らむぬい誕生秘話ぬい
配信が始まった。
「こんらむ〜♪」
いつもの挨拶。いつもの声。らむの膝の上にいた。配信画面には映らない。画面には、らむのアバターと、その周りにちりばめられた装飾。その中に、らむぬいのイラストも小さく表示されている。
「今日はね、リクエストがあったので……らむぬいを作ったときの話、しようと思います!」
らむの声が、嬉しそうに弾んでいる。
コメント欄が、一気に盛り上がった。
『きたー!』
『制作秘話!』
『ずっと気になってた』
『SNSの写真可愛いよね』
らむが、画面の端に表示されているらむぬいのイラストを指差す。アバターの手が、イラストを示す。
「これが、らむぬいです。みんな、SNSで見てくれてるかな?」
コメント欄が流れる。
『見てる見てる』
『可愛い』
『欲しい』
『手作りって聞いてびっくりした』
「そうなんです、実は私が手作りしたんです」
らむが、嬉しそうに笑う。
「裁縫が趣味で、ぬいぐるみを作るのが好きなんですけど……ある日思ったんです。自分をイメージしたぬいぐるみを作ったら、どうなるかなって」
自分を、イメージした。
らむが、そう言った。膝の上で、その言葉を聞いていた。
「だから、らむぬいは……私をモチーフにしてるんです。色も、デザインも、全部」
コメント欄が、また反応する。
『なるほど!』
『らむちゃんカラーだもんね』
『ラベンダーパープル可愛い』
『マスコットって感じ』
「そうそう、このラベンダーパープル。私のイメージカラーなんです。最初、どんな色にしようか迷ったんですけど……やっぱり、自分らしい色がいいなって」
らむの声が、優しい。
「耳の内側は、濃い紫にしました。アクセントになるかなって。立体感も出るし」
コメント欄が流れていく。
『細かい!』
『こだわりすごい』
「それから、胸元の三日月の刺繍。これ、すごく悩んだんです」
らむが、少し考え込むような声になる。
「私、夜空とか、ファンタジーとか、そういう雰囲気が好きで。配信の背景とかも、そういうイメージにしてるんです。だから、らむぬいにも、その要素を入れたくて」
『夜空モチーフ好き』
『わかる』
『らむちゃんらしい』
「三日月の中に、小さな顔みたいなデザインも入れました。これ、刺繍するの、すごく大変だったんですけど……頑張りました」
らむが、少し誇らしげに笑う。
「それから、首元の黒いリボン。これにも、星と三日月の模様が入ってます。夜空イメージ、ここでも使いました」
膝の上で、首元のリボンを、意識した。らむが、どれだけ考えて、このデザインにしたのか。
「目は、普通の黒いボタンじゃなくて、紫色のボタンにしました。×型に縫ってあるのは……なんとなく、可愛いかなって」
らむが、少し照れたように笑う。
「鼻は、小さくて丸い紫色。ツヤのある素材にしました。口は、優しい微笑みにしたかったんです。いつも、笑っていてほしいなって思って」
コメント欄が、温かい言葉で埋まっていく。
『優しい……』
『らむちゃんの想いが詰まってる』
『大切にしてるの伝わる』
「作るのに、一週間くらいかかりました。一針一針、丁寧に縫って……耳のバランスが、すごく難しかったんです。何度も付け直しました」
らむの声が、懐かしそうになる。
「でも、完成したとき……すごく嬉しかったんです。自分で作った、自分のぬいぐるみ。なんだか、不思議な感じでした」
コメント欄が流れる。
『感動した』
『愛情こもってる』
『そりゃ大事にするよね』
「今も、いつも一緒にいます。配信のときも、寝るときも」
らむの声が、少しだけ震える。
「一人暮らし始めて、寂しいときもあるけど……らむぬいがいてくれるから、頑張れる」
膝の上で、じっとしていた。
らむの声を聞きながら、考えていた。
自分をイメージして、作ったぬいぐるみ。
推しが、自分のぬいぐるみを作った。
そして、その中に、僕が憑依している。
これって……なんだろう。
推しぬい、なのか。
いや、違う。普通の推しぬいは、ファンが推しのぬいぐるみを持つものだ。
でも、これは逆だ。推しが作った、推しのぬいぐるみ。
推しの……推しぬい?
