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言葉どおりこういちは悪い噂を止めた。
ぼくがこういちといつでも行動を共にしていると、それを冷やかすものが出てきた。
それに対して放ったこういちの一言。
「しょうがないだろ、それだけ俺が魅力的なんだから」
こういちは自分が女たらしで通っていたのを見事に利用したのだ。
こういちは続けて、
「女も男も関係なく俺に惚れちゃうんだろ。ま、仕方がないことだが」
何というナルシスト道。
相手は絶句していた。
「俺の前じゃ、男も女もねえよ。俺は最高傑作の芸術品なんだからな。だから、もしかしたらお前も俺に惚れちゃうかもしれないぞ? ま、お前に惚れられても仕方がないけどね」
自分の美化を徹底して語り、こういちは相手を打ちのめした。
「それに冬夜はね、そこらにいる女より純粋で表裏のないやつだから、女といるより楽なんだ」
相手が「だってこいつホモだぜ? 気持ち悪くないのか?」と問い詰めても、こういちは余裕をかました笑みを浮かべるだけだった。
「冬夜はホモじゃないよ。れっきとしたノーマルだ。本来は女しか駄目だが、「俺」には引き付けられてしまったんだよ。それだけ俺の引力は強いんだ」
自分で言っていて恥ずかしくないのかとツッコミたくなったが、ぼくはこういちが頼もしく思えた。
相手は何も言えなくなり、すごすごと退散した。
その後ろ姿をこういちは腰に手を当てて眺めた。
この件はあっという間に広がった。こういちが女たらしだけでなく、とんだ自信家でナルシスト野郎だという噂が、ぼくのホモ疑惑を立ち消えにした。ぼくらが2人一緒にいても、もう誰も何も言われなくなった。
でもなんか……こういちには悪いような気がしてならない。
「何で?」
「だってさ、こういちに悪いイメージがついちゃったじゃん。ぼく申し訳なくて」
「いいんだよ別に。それに少しくらい悪いイメージがあれば、女も寄り付かなくなるだろうし」
「それはないと思う……こういちのことだから」
今日もこういちと肩を並べて歩く。ぼくはそれが嬉しくて仕方がない。
初夏の空は眩しかった。