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協奏曲 〜君と。〜  作者: AZURE
ただ、大好きなだけ。
22/51


 水族館で海の世界を擬似体験した後、その水色の建物を出て冬夜の手を握った。ぴくりと反応するところをみれば、冬夜が緊張していることがうかがえる。


 そんなに固くならなくてもいいのにと言っても、冬夜はますます顔を赤らめて、黙り込んでしまった。俺はその手を引いて家に向かった。無言の空気は、こそばゆかった。


 家の門をくぐると、爺やが出迎えてきた。俺はそれを適当にあしらい、冬夜を自室に連れ込んだ。鍵を締めると、冬夜の小さな手に力が籠もった。


 「冬夜…」


 その細い肩に触れれば、びくっと震わせ、冬夜がどれだけ意識しているのかが分かる。


 「……そんなに固くならないでよ。今日はしないよ。俺たちはこれから受験だし、冬夜の体にも負担かけちゃうし」


 俺は口の中で小さく笑いながら、硬直する冬夜の肩を抱き、部屋の中心に設置されているソファーに座らせた。相変わらず冬夜はうつむいて沈黙している。


 「冬夜……」


 じれったくなって、愛しい人に馬乗りになってキスをすれば、冬夜は体を強ばらせ、ぎこちなくキスを受けた。しかし、その口内に舌を忍ばせて、ほぐすように絡めれば、次第に体の力が抜けて、冬夜はソファーの背もたれに全体重を預けるようになった。


 「ん……こういち…」


 キスの合間にこぼれた言葉を吸い込むように、何度も角度を変えてキスを楽しんだ。冬夜の濡れた唇は甘く、柔らかい。


 「冬夜、好きだよ……」


 キスをやめて冬夜と見つめ合えば、冬夜はパッと目線をそらした。朱をさしたその頬を手のひらで包み、撫でれば、冬夜はそっと俺の手首に手を添えた。


 「こういち…」


 「何?」


 「ぼく、こういちと離れたくない……」


 いじらしい言葉と仕草に、俺の胸は高鳴った。好きな人に、好きと言ってもらえるのは無上の喜びだった。


 俺は冬夜の存在に満たされる。好きという言葉で幸せになる。相思相愛という、恋愛において最も良い関係になっていると感じると、嬉しくて仕方がない。この幸福が続いてほしいと、願ってしまう。


 「俺もだよ……」


 俺は冬夜の細い体を抱きしめ、首筋で思いっきり息を吸った。冬夜の匂いが肺に入ってくる。それはけして甘すぎず、心が安らぐ香りだった。


 「俺もおまえを失いたくない」


 失ったら、この匂いも嗅ぐことができない。毎日、俺は冬夜という存在に癒されているから、いなくなったらまた息の詰まる生活に戻ってしまう。それどころか苦しくて生きていけないかもしれない。


 冬夜はもはや、俺の生きる源になっている。


 「ん、こういち、くるしっ……」


 強く抱きしめすぎていたらしく、冬夜は苦しそうな声を出した。


 「ごめん」


 腕の力を緩め、冬夜の小さな耳を食む。みるみるうちに真っ赤になっていく。


 「こういち…くすぐったい……」


 煽るような言葉にますます気持ちが高ぶって、そのまま舌を出して耳の中を舐めた。ビクビクと体を震わす冬夜は、耐えられなくなって身じろぎをする。


 「それは…やだっ…」


 俺の胸を押して離れようとする冬夜の手を、掴んで固定させる。もう片方の手は、冬夜の肩を抱き締めて、逃がさない。


 「何で」


 「だって、…耳の中でピチャピチャ音がするんだもん…」


 「ならよく聞いて。俺が入っていく音」


 俺はますます深く侵入させて、冬夜の奥をえぐった。横顔の冬夜は、瞼を閉じ、上瞼をピクピクと痙攣させている。


 「あ……ああ…」


 意外に気持ちがいいらしく、潤んだ瞳はもう焦点が合っていない。


 「可愛い、冬夜」


 耳元で囁くと、気を取り直した冬夜が反論する。


 「可愛い言うな、もうっ……」


 「何で? 可愛いじゃん」


 くう、と小さく唸って、冬夜は俺を睨んできた。


 「いつもそうやって、ぼくばかりを乱すんだからっ……ズルい」


 「何がズルいの」


 「ぼくがいっぱいいっぱいになってるのに、こういちが余裕なのがズルい…」


 「俺だって結構余裕ないぜ?」


 「嘘だもん…そんなの」


 冬夜は口を尖らせる。何か不満があるらしく、冬夜は俺の太ももをコツコツとつついた。


 「だって…今まで女の人とも同じようにキスしたり触って来たんでしょ? いろんな人を喘がせてきたんだから、ぼくを鳴かせることくらい、わけないじゃん……」


 「冬夜…?」


 「…悔しい。こういちが初めてだったら、精一杯なこういちの顔を拝めるのにって……」


 どうやら、冬夜は俺が今まで抱いてきた女たちに嫉妬しているらしい。そりゃ俺は昔、女グセ悪くて、過去にたくさん抱いてきたから冬夜にとっては気にくわないのだろう。だからセックスに関して俺の方が慣れている。それは過去を裏付けるようで、少しだけ冬夜に申し訳ない気もする。


