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「化け物」は『人間』でいたい

作者: 黒之 政桜
掲載日:2026/03/30

「ここに集いし戦士達よ!

 遂にこの時が来た!!

 そう、我ら魔族がこの世界を支配する時が!!!」


”ウオオオオオオオォォォォォォォォォォォォー!!!!!!!”


 地を埋め尽くす魔族の大軍の前に立ち、檄を飛ばして士気を大いに高めるのは、魔族の王。

 彼はこの世界を魔族が支配する野望を達成する為に、己の力と野望を誇示し、魔族を纏め上げる事で、史上最強の魔族軍を結成し、今己が野望を達成すべくこの世界に戦争を仕掛けようとしていた。


「さぁ、我らの偉大な野望達成の狼煙として、まずはこの場から最も近しガスト王国を攻め落とす!

 皆、我に続け!」

 魔王は高らかに叫び、先陣を切ると地を埋め尽くす魔族の大軍が魔王に続き、地響きを上げながら進み出す。

 その圧倒的な光景を見れば、大軍を率いる魔王も「必ず野望を達成出来る!」

 そう信じて疑わなかった。


「すいませんけど、あなたこの大軍を率いてガスト王国に侵攻するって叫んでましたけど、本気でやるつもりですか?」


「!! なっ!?」

 突如一人人間の男が、魔王の前に立ちふさがる様に現れ、魔王に「ガスト王国を侵攻するのか?」と尋ねているが、その質問に魔王は咄嗟に応える事が出来なかったのは、目の前に立つ男の気配を、男が声を掛けて来るまで()()()()()()()()()()から他ならない。

 これまで多くの者を圧倒的な力で打ち倒し、どんなに強大な相手であろうと恐怖どころか驚きも戸惑いすら感じた事がなかった魔王が、この時始めて驚きと戸惑いを感じ、これまで感じた事のない感覚に魔王は対応出来ず黙ってその場に留まってしまったのだ。


「えっと、人の話聞いてますか?」

 そう男に問われ、魔王は己が思考の渦に囚われてしまっている事に気付き、直ぐに臨戦態勢をとる。


「…貴様、何なのだ?人間のようだが??」


「何者って…そんなの聞かなくても、あなたは何となく僕が”何なのか”何となく分かってるんじゃ?

 って、そんな事よりあなた達本気でガスト王国に侵攻するつもりなのかこっち聞いてますけど、どうなんですか?」


「そうだ!我ら魔族がこの世界を統べる為の狼煙として、まずはガスト王国を我らは落とす!」


「…そうですか。

 だったらすいませんけどその野望は、今すぎ諦めてもらう事になります」

 人間の男がそう答えると、魔王は予想だにしない言葉を聞かされたので、思わずニヤケてしまう。

 なんせ幾ら己に異様な感覚を感じさせた相手であっても、この男の言った言葉は”絶対に実現不可能である”と思ったからだ。


「ククク、お前は状況を分かっておらぬようだな!

 たった一人の『人間』が、我とこの地を埋め尽くす屈強なる魔族の軍団の侵攻、止められると思っているのか?」

 そう言った魔王の顔は、実に愉快そうだった。

 だが魔王の前に立つ男は、この状況下であっても表情一つ変える所か、眉一つ動かす様子を見せることもなく、ただ淡々と言葉を口にした。


「残念ですが、これからあなた達が対峙するは只の人間じゃなくて、只の『化物』ですかから。

 だからこの後、どんな結果になろうともあしからず」


・・・

・・



「おーい、この依頼を受けたいんだけど!」


「お待たせしました。こちらが依頼達成の報酬です」


「ちょっとこの依頼、思った以上に大変だったから……」


「すみません、この依頼を受けるにはランクが……」

 今日もはこの国最大の総合ギルド”オールインワン”は、多くの人で賑い忙しない空気が流れている。

 そして人が多く行き交えば、当然ギルドのマネージャと言う名の総合職を担当している僕にも多くの仕事が舞い込んでくる。

 そう、例えば書類の決裁に追われている僕の元に、一人の新人の受付の子が何かの書類を片手に持って僕のデスクに尋ねて来てくれば、それじゃ新しい仕事が増える告知であり、僕はその対応で更に仕事が増える事になるが、コレも中間管理職の宿命だ。

