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俺は耳を疑った。
冬夜が倒れただって?
話を聞くと、朝学校に来るときに道の途中で気を失ったらしい。今は病院に運ばれて安静にしているという。
多分、あいつは貧血持ちだったから、それで倒れたのだと思うが。
俺は学校など放棄して、病院へ向かった。途中で形だけの「彼女」からメールがあったが、大したことない内容だったから返信などしなくていい。
それより冬夜の方が心配だった。テスト期間中、不本意とはいえずっと独りにさせてしまっていたし、最近の冬夜は沈みがちだった。あんなにベタベタまとわりついていた藤村の野郎も冬夜に近づかなくなっていたし、何があったのかはよく分からないが、冬夜がつらい思いをしていたのは確かだ。
倒れたのはそれが原因のストレスもあるのだろう。独りでいることを何よりも恐れていて、守ってやらないと崩れ落ちてしまうような弱い冬夜には、このテスト期間は地獄だったかもしれない。別に俺が自惚れているわけではないが。
どちらにしても、俺に非があると思う。
病院に着き、冬夜の病室へ入った。まだ意識は回復していないらしく、色素の抜けたような生白い顔で冬夜は寝ていた。
「冬夜……っ」
大切な冬夜。
俺の、俺の大事な……。
ここまでしてしまったのは俺のせいだ。
俺は早足でベッドに近寄り、死人のように青ざめた冬夜の頬に触れた。
……死人のようになんて、縁起が悪い。まだ死ぬとは決まったわけではない。
だってほら、弱々しいけれど規則正しく呼吸を繰り返している。胸に耳を当てれば、とくんとくん、とリズムよく鼓動をしている。
死ぬワケがない。
しかし、この一抹の不安は一体何なのだろう。
「冬夜…」
俺は目を覚ましてくれ、と願いを込めて愛しい人に呼び掛ける。
「冬夜、冬夜……っ」
何度も、何度も。
しかし、一向に目を覚ます気配は見受けられない。
早く目を覚ましてくれ、冬夜。そして、おまえに「好き」だと伝えたいのだから。
考えたくはないが、もし冬夜がいなくなってしまったら、俺はどうなってしまうのだろう。2度と笑えないかもしれない。それどころか、生きていけないかもしれない。
俺は小さくて細い冬夜の手を両手で握り、飯も食わずに一晩中付き添った。夜もベッドの脇で冬夜の顔を見つめながら……。