動くぬいはかわいいぬい
らむは、僕を見つめていた。
抱きしめたまま、じっと。目を見開いて。信じられない、というような顔で。
部屋は静かだった。さっきまでの泣き声も、もう聞こえない。ただ、らむの荒い息だけが、部屋に響いている。
「……本当に、動いたよね?」
らむが、小さな声で言った。自分に確認するように。それから、もう一度僕を見る。
「らむぬい……?」
僕は、動かない。まだ、どうしていいかわからない。動いたことがバレた。らむは、知ってしまった。でも、これからどうすればいいのか。何をすればいいのか。
らむの手が、僕の背中をそっと撫でる。
「……怖くないよ」
優しい声。
「怖くないから……もう一回、動いてくれる?」
らむが、僕を少しだけ離して、目の前に持ち上げる。僕の目を、じっと見つめる。
「お願い」
その声に、僕は意を決した。ゆっくりと、首を縦に振る。小さく、ゆっくりと。頷く。
らむの目が、また大きく見開かれる。
「……本当だ」
息を呑む音。それから、小さく笑う声。
「本当に、動いてる……」
らむが、僕をもう一度抱きしめた。今度は、恐る恐るじゃなく。嬉しそうに。
「すごい……信じられない……」
らむの声が、震えている。でも、さっきまでの泣き声とは違う。驚きと、喜びと、それから少しの混乱が混ざった声。
「ねえ、らむぬい」
らむが、また僕を目の前に持ち上げる。
「質問してもいい?」
僕は、もう一度頷いた。
「……わかった。じゃあ、うん。えっと……」
らむが、少し考える。それから、ゆっくりと口を開いた。
「らむぬい、私のこと……わかる?」
僕は、頷いた。
「私が誰だか、わかってる?」
もう一度、頷く。
らむの目が、少しだけ潤む。
「そっか……」
小さく呟いて、それから次の質問。
「じゃあ……いつから? いつから、動けるようになったの?」
いつから。神社で願ったあの日からだ。でも、それをどう伝える? 僕は、少し考えてから、動き始めた。
まず、体を横に倒す。寝るジェスチャー。それから、起き上がる。また倒れる。起きる。倒れる。起きる。
「え、ちょっと待って……寝て、起きて……?」
らむが、首を傾げる。僕は、もう一度繰り返す。倒れて、起きて、倒れて、起きて、倒れて、起きて。
「三回……? 三日前?」
僕は、勢いよく頷いた。
「あ、そっか! 三日前なんだ!」
らむが、嬉しそうに笑う。
「すごい……ちゃんと伝わった」
「そっか……じゃあ、結構前からなんだ」
らむが、少し考え込む表情をする。
「配信のときも……見てた?」
頷く。
「膝の上にいるとき、ずっと?」
もう一度、頷く。
らむの顔が、少しだけ赤くなった。
「そっか……恥ずかしい……」
それから、また質問。
「ねえ、らむぬい。あなたは……何?」
何。
それは、答えられない質問だった。僕は何者なのか。なぜ、ここにいるのか。どうして、このぬいぐるみの中にいるのか。
僕は、首を横に振った。わからない、と。
「わからない?」
頷く。
「そっか……あなたも、わからないんだ」
らむが、少しだけ寂しそうに笑った。
「でも……いいよ。わからなくても」
らむが、僕をもう一度抱きしめる。
「さっき、抱きしめてくれたよね」
頷く。
「ありがとう」
らむの声が、また少しだけ震える。
「私、すごく嬉しかった。誰もいないって思ってたから。一人だって思ってたから」
らむの腕が、僕をぎゅっと抱きしめる。
「でも、あなたがいてくれた」
僕は、らむの腕の中で、何も言えない。ただ、そっとらむの服を掴んだ。小さな手で。
「ねえ、らむぬい」
らむが、また僕を目の前に持ち上げる。
「これから、いっしょにいてくれる?」
その質問に、僕は迷わず頷いた。
「ありがとう」
らむが、笑った。さっきまで泣いていたのが嘘みたいに、明るい笑顔。
「じゃあ、これから……よろしくね」
らむが、僕の頭を撫でる。
「らむぬい」
僕は、らむの手の中で、小さく手を振った。
らむが、また笑う。今度は、本当に嬉しそうに。
「かわいい……」
そう言って、らむは僕をベッドに置いた。それから、隣に座る。
「ねえ、じゃあ……色々試してもいい?」
僕は、頷いた。
「わかった。じゃあ……手、挙げて?」
僕は、片手を挙げた。
「すごい! じゃあ、反対の手も」
もう片方の手も挙げる。
「両手!」
両手を挙げる。
らむが、嬉しそうに笑う。
「ジャンプできる?」
僕は、少しだけ跳ねてみた。ぬいぐるみの体で跳ぶのは難しいけれど、なんとか。
「できた! すごい!」
らむの目が、キラキラしている。子供みたいに、無邪気に。
「じゃあ……歩ける?」
僕は、ゆっくりと歩き始めた。ベッドの上を、よちよちと。
「かわいい……」
らむが、また笑う。
僕は、らむのほうに歩いていって、らむの手に触れた。らむの手が、僕を優しく包み込む。
「ありがとう、らむぬい」
らむが、もう一度言った。
「あなたがいてくれて、本当に良かった」
僕は、らむの手の中で、小さく頷いた。
こちらこそ、と。声には出せないけれど、心の中で思う。
ここにいられて、良かった。
らむのそばに、いられて。
それが、僕の願いだったから。
らむは、しばらく僕と遊んでいた。色々な動きを試して、笑って、時々驚いて。疲れていたはずなのに、さっきまで泣いていたはずなのに。今のらむは、本当に楽しそうだった。
やがて、らむがあくびをした。
「あ……ごめん。眠くなっちゃった」
らむが、僕を抱き上げて、ベッドに横になる。
「いっしょに、寝てくれる?」
僕は、頷いた。
「ありがとう」
らむが、僕を抱きしめたまま、目を閉じる。
「おやすみ、らむぬい」
僕は、らむの腕の中で、静かにしていた。
おやすみ、らむ。
心の中で、そう返す。
これから、どうなるのかわからない。でも、今は、それでいい。
らむのそばに、いられるなら。
それだけで、十分だから。
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ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
動きました。これからどんどん動いていこうと思います。
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そして、「らむぬいにこんな風に動いてほしい」「こんなシーンが見たい」といったリクエストも大歓迎です。ぬいぐるみができる範囲で、皆さんのアイデアを物語に取り入れていきたいと思っています。気軽にコメント欄でお聞かせください。
それでは、次回もよろしくお願いします。
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