 ちなみにこの子の相談内容は

「自分が良く面倒を見ているギルド所属の冒険者に、今より高いランクの依頼を受けさせれられないか?」

 そんな内容だった。


「君の提案を受け入れるかどうか判断する前に尋ねるけど、君は何故この子達の意見を通したいと考えているのかな?」


「……実はですね。この子達が、いい感じに伸びて来てる!ってのもあるんですけど、そんな子達から『そろそろCランクの試験を受けたい』って相談されちゃったら、私も力になりたくなっちゃって。

 それに勢いに乗ってる時は、その勢いに乗って欲しいですし、ウチの所属冒険者のランク昇級を手助けするのだってギルド職員の立派な仕事ですし!」

 つまりこの子は、自分が贔屓している子達を早く昇進させてやりたいのだろう。

 まぁ、応援してる人に良くしてやりたいと思うのは、至って普通の考えだと思う。

 だけど仕事に私情を持ち込むというのは、あまり頂けない。

 そもそもこの子が思い描いているように物事が進むのかも、しっかりと精査する必要がある。


「分かった。

 なら君が応援したいというDランクの子達のより詳しい情報、貰えるかな?

 十分な実力があると判断出来れば、僕も君の提案を受け入れるから」


「は、はい!

 直ぐにお持ちします」

 こうして受付の子は、パタパタと急いで自分のデスクに戻り、予め準備しておいたであろう書類を机の中から取り出すと、再び僕の元に戻ってくる。


「ロックさん、お待たせしました!

 この子達四人が、さっき私が話してた子達なんですけど……」

 そう言って僕に例のDランクの子達4人の詳細が書かれた書類を渡して来たので、僕はその書類をチェックするが、実の所既に自分のアビリティで、この書類より更に詳細なデータを頭の中に展開しており、とっくにこの四人の能力分析は終わっている。


(確かに四人とも伸びる素養はまだまだあるね。

 でも、()()()()じゃあCランクの依頼となるビッグボアの討伐は、ちょっと厳しいかな)

 こうして”新人の子の案を通すのは無理だ”という結論を既に導き出してしまっている以上、後は「無理ですから」と一言伝えて終わり。

 という訳にもいかないので、僕はこの子に事実を伝えつつ、どうすればこの子が面倒を見ている冒険者4人を、この子が良い方向に進めるようにアドバイス出来るか。

 その意義と方法も伝えないといけないから大変だ。


「なるほど……君の気持ちは最大限組んであげたいと僕も思う。

 だけどね、この四人の実力でビッグボア討伐に挑むのは、リスクが高すぎると思わないかい?」


「う……確かにロックさんの言う通りかもしれませんが、それでも私はあの子達の勢いを削ぎたくないし、チャンスを与えたいんです!」


「確かに自分が応援している人達に『チャンス』を与えたいと思うのは悪い事じゃないと僕も思うよ。

 だけど僕達の仕事は、只チャンスを与えるだけが仕事じゃないよね?

 無茶をさせるつもりなら、させるなりのリスクマネジメントが必要だし、やるからにはどうすれば確実に依頼を達成できるのか?

 その事を的確アドバイスするなり、この依頼を受ける適切なタイミング指導するのも、僕らの仕事だ。

 ちなみに君は僕が今言った事全てを、的確にこのDランクの四人に指示出来るのかい?」


「い、今すぐは出来ないかもしれませんが、討伐の日までには上手くやれると思います」


「そうかい。なら教えてもらおうかな?

