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第9話 おっさん、スキルの威力とヤバいクエスト

 ギルドマスターとの初心者冒険者講習も終了して、一息付いてると上の階からいきせきかけて下りてくる一人の受付嬢。


「あっ、ギルマスこんな所にいらっしゃったのですか……って、ええ〜〜、ちっ、地下から物凄い音と共に地震の様や揺れが起こったので、様子を見に来たのですが、訓練場が半壊してるし……いっ、一体全体何があったんです?」


 血相を変えて駆け込んできたのは、ウェーブのかかったセミロングの金髪を揺らし、小柄で有りながら非常に豊かな胸が魅力の女性職員さんだ。童顔でクリクリとしたその大きな瞳は、目の前の惨状と、埃まみれのギルドマスター、そして何故かその場にいる俺とトーマスさんを二度見、三度見して、信じられないといった表情を浮かべている。まあ、無理もない。俺だってこんな状況、信じたくない。


(うわぁ、また一人被害者が……いや、被害報告者が増えた)


 内心で合掌していると、ギルドマスターが破顔一笑、いつもの豪快な態度で答える。


「おお、ミリアか。いやなに、ちょっと有望な新人と手合わせをしていただけだ。な、ヨシダ!」


「は、はあ……まあ、そういうことになりますかね……ハハハ……」


 ニヤリとこっちに同意を求めてくるギルドマスターに、乾いた笑いで応じるしかない俺。有望な新人で有る俺が、ギルドの訓練場を半壊させた張本人です、なんてとても言えない。遠くでまだへたり込んでいるノノリアさんと、顔面蒼白のトーマスさんが痛々しい。


「て、手合わせって……これ、訓練場の至る所にクレーターが出来てますし、二重結界は見るも無残に破壊されてるし、まるで、アルマゲドンかスタンピードがあった後のようにしか見えませんけど!? 何で二重結界はあんなことに? それに、ノノリアとトーマス会長も、あんなところで……大丈夫なんですか!?」


 ミリアさんと呼ばれた受付嬢は、普段は落ち着いた人物なのだろう、言葉遣いは丁寧だが、声が上ずりまくっている。そりゃそうだ、ギルドの地下訓練場がこんな有様じゃ、誰だってパニックになる。特にギルドの誇る二重結界が破られているのが衝撃なんだろう。なにせAランク魔導士複数人の集中砲火にも耐えるって話だったし。


「まあ、そのなんだ、結界も少々古くなっていたのかもしれんな! ちょうど良い、これを機に新しいものに……」


「ギルマス! さすがにそれは無理があります! 古くなっていたとしても、こんな派手に壊れるなんて……!」


 ミリアさんの的確なツッコミに、ギルドマスターは「むぅ」と一瞬言葉に詰まるが、すぐにいつもの調子を取り戻す。


「まあまあ、細かいことは気にするな! それより、お前が慌ててきたということは、上の階も相当騒がしくなっているんだろう?」


「騒がしいどころじゃありませんよ! ギルド全体が揺れたんですから! 上に集めていた冒険者の方々も何事かと騒然としています。今、他の職員たちと手分けして説明と鎮静化にあたっていますけど……この状況を見たら、余計に混乱しちゃいますよ!」


 ああ、やっぱりそうなるよな。俺の『ノーマルショット』16連射は、地下だけに留まらず、ギルド全体を揺るがす大惨事を引き起こしていたらしい。


(……ヤバい、これは本格的にヤバい。訓練場の修繕費どころの話じゃ済まないどころか、隣三軒両隣まで被害が及んで無いだろうな?)


