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協奏曲 〜君と。〜  作者: AZURE
ある夏の日に。
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 今、こういちの腕の中にいる。彼の分厚い胸板に自分の顔を当てて、こういちの囁く声を直に聞く。


 「…心配するな。俺が傍にいるから」


 ぼくはドキドキが激しくて、息をするのも大変だった。顔が赤くなっていることを悟られたくなくて、離れた後も俯いていた。


 最近こういちといると、自分でも驚くくらいに緊張する。前は憧れみたいな感情は抱いていたけれど、こんなにドキドキしなかった。今はまるで恋をし始めた女の子のようになっている。


 ……恋?


 まさか。


 だって男同士だし、ぼくは女の子が好きなんだ。


 しかし、この高ぶった感情はどう説明すればいいのだろう。


 顔を上げると、こういちが表情なしの顔で、こちらをじぃっと見つめていた。


 ぼくは再度ドキドキが早くなって、恥ずかしくて顔を背けた。身体中に変な汗をかく。


 「……いきなり抱き締めるなんて、…卑怯だっ…」


 憤慨するつもりで力を込めて言ったのが、なぜか弱々しい口調になってしまった。


 「何で?」


 彼は悪びれずに言う。


 そう、彼は抱き締めることに対して何の感情も持っていないのだ。少なくとも、恋愛感情故に抱き締めたとかではない。同性相手にそんなことを気にしているほうが不思議なのだ。


 なぜ抱き締めてきたのかは不明だけれど。


 でも、さっきからちょっと暗い話をしていたし、何となく心当たりはある。


 目を背け続けるぼくの目の前で、彼はクスッと笑った。


 「……可愛いやつ」


 彼はぼくの頭をくしゃりと撫でる。その眼差しはとても優しい。


 「冬夜、おまえをいじめたくなるやつらの気持ちが分かってきたよ」


 「なっ……」


 「おまえは、反応がいちいち面白い。だから、いじりたくなるんだよな」


 「……え」


 「おまえ、中学に入ってから、いじめられたか?」


 彼の顔が急に真剣な表情になる。ぼくのことを心配してくれているのだろうか。


 「あ……ちょっと…」


 「どんな感じに?」


 「でも、いじめってほどでもないんだ。ただ……いつもつるんでいる人は、ぼくのことをパシリにしか思ってないみたいだし…、たまたま陰でぼくの悪口言ってたのを聞いちゃったりして……」


 パシリから戻ってきていざ教室に入ろうとした時、聞こえてきたその人の声と仲間たちの言葉。思い出すだけでも悲しくなるような内容だ。


 その人の本心が分かってから、ぼくはその人にあまり近づけなくなった。


 「まあ、そういうのがいじめに繋がるんだけどな。…冬夜」


 「…はい」


 「つらいことがあるなら、何でも言えよ。聞くから」


 「う、うん……」


 ぼくは嬉しさに涙が出そうになった。今までに付き合っていた意地悪な人たちとは全然ちがう。この人は見た目は怖そうに見えても、性格は優しい。


 「なっ、おまえ、何泣いてんだよ」


 「だってぇ……」


 嬉しいんだ。本当の『友達』ができて。


 今までにない喜びを噛み締めていた。



 しかしその喜びもつかの間。


 こういちに彼女がいることが発覚したのだ。


 別にこういちに彼女がいたって、おかしくないのに。むしろ、いない方がおかしい。カッコいいし、優しいし…ほとんど言うところないだろう。


 でも、何だか心がもやもやした。彼女と腕を組んで歩いている姿を見て、嫌な気持ちがしたんだ。


 こういう気持ちって、何て言うんだっけ?


 確か嫉妬と言ったような気がする。


 するとぼくは……。



 自分の気持ちに気付くまで、数秒とかからなかった。

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