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協奏曲 〜君と。〜  作者: AZURE
夏、海。
17/51


 俺は今、人生で味わったことないくらいの激しい怒りを感じていた。


 腕の中で小刻みに震える冬夜は、脆くて今にも壊れそうだ。


 当初は、あんなことになるはずではなかった。俺たちの思い出作りは、楽しいものになるはずだった…。あんな酷いことが入るはずはなかったのに。


 くそぅ! どうしてくれるんだよ!


 …あの男、いつか殺してやる。



 それは、つい先程のことだった。


 俺は一通りサーフィンをして、浜へ上がった。まだ海に浮かんでいる冬夜を呼ぼうとしていたところを、年上の女らが俺を囲んだ。俺はまた逆ナンか、と辟易しながらも営業スマイルで相手をしてやった。いくら媚びても、いくら胸がでかくても、お色気というものは俺には効かない。冬夜がいるからだ。


 なかなか話が終わらなくて、営業スマイルも引きつってきた。ふと海の方を見やると、そこには冬夜の姿はなく、また、辺りを見回してもいなかった。一体どこへ行ったんだと不安になったので、女たちとの会話に何とか理由をこじつけて強制終了させ、俺はあちこちを捜し回った。どこを捜してもいなくて、俺は途方に暮れていた頃、かすかだが泣き声が耳に入ってきた。


 まさかと思い、振り返って見ると、ここから10歩先の岩の影に隠れて、冬夜が知らない中年の男に襲われていた。


 「ふっ……んっ…」


 「そうそう、声を押し殺すことはないだろう?」


 男はそう言いながら、涙を拭く冬夜の秘部をまさぐっていた。


 俺はぶちっと何かが切れる音がした。何も考えられずに、一目散に冬夜の元へ駆け寄った。


 「冬夜っ!」


 俺の声に気付いた冬夜は、涙でグショグショになった顔をこちらに向けた。それを見たら、余計に頭に血が上った。


 「こういち……たす、け……」


 冬夜の震える声は今にも消えそうだった。


 「てめぇ、よくもっ!」


 俺は考えるよりも体が先に動いていた。冬夜の上に乗る男を思い切り蹴り飛ばし、撒き散らした砂の中でかはかはと咳き込んでいるところを馬乗りになって男の顔面を殴っていた。


 どれくらい殴ったのかも分からない。気がついたら自分の拳が真っ赤になって鈍く痛みだしていて、男の方は顔が顔だと分からないくらい腫れ上がっていた。


 「こういち、その人死んじゃうよっ…」


 冬夜はか細い声で言った。ショックでまだ立てないらしく、砂の上に足を投げ出したままだ。


 「こいつ、冬夜にあんなことしといて…死に値するっ!」


 俺の、俺の大事な冬夜を。


 まだ誰にも触れさせていない、清純な冬夜を。


 そんな冬夜を傷つけることは絶対しない、絶対させないと誓ったのに。


 こいつがそれをめちゃめちゃにした。冬夜の心に消えることのない、深い傷を負わせた。


 断じて許すわけにはいかない。殺してしまいたいくらいだ。


 「でも殺しちゃったらこういちが警察に捕まっちゃうよ…ぼくはやだよ……」


 俺の身を案ずる冬夜の声に、はっとなった。怒りに身を任せて大事になるようなことをするものではない。


 「それもそうだな…」


 少し未練が残ったが、「覚えておけっ! 俺の大事な人を傷つけたら、ただじゃおかないからなっ」と罵倒しながら男を蹴って冬夜の元へ歩み寄った。


 「大丈夫か、冬夜」


 冬夜はビクッと飛び上がり、カタカタと肩を震わせた。恐怖と悔しさのピークに達しているのだろう、俺はその体ごと包んでやった。すると、冬夜は堰を切ったように大声で泣きだした。


