てん
「行かないの?」
「一緒に行っていいの?」
「何遠慮してんの?」
鼻で笑うのが、敦士らしさのひとつ。
バカにしてるみたいで嫌だって言われる事もよくあるらしいけど、本人は直す気全く無い。
でも友達と遊ぶ時も私をその場に呼んでくれるところが、優しくて好きすぎる。
敦士の車に乗り込んで、牧野くんの家まで行く。
いつも車内は彼の好きな曲。私の好きな曲を流そうとすると、これいい曲だから!って言って遮られる。
結局ハマるけど、私の好きなものは敦士は好きなんかな?その前に知ってるんかな?
牧野くんの家に着く。いつも通りダラダラ話して、笑って、終わる。
敦士がトイレに行った間、牧野くんに突然聞かれた言葉。
「このはちゃん、敦士おらん間浮気とかするん?」
「え?何それ。するわけないやん」
「そらそうやわな。」
「なんで?」
尋ねた瞬間敦士が戻ってきて、牧野くんが「お菓子買ってくる」と外に出かけてしまった。
モヤモヤしてると、敦士が
「何?」と目を丸くして聞いてきた。
「急に敦士がおらん間に浮気するか?って聞いてきたからなんで?って聞いたら逃げた」
「ふーん」
「なんでそんなこと聞いてくるんかな?」
「信用ないんじゃない?」
「ひど!そんなふうに」
「違う、まっきー、女信用出来ないみたい、最近」
「なんで?」
「浮気されてるっぽいらしい」
「あらま…」
「あらま、って」
笑いだす敦士。牧野くんは、まだ戻ってこない。
「まぁまっきーだって浮気してんだから当然だろ。本命に裏切られたとか、そんなん関係ねえよ。自業自得。」
「敦士は?」
「え?」
「敦士は浮気してるの?」
「出来るわけないじゃん。1人さえ満足に出来ないのに。」
「ふーん。」
疑ってる訳じゃないけど、不安はある。
「ただいまー」
牧野くんが帰ってきて、話は終わった。
帰り道、静かに私の家へ向かう敦士が運転する車の中。
震える私の携帯を見ると、こーすけからの着信。
左手で音量を下げて、無言で出ていいよの合図をくれる敦士。
「このは~、今日さ、作業終わったから明日遊びみたいなもんだから!」
「あ、そうなん、わかった」
「冷たいー!もっと褒めろよな!俺1人で頑張ったんやから!」
「まぁ明日聞くから」
「今何やってんの?」
「遊んでる」
「…すまん、じゃあまた明日!」
「うん、バイバイ」
こーすけの電話は話しだすと長い。冷たくあしらってしまった気もするけど、いつもの事だし大丈夫。
「こーすけって奴にさ、俺のこと言ってるの?」
「え?言ったっけな?多分知ってるはず」
「ちゃんと言っとけよ」
少し乾いた声で敦士が言った。
私の家に着いて、部屋に入るなりソファーにダイブする敦士。
あと1時間したら帰る、そう言って眠るように目を閉じた彼の顔はとても可愛いかった。
ソファーの前に私が座ると、その瞬間を待っていたかのようにちゃんと座って後ろから髪をぐしゃぐしゃにしてきた。
「なによ、もう」
笑いながら後ろを向こうとすると、後ろから抱きしめられて動けなくなった。
珍しい敦士の行動に、沈黙する私。
「浮気しないから、すんなよな」
それだけ言ったら、後は体を離して、敦士は帰る支度を始めた。
寂しくなって、
「もう一回」と言うと
「なにが?」とにやにやしながら誤魔化された。
でも、最後に玄関で両手を取って、また来週ね、と言ってくれた笑顔に癒されて笑顔になった。
ずっと彼の両手の柔らかさと温度を思い出して、祈るような体制で眠りについた。
なんやこらーww