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協奏曲 〜君と。〜  作者: AZURE
君と。
34/51



 パタリ、と携帯を閉じた。背後ではケンが屋上のフェンスに寄り掛かっている。


 「誰?」


 「俺の彼女」


 「ふーん。お前彼女いたんだ」


 「まぁ、他校だけどな。なんかあいつ、熱出して学校休んでるみたい」


 俺もケンの隣でフェンスを背もたれにし、残りのパンを詰め込んだ。


 「最近あいつに会ってやれてないからなぁ…」


 「お前は部活もやってるから尚更だよな。でも今日くらいは見舞い行ってやれば? もしかしたらお前に会えなくて体壊したのかもしれないし」


 はは、まさかと軽く笑ってみたけれど、確かに冬夜と会う回数は少なくなった。互いに学校が違うし学校の方向も違う。俺の帰りは遅いし休日だって2人とも何かと用事がある。いつの間にかすれ違いになってしまった。


 俺はまだ耐えられているが、冬夜はどうなのだろうか。冬夜の気持ちが知りたい。


 「…そうだな、今日くらいは部活早く終わらせてあいつに会おうかな」


 ケンはそうしろと首を縦に振った。もうそろそろ授業が始まる、と俺たちは慌てて階段を駈け下りた。



***



 3回目のコールの後、高めで澄んだその声は電話を取った。


 「もしもし…」


 昼に電話したばかりなのにひどく懐かしく感じる。


 「もしもし俺、晃一。体は大丈夫か?」


 うん、すっかり良くなったよと返ってきた。確かにその声には力がある。


 「ならよかった。冬夜、ちょっと窓を開けて下見てみて」


 え、と戸惑った声の後ごそごそと動く音がして、2階の窓から冬夜が顔をのぞかせた。


 「こういち…」


 家の前に俺がいてびっくりしたのか、しばらく固まっていた。


 「よ、冬夜」


 「こ、こういち…え、うそ……と、取り敢えず上がって……」


 冬夜は窓から姿を消した。言われるままに玄関に赴くと、下に降りてきた冬夜が玄関を開けた。


 「こういち…」


 「久しぶりだね」


 「いいの…? 部活は…」


 「今日はいいの」


 家の中に入れさせてもらい、冬夜の部屋に行った。まだ両親は帰ってきていないようだ。


 「…来てくれるなんて思ってなかったからびっくりした……」


 「でもたまにはこういうのいいだろ?」


 うん、とうなずく冬夜を抱きしめた。冬夜に会ったことで、今まであまり感じていなかった欲求が津波のようにどっと押し寄せてきた。


 「冬夜……やべ、食っちまいそう」


 冬夜は笑った。しかしその目は涙で潤っていた。


 「……食べていいよ」


 「冬夜…」


 「ごめん、心配かけちゃって…でももう大丈夫だから」


 俺はいじらしい冬夜をベッドに押し倒した。上に跨ると、純粋無垢な目が合う。


 「…俺と会えなくて寂しかった…?」


 聞くと、冬夜はコクリとうなずき、伏し目がちになってポツリと呟いた。


 「…でも頑張って我慢した。こういちに会えないのはつらかったけど」


 「……そうか」


 どうやら冬夜は俺が思っていたより寂しがっていたようだ。そんな冬夜を安心させるようにキスをした。


 「ん…むぅ…」


 まずは唇に。冬夜のふにふにな唇をついばみ、徐々に深くしていく。唇を堪能したら頬や顎、首にキスをしていく。冬夜の躰は甘く痺れた。


 「冬夜…大好きだよ…」


 早くも息が上がる冬夜の衣服をはだけさせ、あらわになった薄い胸板に口付けした。


 「こ、こういち…」


 「…ん?」


 「今日は手加減なしでいいよ……いつもぼくのために本気出していないんでしょ?」


 「…俺は別に……」


 「……今日は激しくしていいから。めちゃくちゃになってもいいから…」


 冬夜が自らそういう事を言うなんて驚いた。でもよくよく考えてみれば冬夜も人間で男だ。寂しい時は寂しく感じるし、不安な時は不安だ。欲求が膨らむ時だってあるだろう。今日会うまでそれらをずっと抑えてきたのなら、その量が多ければ多いほど反動が大きい。つまりは、俺は冬夜に相当な我慢をさせていたということだ。