 俺が冷や汗をダラダラ流していると、ミリアさんがハッとしたように俺を見た。


「もしかして……この方が、その『有望な新人』さん、ですか……? ヨシダ、さんとおっしゃる……先ほどFランクで登録されたばかり……だったと思いますが?」


「え、ええ、まあ……。一応、ヨシダです。はい」


 ミリアさんの視線が痛い。まるで超弩級の災害でも見るような目だ。さっきまでの『快活そうな受付嬢』のイメージはどこへやら、今は完全に『事務員は見た!(とんでもないものを)』の顔つきである。


「まあ、壊れてしまったものはしょうがなかろう。この後始末は追々するとして、今はそんな事より招集を掛けた冒険者共は皆集まったのか?」


「えっ? は、はい皆さん上のホールに待機してもらってます」


「そうか、ヨシダ! お前も付いて来い。クエストの詳細と皆に紹介してやる」


「はいはい、どうせ『YES』か『はい』しかないんでしょ? 付き合いますよ」


俺は、そう答えると先を歩くデカイ背中を追いかけた……



********



 ギルドホールに入ると飛び込んで来たのが、視界に入りきらない程の一同に介した冒険者たちだ。歴戦の屈強な猛者から、やっと尻の青さが取れたばかりの青少年まで、多種多様な年齢や種族の野郎共がズラリと並び、吹き抜けになった二階部分にまで溢れている。


「待たせたな、野郎共。今日ここに集まって貰ったのは他でもない。例の廃坑からのモンスターの一件だ」


 ギルドマスターの、ホール全体に響き渡るような声に、先程までざわついていた冒険者たちが一斉に静まり返る。その視線が一身にギルドマスターへと集まる中、俺はその熱気とも殺気ともつかない空気に、思わずゴクリと喉を鳴らした。


 ギルドマスターの一声で水を打った様な静寂の中、一段高い演説台(元々の巨体で頭二つ、三つ分さらに抜けてる)に立つギルドマスターは、集まった冒険者たちを睥睨しながら続ける。


「既知の通り、ここ数週間、街の南に位置する旧ミスリル廃坑から、ゴブリンを始めとする低級モンスターの目撃情報が急増している。当初は廃坑周辺に縄張りを持つゴブリンの活動が活発化した程度と見ていたが……ここ数日、状況は悪化の一途を辿り街道の封鎖にまで影響は及んでいる。ゴブリンのみならず、オークやホブゴブリンといった、より強力なモンスターの出現情報に加え、廃坑の奥からはこれまで確認されていなかった高濃度の魔素が観測されておる」


 そこでギルドマスターは一度言葉を切り、険しい表情で言葉を継いだ。


「昨日、調査にやったギルド職員とCランクパーティーが帰還し報告を受けた所、殆どの魔物は初級〜準中級程度の低レベル帯で有る。だが、その凄まじい数は少なく見積もっても、数百、未確認の廃坑奥を加味すれば千は降らないのではとの事だ」


 『一千匹の魔物が発生している』ギルドマスターのその発言で、一層緊張感をます冒険者の面々。隣同士でヒソヒソと囁くものや、固唾を呑んで見守るもの、凶悪な笑みで不敵に構えるもの、その反応は千差万別で、その一種異様な雰囲気がギルドマスターに次の言葉を促す。


「これらの情報を総合すると、この街に敵意有る何者かが廃坑の奥底に細工をしダンジョン化を狙い、魔物を爆発的に増加させてスタンピードの発生を狙った物と考えられる。それを踏まえて非常事態宣言を発令し、本日の強制依頼に踏み切ったのだ」


 ギルドマスターの言葉が終わった途端、ホールに集まった冒険者達が色めき立つ。ゴブリンやオークならまだしも、『高濃度の魔素』や『ダンジョン化』そして『得体の知れぬ何者かの仕業』と『魔物のスタンピード』、それらの言葉(ワード)が明らかに事態の深刻さを示していた。


(スタンピードねぇ、俺の16連射なら1000匹のモンスターでも60秒余りで片付くな。計算上は、だけどw 冗談は兎も角、裏で糸を引くヤツが厄介だな。STGで言うところの画面外から極太レーザー照射する的な嫌らしさか? しかも戦闘中にお供のザコが湧いて来るのか、鬱陶しい事この上ないな)


 俺が一人、STG脳で分析していると、ギルドマスターがチラリとこちらに視線を向けた。


「そこでだ。今回の件は、単なる魔物の掃討依頼ではない。廃坑最深部に潜む元凶の特定と、その排除。場合によっては、廃坑そのものの封鎖も視野に入れた大規模作戦となる。故に、ギルドとしても総力を挙げてこれにあたる!」


