お友達がきたぬい
インターフォンが鳴った。
「あ、来たかも」
らむが、スマホを見て笑った。それから、玄関へ向かう。ドアを開けると、廊下から元気よく歩いてくる足音と、明るい声が響いてきた。
「らむちゃん!久しぶりに会えて嬉しいよ!」
「はい、はい。嬉しいのは分かるけど、廊下で騒がないで」
その声で、わかった。東雲ウーロン。らむのコラボ配信で何度か聞いた声だ。元気で、おちゃらけで、いつも笑っている印象だった。
東雲ウーロンが、部屋に入ってきた。
ベッドの上で、静止した。
第三者が入ってきた。絶対に動けない。体の全てを、ぬいぐるみとして固定する。
元気よく、あちこちを見ている。
「らむちゃんの部屋〜!かわいい!やっぱりらむちゃんらしい感じ」
「急に来るから、片付けるの大変だった」
「急に来たのもう忘れて」
ウーロンの視線が、すぐにベッドの上に向いた。
「あ」
ウーロンの目が、明るくなった。
「らむぬい!」
ウーロンが、ベッドに近づいて、僕を抱き上げた。
緊張した。
体の全てが、一瞬だけ緊張した。でも、動かない。ぬいぐるみとして、ただのぬいぐるみとして。
ウーロンの手は、温かかった。
「かわいい〜!やっぱりかわいい」
ウーロンが、僕を両手で抱きしめる。丁寧に、でも楽しそうに。
「らむちゃんの手作りだよね。すごくいい質感だな」
ウーロンが、毛並みを撫でながら言う。
「うん。一週間かけて作ったよ」
「わかる。丁寧に縫ってるもん」
ウーロンが、僕を正面に持ち上げて、じっと見つめる。
「……かわいい。欲しい」
ウーロンが、はっきりと言った。
「あげないよ」
らむが、すぐに返した。
「だって、私のだもん」
「もう、冷たいな〜」
「だって、私のだもん!」
ウーロンが、笑った。僕をベッドに戻す。
でも、戻す直前に、もう一度僕の顔を見た。何かを確認するように。
それから、ソファに座った。
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「で、コラボの話だね」
らむが、笑いながらテーブルに書類を置く。ウーロンは、ソファに楽しそうに腰をかけて、お茶を受け取る。
「うん〜。今度のコラボ、楽しみにしてるよ」
「私もー。でも緊張するな」
「大丈夫でしょ。いつも上手くいくじゃん」
ウーロンが、らむの肩を軽く叩く。
「でも最近、なんかどうなかな〜とか心配になるの多いよね」
ウーロンが、少し真剣な表情で言った。
「最近、元気?」
らむが、少しだけ驚いた顔をした。
「……うん。元気だよ」
「ほんとう?」
ウーロンが、らむを見つめる。
「なんか、少し元気がないなって感じてて」
「そうかな……」
らむが、少し視線を逃げる。
「大丈夫。ウーロんちゃんのおかげで気分上がった」
ウーロンが、それ以上追及しなかった。ただ、小さく笑って、お茶を飲んだ。
「じゃあ、よかった」
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コラボの打ち合わせは、順調に進んだ。
ウーロンは、企画のことを熱心に話しながら、時々らむぬいのほうを見る。
僕はベッドの上で、じっとしている。
気になった。ウーロンの視線が、何度もこちらに向く。
「ねえ、らむちゃん」
打ち合わせが一区切りになった時に、ウーロンが言った。
「らむぬい、なんか……違和感がある」
「え? どうの」
らむが、首を傾げる。
「わからない……なんとなく。なんか、いいのかな。気のせいかも」
ウーロンが、僕を見つめたまま、少し考えるような顔をした。
「まいいや」
ウーロンが、頭をぶるぶると振った。
「気のせいだと思う」
「なんか怖いな」
らむが、笑って言う。
「ウーロんちゃんの直感、すごいもんね」
「じゃないと生き残れないよ」
ウーロンが、笑った。でも、もう一度だけ僕の方を見た。
その視線は、短かかった。でも、何かを探しているような目だった。
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やがて、ウーロンは帰る時間になった。
「またね、らむちゃん」
「またね。今度、コラボ楽しみにしてね」
「うん! やっぱりらむぬい、もう一回見せて」
ウーロンが、僕を持ち上げて、もう一度抱きしめる。
「……やっぱり、かわいい。欲しい」
「あげないよ」
「はいはい」
ウーロンが、僕をベッドに戻す。それから、バッグを持って玄関へ向かう。
「またね〜」
ドアが閉まる。足音が遠ざかる。
静寂。
しばらく、動かなかった。
ウーロンの視線がある時間、緊張が続いていた。これまでの中で、一番だった。
ウーロンは、何かを感じた。
気のせいだと言った。でも、あの目の色は、気のせいじゃなかった。
「……ふう」
らむが、大きく息を吐いた。
「やっと」
らむが、僕を抱き上げた。
「お疲れさまでした、らむぬい」
頭を撫でる。
「ウーロんちゃんの視線、ドキドキしたかな?」
僕は、少しだけ頷いた。
らむが、優しく笑った。
「大丈夫だよ」
その夜、らむは僕を抱きしめて眠った。
「おやすみ、らむぬい」
静かな声で、らむが言う。
おやすみ、らむ。
僕は、らむの腕の中で、静かにしていた。
でも、ウーロンの視線のことが、頭の中に残っていた。
あの「違和感」。
いつか、気づかれるのかもしれない。
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そして、「らむぬいにこんな風に動いてほしい」「こんなシーンが見たい」といったリクエストも大歓迎です。ぬいぐるみができる範囲で、皆さんのアイデアを物語に取り入れていきたいと思っています。気軽にコメント欄でお聞かせください。
それでは、次回もよろしくお願いします。
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