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最近イライラすることが多い。
理由は明確だ。冬夜が傍にいないのと、あの藤村っていう野郎が冬夜にベタベタしているからだ。
そう仕向けたのは紛れもなく自分だし、誰に責めることはできない。しかし、ますます藤村に対する闘争心が増えたのは確かだった。
俺は1人で学校を出た。冬夜以外、仲良くなろうとは思わないから、俺はまた一匹狼を演じている。
道をだらだら歩いていると、女から声を掛けられた。
振り返って見ると、そこには化粧の濃いギャルっぽい女が立っていた。
「何?」
面倒臭いが、話だけは聞いてやろうか。
そいつは、顔を赤らめもせずに、
「木菅晃一君、あたしと付き合わない?」
と言った。
いわゆる逆ナンと呼ばれるものだろう、今の状況は。こんなことは前に何回もあったから、対処の仕方は分かっている。
しかし、現在の心境はまったく狼そのものだった。
「……やらせてくれんなら、いいぜ」
正直こんなギャルを抱きたくはない。だけど、今はイライラが溜まっていた。それを発散させてくれるなら、誰でも良かった。
…随分と俺は最低なことをしていると思う。だけれど、自分を保っていくには、どうしても必要なことだった。
イコール、俺は最低な人間ということだ。
「…いいよ。……今日にでも…?」
女は媚びた表情をして、俺の腕を組んできた。
「…別に構わねぇけど」
「場所は?」
「めんどくせぇから俺んち」
「家族はいないの?」
「いねぇよ」
いないも同然、父親は外国に勤めているし、母親も出張続きで家を空けていることが多い。
家には、執事みたいなじーさまが1人いるだけだ。
まさに絶好の場所ということだ。
俺ははしゃぎまわる女を横目で見やり、こいつもただの躰目的か、と心の中で苦笑した。自宅に連れ込んでじーさまを適当にあしらい、女を抱いた。
激しく抱いたつもりなのに、気持ち良くなかった。テンションは一向に上がらず、気持ちは始終冷めきっていた。
やっぱり低体温だな、俺は。そんじょそこらの女などが俺のことを芯から熱くさせることはできない。
できるやつなどいるのか?
いるはずがない。
でも、このイラつきは何だ?
数日前から覚えるこの激しい感情は。
誰のために、何の理由で頭に来ている?
これこそが、熱くなっていると言うのではないか。
俺をそんな風にさせるのは……?
……あいつだけだ。
俺はその気持ちに気付きながらもその女と付き合い始めた。今は何より、ムカつきと冬夜のいない物悲しさを埋めたかった。
俺はますます必死に勉強をした。目標は藤村の野郎をねじ伏せて、俺が勉強もできるやつだと冬夜に見せ付けてやるんだ。
そして絶対に冬夜を奪い返す。その後は思う存分冬夜を可愛がってやるんだ。いつか、自分の気持ちも伝えるつもりだ。
…冬夜。
……冬夜…。