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協奏曲 〜君と。〜  作者: AZURE
君と。
32/51



 新しい学校に入った。


 同じクラスに陸上大会などを通して顔見知りになったやつが数人いて、俺はそいつらと少し仲良くなった。他からも結構声を掛けられたが、基本1人でいた。俺は冬夜以外興味ないし、特別親しくしたいとも思わない。


 ましてや女など、しつこく食い下がっても恋愛対象として見ないし。



 だが俺は、入学早々逆ナンに悩まされた。よほど俺に女っ気がないと見えるのか、実際その通りなのだが、女たちは「この後遊びにいかない?」と上目遣いをしながら言い寄ってくる。……下心丸見えだ。



 「あー、だめ。俺付き合ってるやついるし」


 「えー? どんな子ー? どこ高?」


 「内緒」


 「えー、おーしーえーてーよー


 「やだ」


 いつもこんな感じに追い払っても、また違う女がやって来る。それは同じ1年の子だったり、時には先輩だったり。そこで俺は考えた。1人で行動しているから、集団で行動しているやつらよりも話しかけやすいのかもしれない。なら、女よけのためにも、近くの男子とつるもうではないか。


 「なぁ」


 俺は授業の合間、右隣の男子に話し掛けた。幸い俺のクラスには男子の割合が多く、男子と男子が隣り合わせになる席が多い。一番後ろの席だった俺の周りには、男ばかりだった。


 「お前名前何て言うの」


 そいつは物静かで、色で表すならばいぶし銀なやつだった。要するに、寡黙でしぶい雰囲気がある。


 「おれ?」


 そいつはちらりとこちらを向き、そのやや吊りぎみの目で俺を睨んだ。


 「ああ。お前」


 「……自分の名を先に名乗ったらどうだ」


 そいつはとても冷たく言い放った。俺は初めて受けた反応に少し驚いたが、気を取り直した。


 「ああ、すまん。俺は木菅晃一」


 「……おれは真壁健太郎」


 「ケン…でいいか?」


 「別に」


 「ケン、よろしく」


 いったい何がよろしくなのかは分からないが、短い会話の後は何事もなかったように授業を受けた。健太郎というそいつは、何とも言えぬ不思議なやつだ。何を考えているのか分からないし、あまり喋らないために謎が多い。でも、どことなく落ち着ける。


 俺はその日からケンとつるむようになった。掴みづらいやつだが、一緒にいてもウザくない。


 ケンとつるんでいるお陰で、女からの逆ナンは少なくなった。話しかけづらくなったのだろう。しめしめと心の中で笑った。


 悩みが解消されたので、俺は部活に入って自分の練習に打ち込めるようになった。


 部活も十分にできて、ケンという友達もできたのだが、しかし何かが足りない。


 ……冬夜だ。


 俺たちは会う回数がめっきり減りつつある。学校も違うし帰る時間もばらばらで、いつの間にか会えない日が続いていく。入学してから1週間しか経っていないのに、もう俺は我慢が利かなくなっていた。


 これでは人のことを言えない。冬夜よりも俺の方が依存しているかもしれない。


 でも今度の土曜に会うことになっているから、この物足りなさも軽減できるだろう。





 土曜日になり、冬夜が家にやって来た。ダボダボのパーカーを着て、顔を赤らめながら。


 「なんか、会うの久しぶりだね」


 冬夜はソファーにちょこんと座り、照れながら微笑んだ。


 「……ああ。一応入学式の後には会ったんだけどな」


 俺もその隣に腰かけた。腕を何気なく伸ばして、冬夜の柔らかい髪を撫でて。


 しばらく2人とも無言で、まったりとした時間が流れた。冬夜は甘えるように俺に寄りかかった。


 「ぼくね、やっぱりこういちの隣だとほっとする」


 俺の心拍数はみるみる上がった。冬夜のいい匂いに、我慢ができなくなる。


 「俺も冬夜といるとほっと……しない」


 「え?」


 驚いて見上げてくる冬夜。俺はその唇を塞ぐ。


 「んー…」


 唇を貪れば、強ばっていた冬夜の体も力が抜けて柔らかくなった。俺はその腰に手を回し、自分の方へ引き寄せる。


 「こういち……」


 唇を離した後も、冬夜は不安な目で見上げていた。そのきれいな瞳に吸い込まれそうになる。


 「冬夜、俺はおまえといると心臓がヤバくなる」


 「こういち…」


 「ほら、もう…」


 絡めた指を俺の胸に当てさせる。いつもより俺の鼓動が速いのが分かったのか、冬夜は顔を赤くしてうつむく。


 「ほん、とだ……」


 「冬夜…、愛してるよ」


 俺は冬夜をソファーに押し倒し、服をはだけさせて肌を貪った。冬夜の表情がとろけてきたのを見計らって、冬夜をお姫様抱っこでベッドに連れていった。


 いつになく甘い時間を過ごした。冬夜の感度は前よりも鋭くなっていて、熱く燃え上がった。俺たちは入念に愛を確かめ合った。


 濃厚な情事が終わっても、夜が明けるまでお互い何も衣服を着けずに肌を密着させながら過ごした。


 幸せすぎて怖かった。



 翌日は、身体が重いとベッドで沈没している冬夜に優しく寄り添い、他愛ない話をした。別に何かしているわけではないけれど、2人だけの空間でゴロゴロしているだけで楽しかった。


 帰り際になって、冬夜から頬にキスされた。俺は突然のことに硬直してしまった。


 「何おまえ、誘ってんの?」


 「そういうわけじゃないよ……でも、愛しくて」


 「……」


 「あ、ごめん…気に障った?」


 「気に障ったっていうか……」


 俺は獣のような荒々しい欲がせり上がるのを止められなくて、冬夜の両肩を引き寄せて本格的にキスをした。


 「ん……むぅ、こう…い」


 俺は食い入るように冬夜に口付ける。必然的に冬夜は仰け反り、俺は背中に回した腕で支える。


 「…ん…」


 ゆっくり離して、鼻と鼻がくっつくくらいの距離で冬夜を見つめる。伏し目がちの目には長い睫毛がきれいだ。俺はその薄い瞼にそっとキスを落とした。


 ――冬夜…愛してる…――


 この肌の温もりは、一生俺のものだ。


 だから、その温かさとカタチを身体に覚え込ませながら、冬夜を強く抱き締めた。


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