 その根拠は?」


「えっと……ですね…この子達なら今の勢いがあれば……」


「つまり君は”勢い”さえあれば、どんな困難な状況だって打破できるって言いたいのかい?」

 それって根拠に成り得る事かな?」


「いや…その…」


「君がこの四人が今のランクで受けれる依頼より、高レベルの依頼を達成出来る根拠言えない時点で、君の言葉に信頼感はないよ。

 そもそもまだ実力はまだ低くたって、伸びしろがあると思える人材をギルドとしても失わせる訳にいかないしね。

 せめて君が、この四人がビッグボアの討伐を成功させる現実的な案を出せたなら、一行の余地があったけど、それすら出せないなら僕は君の意見を通す訳にはいかないかな」


「…そんなぁ」

 僕から意見を却下された事で、受付の子は”シュン”と肩を落としてしまう。

 そんな姿を見せられたら罪悪感に苛まれるけど、こればっかりは許可する訳にはいかない。


「そう落ち込まないでほしいな。

 この判断は、このギルドでいつか光り輝くダイヤ原石を失わないようにする為の判断でもあるし、君が更に実力を伸ばすチャンスでもあるんだ。

 それに君が面倒見ている子達は、確かにまだまだ伸びしろがあるのは間違いないよ。

 だから焦らずに着実にランクを上げるように、この四人にアドバイスしていこう。

 それがその子達にとって”一番為なる”事だと思わないかい?」


「…そうかもしれないです」

 受付の子は声を捻り出してそう言いいはしたけど、やはり自分の意見が通らなかったショックは全然隠せていない。

 なんせ自分のデスクに戻る姿も、肩を落としつつトボトボ歩いて戻り、その背中には悲壮感が漂っていた。

 正直決して気持ちの良い終わり方ではなかったけど、さっきの提案を受け入れDクラスの子達にビッグボア討伐を任せたらまず全滅!

 運良く命は助かったとしても、全員再起不能!

 それが僕のアビリティが見せた残酷かつ決して覆る事のない結果であり、その結果を覆す案をあの子が提案出来ない以上、あの子の案を承認する訳にはいかない。


「ふぅ~、相変わらず手厳しいな~! ウチのマネージャー様は。

 まだあの子新人なんだからね。お手柔らかに頼むよ~?」

 そう言った後に背後から”ポン”っと僕の肩を叩いたのは、オールインワンのギルドマスター、セリーヌさんだった。


「厳しいだなんてとんでもない。 僕は責任者の一人として当然の判断をしたまでです!

 なんせ僕達の采配一つで、ギルド所属の冒険者の命を無駄に散らせる事になるんですから。

 だから無理な物は”無理”だとハッキリ言いますよ、僕は」

 僕とさっきの子の遣り取りを、セリーヌさんは僕が新人をいびりをしているかのように言ってきたので、僕は先程の対応はいびりでも何でもない”当然の対応”だと伝えると「ハァ~」ため息を付かれたのは、何か釈然としない。


「あのね~、ロックの言い分が幾ら筋通ってるって言っても、もうちょっと言い方って物を考えてあげなよ?

 まだ経験浅くてうら若い女の子相手に、ガチガチの理論詰めなんてしたってあの子にとっては『ガッツリ説教』されたとしか感じてないよ。

 だからもう少しお手柔らかに対応してあげないとね~」


「……気を付けます」 

 なんか言い方に棘あって若干癪に障るけど、確かにまだこの仕事の経験が浅い相手に対する対応としては、少々厳し過ぎた言い方だったかも知れない。

 そう感じた部分がある以上、僕はセリーヌさんの言う事に渋々だけど頷いた。


「フフフ」


「…何か可笑しい事ありました?」


「いやねぇ~かつて世界から畏敬を持たれた男が、まさか新人に物教えるのが苦手っての見ちゃうと、笑えて来ちゃって」


「セリーヌさん……その話『ココではしないって』約束でしたよね?」


「おっと、つい!

 って言っても、どうせロックが遮断結界張ったから、誰にも聞こえてないんでしょ?

 そんな事よりコレに印鑑よろしくね~」

 セリーヌさんは僕が過去に”盛大にやらかしてきた事”をそれなりに知っているので、その事を時折弄って遊んでくるのには困るけど、僕はこの人に”その際色々とお世話になった”恩がある以上、どうにも頭が上がらない。

 そんな事を考えながら、セリーヌさんが渡して来た備品購入申請書の内容をチェックし、問題がなければ認証印を押そうと印鑑を手に取ろうとしたが


「……ちょっと!