 そして、今にいたる。


 「ごめんなさいっ……ぼくが身勝手な行動をしたからっ……」


 「冬夜……」


 それにしても、なぜ冬夜はこんな場所に来たのだろうか。分からない。冬夜も冬夜で、大人しく海に浮かんでいればよかったのに。


 冬夜がその場を離れた理由は明確ではないが、それに気付かなかった自分は腹立たしい。いつまでも女たちの相手をするのをやめて、直ちにその後ろ姿を引き止めることができたのに。そうすれば、冬夜をこんな目に遭わせなかったのに。


 悔やんだって後の祭りだ。他にぶつけようのない憤りを、自分の中で消化するしかなかった。


 「く、苦しいっ…」


 気がつくと、絞め殺すくらいの勢いで冬夜を抱き締めていたらしく、胸の中で喉がつまったような声がした。


 「おまえが震えてるからだろ」


 まさか今の心境を口に出すことはできなくて、適当な理由をつけてみる。でも実際、冬夜は目に潤いをためながらぶるぶると震えていて、その様子は痛々しく、見てはいられない。せめて、腕の中で閉じ込めて少しでも慰めてやりたい。


 「こういち……怒ってるでしょ?」


 冬夜は泣き顔を上げ、上目遣いで恐る恐る俺の顔を伺う。


 「……ああ」


 俺は即答したが、必ずしも冬夜だけに怒りを感じているわけではない。まず一番に気に食わないのは、冬夜に手を出したあの欲求不満の変体ジジイだし、冬夜の行動に目をやれなかった俺も怒りの原因だ。冬夜は俺の返答に、何度も何度も謝罪したが、逆に守れなかった申し訳なさが募るばかりで、俺は、言葉を紡ぎだすその唇を自分ので塞いだ。


 「ん……あ…」


 俺が幾度も角度を変え、その合間を縫うように、冬夜の色っぽい声がこぼれる。


 まるで消毒をするかのように、何べんも冬夜の口内に自分の舌を侵入させて、あのジジイが犯しただろうところを舐めとった。


 キスするうちに、初め頑なだった冬夜の体は力が抜けて、俺にすっかり身を任せるようになった。腕に抱いた冬夜の肩は、もう震えてなどいなかった。


 「こういち……」


 しばしの間唇を離して、お互いを至近距離で見つめ合う。小顔でスマートな顔の作りをしている冬夜の表情に、不安そうな色は薄れていた。


 「こういちが来てくれてよかった……」


 力なく笑う冬夜は何ともいじらしくて、俺はその形の良い唇に再び口付けた。


 ちゅっ、とわざと音を立てて離し、冬夜の小さな耳に吹き込むように囁く。


 「もう俺から離れんなよ……」


 冬夜はくすぐったそうに身を縮め、俺はその耳たぶを噛んだ。


 「こ、こういち……」


 「好きだよ」


 「本当に……好き?」


 冬夜は疑いの色を含んだ声色になり、その曇った目で俺を見つめる。


 「何でそんなに疑うんだよ」


 「だって……」


 「何」


 この可愛い少年は、考え込むようにうつむき、伏し目がちになった。そして、消え入るような声でぽつりと呟いた。


 「…だってこういち、女の子の前じゃあんなに笑ってたのに……ぼくの前ではいつも真顔じゃん…」


 「は…」


 頭にピピッと閃光が走った。


 何だ、そういうことか。


 この可愛いやきもち焼きは、俺が女に笑顔を見せて話していただけで、気があるのではと心配になっていたらしい。嫉妬してくれているのは嬉しいが、その結果あんなことにはさせたくなかったな。


 「おまえ、どうしてあの笑顔がいいと思うんだ?」


 「え…」


 「あれは、営業スマイルみたいなもんだぞ。それにおまえの前でも結構表情崩してる気がするんだけど」


 「そうなの?」


 「ああ…俺が笑っていても、必ずしも好意があるわけじゃないこと覚えてて。……好きなのはお前だけだから。あんな、張りついた笑顔は本当のものじゃない。おまえといるときだけが、自然体でいられるんだよ」


