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季節は巡り、学年は1つ上がって3年になった。冬夜とは一緒のクラスになり、今は中間テストの時期だ。
俺はいつものごとく冬夜と登校し、下校する。生活しているほとんどの時間は、冬夜と過ごしている。
冬夜が好きなのかどうかはまだ分からない。分からないけれど、隣にいてもうざく感じないし、女といるときのようにイライラも感じない。
ここまで俺に近付けたやつは今までいなかった。俺が気を許せるやつもいなかった。
冬夜は変なやつだな。
「…どうしようこういち!! ぼく英語全然分からない!!」
噂をすれば、職員室から帰ってきた冬夜が大騒ぎしながらこちらへやってきた。
小柄な冬夜は動きがちまちましていて可愛い。
俺は自然と頬が弛んでいた。
「…何で。英語なんてあんな簡単なもの…」
「こういちと違うから分からないの!! 教えてよ!」
少々切羽詰まった声で言われたら、断れない。
「…ああ、いいぜ。ただし、1回ごとに肉まん1個…」
「あーやっぱりいいよっ。そーやってぼくをからかうんだから! このクラスに学年トップの人がいたから、その人に教えてもらうから!」
「ごめんごめん、条件なしで教えるよ」
「いいっ! いっつもそうやってぼくを弄ろうとするし、勉強もわざと間違えて教えそうだからっ」
「おい、それは被害妄想だぜ。俺はそんな酷いことしねぇよ」
「信頼できないっ!! これまでだって、ぼくのことさんざんからかってさ…しんいちだからいいけど、もう少し優しくしてよっ」
「弄るのは俺の愛情表現だぞ」
「いいもんトップの人に教えてもらうもん! だって、こういちよりできる人だしっ」
「……何だと?」
聞き捨てならない言葉を聞いた気がする。いや、聞いた。
「……冬夜、俺を怒らせるつもりか」
「知らないよ!! 何を言っても、ぼくはあの人に教えてもらうから。いじられずに済むし。こういち、本音を言うとね、いじられるのは嫌いじゃないけど、たまに嫌になるときもあるんだよ」
「……だからってわざわざあの人のところに行くのか?」
「うん。ぼくは1度決めたら揺るがない。それにこの間、あの人と友達になったんだ。だからさ……勉強はあの人に教えてもらおうと思って」
なぜか嫌な感じがした。俺のプライドが傷ついただけでなく、冬夜が別のやつに目を向けたとなると、本来は嬉しいはずなのにムカッと来た。
「ふーん…じゃあ、その人のとこに行けば。俺は構わねぇよ」
少しぶっきらぼうな口調になってしまったのは言うまでもない。
こいつ、俺を見くびっているな?
実は俺が学年トップよりも勉強ができることを知らしめてやろうじゃねえか。
「その代わり、何を言われても冬夜には絶対勉強教えねぇ。せいぜい1人で頑張りな」
心の中にムカムカしたものを覚え、態度が豹変した俺に茫然としている冬夜をシカトする。
ここまでつらく当たることは初めてだ。隣の冬夜は、泣きそうな声で「うん…」と頷いてどこかへ行ってしまった。
あーあ、喧嘩してしまった。こんなのは喧嘩と言えるか分からない。むしろ小さな諍いと言ったほうがいいかもしれない。とにかく、俺たちは意思の疎通がうまくいかなくて、すれ違いになってしまった。
だってそれは、冬夜が悪い。あいつは俺を怒らせるようなことを本人の前で口にしたし、その上俺が嫌だという。
それなら勝手にしろ、だ。
そのことがあってから、俺たちは一緒にいる時間が大幅に減った。登下校さえ共にする日が少なくなった。
俺は冬夜を見返し学年トップから奪い返すべく、冬夜の見えないところで勉強に励んだ。
どうしてか、冬夜が俺のそばにいないことが不憫に感じた。いつも一緒にいるから、そう感じているだけだが。