 何シレっっと備品購入申請書に偽造した婚姻届けに、押捺させようとしてるんですか!!」


「チッ!、あとちょっとだったのに!」


「『チッ!』、じゃないですよ!

 国内最大手のギルドマスターが、とんでもなく手の込んだ偽造書類作った挙句、詐欺まがいの方法で結婚しようとするなんて、どうゆう神経してるんですか!」


「だって~ロックは私が何回プロポーズしても首を縦に振ってくれないから~、もう既成事実作っちゃうのが一番かな~って」


「…どこからツッコんで良いのか分かりませんが、そもそも僕達『付き合ってすらいない』ですよね?」


「えっ? それって『初めから付き合う必要なんてないから、さっさと結婚しよう』って意味?」


「…ドコをどう解釈したら、僕の言った事からそんな解釈が生まれるんですか!」


「えっ? 違ったの??」


「違うに決まってるでしょ!」

 僕はため息を付きつつ”巧妙”なんてレベルでは言い表せない出来具合の偽造婚姻届けを、セリーヌさんに付き返した。


「セリーヌさん…あなたなら引手数多なんですから、良い加減僕みたいな者と結ばれようとするなんて無駄な事は、止めて下さい!」


「う~ん、それは 無・理 かな!

 前にも言ったけど、私はロックに心底惚れてしまっているし、君以上の男がこの世に居るなんて考えられないから。

 だからロックこそ良い加減観念して、私の物になったら?」


「……何度も言ってますが、丁重にお断りします!」


「じゃあ私だってロックが私の提案を断るのを、丁重にお断りするわ!!」

 こうして何時ものように、セリーヌさんとの言い争いが始まった。

 が、この不毛な争いもセリーヌさんが別の職員呼ばれた事で、今日の所は終わりを迎えたが、このやり取りは何度やっても何か色々と疲れる。

 セリーヌさんから求婚、いや、もう強制結婚の謀略と言っていいだろう!

 元々は『付き合って!』から始まったのをずっと断り続けていたら、何故か悪化して求婚されるようになったかと思えば、いつしか結婚する為の手段を選ばなくなってきた。


 僕のアビリティで、今回も過ちを犯す事は未然に防げたけど、どんどんやり口が高度かつ緻密なっている。

 正直手段を選ばなくなった人間ほど怖い物はないと思うと、はぁ~っと思わず盛大にため息を付いてしまった。


「おうロック、そんなデカい溜息付くなんて、またセリーヌから禄でもない目合わされかけたか?」

 そんな僕の姿を見て、ニヤニヤとしながら声をかけて来たのは、ギルド職員最年長かつ、このギルドのセカンドマスターであるシュウジさんだった。


「……はい、今日もセリーヌさんにまた高度で緻密な詐欺まがいの事やられて、()()()()()()()になりましたよ」


「ハハハハ! またいつもの『痴話喧嘩』か!」


「痴話喧嘩って……僕とセリーヌさんが『そんな関係じゃない』って事分かってて言ってますよね?」


「そう言う割には、お前だってキッパリとセリーヌの事袖に触れねでいるクセに!。

 良い加減お前も観念してさっさとセリーヌの嫁になれ!!」


「…僕に結婚願望は一切ないので結婚自体お断りです。

 というか僕、そもそも男なんで嫁にはなれませんよ」


「ったく、冗談だっての!相変わらず冗談を受け流そうとしないお堅い奴だな。

 まっ、お前が何時まで意地張って『結婚しない』って言い張るつもりか知らないけど、これだけは覚えとけ。

 案外自分の考えた最悪のシナリオなんざ、まず起きやしない!

