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協奏曲 〜君と。〜  作者: AZURE
けんか。
9/51







 こういちに彼女ができた。


 しばらく作っていなかったのに、何で急に……。


 しかもぼくと仲違いしているときに彼女を作ってしまうなんて……ぼくは見捨てられてしまったのだろうか。


 ぼくがあんなこと言ったから…こういちに生意気言って怒らせてしまったから…構ってもらえることがどんなに幸せだったか肌で感じた。


 どうして、こういち。何でそんな趣味の悪い女と一緒にいるの。


 でもぼくが口出しできる権利はないから、今の状況を指をくわえて見ている他はない。



 「ねぇ、こういち…」


 それでも聞いてみたかった。


 本当にその女が好きなのかどうか。


 「…本気なの?」


 ぼくが問いただしても、こういちは中々答えてくれなかった。しつこいくらいに何回も聞いたら、やっと口を開いてくれた。


 「……本気だよ。冬夜、おまえには関係ない」


 「関係なくないよ!」


 「なぜそう言える?」


 「だって……」


 関係ない。確かに関係ない。


 ぼくはこういちのことが大好きだけれど、こういちはそうじゃない。ただの友達にも思ってくれていないかもしれない。


 別に何とも思ってないやつに、関係などあるわけがない。


 要するにぼくは、こういちにまとわりつく小さい虫程度だったんだ。


 そう考えが辿り着くと、ぼくは泣きたくになった。何が対等に、だ。ぼくはいろいろ思い上がっていたけれど、本当は友達にも思われていなかったじゃないか。


 こんなことなら、我儘言わずにこういちに勉強を教えてもらえば良かった……。


 「ごめんなさい…」


 ぼくは込み上げる涙を堪えに堪えて、こういちのそばを離れた。


 曇った気持ちのまま、放課後、藤村君との勉強会に足を運んだ。試験は明後日から始まるから、気を引き締めなければならない。


 特に英語だ。こういちは簡単って言うけれど、ぼくは文法が何が何だか分からない。最近藤村君に教えてもらって何となく理解できているようになったが、まったく新しい問題を出されると多分無理だろう。


 ぼくは集中して問題集に取り掛かろうとしても、涙ばかりが溢れてきてしまった。隣で勉強する藤村君にバレないように涙を拭いていたのだが、鼻水を啜ってしまったので、藤村君に知られてしまった。


 「…冬夜君、どうしたの!?」


 「ご、ごめんっ……泣くつもりはなかったんだけど…ごめん、勉強続けて…っ」


 「君がそんなに泣いてて続けられるワケがないじゃないか。…どうしたの?」


 「…こういちが……」


 この時、ぼくは無防備にこういちのことを話してしまったんだ。ぼくの、異常で報わぬ恋を残らず全部。途中から藤村くんの温度が冷めてきたことも気付かずに、べらべらと白状してしまったんだ。


 だって、こういちがあまりにもすんなりと受け入れてくれたから、それが普通という感覚になっていたんだ。だから藤村君もぼくの気持ちを理解してくれると思った。偏見など持たないと思っていた。


 勝手な思い込みが自分を傷つけることになるとは…思いもしなかった。



 次の朝、藤村君からメールが来て、今日の朝は一緒に登校しない、と綴ってあった。ぼくはどうしてかな、としか思わかった。


 普通に学校に行ったら、藤村君がいつもより冷たかった。挨拶をしてもシカトだし、冷めた目付きでぼくを見る。


 勉強を教えてもらおうとしても、素っ気く断られてしまった。そして、藤村君はぼくを汚れ物を見るような目で、言った。


 「お前、気持ち悪い…」


 「え?」


 一瞬何を言っているのか分からなかった。


 「男が好きとか……気持ち悪い。僕がこんなやつと少ない時間でも一緒にいたって思うと、おぞましくて鳥肌が立つ」


 冷淡に言い放つ藤村君は、いつもの気さくで話しやすい藤村君と同一人物には見えなかった。


 ぼくは聞いた言葉を停止しかかった頭でやっとのことで噛み砕き、呑み込む。


 「藤村君…」


 「僕、そういうのダメなんだ。ちょっと考えられない」


 久々に味わった拒絶。いじめられていた頃はよくあったけれど、最近はそういうのはなかった。こういちに想いを告げたときも、あんなに嫌われると案じていたのに、何ともなかった。その後も普通に接してくれた。だから、藤村君に言われたことは、心に深くグサッと来た。


 「…僕駄目だわ…同性愛とか……受け付けられない」


 「……藤村君、ぼくは別に…」


 「僕はその対象じゃないから大丈夫だって言いたいんだろ? それは分かってる。でも、今は頭が混乱してて…ちょっと距離を置かせてくれないかな? ……ごめん、僕、こういうやつなんだ」


 ぼくは頭がくらくらして倒れそうになったが、何とか意識を繋ぎ止めた。


 泣いては、ダメだ。


 「……ごめん、藤村君…こんなぼくで」


 「……冬夜君…僕はこのことを口外するつもりはないけど……あまり人には言わないほうがいいよ? 面白がってからかうやつ、絶対出てくるから」


 「うん……ごめん」



 ぼくはそれから藤村君とは付き合わなくなった。こういちは相変わらず彼女にべったりだし、ぼくのことは見向きもしない。ぼくはまた独りぼっちになってしまった。


 …寂しい。誰もそばにいない。


 本当に、こういちと喧嘩なんてしなければよかった。なぜ喧嘩になったのか……よく思い出せないほどの小さな喧嘩だが、こういちが隣にいてくれないのは悲しかった。苦しかった。早く元通りになりたかった。


 翌日からテストが始まり、その出来は芳しくなかった。特に英語のテストの空欄が多かった。


 その間ぼくはずっと独りだった。いつしか、ぼくはホモだという噂が流れ始めた。藤村君に聞いても、彼は一切口外していないと言い張るし、おそらく図書室内にいた誰かが聞き耳を立てて噂を流したのだろう。


 ぼくはとても嫌だった。居心地悪さを感じ、学校には行きたくなかった。こういちもいないし、誰も守ってくれる人はいない。助けて、と叫びたくなった。


 いつか嫌がらせとかされそうで……というマイナス思考が余計にぼくをネガティブにさせた。


 やっと今日から普通の学校の日に戻る。テストが返ってくるのが嫌だが、こういちに謝りにいける。というか、行きたい。


 ぼくは調子よく家を出たはずだった。




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