 ギルドマスターの言葉に、一部の冒険者からは「おおっ!」という気合の入った声が上がる。しかし、ベテランと思われる者たちの表情は硬く、事の重大さを理解しているようだった。


「作戦は三段階に分ける。第一段階は廃坑に集まった魔物を誘き出す。ある意味人為的にスタンピードを起こし、廃坑内の魔物の数を減らし、会敵頻度を下げるのが目的だ」


(そりゃ、何十年と放置されていた坑道の中で大規模な戦闘を繰り返せば、古い廃坑は崩落し二次災害に繋がる。そうなればダンジョンアタックは中断、場合によってはGAME OVER……か)


「続く第二段階は、廃坑に続く渓谷の途中に有る狭窄部に魔物を誘導し殲滅を行う。狭窄部を抜けたこちら側で待機して、魔物の進行速度が落ちた所を一網打尽にする」


(成程ね、地形効果を利用してスタンピードの進行速度を落とした上で戦闘開始。これにより一度に相手にする数が絞れるので、危険度が下がり低ランク冒険者も投入出来る訳だ。STGでも大量の雑魚は地形ハメして叩くのが定番だしな)


「オーラスの第三段階は、ダンジョン化した廃坑に潜行し元凶を突き止め排除する」


 ギルドマスターは、壁に掛けられた巨大な周辺地域の地図を指差しながら説明を続ける。


「各部隊のリーダーは追って指名するが、基本的にはパーティー単位での参加を推奨する。単独参加の者は、適宜こちらでパーティー編成を行う。報酬は、非常事態宣言下での作戦行動で有り、冒険者ランクに関わらず一律同一とさせて貰う」


 依頼とはいえ、この街の命運が掛かっている作戦だ、報酬目当てに好き勝手されちゃ敵わんからな、良い判断だと思う。


「因みに、後日討伐モンスターの素材などの回収と売却を行い、此方も分配してボーナスとして加算しよう」


「「「「「「「「「さっすがギルドマスター、分かってるぜ!!」」」」」」」」」


「ただの脳筋ゴリラかと思いきや人心掌握もお手のものか、流石のカリスマゴリラだ」


(にしても、大規模作戦ねぇ……俺、今日Fランク登録したばっかのド新人なんだけど。もっとも、ギルドの訓練場を半壊させたっていう、ある意味『いわくつき』の。こんな作戦に組み込まれて、まともに動けるのかね?)


「如何した? びびって漏らしたか? そう心配するな。キサマの『面白い魔法』は、この作戦の切り札になるかもしれんからな。特別に、ワシ直属の遊撃部隊として動いてもらう。ま、せいぜい期待に応えてもらうとしよう!」


(遊撃部隊……って、聞こえはいいけど、要するに『何かあったらぶっ放せ』ってことだろ、これ。便利屋扱いかよ……)


 俺の心の嘆きをよそに、ギルドマスターは再びホール全体に向き直り、高らかに宣言した。


「作戦開始は明朝、ギルド前に集合後ブリーフィングを行い、パーティ編成の後、出立する。各自、作戦開始までの間、準備を怠るな! 解散!」


 その号令と共に、冒険者たちは三々五々散り始め、仲間内で作戦について話し合ったり、武具の点検を始めたりと、ホールは再び喧騒に包まれた。

 俺はと言えば、これから始まるであろう、STGスキル頼みの異世界初の大規模クエストに、期待よりも遥かに大きな不安を抱えながら、その場に立ち尽くすしかなかったのだった。


「さてと、ヨシダ。キサマにはまず、遊撃部隊の他の奴らと顔合わせをする必要があるな。こっちへ来い」


 ギルドマスターはそう言うと、ホールの隅で何やら打ち合わせをしている冒険者パーティの方へ俺を促すのだった。


(うわ、なんか強そうなのばっかじゃん……俺、大丈夫か、これ……)


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