 おそらく、やきもち焼いて指をくわえて見ていられなくなったのだろう、それでその場にいられなくなって、俺が見えない場所まで離れたら、こんな端まで来てしまったのだ。


 「だから……他のやつに目移りするんじゃないかと心配しないでいい。俺はおまえしかいないんだからさ」


 こんな、愛しい人を手放せるはずがない。こんなに俺を想ってくれる人を捨てたら、俺の生きる意味が分からなくなってしまう。


 「ん…」


 こくりとうなずく冬夜は、やはりどこか確信が持てないようだ。まあ、恋なんて、100パーセント信じられることはありえないものだが。それを言うなら、自分の気持ちだって全部が分かるわけではない。ふと思ったことや感じたことを無視してしまうことがあるし、逆に心の底ではどういう感情が渦巻いているのか分からない。自分が自分を把握しきれていないのだ。人が感じられる気持ちなんて、そうした把握できない感情の中のほんの一部なのかもしれない。


 それでも、冬夜が好きだという気持ちは揺るがないものだと感じる。むしろ、俺の方が冬夜に依存しているかもしれない。冬夜がいてくれてこそ、自分が成り立っている。だからこいつが誰かに取られやしないか気が気でない。


 それはただの独占欲だって笑われても仕方がない。だって冬夜を自分のモノにしたいのだから。


 しばらく無言で抱き締めていたら、太陽が随分傾いていることに気づいた。水平線とこんにちはしそうな距離に近づいている紅い星を睨んで、冬夜の猫毛の頭をぽんぽんと叩いた。


 「さ、いつまでもここにいるのはアレだし、帰ろうか」


 帰りたくない。もっと、この小さな愛しい子の傍にいたい。


 けれど。


 帰らなければならない。


 立って、と冬夜に手を差し出す。冬夜は淋しそうにぎゅっと手を取って、立ち上がろうとした。


 「あれ?」


 冬夜は足腰に力を入れているはずなのに、一向に立ち上がれないようだ。何度も立とうと試してみるが、尻が少し地面から浮く程度が限度のようで、また地面にへたり込んでしまう。


 「どうした」


 「なんか……腰抜けたみたい」


 自嘲気味に笑う冬夜は、笑ってさえいるけれど、困惑という文字が浮かんでいた。


 「俺が背負ってやるよ」


 冬夜に背を向けてしゃがみ、背中を差し出す。ややあってためらいの腕が俺の首に回され、背中にその体温が密着したら、足に力を入れて持ち上げた。予想していたよりもはるかに冬夜は軽くて、俺はびっくりしてしまった。


 俺の首元に顔を埋める冬夜は、長い吐息に言葉をまぜる。


 「何か…ごめんね。ぼくに付き合わせちゃって」


 別に構わない、とだけ返し、俺は背中を包む肌の温度に甘い感覚を覚えた。


 「さっきの…話なんだけどね」


 「ん」


 冬夜はつとつとと言葉を紡ぐ。耳元で発せられるそれは、くすぐったい。


 「ぼくといるときも…笑ってて欲しいな。……こういちの笑顔が好きだから。作り笑いでも、笑ってる顔が一番好きだよ…」


 笑顔が好き、か。


 「ご、ごめんっ…勝手なこと言っちゃってっ…」


 俺の機嫌を伺うようにあわてて自分の言葉をフォローする冬夜を、今すぐにでも抱き締めたかった。


 抱き締めたいどころか、全部を奪ってしまいたい。


 手が早いと言われている俺が、冬夜にだけは出せないでいるのは、今のようにすっかり体を預けてしまえるくらいの信頼を裏切りたくないからだ。もともとガードの堅い冬夜がここまで甘えてくるまでえらい時間がかかった。


 せっかく勝ち取った信頼を、パアにしたくない。ましてやレイプされかけた後なのだから、今、冬夜を襲ったら、信頼という絆は脆く崩れ去ってしまうだろう。そうしたら俺もあの男と一緒になってしまう。