 だから心配のし過ぎってのは、逆に良くねーぞ」 

 シュウジさんはドヤ顔でそう語ってきた。


「…僕は何の心配もしてませんよ。

 ただ今の所は、仕事が楽しくて仕方がないから家庭なんて持つ気になれないだけです。


「そうかよ。

 まぁ、家庭持たねーで仕事がしてーつうんなら、コレの後始末もよろしくな」

 っと言って僕に大量の始末書を渡して来た後、そそくさと去って行った。

 

「いや、コレって……はぁぁぁ~!」

 何か好き放題言われた挙句、あの人がため込んでいた始末書を一気に渡してこられたのは腹が立ったが、自分でも本音を隠した苦し紛れの言い訳を並べてしまった以上、僕も後に引けないので、釈然としない部分は多々あったとしても、僕は盛大にため息を付きながらシュウジさんの大量の始末書の処理と言う名の戦いが始まった。


・・・

・・


「…やっと終わった」

 漸く仕事を終えたのだが、どうにも色々とスッキリしないので、行きつけのバーで一杯飲んで帰る事にした。

 バーに入って直ぐにマスターに、ボトルキープしていおいたお気に入りのバーボンを出してもらうように頼む。

 するとマスターは直ぐバーボンとツマミを出してくれる。

 色々あって疲れた自分のご褒美にと、ショットグラスにバーボンを注げば、このバーボン特有のバニラのような香りを少し感じるが、その香りに反して飲めば喉に焼けるような刺激が走りつつ、甘みを感じるがスパイシーな独特の味が僕はとても気に入っている。

 更にお気に入りの銘柄なので、飲めば多少は気持ちがスッキリするかと思ったが、そうならないのは、やはりシュウジさんに言われた言葉が、頭から離れないからだ。


(考え過ぎは良くないか…例えシュウジさんの言う通りだとしても、僕は誰かと添い遂げていい存在じゃないだろ…)

 自分にそう言い聞かせようとはするのは、まず僕がセリーヌさんの事をまんざらに思ってない気持ちがある事を自覚している事。

 そしてもう一つは、僕の不安視している未来が”決して起こり得ない” そう言い切れないからだ。


 この世界に住まむ者達が必ず一つは持っている個々の能力事”アビリティ”。

 このアビリティは親から子に遺伝する性質があるのだが、僕の持つアビリティは「最凶、最悪」といって言いきれる危険な物である以上、僕は誰とも交わる事が出来ない存在である以上、僕は誰とも添い遂げるつもりもない。

 そしに社会において圧倒的かつ一方的な力を持つ『化物』は、社会と世界に不幸と不安をバラまく存在でしかないから、出来るだけ誰かにその存在を知られるべきではない。

 こんな考え我ながら酷くネガティブな思考だと思うけど、僕がそう思わざるを得なくなったのも、全ては僕の持つ史上最凶最悪かつ最低のアビリティ”天上天下”の所為だ。


 このアビリティは、その名が示す通り僕を「この世界の天とも言える頂点に押し上げる」アビリティなのだが、その実態は単なる”化物”を生み出すだけのアビリティだった。

 なんせこのアビリティの本質は『天とは常に上にあり、決して下る事はない』である。

 よってこのアビリティは、僕をこの世界の最上位の存在にすべく”いかなる力をも上回る力”を、自動かつ強制的に与える物だ。


 天上天下の効果を単純に言ってしまえば、僕は自動かつ強制的に相対する相手以上の力が、勝手に与えられる。

 だからこの能力があれば、昨夜人知れず退治して来た”地を埋め尽くす程の魔族の大軍”という「誰が見ても多勢に無勢」と言える戦力差と対峙しても、対峙した瞬間に対峙する者を超えた力を得てしまうので、相手が魔王を含めた魔族の大軍だろうが、纏めて心をボッッッッキリとへし折る事なんて、もはや朝飯前となる最凶の能力だ。


 そしてこのアビリティの更に厄介な所は、僕が何かしらの方法で相手の存在を知覚した時点で、僕は知覚した相手の力を上回る力を得るので、自分は無自覚のつもりでも、僕の力と能力は常に増大し続けているのだ。

 だからいつの間にか、この世界の全ての者から僕と出会った記憶を消す事が出来、世界の情報をアカシックレコードから引き出せるようになれば、物事の真偽を簡単に見抜く目を持つようになっていたのだ。


