あの先輩リターンズ
ピンポーン。
インターホンが鳴った。
らむが玄関に向かう。
「はーい」
ドアを開けると、そこには一人の女性が立っていた。
「やっほー、らむちゃん」
明るい声。長い髪を揺らして、笑顔で手を振っている。
「ウーロン先輩!」
らむが嬉しそうに迎え入れた。
東雲ウーロン。
らむの事務所の先輩で、トップVtuberだ。でも、その雰囲気は全然偉ぶったところがない。気さくで、フレンドリー。だからこそ、らむも友達のように話せる。
「お邪魔しまーす」
ウーロンが部屋に入ってきた。家が近いこともあって、よく遊びに来るらしい。
「飲み物、何がいい?」
「お茶でいいよ」
らむがキッチンに向かう間、ウーロンは部屋を見回していた。
そして、視線が止まる。
らむぬいの体で、棚の上に座っている。
ウーロンの視線を感じる。
また、あの視線だ。
何か違和感を感じているような、探るような目。
「はい、お茶」
らむが戻ってきて、ウーロンに湯呑みを渡した。
「ありがとー」
ウーロンが視線を外して、お茶を一口飲む。
「そういえば、てのりらむぬい見せてよ」
「あ、そうだった!」
らむが嬉しそうに立ち上がって、引き出しからてのりらむぬいを取り出した。
「はい、これ」
「わー、可愛い!」
ウーロンが目を輝かせて、てのりらむぬいを手に取った。
「すごく小さいね。よくこんなに細かく作れたね」
「頑張ったんだ。針に糸通すの大変だった」
らむが照れくさそうに笑う。
ウーロンがてのりらむぬいをじっくり眺めている。優しい目だ。
「可愛いなあ。写真で見たより実物の方がいいね」
そう言って、てのりらむぬいをらむに返した。
それから――
ウーロンの視線が、また動いた。
らむぬい。僕の体を、じっと見ている。
やばい。
また何か感じ取られてる。
どうしよう。
動かない?でも、それだけじゃ――
そうだ。意識移動。
集中する。意識を、机の上のVtuberぬいへ――
視界が切り替わった。
机の上から、部屋を見下ろす。
ウーロンが、らむぬいの方を見ている。さっきまで僕がいた体を。
らむぬいは、ただのぬいぐるみとして、そこに座っている。
動かない。何の反応もない。
ウーロンが首を傾げた。
「...あれ?」
らむが不思議そうにウーロンを見る。
「どうしたの?」
「ん...いや、なんでもない」
ウーロンがもう一度らむぬいを見て、それから視線を外した。
「この間のは、気のせいだったのかな」
小さくつぶやく。
らむが首を傾げる。
「何が?」
「ううん、気にしないで」
ウーロンが笑顔になった。
良かった...
なんとかやり過ごせた。
意識移動ができるようになって、本当に良かった。
「そうそう、SNSの投稿見たよ」
ウーロンが話題を変えた。
「てのりらむぬいとカフェ行ったやつ、すごく良かった」
「本当?嬉しい!」
らむが笑顔になる。
「写真の構図もいいし、雰囲気も可愛かった。リスナーさんたちも喜んでたでしょ?」
「うん、すごく反響あって。みんな欲しいって言ってくれて」
「グッズ化したら売れそうだよね」
「事務所に相談してみようかなって思ってる」
二人が楽しそうに話している。
配信の話、趣味の話、最近あった面白いこと。
ウーロンは本当に気さくだ。
トップVtuberなのに、全然偉ぶらない。らむと対等に、友達みたいに話してる。
だからこそ、らむも楽しそうだ。
でも――
時々、ウーロンの視線が、ぬいぐるみたちに向けられる。
らむぬいや、クマや、Vtuberぬい。
何かを探しているような。
確かめているような。
僕は、Vtuberぬいの体から、その様子を見ていた。
ウーロンは何か感じ取っている。
でも、確信はできていない。
このまま、気づかれないようにしないと。
「じゃあ、そろそろ帰るね」
ウーロンが立ち上がった。
「もう?もうちょっといてもいいのに」
「ううん、この後配信あるから」
「そっか。また来てね」
「うん、また来る」
ウーロンが玄関に向かう。
らむが見送る。
「バイバイ、らむちゃん」
「バイバイ、ウーロン先輩」
ドアが閉まる音。
らむが部屋に戻ってきて、伸びをした。
「ウーロン先輩、やっぱり楽しいな」
らむが満足そうに笑った。
僕も、元の体――らむぬいに意識を戻した。
ウーロン。
鋭い人だ。
何か感じ取っている。
でも、今回はなんとか誤魔化せた。
次はどうなるかわからないけど。
その時はその時だ。
---
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
もし楽しんでいただけましたら、評価やブックマークをしていただけると大変励みになります。また、感想やコメントもお待ちしています。あなたの推し活の記憶と重なる瞬間があったなら、ぜひ教えてください。
そして、「らむぬいにこんな風に動いてほしい」「こんなシーンが見たい」といったリクエストも大歓迎です。ぬいぐるみができる範囲で、皆さんのアイデアを物語に取り入れていきたいと思っています。気軽にコメント欄でお聞かせください。
それでは、次回もよろしくお願いします。
ほぼ毎日22:10更新中
---




