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協奏曲 〜君と。〜  作者: AZURE
ただ、大好きなだけ。
23/51



 こういちの家では、何をするともなく2人でじゃれ合っていた。どちらかがちょっかいを出してはやり返し、またちょっかいを出してはやり返し、そのうち甘いムードになってキスをする。


 こうして無意味に時間を過ごすのも久しぶりで、最近どれだけ忙しい日々が続いていたかを思い知らされた。


 「だから言ったろ。最近のおまえはピリピリしてたって」


 こういちはベッドに座ったぼくを後ろから抱き締めて言った。


 「そうだったみたいだね……」


 「ああ。今日は気分転換になっただろ?」


 「気分転換になっただけじゃなくて、満ち足りた気分になったよ……それに」


 「それに?」


 「朝から母さんの件があって、張り詰めていたものが一瞬で弛んじゃった感じがする。もちろんいい意味でね」


 「ああ…それね」


 こういちは苦笑いした。ぼくもつられて笑った。


 母さんの話題を持ち出したことで、ふと、あることを思い出した。


 「ねぇ、こういちのお父さんとお母さんって、いつも家にいないの?」


 後ろの空気が固まるのが分かった。言ってはいけないことなのかなと思いつつも、こういちの家族関係には昔から興味があった。


 「……いないよ。2人とも仕事だからね」


 「それって、結構小さいときからだよね……小学校のころも授業参観に来てなかったし」


 「よく覚えてるな。そうだよ。父親は海外に単身赴任だし、母親はここから少し離れたところに働きに行ってて帰ってこないことが多いし。爺やに俺を預けてるから、親としては仕事に専念できるんじゃないの」


 「……淋しくないの?」


 「もう慣れたよ。小さいから頃だったし。今さら寂しいとかそういう気持ちは起こらない。だけど、どうしてもあの人たちには打ち解けられないね」


 実の親を「あの人たち」呼ばわりするのは、やはりご両親とあまり仲が良くないからなのかもしれない。いわゆる、すれ違い家族というものかもしれない。


 「俺のことは心配するな? 俺には冬夜がいるんだから」


 肩に巻かれたこういちの腕に力がこもり、ガシガシと頭を撫でられた。こういちは大丈夫と言っているが、何か釈然としないものが残った。


 「さ、この話は終わり終わり。あ、もう6時じゃん……こうしていちゃこらできるのもあと30分しかないな……よし! 冬夜」


 「…何?」


 ぼくはまたベッドに押し倒された。今日はこれで何度目か定かではない。


 「本気でいちゃこくぞ」


 「何、それ…今までさんざんやったじゃん」


 「いや? それだけじゃなくてね……」


 こういちは顔を近づけ、ぼくの耳元でおまえの全部を感じたい、と擦れた声で囁いた。ぼくは身震いした。


 「…今日はやらないって言ったじゃん」


 「もちろん最後まではいかないよ。でも、せっかく俺の家に来てるんだし、キスだけじゃ物足りないから」


 「……」


 「どう?」


 「…いいよ、もう……この体勢になってる時点でやる気満々だったんでしょ……」


 「ありがと」


 こういちは口元に微笑を浮かべながら唇を重ねてきた。先ほど何回もキスしたのとは比べ物にならないほど激しくて、ぼくは呼吸ができなくなった。クチャクチャと粘着質な音が舌を絡める度に流れ、ぼくは恥ずかしくて耳を塞ぎたくなった。しかし手はこういちに固定されていて使えない。ぼくは黙ってこういちの濃厚なキスを受けた。


