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協奏曲 〜君と。〜  作者: AZURE
タイムカプセル。
28/51


 冬夜の入試が終わった。俺は自分のことではないのに、入試の3日間、手に汗を握っていた。


 そして今日。


 合格発表を冬夜と一緒に見に来た。何でも、「1人で見るのは怖い」らしい。


 「俺を連れていったって、どうせ見るのは一緒だろ?」


 「だ、だけど……なんかゆうひつけられれ……」


 「おいっ口が回ってないぞ」


 「うぐ」


 本人はどうやら、入試本番より合格発表の方が緊張しているらしい。顔が強ばっていて、動きもロボットみたいだ。


 「大丈夫だから。な?」


 「うむ」


 「うむって……」


 「うるひゃいっ」


 「もうちとマシにしゃべれんのか」


 今の冬夜には何を言っても無駄のようで、とりあえずその小さい手を握ってみた。冷たいくせに手汗がひどかった。


 「あばばば」


 冬夜は緊張している上に赤くなり、もう目がぐるぐるし始めていた。俺は一生懸命それをなだめた。


 やっぱり冬夜の判断は正しかったみたいだ。まさか本当にこんなになるとは思っていなかった。もし1人で来ていたら、どうなっていたのだろう……考えただけでもゾッとする。


 「あ、きた」


 校舎から模造紙サイズのでかい紙を丸めて持っている人が現れた。その人は目の前の掲示板にまっすぐ向かってきて、掲示板に貼りつける。周りの群衆のざわめきはより一層大きくなり、皆近くで見ようと押し詰める。


 「こういち、見て…」


 「了解」


 俺はサッと目を凝らす。こういう時に、背が高いのと目がいいのは得だ。冬夜はよほど見たくないのか、俺の背中に顔を埋めている。


 「えーと、おまえ602番だよな」


 「うん……ある?」


 「うーん…」


 見つけた。真ん中より少し左下、黒いゴシック体で「602」としっかり記されている。


 人のことなのに、心の中で喜びでいっぱいになった。


 「ねぇ、どうなの?」


 「602?」


 「そうだよ」


 「ちゃんと自分で見たほうがいいよ」


 俺は冬夜の手を引き、人だかりをかきわけて一番前に躍り出た。


 「左下」


 俺が指差すと、冬夜はしばらく硬直していた。


 「うっそ……」


 「な?」


 「ぼく、受かってる……」


 「おめでとう」


 冬夜の髪をクシャクシャ撫でれば、冬夜はいきなり抱きついてきた。


 「よかったぁ……!!」


 冬夜は声にもならない歓喜の声で叫んだ。目には喜びの涙をたくわえていた。


 「よかったな。おめでとう」



 おめでとう、冬夜――。




 一方、俺の方も親の説得を続けていた。でもようやく、あっちが折れて俺は日本に残ることになった。しかし条件つきだ。高校にいるまでが期限だ。大学はおそらく海外に行くことになるだろうが、それまで日本にいられることになったのだから、初めて親に感謝した。


 怒濤の受験戦争も終わり、中学の生活もあと残りわずかとなってしまった。ということは、冬夜と一緒に生活できるのもあと少しとなってしまう。


 「冬夜」


 「うん?」


 物寂しい気分だが、時は進んでいく。俺たちも大人になっていく。


 「おまえ、タイムカプセル何入れたの」


 「そんなの、言えないよっ」


 冬夜は真っ赤になった。


 「あーやーしー。いやらしー」


 「ち、ちち違うよっ」


 「ちち?」


 「ばか」


 冬夜は初めて俺の頭を叩いた。軽く、ぺしっという感じに。


 「下ネタ厳禁っ。それに、それは5年後に開けたときのお楽しみだよっ」


 「それはおまえにとってだろ。俺に教えてくれてもいいじゃん」


 「こういちの分もあるの。…て、あ…言っちゃった」


 「ふーん。5年前の冬夜君は5年後の俺にプレゼントしてくれるんだ。楽しみ楽しみー」


 「あからさま棒読みなんですけど」


 冬夜は何を入れたのか結局教えてくれなかったけれど、それはまた1つの楽しみとしてとっておいた。


 そして俺たちは卒業した。いろいろあったが、全体的にみれば楽しい中学生活だった。


 卒業式が終わった後も、冬夜はメソメソ泣いていた。俺たちはそのままあの公園に立ち寄った。


 「2年前、ここで出会ったよな」


 「うんっ……グス」


 「ここに来ると、新しく始まったーて感じがするんだよね」


 「うん」


 「これからもよろしくな?」


 「ぼくの方こそよろしくお願いします…」








 「ばか、泣くな」


 「うっうっ……」





 俺たちは少しずつ大人になっていく。


 また春が訪れようとしていた。







―中学生編、完―


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