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――…黒木の話は、自分の想像を越えたものだった。
俺はいてもたってもいられなくなって、テーブルに手をついて立ち上がった。
「くそっ…それを初めから知っていれば…っ!!!」
黒木は悔しがる俺に、目を見開いた。そして、まあまあ、となだめる。
「…ごめん。俺も悩んだんだ。その事情があったから言えずにいたんだ。…それより、行こうぜ?」
ヤツは車のキーを手にとって見せた。行く宛があるのだろうか。
「お前、あいつがいる場所、知ってんのか…?」
黒木は曖昧に頷いた。
今さら憤っても仕方がない。早くあいつに会いに行きたい。
「…行く」
そうと決まれば行動は速かった。俺と黒木は速やかに赤い車に乗り込み、矢のように飛ばした。
先程の話が頭の中を占めている。そして、謝罪の言葉を心の内で反芻していた。
1時間ほど走らせた後、黒木は車をとめた。
「着いたよ」
「…え…、ここ…!?」
そこは、自分にとってもゆかりのある場所だった。
「病院!?」
そう、俺が事故った時に世話になった病院だった。ちなみに、今は爺やが入院している。
「…え、ちょっと待て、冬夜がどうにかなってんのか!?」
黒木は俺の言葉を無視し、車を降りる。そして後部座席に回り、ごそごそと何かを取り出した。
「…ほら、」
再び運転席に戻ってきた黒木は、豪勢な花束を抱えていた。買ったらかなりの値段がするだろう。やつはいつの間に買っていたのか、それを俺に手渡した。
「…これを持っていけ。部屋は208だ」
「…おい…っ」
状況が呑み込めていない俺を、黒木は強引に車から引っ張り出す。
「…いいから行け。健闘を祈る」
何の説明もなく背中を押され、俺は強制的に病院に足を踏み入れることとなった。