 「はっ……んっ」


 角度が変わり、少し息継ぎができてもすぐに口を塞がれてしまう。滑り込んでくる舌は、確実にぼくが感じる場所だけを狙って絡めてくる。


 ぼくはすぐに息が荒くなり、こういちのことで頭がいっぱいになった。


 「ん、んんっ…」


 こういちが本気を出したら、止められない。獰猛な獣に成り代わってしまうのだ。対してぼくは弱い兎で、こういちという獣に喰われる運命にある。


 でもぼくはそれがたまらなく嬉しい。こういちと一緒にいられるなら、何をされても構わない。


 「冬夜……」


 ぼくのシャツのボタンを手際よくはずし、こういちはぼくのランニングシャツをたくしあげながら躰中にキスをした。唇の感覚がこそばゆくて、でも身をよじって拒むことはできなくて、ぼくはギュッと目をつぶってこういちが触るのに任せた。


 「あっ……」


 ふいに胸を触れられて、自分のものとは思えないほどの高くて甘い声が出てしまった。


 「冬夜…もうここ…」


 こういちはぼくの胸の突起を指でこねくり回した。


 「固くなってる…」


 「…ひゃっ…」


 こういちは敏感になったぼくの乳首に舌を這わせ、吸い付いた。甘噛みされると、そこからじんじんと熱い刺激が身体中を巡る。


 「あ、やめっ……」


 「やめないよ」


 「こういちぃ……」


 「そんな可愛い顔で言ったらますますいじめたくなるよ……」


 その後こういちはぼくの躰を愛撫し続け、ぼくを幾度となく鳴かせた。


 それで終わるかと思っていた。しかし、今日はそうではなかった。


 「こういちっ……!?」


 露になったぼくの中心が、何か柔らかくて濡れたものに包まれたと思って、そこを見れば、こういちがぼくの中心をくわえ込んでいた。ぼくは思わず目を疑った。


 「こういちっだめだよっ!」


 「何で?」


 「汚いよっ…」


 「汚くない」


 「ううん。絶対汚いっ! だから…」


 「汚くない。冬夜の躰に汚いなんて俺にはあり得ないよ」


 こういちはぼくの言葉を簡単に払い除けて、ぼくの中心を舐め始めた。


 「あっ……!」


 目の前に広がる光景があまりにも卑猥過ぎて、ぼくは目を離した。こういちはあんなこと言うけれど、そこは絶対に汚いと思う。少し後ろめたさがあったが、快感の波に全部押し流されてしまった。