頭が、混乱してくる。
でも、まあいいか。
らむが、大切にしてくれている。
らむが、一緒にいてくれる。
それだけで、十分だ。
配信は、その後も続いた。リスナーたちが、らむぬいについて色々質問して、らむが答えていく。
「他にもぬいぐるみ作ってる?」→「いくつか作ったけど、らむぬいが一番お気に入り」
「グッズ化は?」→「手作りだから同じものは難しいけど、似たデザインのグッズはいつか作りたいな」
「名前の由来は?」→「らむのぬいぐるみだから、らむぬい。そのまんまです」
コメント欄が、笑いで溢れる。
『シンプル!』
『可愛い』
『らむぬい愛されてる』
配信が終わった。
「それじゃあ、今日はこのへんで。またね〜、ばいらむ♪」
配信画面が切れる。らむが、大きく息を吐いた。
「ふう……」
らむが、膝の上にいる僕を、そっと持ち上げた。
「どうだった? ちゃんと説明できたかな」
頷いた。
らむが、笑った。
「良かった」
らむが、抱きしめる。
「あのね、らむぬい」
らむが、小さな声で言った。
「あなたを作ったとき、すごく楽しかったんだ」
らむの声が、優しい。
「一針一針、縫いながら……こんな子ができたらいいなって、想像してた」
らむが、頭を撫でる。
「優しくて、いつも笑ってて、そばにいてくれる子」
らむの声が、少しだけ震える。
「まさか、本当に動いてくれるなんて、思わなかったけど」
らむが、また笑った。
「でも、嬉しい。あなたがいてくれて、本当に嬉しい」
らむの腕の中で、静かにしていた。
らむが、どれだけ想いを込めて、この体を作ってくれたか。
どれだけ、大切にしてくれているか。
それを、改めて知った。
この体は、らむが作った。
らむの想いが、詰まっている。
そして、その中に、僕がいる。
推しの想いの中に、ファンがいる。
不思議な関係だ。
でも、悪くない。
いや、幸せだ。
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その夜、らむはスマホを手に取った。
「そうだ、写真撮ろう」
らむが、僕をベッドの上に座らせた。それから、スマホのカメラを向ける。
「はい、チーズ」
シャッター音。らむが、撮った写真を確認する。
「可愛く撮れた」
らむが、嬉しそうに笑って、SNSアプリを開く。
「今日、配信でらむぬいの話したから……写真も投稿しようかな」
らむが、キャプションを打ち込む。その画面が、少しだけ見えた。
『今日は配信でらむぬいの制作秘話をお話ししました♪ これからも、一緒に頑張ります! #らむぬい #紫月らむ』
投稿ボタンを押す。
「よし」
らむが、スマホを置いて、僕を抱き上げた。
「これからも、よろしくね」
小さく手を振った。
うん。
ずっと、一緒に。
推しのそばに、いられるなら。
それだけで、幸せだから。
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ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
らむぬい誕生秘話でした。
もし楽しんでいただけましたら、評価やブックマークをしていただけると大変励みになります。また、感想やコメントもお待ちしています。あなたの推し活の記憶と重なる瞬間があったなら、ぜひ教えてください。
そして、「らむぬいにこんな風に動いてほしい」「こんなシーンが見たい」といったリクエストも大歓迎です。ぬいぐるみができる範囲で、皆さんのアイデアを物語に取り入れていきたいと思っています。気軽にコメント欄でお聞かせください。
それでは、次回もよろしくお願いします。
ほぼ毎日22:10更新中
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