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近くに感じる


あれから、三ヶ月が経った。


季節は春になり、窓の外には桜が咲いていた。らむの部屋にも、少しずつ暖かい空気が入り込んでくる。


らむは、変わらず配信を続けていた。毎日、画面の向こうのリスナーたちと話して、笑って、時々悩んで。


そして、いつも隣には、らむぬいがいた。


---


朝、らむが起きる前に、カーテンを開けた。


春の日差しが、部屋に差し込む。らむが、ゆっくりと目を覚ます。


「ん……おはよう、らむぬい」


らむが、僕を見て、小さく笑った。


「今日もカーテン開けてくれたんだ。ありがとう」


頭を撫でられる。もう、慣れた光景。


でも、毎日が特別だった。


らむのそばにいられる。それだけで、幸せだった。


---


配信の準備をする時間。


らむが、デスクの前に座る。機材をチェックして、マイクの位置を調整する。


その間、僕は小さなことを手伝う。


ライトのスイッチを押す。ペットボトルを近くに置く。らむがよく使うメモ帳を、手の届く場所に移動させる。


らむは、時々気づいて、笑う。


「ありがとう、らむぬい」


その言葉を聞くたびに、心が温かくなる。


配信が始まる。


「こんらむ〜♪」


いつもの挨拶。いつもの声。


らむの膝の上にいた。配信画面には映らない。でも、ここにいる。


配信は、順調だった。らむは、楽しそうに話している。コメント欄も、いつもより活発だった。


そして、配信が終わる。


「それじゃあ、今日はこのへんで。またね〜、ばいらむ♪」


配信画面が切れる。らむが、大きく息を吐いた。


「ふう……」


疲れた顔。でも、満足そうな顔。


「お疲れ様、らむぬい」


らむが、僕を抱き上げた。


「今日も、一緒にいてくれてありがとう」


らむが、僕を抱きしめる。


そして、ソファに座った。僕を膝に置いて、スマホを見ながら、少し休憩する。


しばらくして、らむが呟いた。


「……お茶、飲みたいな」


その言葉を聞いて、動いた。


ソファから降りて、キッチンに向かう。らむがよく飲むお茶のパックが、棚に置いてある。


それを手に取って、らむのところに運ぶ。


らむが、気づいた。


「あ……」


らむが、僕を見て、それからお茶のパックを見た。


「持ってきてくれたの?」


頷いた。


らむが、少し驚いた顔をした。それから、優しく笑った。


「ありがとう」


らむが、お茶のパックを受け取る。


「言ってないのに、わかってくれたんだ」


らむが、僕の頭を撫でる。


「すごいね」


その言葉を聞いて、少し照れくさくなった。


でも、嬉しかった。


らむのために、何かできた。


それだけで、十分だった。


---


夜、らむはベッドに座っていた。


僕を、隣に置いて。


らむは、スマホを見ながら、配信のコメントを読み返していた。時々、小さく笑ったり、真剣な顔をしたり。


やがて、らむがスマホを置いた。


そして、僕を見た。


「ねえ、らむぬい」


らむが、静かに言った。


「あなた、なんだか……」


らむが、少し考えるような顔をした。


「あの人みたい」


その言葉に、心臓が跳ねた。いや、ぬいぐるみには心臓なんてないはずなのに。


「いつも、配信を見てくれてた人」


らむの声が、少しだけ寂しそうになる。


「いつも、一番に来てくれて。最後まで見てくれて。時々、スパチャで励ましてくれて」


らむが、僕を見つめる。


「その人、すごく優しかったんだ。私が疲れてるとき、コメントで気づいてくれて。私が落ち込んでるとき、励ましてくれて」


らむの声が、温かい。


「あなたも、そう」


らむが、僕を抱き上げた。


「いつも、私のこと見ててくれる。私が何か欲しいとき、気づいてくれる。私が疲れてるとき、そばにいてくれる」


らむが、僕を優しく抱きしめる。


「なんだか、似てるなって思って」


らむが、小さく笑った。


「変だよね。ぬいぐるみと、リスナーさんが似てるなんて」


らむが、首を振った。


「気のせいだよね」


その言葉を聞いて、何も言えなかった。


気のせいじゃない。


その人は、ここにいる。


らむのすぐそばに、いる。


でも、言えない。


名前も、名乗れない。


ただ、ぬいぐるみとして、そばにいるだけ。


らむが、僕をベッドに置いた。それから、隣に横になる。


「おやすみ、らむぬい」


静かな声で、らむが言う。


「明日も、よろしくね」


おやすみ、らむ。


明日も、そばにいるよ。


ずっと、そばに。


たとえ名前を名乗れなくても。


たとえ気づかれなくても。


推しの幸せが、最優先だから。


その夜、らむは静かに眠った。


窓の外には、桜が咲いていた。


春の風が、部屋に入り込んでくる。


あれから、三ヶ月。


らむと過ごした、三ヶ月。


その時間は、確かに幸せだった。


でも、どこかで思う。


いつか、気づかれる日が来るのだろうか。


いつか、らむが知る日が来るのだろうか。


このぬいぐるみの中に、誰がいるのか。


でも、それは、まだ先の話。


今は、ただ。


そばにいる。


それだけで、いい。


推しの幸せを、願いながら。


ずっと、そばに。


---



---


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

これから投稿頻度が週2になります。

もし楽しんでいただけましたら、評価やブックマークをしていただけると大変励みになります。また、感想やコメントもお待ちしています。あなたの推し活の記憶と重なる瞬間があったなら、ぜひ教えてください。


そして、「らむぬいにこんな風に動いてほしい」「こんなシーンが見たい」といったリクエストも大歓迎です。ぬいぐるみができる範囲で、皆さんのアイデアを物語に取り入れていきたいと思っています。気軽にコメント欄でお聞かせください。


それでは、次回もよろしくお願いします。

毎週月、木更新予定

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