 躰のどの部分を触られるより、直に中心を愛撫された方が刺激が強い。ぼくは必死で逃げようとしたけれど、こういちはぼくの腰を掴んで動けなくしている。


 「こういちっ、…こういちっ……!」


 こういちの舌の動きが速まるにつれ、ぼくの心拍数も上がる。発作が起きた人のように、ハアハアと息が上がってうまくできない。


 躰が熱くてビンビンする。


 「冬夜…いいよ、出しても」


 下の方でこういちが欲情した声で囁いた。その囁いた吐息にも敏感になって、感じてしまう。


 「うっ、くっ……」


 「我慢するな?」


 我慢するなと言われても、今出せば確実にこういちの口に入ってしまう。


 ぼくはしばらく我慢したが、もうその我慢もきかなくなって、おかしくなったように何度もこういちの名前を連呼した。


 「こういちっこういちっ…!」


 「ん。俺は大丈夫だから。出しなよ」


 まるで誘うように、こういちはぼくの中心を舐める舌を速める。先端を甘噛みされたが最後、ぼくは理性を手放した。


 「アアァァァッ…!!」


 ぼくは欲望を放つのと同時に、キチガイになったように甲高い声で叫んだ。


 叫んだあとは、放心状態になって、激しい呼吸と心臓の動きがおさまるのを待った。


 しばらくして、いつの間に部屋を出ていたのか、こういちが水の入ったコップを持ってきた。


 「はい、冬夜」


 ぼくは差し出されたコップを震える手で受け取り、一気に飲み干した。叫びすぎて喉が痛い。


 ありがとう、と空になったコップをこういちに返すとこういちがベッドに乗り上げてぼくに抱きついてきた。


 「冬夜っ……」


 耳の近くで聞こえるこういちの呼吸も荒い。こういちのはだけた胸にそっと手を当ててみれば、その皮膚の下で心臓が激しく動いているのが伝わってくる。


 こういちもドキドキしたんだ……。ぼくは嬉しかった。


 「…こういち…」


 「んー」


 「…ぼくが出したやつ……どうしたの……?」


 「呑んだ」


 「の、のん…」


 「ああ」


 「大丈夫なの? 絶対汚いのに……」


 「大丈夫。それに冬夜のなら汚くない」


 「そんなこと言ったって…」


 やっぱり下から出るものなのだから、衛生上良くないと思う。


 「大丈夫。あまり心配するなよ」


 「心配しちゃうよっ…だってこういちの体だって大事だもの」


 「サンキュ」


 ぼくの顔の隣でこういちが苦笑するのが分かった。


 「ホントに心配してるんだからね!?」


 「ああ、分かってるよ……」


 こういちはぼくの頭をポンポンと叩いた。そしてまたぼくをギュウッと抱き締め、うう、と唸った。


 「…どうしたの?」


 「いや、さ……冬夜と離れたくないなぁって……」


 「明後日も学校じゃん。毎日会えるよ?」


 「いや、そうじゃなくてさ…こうやって何の邪魔もなく密着できるのは貴重な時間だからね……ずっとそばにいたい」


 この時――何となくだけれど、こういちから、寂しさが伝わってきたような気がした。両親とあまり接点がなくて、どんなに人恋しくても孤独に耐えながら過ごさなければならなかった、その辛さが。


 こういちは慣れたと言うけれど、本当は寂しかったんじゃないのだろうか? ずっと長い間、誰かに構って欲しかったんじゃないのだろうか……。


 「こういち……」


 ぼくはこういちの首に腕を巻きつけ、力強く抱き締め返した。これは単なる憶測でしかないけれど、こういちが傍にいて欲しいと望むなら、喜んでそうしよう。


 「ぼく、ずっと傍にいるよ……」


 ずっと独りだった分、ぼくが一緒にいてあげるから。


 「また……こういちの家に来ていい?」


 ぼくだって傍にいたいよ……。夜の営みをする勇気はないけれど。


 「いいぜ」


 「うん、じゃあまた来るね。受験が終わったら2人でゆっくりしようね」


 約束を取り付けると、ぼくらは抱き締めていた力を緩め、離した。


 「服…着る」


 ぼくはベッドの脇に落ちている自分の服を手に取り、名残惜しげに装着した。


 「へー、おまえって、下からはくんだ」


 なぜかこういちはぼくが着衣するのをしげしげと眺めている。


 「どっちだっていいでしょ。それに日によって違うし」


 ぼくはこういちの視線にやりづらさを感じながらも、着替え終えた。


 「家まで送るよ」


 そう言ったこういちにぼくは大いに甘え、暗い夜道を肩を並べて歩いた。実を言うと、暗いところはあまり好きじゃない。夜は1人で歩けない。だから、こういちが隣にいてくれると安心する。さらに手を握ってくれると、心が温かくなった。


 「あ、流れ星っ」


 紺碧の空を駆け抜けるように、一筋の光が明るく輝いた。


 「へー、珍しい」


 「ね、もしかしたら今日いいことあるかもねっ」


 「俺にとってはおまえといることがいいことだけどな」


 またそうやって恥ずかしいことをさらっと言ってしまう。ぼくは何か言い返そうと思ったけれど、こういちの言葉が嬉しかったからやめた。その代わり、こういちの大きな手をきゅ、と握り返した。


 「冬夜…?」


 こういちは怪訝そうな顔を向けた。


 「…何でもないよ、こういち。ただ、大好きなだけ」


 「それって、何でもあるじゃん……」


 「…そうだね」


 今ぼくはこういちの手の温かさが愛しくて、嬉しい。このままずっと握っていたい。


 でも現実はそうともいかない。握った手を離さなくちゃならないときもあるんだ。


 それを思うと、すごく切ない。


 だから今は、一緒にいられる時間を大切にしたいんだ。




 君と。


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