 愛しい人の純粋な姿に心が温かくなった。


 「…分かったよ。でも明日も学校だろ? あんまり激しいと後が酷いんじゃないか」


 「…まあね」


 「俺としては冬夜の体に大きな負担はかけたくないんだ。俺のたかが外れたら、おそらくおまえは3日くらいつらいと思う。俺はそういうのは嫌なんだ」


 「こういち……でも…」


 「分かってる。あんまり会ってやれないからだよな? それは俺も悪かったよ」


 「そんなことないよ。だってやっぱり練習は大切だし」


 「今は練習よりおまえが大切だ。おまえが元気なかったら俺も悲しいから」


 冬夜はポッと頬を赤らめた。可愛らしかった。


 「こういち…」


 「これからは俺も頑張って時間を作っておまえに会いに行くよ。俺も今日おまえに会ったら、無性に傍にいたくなったし。な? だから安心しろよ」


 冬夜は困り気味に微笑んで頷いた。そして1つ息をつき、安心したように俺に抱きついてきた。


 「…こういち、好き」


 俺の胸でくぐもった声がした。俺は冬夜の頭をぽんぽん撫でる。


 「好き、好き、大好き…」


 「俺もだよ」


 「愛してる」


 「うん」


 冬夜の不安を埋めるように、躰のひとつひとつにキスの嵐をかました。そうしていくうちに、落ち込んでいた冬夜の表情が次第に希望に満ちたものになっていった。


 「冬夜…ヤバい好きすぎる」


 冬夜の躰に触れていたら、どんどんのめり込んでいく自分がいる。自我を忘れ、本能だけが自分を支配する。冬夜も羞恥に顔を赤らめながらも、快感の産物である甘い喘ぎを出し惜しみしなかった。




 「冬夜…大丈夫か? 痛くない?」


 「んっ…だいじょぶ…」


 「じゃあ行くよ」


 半分まで冬夜の躰に入っている自分の息子を、息を合わせて最奥までねじ込んだ。冬夜がクッと顔を歪ませたのを見逃さなかった。


 「んっ…あ、キツ……」


 「冬夜…」


 「でも、大、丈夫、…」


 それでも痛がる顔をする冬夜を何も考えずには扱えなかった。繋がったまま、小さい躰を優しく抱き締め、濡れた唇にキスを落とした。


 「……無理しないでいいよ。冬夜は俺のこと気遣わなくてもいい。俺はこうしておまえと繋がってるだけで嬉しいんだから」


 手加減するしないではなくて、純粋な冬夜に触れられるだけで気が高まる。


 「……こ…いち…」


 「痛いならまた今度にしようか? 俺は無理矢理やりたくない」


 「…大丈夫…続けて」


 冬夜は固く目をつぶって、つらさを堪えている。俺が酷いことをしているみたいで後ろめたくなった。


 律動を始めると、苦しがっていた冬夜の顔もいささか恍惚とした表情を見せるようになった。フィニッシュを迎えると2人とも息を荒くしながらベッドに沈み込んだ。


 冬夜の躰を抱き締める。火照って汗ばんだ肉体は色っぽく、息をするたびに浮く肋骨は誘っているようにしか見えなかった。触れただけでこんなにも動悸がしてしまうのは、俺も気付かぬうちにたまっていたらしかった。


 「冬夜…大丈夫か?」


 冬夜の頭を撫でてみる。茶色くてふわふわの触り心地が気持ち良かった。


 「うん……」


 冬夜は大丈夫だよと囁いた。


 「こういち」


 「うん?」


 冬夜は身じろぎして、顔を合わせた。真顔から柔らかな微笑みに変わった。


 「ありがと」


 やっと本当の笑顔が見られた気がする。そうか、本当の苦しみは、肉体的な痛みではなくて寂しさからくる精神的な苦痛だ。今俺も冬夜の笑った顔が見られて心からホッとした。心を縛るすべての鎖が解けて、ようやく安心できる。自分で自分の気持ちに気付かないなんて鈍すぎる。後になって気づいた時、つらくなってどうしようもなくなるだろう。


 俺は定期的に冬夜に会った方がいいのかもしれない。いや、絶対いいだろう。心の拠り所を失っては、俺の身も破滅しかねない。


 やはり冬夜の存在は偉大だ。




 「冬夜…今度の日曜日空いてる?」


 「え…う、うん。午後なら…」


 「ふーん。じゃあ会おうぜ。場所はどこでもいいから」


 「…うんっ。じゃ、ぼくがこういちの家に行くよっ」


 「OK」


 冬夜は本来の活気を取り戻した。やっぱり冬夜は笑顔が似合う。まるで花がパッと咲いたかのようだ。


 その後冬夜の両親が帰ってきて俺たちは慌てた。まさか留守番中に俺と自分の息子が愛の巣を作っていただなんて知られるとまずいので、冬夜の体調がまだ回復していないことにしておいた。それに俺が看病してやっている構図なら、両親は疑いもせず了解してくれた。挙げ句の果てには母親が「泊まってきなさい」と言うほどだ。…まあ、この人には何か裏がありそうだけれど。


 俺が泊まることに決まると、冬夜はとても喜んでいた。その様子を横目で見て、思わず笑みがこぼれたのはここだけの話だ。


 春日井冬夜――そいつはとても大切な人。俺にとって欠かすことはできない、まるで空気のような存在だ。


 いつまでもその手を握っていたいのに、なぜ離さなければならない時がくるのだろうか。まだこの時の俺は何も知らないのだが。


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