 冬夜を怖がらせたくない。傷つけたくもない。だから、冬夜が嫌なら抱かないと決めていた。それなのに、あの男に不本意だが触られたせいで、焦りを感じている。俺が冬夜の一番近くにいるのに、俺の知らない冬夜を他人に見られたかと思うと悔しくて仕方がないのだ。


 「冬夜……」


 「ん? 何、こういち」


 抱きたい。こいつのすべてが見てみたい。その白い皮膚の下に秘められた、煮えたぎるような熱い血を感じてみたい。


 「……俺が、さっきの男みたいなことをしたら、怖い?」


 ヒュッと息を呑む音がした。やはり俺にそうされることは夢にも思っていなかったらしい。


 「こういちも…ああいうことするの…?」


 「すると言ったら?」


 思い沈黙が降りる。首筋に妙な緊張感があった。


 おそらく一瞬の沈黙だったのだろうが、とても長く感じた時間の末に、冬夜は困惑した声で答えた。


 「…わ、分からないよ……っていうか、こういちはしたことあるの?」


 背中にある冬夜の体が強張るのを感じた。この可哀想な子兎は、俺が以前夜な夜な違う女を抱いていた狼だってことを知らない。


 「……あるよ。俺なら、おまえを泣かせることだって喚かせることだってできる。おまえはこんな危険な人物と付き合っているんだよ」


 夜に近づくのを知らせるように、太陽が沈む水平線の反対側には星のベールがかかり始めている。


 「嘘だよね? 冗談言ってるだけでしょ?」


 耳を掠める声が震えてきている。冬夜を怖がらせたくないという思いとは正反対に、俺の欲望はすらすらと口から滑り出る。


 「嘘でも冗談でもない。俺はそういうことをする男だ。もっとも、さっきの男のように強姦は趣味じゃねえからしないけどな」


 冬夜は黙り込んだ。冬夜をおぶったまま海の家に行き、普段着に着替え終わるまで2人とも口をきけなかった。


 海の家から駅に向かう途中、冬夜が道端でふらふらと倒れこんだ。


 「冬夜っ…?」


 俺は地面に落ちる前に冬夜を腕で支え、その小造りな顔を覗き込んだ。


 「こ、こういちっ……大丈夫、いつもの貧血だから……」


 慌てて笑ってごまかす冬夜の顔は、蒼白で血の色をなくし、恐怖に疲れた表情をしているのが、暗い中でも分かった。


 俺はそれを見るのはいたたまれなくなって、冬夜を胸に抱き込んだ。


 「ごめん、俺があんなこと言わなければよかったね……大丈夫だよ、冬夜には酷いことしないから」


 冬夜と情事を交わしたいという想いは今後どんどん募るだろうが、俺が我慢すればいいことだ。だから冬夜、怯えた目でこちらを見ないでくれ。


 「俺が悪かったよ…」


 「ううん…」


 胸の中でかぶりを振った冬夜は、おずおずと俺の背中に手を回した。


 「…こういちは悪くない。むしろ、ぼくが身勝手でごめんね」


 「いや…」


 「だって、勝手にこういちのそばを離れたからあんなことされたんだし……自業自得なんだから…」


 こういちは自分のことを責めないで、と冬夜はくぐもり声で唱えるように言った。


 俺は返す言葉が思いつかなくて、考えあぐねていたら、冬夜が先に口を開いた。


 「それにね、ぼく、こういちなら大丈夫かなって思うようになった」


 「何が」


 「だから、その……」


 冬夜は言葉に困ったように、中途半端に口を開かせた。俺は続きが聞きたくて、急いて問い詰める。


 「何」


 「だからっ、さっき男にやられたようなことだよっ。大丈夫かもしれないって思ったの」


 「何でそんな急に……」


 先ほど冬夜は抱かないと我慢を決め込んだばかりなのに、なぜこの天然な少年は、いとも容易く壊してしまうのだろうか。


 「違うのっ……何て言うか……こういちにおぶってもらってた時からずっと考えていたんだけど、さっき男に口付けられたときは、気持ち悪くて怖くて、早く離れたかったけど、こういちとキスしたときはその逆だって気づいたんだ…朝にキスをもらったときは初めての感触にビックリしたけど、気持ちも体も高ぶっていたんだ。こういちと深いところで触れ合えてるって思うと、何だか嬉しくなって……だから、もしかしたら大丈夫かなって…」