 でも、冬夜と今までの女と圧倒的に違う点は、こうやって愛でられるところだ。今までは、相手の肌を触るということは、イコールセックスだった。


 セックスなしで、今のようにイチャつくことはなかった。むしろそんなことはしたくなかった。それは今までの相手に、完全に心を許せなかったからなのかもしれないが。


 だから、『イチャつく』のは、冬夜とが初めてだ。おそらく最後にもなるだろう。冬夜は唯一無二の存在だから。


 「ばかだな、おまえ」


 俺はいじける冬夜をソファーに押し倒した。滑らかな髪が扇状にソファーの上で広がる。


 「愛してるのは、冬夜だけだよ」


 愛してるから、セックスなしで愛でたい。快感に身を委ねた冬夜の恍惚とした顔も、涙目で怒った顔も、とろんと目を閉じて甘えてくる冬夜も、すべてを知りたい。見たい。


 こんな風に相手を知りたくなるのも初めてだ。


 「こんな気持ちにさせてくれるのは冬夜が最初だよ。見ているだけでも癒されて…微笑ましくて。だから、おまえといる時は幸せになる。そりゃ、今まで経験を積んできたから、そういうことに関しては俺の方が上だろう。でもな、冬夜が甘えてきたり、感じてくれたりしたら、俺はつられるように興奮するんだ。すべてが愛しいから……」


 冬夜は黒くて大きな瞳を真っ直ぐに俺に向けてくる。さっきみたいに恥じらってそらしはしない。真剣に、俺の言葉を呑み込むように、聞き入っている。


 「おまえとやると、っていうか最後までやったことないけど、余裕がなくなる。すぐに理性が飛びそうになる。もともとは低温な俺なのにね。不思議だよ。おまえといるときは熱くなるんだ……」


 俺は冬夜の髪を手で掻き分ける。見た目と同じように、さらさらでつるつるだ。


 「好きだよ、冬夜。好きだから全部を見たい。喘ぐ声も聞きたい。快感に押し流されまいと抵抗している顔も見たい。それは、俺の所以だと思うと、嬉しいから……。過去の女は関係ない。おまえしか見ていないよ」


 冬夜は手を伸ばして俺の頬を両手で包んだ。


 「本当に……?」


 まだ気にしているのだろうか。言葉とは、疑いに満ちた心にはなかなか響いてくれないもののようだ。


 「本当だよ」


 「こういちを信じてもいいの……?」


 「…ああ」


 「じゃあ、こういちを信じる。ぼくが一番に愛されてるって思ってもいいんだね……」


 「もちろん」


 安心したのか、冬夜はふわりと微笑んだ。可愛い。可愛いとしか表現できない。


 「よかった…」


 冬夜はほっとため息をついた。その心配でさえ嬉しい。


 「ねぇ、こういち?」


 「うん?」


 「キス…していい?」


 冬夜がいきなり積極的になったので、俺はつかの間驚いてしまったが、素直に受け入れることにした。好きな人が自らキスをしてくるなんて、少し前まではありえなかった。少しずつ距離が縮まっていることが感じられて、喜びが込み上げた。


 「…ああ」


 俺が答えると、冬夜は手で俺の頭を近付けさせた。目を閉じ、唇が触れる直前に、冬夜は「大好き、こういち」と囁いた。俺の胸が高鳴ってしまったのは言うまでもない。


 柔らかい冬夜の唇が触れ、濡れた感触に心臓の動きがますます激しくなる。相手に気付かれないようにしても、キスが深くなるにつれて息も浅くなってしまう。


 冬夜の舌が口内に入ってきたときは、嬉しさと緊張で爆発しそうになった。こめかみに変な汗がにじみ出る。


 冬夜…。


 冬夜……。


 冬夜っ……。


 不慣れなせいもあって、冬夜の動きはまちまちだったが、それでも俺をいっぱいいっぱいにさせるには十分だった。


 好きすぎて、ヤバイ。


 人を好きになるって、こんなに凄いことなんだ。


 濃厚なキスを何度も楽しみ、唇を離しては至近距離で見つめ合う。間近だと、肌の質などがよくよく分かる。あ、冬夜って目尻の下にほくろがあるんだ。


 「こういち……顔が真っ赤だよ…」


 「うるせっ……おまえもだろ」


 真顔で応酬していると何だかおかしくて、喉から笑いが込み上げてきた。ついには堪えられなくなって、俺たちは大笑いしてしまった。


 その後も冬夜とイチャイチャし続けた。好きな人なら何でも楽しい。こうして傍にいてくれるだけで満たされた気分になる。


 俺は幸せ者だ。


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