Vtuberになった理由
配信が終わった。
「それじゃあ、今日はこのへんで。またね〜、ばいらむ♪」
いつもの締めの言葉。配信画面が切れる。
らむが、大きく息を吐いた。
「ふう……」
疲れた声。今日の配信は、いつもより少し長かった。三時間近く。らむは、ゲームをしながら、リスナーとやりとりをしていた。楽しそうに見えた。でも、時々、声のトーンが落ちる瞬間があった。
らむが、椅子の背もたれに体を預ける。しばらく、じっとしていた。
膝の上で、静かにしていた。
やがて、らむが僕を抱き上げた。
「お疲れ様、らむぬい」
らむが、小さな声で言う。
それから、ベッドに向かった。ベッドに座り込んで、僕を膝に置く。部屋の明かりは、まだついている。でも、外はもう暗い。
「……疲れたな」
らむが、ぽつりと呟いた。
「今日、なんか……うまくいかなかった気がする」
らむの声が、少しだけ沈んでいる。
「コメント、いつもより少なかった。みんな、つまらなかったのかな」
らむが、僕を見下ろす。
「私、ちゃんとできてるのかな」
その言葉を、何度も聞いた。らむは、時々不安になる。配信がうまくいかなかったとき。コメントが少ないとき。登録者数が伸びないとき。
でも、今日は少し違う気がした。
らむの声が、いつもより深く沈んでいる。
「ねえ、らむぬい」
らむが、僕を抱きしめた。
「私ね、昔……すごく辛い時期があったんだ」
らむの声が、静かになった。
「何もかもが、うまくいかなくて。誰とも、うまく話せなくて」
らむが、僕の頭を撫でる。
「毎日、一人で部屋にいて。外に出るのも怖くて」
らむの声が、少しだけ震える。
「ずっと、孤独だった」
その言葉が、胸に刺さった。
らむが、孤独だった。
推される側も、孤独だった。
「でもね」
らむが、少し声のトーンを上げた。
「ある日、配信を見たんだ。あるライバーさんの」
らむの声が、少しだけ明るくなる。
「その人の配信、すごく温かかったんだ。優しくて、楽しくて。見ていると、なんだか、一人じゃない気がした」
らむが、僕を優しく抱きしめる。
「その人が、配信の中で言ったんだ。『辛いときもあるけど、大丈夫。一緒に頑張ろう』って」
らむの声が、また少しだけ震える。
「その言葉を聞いて……泣いちゃった」
らむが、小さく笑った。
「変だよね。画面越しの言葉なのに。私に向けて言われたわけじゃないのに」
らむが、僕の頭を撫でる。
「でも、救われた。本当に、救われたんだ」
らむの声が、温かい。
「それから、毎日その人の配信を見るようになった。その人の声を聞くと、頑張れた。少しずつ、元気になれた」
らむが、深く息を吸った。
「そして、思ったんだ。私も、誰かのそういう存在になりたいって」
らむの声が、少しだけ強くなる。
「誰かが辛いとき、励ませる存在になりたい。誰かが孤独なとき、そばにいてあげられる存在になりたい」
らむが、僕を見下ろした。
「だから、Vtuberになったんだ」
その言葉を、じっと聞いていた。
らむが、Vtuberになった理由。
誰かに励まされた。だから、誰かを励ましたい。
推される側にも、推していた人がいた。
その連鎖。
「でもね」
らむの声が、また少しだけ沈む。
「時々、不安になるんだ。私、ちゃんと誰かの支えになれてるのかなって」
らむが、僕を抱きしめる。
「配信を見てくれる人は、いる。コメントをくれる人も、いる。でも、本当に、届いてるのかな」
らむの声が、震える。
「あの人みたいに、誰かを救えてるのかな」
らむの腕の中で、静かにしていた。
言いたいことがあった。
届いてるよ。
らむの配信は、誰かの支えになってる。
少なくとも、僕の支えだった。
らむの声を聞くために、毎日を頑張った。
らむの笑顔を見るために、画面の前に座った。
それなのに、今は何も言えない。
声も出せない。名前も名乗れない。
ただ、ぬいぐるみとして、そばにいるだけ。
でも。
そっと、らむの服を掴んだ。小さな手で。
らむが、ふと視線を下に向ける。
「……らむぬい?」
もう一度、服を掴む。少しだけ、強く。
らむが、小さく笑った。
「ありがとう」
らむが、僕を優しく抱きしめる。
「あなたがいてくれるだけで、心強い」
らむの声が、少しだけ明るくなる。
「あなたも、私の支えだよ」
その言葉を聞いて、胸が温かくなった。
届いてる。
言葉じゃなくても、届いてる。
らむは、知っている。
ぬいぐるみとしてでも、そばにいることが、支えになるって。
「ねえ、らむぬい」
らむが、僕を見つめる。
「これからも、一緒にいてくれる?」
頷いた。
「ありがとう」
らむが、また笑った。
「一緒に、頑張ろうね」
もう一度、頷いた。
うん。
一緒に、頑張ろう。
らむが誰かを励ますように、誰かを支えるように。
そのそばで、ぬいぐるみとして、支え続けよう。
それが、今の僕にできる、推し活だから。
その夜、らむは僕を抱きしめて眠った。
「おやすみ、らむぬい」
静かな声で、らむが言う。
おやすみ、らむ。
らむの腕の中で、静かにしていた。
らむが、誰かに救われたように。
らむが、誰かを救いたいと思ったように。
僕も、らむを支えたい。
そばにいることで、支えたい。
推しの推しだった人は、今も配信している。
そして、推しは、今、誰かの推しになっている。
その連鎖の中に、僕もいる。
ぬいぐるみとして。
---
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
もし楽しんでいただけましたら、評価やブックマークをしていただけると大変励みになります。また、感想やコメントもお待ちしています。あなたの推し活の記憶と重なる瞬間があったなら、ぜひ教えてください。
そして、「らむぬいにこんな風に動いてほしい」「こんなシーンが見たい」といったリクエストも大歓迎です。ぬいぐるみができる範囲で、皆さんのアイデアを物語に取り入れていきたいと思っています。気軽にコメント欄でお聞かせください。
それでは、次回もよろしくお願いします。
ほぼ毎日22:10更新中
---