 俺はあまりにもストレートな表現に、ため息をつきたくなった。


 「…それ以上言うな、冬夜。理性が飛ぶ」


 「だから、大丈夫だって言ってるじゃない。こういちなら」


 俺は押し黙るしかなかった。どうやらこの人は無意識に誘う言葉を言っていることに気付いていないらしい。


 「……こういちなら、何されても平気だよ。……多分ね」


 「やっぱり多分が付くんじゃないのか」


 「だってそれはやってみないと分からないもの」


 にこやかに発せられた言葉は時速100キロで飛ぶ矢となって、俺の胸に突き刺さる。


 駄目だっ…冬夜、本当にそれ以上口にするなっ……俺が欲望を制御できなくなるっ!


 俺は皮1枚で繋がっている理性を何とか保つため、抱き締めていた冬夜の体を離した。そうやって冬夜を触っている皮膚からも、甘い感覚が伝わってきてしまう。


 「…帰ろう……冬夜、もう遅い」


 無理やり顔を引きつらせて笑い、冬夜の手を取った。そのまま歩こうとしても、握った手が一向に動こうとしない。


 「…冬夜?」


 何だ? と思って振り返ってみれば、がっくりとうなだれた冬夜が、細い肩をぶるぶると震わせていた。


 「……今日だけ、一緒にいてっ、こういちっ……」


 「冬夜?」


 冬夜は半ば叫ぶようにして言葉を吐き出す。


 「こういちと一緒にいたいよっ……こういちが離れると、嫌でも襲われた時の感触が蘇ってきてしまうんだ……怖くて、気持ちが悪くてっ……」


 「冬夜…」


 「だから、だからっ!」


 無意識にでも誘っていたのは、先ほど男に触られた時の恐怖が冬夜の体を支配しているからなのかもしれない。恐怖を抑え込み、いつも通り振る舞う強さと、強姦された恐怖を天秤に掛けたら、圧倒的に恐怖の方が勝っている。


 その場にうずくまる冬夜は、酷く小さく見える。


 「冬夜…」


 「だから、お願いっ……!」


 言葉の間に嗚咽が混じる。泣き出した冬夜を見たら、俺の中でぷつり、と何かが弾けた。


 「……分かった。冬夜、分かったから立って」


 靄のような闇に紛れてしまいそうな冬夜の、手を取って立たせ、自分に引き寄せて抱き締めた。


 「…安心して、冬夜」


 震える細い肩を優しく撫でて、色素の薄い柔らかな髪にキスをした。愛しい人に、これだけ頼ってもらえるのは嬉しかった。少なくとも、あの男とはかけ離れた「信頼」を得ていると実感できて、喜びに胸が締め付けられた。


 「泣くな、冬夜」


 冬夜を肩に抱き、慰め慰め近くの民宿やホテルを探す。中学生の所持金などたかが知れているから、なるべく安いところを所望した。ようやく自分の財布に見合ったビジネスホテルを見つけ、俺たちはチェックインした。


 まだ自分の中でも、このまま冬夜と一夜を過ごしていいのか、決心がついていない。今の俺の状態だと、冬夜を抱くどころか、今まで抑えてきた気持ちが止まらなくなって、酷いことをしかねない。


 しかし、これは冬夜が望んだことだ。どんなことをされてでも、俺と一緒にいたいと言うのだから、傍にいてあげよう。そして、一生分の愛を捧げたい。



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