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冬夜の寝顔はとても可愛い。
もしかしたら、初めて見るかもしれない。
気を失っているときの冬夜の顔なら知っているが、こうやってすやすやと寝ている冬夜は、見たことがない。
とにかく俺は、俺に寄りかかって寝ている冬夜にきゅんときているのだ。
改めて冬夜の顔をよく見ると、肌がつるつるしていてきれいだ。長い睫毛の下には大きな瞳。今は閉じられているが、色素が薄い虹彩は透き通っていて、見るものを惹き付ける。すっと通った鼻に形の良い唇。全体的に見れば幼い感じだが、それはそれでいいと思う。
冬夜がここにいることは本当に奇跡だとしか言いようがない。1年前、冬夜と再開していなければこんなに仲良くなれなかっただろうし、まず冬夜が同じ学校に通っていることも分からずにいただろう。
本当に、こいつに巡り合えたことを感謝したい。こいつに会って初めて、本気で恋をすることを学んだ。恋い焦がれるという感情を知ることができた。そしてこれからもどんどんいろいろなことを知りたい。
冬夜は俺の好きな人。
自分の命よりも大切な存在。
こいつを、絶対に手放したくない。
その寝顔にキスしてやりたかったが、生憎電車の中、冬夜にも怒られてしまう。
俺はお預けを食らった犬のように我慢しなければならなかった。
ようやく目的の駅につき、冬夜を起こして電車を降りた。浜風が心地よかった。
海の家に行き、水着に着替えて冬夜と落ち合う。相変わらず冬夜はもやしっ子で、頭のてっぺんから足の先までの肌が真っ白だった。あまりにも日に焼けていなさすぎて、眩しいくらいだった。
それにしても冬夜、浮き輪なんかしっかり持っちゃって可愛い。可愛すぎる。
そんなの持たなくたって、じきに泳げるようになるよ。溺れそうになったら助けてやるから。
ビーチにはもうすでにたくさんの人がいて、思い思いの時間を過ごしていた。浜辺で城を作っている子どもがいれば、海で泳ぎを教えている親とその子ども。恋人たちが水の掛け合いっこをしてはしゃいでいれば、砂浜でゆっくりと肌を焼く人々もいる。大人数が集まっていながら、皆他の人には目もくれず、自分達だけの世界に夢中になっている。そして俺たちもその中に入ろうとしている。
「冬夜、おいで」
表情が固くなっている冬夜の手を引いて、俺は波打ち際まで連れていった。
「大丈夫、怖くないよ」
「でもだって…」
「冬夜、足元にカニ」
「ええっ!」
冬夜は跳びはねたが、本当はカニも何もいない。
それが分かると、冬夜は涙目で俺をキッと睨む。
「……こういちぃ…」
「大丈夫。そんなに怖いのなら、俺に掴まってればいいから」
何とか海に入らせ、少し経ったら冬夜は水に慣れてきたようで、泳ぎ始めるようになった。泳ぐ、といっても冬夜のは犬掻きみたいなものだが。
俺は泳ぎを教えてやった。元々物覚えはいい冬夜だから、すぐにできるようになった。
よかった、冬夜も楽しめているみたいだ。
午前中はずっと冬夜の泳ぎの特訓をしていたら、いつの間にか太陽が真上にあった。
俺は浜辺から少し離れたところで泳いでいた冬夜を呼んだ。