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協奏曲 〜君と。〜  作者: AZURE
君と。
33/51



 躰が火照って熱い。おまけに腰が鈍く痛い。


 ぼくは家に帰ってベッドに寝転びながら、こういちの家にいた時に世話係の高橋さんに言われた言葉を反芻していた。高橋さんは、「最近は私が必要なくなってきてるんですよ。嬉しいのか、悲しいのか……」と笑い、急に真剣な顔になって、


 ――…晃一坊っちゃんはずっと1人でしたから、すごく寂しがり屋です。冬夜さん、傍にいてくださいね――


 と念を押すように言った。


 高橋さんからこういちの過去を初めて聞かされて、ぼくは泣きそうになった。こういちのご両親は仕事で家にいることがなくて、こういちはご両親とあまりかかわらずに生きてきた。おまけに一人っ子だから、兄弟もいなくてずっと孤独だったという。


 ぼくが同じ状況にいたらどうなのだろうか。寂しさで生きていけないだろう。


 こういちは何も言わないけれど、時々ぼくを執拗に求めることがある。それって、やっぱりそういうことなのかな……。



 ぼくは出来る限りこういちの傍にいようと思った。



 次の日は黒木君と放課後音楽棟を回って伴奏者を探した。けれどなかなか見つからなくて、また後日ということになった。


 その日黒木君はずっと上の空だった。何を言っても生返事をするだけで、何か変だ。


 黒木君と別れて廊下を1人で歩いていると、隣の教室から出てきた人にぶつかった。


 「あ…すみませんっ…」


 反射的に謝る。同時に相手も謝罪の言葉を言った。


 (え…この声……。)


 ぼくは目が覚める思いがした。見上げると、黒木君そっくりな顔をした人が立っていた。


 「ごめんなさい、怪我、しませんでしたか?」


 その人は黒木君と聞き分けがつかない声で、申し訳なさそうに言った。


 間違いなく、この人はこういちが言っていた黒木君の双子の弟だ。


 同じ顔をしているのに、雰囲気が正反対だ。黒木君はツンツンしていて不良みたいな身だしなみをしているけれど、目の前にいる弟の方は温厚な感じで優等生のようだ。


 「大丈夫です。あなたこそ、指とか大丈夫ですか?」


 「僕は大丈夫です。ごめんなさい、急に飛び出してしまって」


 物言いも柔らかで礼儀正しい。黒木君もこんな時期あったのかな…。


 弟の方の黒木君は忘れ物を取りに来たようで、用が済むとそのまま早足で歩き去ってしまった。



 そういえば、なぜあの2人はバラバラでいるのだろう。別に双子だから一緒にいなければならないわけではないが、入学して1週間たった今でも黒木君たちは一緒にいない。避け合っているような気がする。


 仲が悪いのか、最近喧嘩したのかもしれない。謎だけれどどことなく聞いてはいけないような雰囲気だったので、あえて聞くことはなかった。


 聞くことはなかったが、分かったことがある。


 それは黒木君が、弟のことを切なそうな目で追っていたことがたびたびあったこと。弟の方も黒木君の前だと怒った顔をして知らんぷりしているくせに、少し離れたところにいるときは、常に熱い視線で黒木君を見つめていた。本当に仲が悪いわけではなさそうだ。だけれど、その仲を分裂させてしまった何かが彼らの間にあるのかもしれない。


 安易に人の過去を聞くものではないから、ぼくは何も言わずに彼らを見守っていた。




 時は過ぎて、4月も下旬になった。学校にはだいぶ慣れてきた。ぼくはいつものように学校に通う。部活で忙しくなったこういちとは本当に時々しか会えなくなった。代わりに黒木君たちと一緒にいることが多くなった。


 黒木君たち双子は、対立しながらも少しずつ仲を回復しているようだ。対してぼくはこういちとしばらく会えていない。最初はそれでも全然問題ないと思っていた。しかし、黒木君たちが仲良くなるのを見るにつれて、ぼくは胸にもやもやしたものが生まれた。


 それは、ここのところこういちが会ってくれないからだ。部活で忙しいのは分かるけれど、ぼくが会おうと言うたびに断られてしまう。電話だってなかなか繋がらない。もしかして、ぼくに愛想つきてしまったのかと考えてしまう…。


 あまりそういうことを考えないようにしたい。でも恋愛に絶対的なものはないから、つい不安になってしまう。


 こういちに見捨てられたらどうしようか……ぼくはやっていけるだろうか?


 以前はとても近くに感じていた恋人の存在は、今ではものすごく遠くに感じた。代わりと言っては何なのだが、黒木君といることで寂しさを紛らわせた。



 悪い考え事が頭をぐるぐるして、とうとう体調を崩してしまった。高い熱が出て休むと、皆からお見舞いのメールが届いた。こういちからは昼休みの時間を使って電話をかけてきてくれた。


 「……大丈夫か?」


 低くて張りがある声。最後に聞いたのはいつだろう…。涙腺が緩くなった。


 「ん…。大丈夫…寝てれば」


 「お前体弱いんだよな…。こういう時に傍にいてやれたならね……」


 願わくは今すぐ来てほしい。でも物理的に無理なのは分かっている。


 「…大丈夫だよ。本当に、寝てれば治るから」


 「そっか」


 どことなく素っ気ない。いや、もともとそういう性格だったけれど、弱っているぼくにはちょっぴりつらい。


 「……もうそろそろ昼休み終わるからいったん切るよ。部活終わったらまた連絡するから」


 「…うん」


 「泣くなよ」


 「泣いてないし」


 こういちは笑った。電話の向こうでは予鈴らしき鐘の音が鳴った。ぼくらは電話を切った。


 こういちとほんの少し話しただけなのに、気持ちが楽になった。依存しすぎている自分に苦笑いが込み上げた。


 お昼から夕方までぐっすりと眠れて、おかげで熱もだいぶ下がった。明日からは復活可能だろう。


 ぼくはこういちからの電話を待った。


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