 正直に言えば、初めてこのアビリティのの本質を知り、自分の力が無限に増大すると理解した時は、僕も、家族も、周囲の人達だって大いに喜んでくれた。

 だから僕はこの力で世界を巡り、いろんな人達を救えると信じて世界を回り、自分の能力を正しいことに行使し続けた。

 そうすれば誰もが僕をもてはやし、尊敬の眼差しを向けるようになると、僕は僕を必要としてくれる事に幸せを感じ大いに僕は満たされ、英雄を気取りでいたけど、それは束の間の幸せでしかなかったと同時に、英雄でも偽りの英雄でしかなかった。


 世界が注目する力と言うのは、裏を返せば世界が欲する力であり、自分が正しいと思ってやってきた事が、絶対に正しいとは限らなかった。

 その真実が明るみになっても、僕はその真実にに目を背け、自分が”正義だ”として力を行使続けた結果、世界が僕の力を欲すると同時に畏敬する。

 そして僕の能力を巡る争いが各地で起き始めると、世界のパワーバランスが大いに狂い始めたのだ。

 その結果、これまで上手く回っていた世界バランスまでもが狂い始め、もはや僕の関与が届かないレベル戦争が始まった。

 そう、僕のアビリティが切っ掛けで、世界を巻き込んだ大戦までもが勃発する事態となってしまったのだ!


 だから僕は、自分のアビリティが引き起こした世界を巻き込んだ大戦を止める為に、僕は力を更に行使して戦争を終結させようとした!

 そして多くの犠牲を出しながらも、何とか大戦を終わらせる事は出来たのだが、その犠牲というのは僕の家族と故郷、更に多くの大切仲間達や、僕を慕ってくれた人達。

 言えばキリがない多くの物が僕が原因で失われる事となった。

 こうして世界を大きく荒廃させる原因が、僕の持つ最悪のアビリティだったのだ…


 こうして僕は、個人の力で世界その物を破滅に導く『化物』でしかない事を思い知り、「この世界で生きていてはいけない存在」だと思い至った僕は、一度は生きる目的から生きる気力さえも失った。

 そして何も考えず途方に暮れ、己の命が尽きるのを「只黙って待ち続ける抜け殻」となっていた時に出会ったのが、セリーヌさんやシュウジさん達で、後のオールインワン創立者となる人達で、僕に贖罪の機会を与えてくれた恩人達だった。

 あの人達から「生きている事に後悔するぐらいなら、もう二度と後悔しない生き方をしろ」なんて説教され、「そんなに自分の事がどうしても許せないなら、自分を許す努力をしてみろ」と諭されたのは、様々な意味で僕の新たな生きる指標を与えてくれた。

 

 そして化物である僕に「自分の力が世界を亡ぼす化物だとしても、君の心は人間なんだから人間として生きていい」と言ってくれたのがセリーヌさんであり、その言葉がなかったら僕は「もう一度この世界で生きてみよう」なんて決して思わなかっただろうし、皮肉にもそう思えるようになった多くの理由の一つが、天上天下の特性なのは笑えない話だったけど。

 なんせ僕は、”何の努力をする必要もなければ、何の苦労する事さえもなく力が身に付く化物だ。

 だから僕はもう「自分を成長させる事の意義と喜びを失い、何の努力もする必要がなくなった」というのは「人が努力して成長した証を全て踏みにじる」そんな可能性を持った存在である以上、他人からすれば最低の存在ともいえる。


 だけどそんな僕にも、一つだけ全く関与出来ない事がある事にある時気が付いた。 それこそ「他人の成長」だった。

 自分が成長する為の努力と、他人を成長させる為の努力は全くの別物であり、他人の能力に関して僕のアビリティは一切作用しない。

 だから僕が人を育てようにも、人が育つのに最も必要なの事が”その人が自分が育つよう自分から動く事”である以上、僕の天上天下が全く通用しない相手だったのだ。

 その事が分かってから、僕は人を育てる為に四苦八苦しているのだが、同時に失っていた物を取り戻す事が出来た、

 こうして僕は己に残された喜びと存在意義が、これからこの世界を作っていく者達が育っていく手助けをする事となった事で、僕は今所属するギルド”オールインワン”のマネージャとして働くようになる。


 こうした経緯から僕とセリーヌさんやシュウジさん達との付き合いが始まり、今に至っているから、僕は今化物ではなく『人間』として生きて行けている。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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